視聴率
変わる!?“%争い”テレビの「視聴率」が生まれ変わる。関東の局が、四月から「個人視聴率」を本格的に導入。どのチャンネルを見ているかを、世代ごとや男女別に分析し、視聴者の好みが、現行の「世帯視聴率」よりも詳しく分かる。テレビ界の“魔物”とも言われる視聴率とは、そもそも何なの?
視聴率調査は、テレビの本放送がスタートした翌年の一九五四年に始まった。以来、視聴率とは、各家庭ごとにどの番組を見ているかを調べる「世帯視聴率」を意味する。 関西ではビデオ・リサーチ社が調査を独占、大阪、京都、兵庫、奈良、滋賀の二府三県の二百五十世帯に測定器を置いている。ビデオを見ているのか、テレビゲーム機を使っているのか、番組を見ている場合、どのチャンネルに合わせているのかをセンサーが瞬時に判別し、そのデータは秒単位で記録される。だが、何人で見ていても一件と数えるため、視聴者層はつかめない。 個人視聴率調査では、これに個人表示器が加わる。ビデオ・リサーチ社では、一都六県の約千九百二十人(六百世帯)を対象に▽個人全体▽男女四−十二歳▽男二十−三十四歳▽女五十歳以上▽世帯主▽主婦などの数字を調査。職業別も含めると百種類以上のデータを集めることが可能だ。 一台の表示器で、最高、十三人の家族のデータを集めることができ、翌日、分刻みで集計。パソコン通信で契約するテレビ局や広告主に伝えられる。
個人視聴率は、テレビの「一人一台」化や多チャンネル時代に対応し、約十年前から導入が議論されてきた。日本広告主協会は「効率的なCMを流すのに有効」と前向きだったが、日本民間放送連盟(通称・民放連)は「データの正確性など解決すべき問題が多い」(青木隆典・会長室副室長)との理由から、導入に難色を示していた。 そこで、日本広告業協会を加えた三者が懇談会を設け、ニールセン・ジャパン社を含めた二社の調査方法の有効性を検証。「適切な改善がなされるならば、有効と判断する」との報告が昨年六月に出たことから、民放連も精度の向上を条件に導入を認めた。 ビデオ・リサーチ社は▽テレビのスイッチを入れても測定器が動いていなければ音楽で知らせる▽各人の顔のイラストを浮かびあがらせることで測定器が入力されたことを確認するなどの機能を設置。「今後も測定器の改良を進める」(水谷守正広報室長)という。
広告主だけでなく、テレビ局も「個人データは利用価値が高く、番組制作に活用したい」(日本テレビ・中原修一マーケティング部長)、「新たな視聴者層の開拓に役立ちそう」(青木副室長)と評価。 関西の局でも、投資効率を探りたいと、一、二年後には導入の動きが出そう。中でも「F(femaleの略)1」と呼ばれ、購買力が高い二十−三十四歳の女性層の動向は、広告主やテレビ局が注目している。 一方で、「番組制作現場ではさらに工夫が求められそう」(朝日放送・松尾好章編成部長)、「幅広い層に見てもらえる番組編成を貫くが、細かい数字に振り回され、気苦労が増えるかも」(読売テレビ・荒井憲一マーケティング担当部長)との声もある。 関西のテレビ局の営業担当者は「番組がどの層に支持されているかで、特定の時間帯にCMの希望が集中するかもしれず、対応を考えると頭が痛い」と話す。若い女性に人気のない時代劇を、広告主が敬遠するという動きが今後、出てくるかもしれない。
オウム真理教事件を巡るTBSビデオ問題を機に、「視聴率至上主義」への批判が相次ぎ、「目先の視聴率獲得に走るから番組の質が下がる」と指摘された。統計上、視聴率一〇%の番組だと、上下各三・八%(関西)までの誤差があり得るという。それを絶対視しがちなのは、視聴率が番組評価やCM契約の最大の指標となっているからだ。 そうした中、視聴の量を測る視聴率とは別に、質を問う「視聴質」という尺度がクローズアップされてきた。民放連が八〇年ごろ行った「充足度調査」では、視聴率の高さと番組の質は必ずしも比例しないという結果が出た。各テレビ局も、好感度や創造性などを独自の方法で調べたことがあるが、視聴者や広告主、制作現場など、すべてを納得させる調査システムは確立されていない。
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