ニホンゴむつかしい。
たとえば,「出る」という動詞に対し,「出ることができません」のことを「出られません」が正しいが,「出れません」ということがある.この「出れません」はら抜き言葉であり,乱れた国語なんだそうだ.今こうやってATOKで文字を書いていても「出れません」とタイプすると<<ら抜き表現>>という注釈がでる.
確かに標準語ではそうなんだろう.
しかし,土佐弁(高知の人が使っている方言)は違う.
「出られません」とは「出てはいけない」という禁止の意味となる.「出ることができません」は「出れません」が正しい土佐弁だ.我々高知の人間は,たとえば子どもに「そこから出ては行けません」と怒るとき「でられん!」と怒る.最も厳しい禁止の意味である.
東京駅について,新幹線の降り口からJR線に入るとき出ることができない改札に「ここは出られません」とかいてあった.高知の友達のふーちゃんと一緒にそこに出くわしたのだが,まるで,JRの駅員に「ここから出るな!」と怒られているように感じた.
仕事上書類を書くことが多いので標準語を使わなくてはならないが,必要以上にら抜き言葉に神経質になってしまった.
たとえば,英語と日本語の場合,単語そのものが違うので,こういった誤解は生じない.しかし,標準語と方言の場合,同じ音でも違う意味やニュアンスになるのでややこしい.さらに,方言同志が全然違う地方にいくと一段とややこしい.
私は高知から京都の大学に入った.当然,まわりは関西弁,特に京都弁が多い.京都弁と関西弁は似ているし,少しくらいのニュアンスは大阪の人,神戸の人,京都の人とわかりあっているので問題ない.が,土佐弁は全く異種のものなので,自分ではそういうつもりではないのに,誤解されて伝わることが多かった.
代表的な言葉としては,否定の意味の接尾語「へん」である.標準語の「ない」,土佐弁では「ん」である.たとえば次のようになる.
標準語 |
関西弁 |
土佐弁 |
わからない |
わからへん |
わからん |
行かない |
行かへん |
行かん |
これにいち早く気がつく人は,すぐさま関西では関西弁になじむよう努力する.最初は「わからへん」などというふぬけた言い方にかなり抵抗があるが,とにかく慣れるよう努力する.その努力がない人は関西人からは「冷たい」「つっけんどん」「いつも怒っている」「クライ」などのレッテルを頂く.
しかし,実際に,方言というのは,その地方の人間の性格をも表しているのかもしれない.実際に関西人に比べると,高知の人間は,上記表現にあたるのかもしれない.しかし,逆に高知の人間からみると,「じゃんけんぽん」が「じゃーんけーんでっほーおいっ」と間延びする関西は,「とろい」「いつもぼけている」「明るすぎ」と感じるかもしれない.
思わず方言がでて「なにそれ?」と言われるのは全然オッケーである.外国語と同じ扱いだから誤解が生じない.問題は,音だけが伝達し,ニュアンスが誤解されるときである.
高知出身で,まだその土地になじんでいない方,ご用心です.