一体誰が最初に?

そして,一体どこの学会で決議??


私は物理では元々力学とか波動学とか不得意で,理科の中では生物の成績が良かったのですが,たまたま電気系が得意だったのと,その後の就職を考えて,電子工学科に入学しました.その後,なぜか電気音響系のゼミへ入り,「音響」繋がりで機械系の職場へ就職しました.周りは機械屋ばかり.機械屋さんの,まるで実物を全て見たかのような平面図面からの立体視,強いか?弱いか?というファジイな判断,その機能にちょうどの大きさなど,数字を転がすだけの電気系から見ると,神様のようなことを「感性」で当たり前のようにやってのける機械屋さんたちの仲間入りをさせていただいたのでした.(仲間入りというより,なるべく迷惑にならないように側にいるだけだけど.)

で,その感性に溢れた人たちの学会論文でもまかりとおるテクニカルタームの一部を紹介すると,

  • バカ穴(貫通している穴のこと)
  • バリ(削ったときに出てくるカスのこと)
  • ジグ(何かをセットするための道具)

など.図面にはバカ穴などと一言も書いていないが,図面上で貫通している穴の印を見ると,皆「バカ穴」「バカ穴」とうれしそうに何度も呼称する.一体,何がバカなのかよくわからないが,慣れてみると,貫通穴はいかにもバカである.

誰が最初にバカ穴と言い出したか知らないが,学会でも通用するということは,学会で数人の学者や先生がバカ穴を承認したのだと思う.

何か鉄板みたいなのに,穴をドリルとかであけると,「バリバリッ」って感じで削り粉みたいなのがでて,穴に削げがたっているが,それを「バリ」って呼ぶ.バリだけでちゃんとセッションが成立するくらい,バリは市民権を得た名前で,大学の偉い先生とかが「バリがどうした」とかしゃべっている.最近の小学生は「とても大きい」ということを「バリでかい」,「とても汚い」ことを「バリ汚い」と言うが,先生方はその子ども達の会話に敏感に反応なさるのではないか?

ジグというのは漢字では治具と書いて日本語みたいなのだが,なぜか,英語の論文でも「JIG」と書かれていて,外人にも「ジグ」と言えば通じるので,日本語なのか?英語なのか?よくわからない言葉だ.

そうした感性で喋るメカニカルエンジニアの人たちは,何でも感性で表現したがる.電気音響では考えられないが,機械音響では「ヒュルヒュル音」とか「オゾマシ音」とかが,ちゃんとした会議で真剣に討議されたりする.

あと,機械をくにゃくにゃと無理矢理曲げると,そこにストレスがたまるらしい.で,ストレスが溜まりすぎると破断が起こるらしい.このあたりの表現も,いかにも擬人的というか,現象を感性でとらえていたりする.

その割に,我々素人が「かなもの」などというと,笑われてしまう.私は最初図面を書いたとき,「これの材料は何?」ときかれて,「うーん,なんかカネでできたようなもの」と答えたら「カネ!」といって大爆笑された.その私が今や「SUS440でJIS○番の材料でお願いします」とちゃんと言えるようになっているから,慣れというものは恐ろしい.

で,その機械系のエンジニアの集まる職場で,交通安全啓蒙のため,事故事例についての発表があった.追突事故が最近増加しており,しかも,列のかなり後ろで起こった追突が力積的に前の車両をどんどん巻き込むいわゆる「玉突き事故」が増えていた.先の「図面上にはどこにもバカとは書いていないが,図面を見ただけでバカ穴が連呼される職場」であるので,その事例集の中には一言も書いていない単語であるが,「オカマ」という言葉がなぜか連呼された.その時の会議でその安全衛生主任さんがお話された言葉をそのまま引用すると,

「この事例もオカマですね.3台後ろのトラックがまず,オカマ掘って,どんどんどんと,3台ともオカマほられてます.この事例に限らず,これもオカマ,これもオカマ.最近オカマの事故が増えていますので,みなさん,オカマには気を付けてください.というても,気のつけようがないですよね.オカマには.」

機械のエンジニアはすごい.何でも感性で物事を受け止める.数字を転がすだけでなく,自分の頭の中で状態がイメージされるのだ.数字を転がすだけで何でもわかった気になっている数学系,電気系のみなさん,機械屋はあなどれませんぞ.

ちなみに,上記安全主任さんのお話中,私は笑いをこらえきることができませんでしたが,目の前の部長は「一体何がそんなにおかしいのか?」さっぱりわからない様子でした.

 


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