インフルエンザ
「新型出現は近い」の声も各地の老人ホームでお年寄りが相次いで亡くなるなどインフルエンザが猛威を振るっている。これから二月上旬にかけ大流行するおそれがある。さらに全世界で数千万人の犠牲者も予測される新型インフルエンザウイルスの出現間近という不気味な話も。たかが風邪と侮れない相手なのだ。
最近10年間のわが国のインフルエンザの流行状況
<A香港型>
それによると、昨年十二月下旬から患者が急増し、同月二十二日から二十八日までの一週間で一医療機関あたりの平均患者数は十九・〇七人と同期間では過去十年間で最多を記録。一月に入っても勢いは衰えず、約八十三万人の患者が出た一九九四−九五年シーズンに迫る大規模流行になるとみる研究者が多い。 猛威を振るっているのはA香港型インフルエンザウイルス。各地の衛生研究所などが約千人の患者からとったウイルスを調べた結果では九七%がA香港型、三%がB型だった。 大人の患者が多いのが特徴で、しかも三十九−四十度の高熱が出て一週間も寝込むケースが少なくない。それだけ病気を起こす力が強いわけで、免疫力が落ちている高齢者は肺炎を併発しやすい。同じ型がはやった九五年も千二百四十四人が死亡している。国立予防衛生研究所の根路銘(ねろめ)国昭呼吸器系ウイルス室長は「A香港型のピークは二月上旬。その後B型が盛り返してくれば三月中旬まで長期流行する」と予測する。
こんな実験がある。閉め切った大きな箱の中を湿度二〇%、温度二十度に設定してインフルエンザウイルスを吹き込み、六時間後に調べると七〇%近くのウイルスが生きていた。今度は温度は変えず、湿度を五〇%以上に上げると三%のウイルスしか生きていなかった。次に湿度は二〇%にして温度を三十二度にすると一七%に減っていた。 このウイルスにとって温度二十度前後、湿度二〇%前後が最も生存に適した環境で、長時間空気中に漂っていられる。冬がそれに近く、しかも窓を閉め切った部屋にいるので、中に患者が一人でもいて、せきやくしゃみでウイルスをまき散らせば容易にうつる。 ウイルスが気道粘膜に取り付くと猛スピードで増殖し、十六時間後には一万個に、二十四時間後には百万個に増えて粘膜細胞を破壊し始める。これに対抗して人間の方は免疫機構が働きだし、ウイルスを排除しようとする。熱が出るのはその反撃開始のサインだ。
特定のウイルスに感染して回復すると、私たちの体にはそのウイルスに対する抗体ができて、二度と感染しないのが普通。それなのにインフルエンザに何度もかかるのはウイルス側が生き延びるために遺伝子の配列を少しずつ変え、免疫の網の目をくぐりぬけようとするからだ。なかでもA型が姿を変えるのが得意だ。 さらにA型は十−三十年おきに大変身し、世界規模の大流行をもたらす。研究者の間では「その時期は近い」という見方が有力。A香港型がはやりだしてすでに二十九年、Aソ連型が二十年経過しているためだ。根路銘室長は「A香港型は単独で長期流行を維持する力がなくなり、Aソ連型も弱くなった。どちらもいずれ消えるだろう」と言う。 インフルエンザウイルスは鳥や豚などにも感染する。鳥のウイルスは人間にうつらないが、豚は人間、鳥両方のウイルスがうつる。その豚の体内で人間と鳥のウイルスの遺伝子の一部が置き換わって、新型が発生する。これがA型大変身のシナリオだ。最初に出現する地域はアヒル、豚、人間が一緒に暮らし、この病気のルーツと考えられている中国南部が疑われており、国際協力のもとで監視体制が敷かれている。
高齢者、慢性呼吸器疾患や心臓病、糖尿病などの患者、免疫抑制剤の服用者といった命にかかわる合併症を起こしやすいハイリスク者は早めに受診し、抗生物質などの投与を受ける。 しかし、最も大切なのは予防だ。その一番の対策はワクチン接種。日本は副作用や効果への疑問から任意接種になったこともあって接種率は一%以下だが、奥野課長は「欧米のデータでは約七〇%に予防効果があり、かかっても重症化を防ぐことが確かめられている。わが国でもハイリスク者への接種を奨励すべきだ」と話している。
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