2000年のコンピューター
誤作動・続発の危険も二〇〇〇年一月一日、コンピューターが大混乱する? コンピューターの大半が一九九〇年前後まで、西暦を下二けたで処理してきたため、二〇〇〇年を「〇〇」と入力すると、「一九〇〇年」に“タイム・スリップ”したり、「未入力」「入力エラー」と判断したりして誤作動を起こすケースが続発しそうだ。だが、対策は、手探り状態で始まったばかりだ。
行政にも混乱
行政関係では▽年金、老人医療保険などで受給資格が突然、取り消される▽住民票や納税証明書の日付に間違いが相次ぐ▽水道・下水道など公共料金が高い金額で引き落とされる……。 なぜこうなったのか。コンピューターが普及した一九六〇−八〇年代は記憶装置のメモリーの値段が高かった。百万文字を記憶できる一メガ・バイト当たりが十年前には今の千倍以上の約百万円もした。このため、メモリーの使用量を少しでも節約しようと、西暦の上二けた(一九)を省略したのが、そもそもの発端。これは六八年にアメリカ国家規格協会、七二年に国際標準化機構の規格にもなった。四けた表示に変更されたのは八九年で、日本工業規格は九二年までかかった。 だから、それ以前のコンピューターの大半は下二けた処理のままで、現在、稼働しているコンピューターの六割以上が影響を受けるという試算もある。 放置され続け
コンピューターの利用が急速に広まった結果、各企業のソフトの数が膨らみ、システムの変更が経費面でも、時間的にも難しくなったためだ。システムを更新する場合でも、既存のシステムとの互換性を持つソフトに順次切り替える方法だったため、一部では、当初予想の期限を超えても使われ、新しいソフトも従来の仕様を引き継ぐことになった。 「そのうちに何とかなると、問題を先送りにしたツケ」というのが、業界関係者の一致した見方だ。 情報サービス産業協会と日本情報システム・ユーザー協会が今年五月から六月にかけて、企業、行政機関二千九百三十二を対象に行ったアンケート結果(回収率二五・六%)では、「検討中」「検討していない」を合わせると、まだ手を打っていないのは四分の三にのぼる。「すでに完了」はわずか七・七%にとどまった。 元号でも同様
「生年月日は元号で覚えているのが一般的で、慣れもある。あえて替える必要はなかった」(大手生保)。 実は元号は表向きで、コンピューター上は西暦で処理されていたから、こんなことが可能になった。 一九二六年を「昭和元年」とコンピューターに認識させ、印刷する際、西暦を元号に変換させていた。平成になった時も同じような変換ソフトで対応した。「この時はソフトは二、三日でできたが、影響を受けるプログラムの洗い出し、修正作業は平均一年ぐらいかかった。今回は予想もつかない」とソフト開発会社役員は頭を抱える。 有効な対策は
読み替えは、七〇年に導入したコンピューターなら「七〇」以上の数字は一九〇〇年代、「七〇」より小さい数字なら二〇〇〇年代と認識するようにソフトを書き換えるやり方で、安上がりになる。ただ、二〇七〇年に再び同じ問題にぶちあたることになる。 大手コンピューター・メーカーは、これらを自動的に処理できるソフトを開発しているが、正しく作動するかどうかを最終確認するのは、手作業になる。大規模コンピューターの場合、数十億円、中規模でも数億円かかり、十億円規模の作業を一か月で仕上げるには、専門家を千人も投入しなければならないという試算もあり、「影響度に応じ、優先順位を決めてやらなければ、間に合わない」(日本アイ・ビー・エム)という。 情報サービス産業協会関西支部は「中小企業は資金的に対応できず、コンピューター社会の迷子になりかねない」と危機感を募らせる。 一方、二〇〇〇年対応を支援する専門会社も登場。昨年七月に設立されたレスキューニセン(東京)が一月から週一回開いている独自開発のソフト説明会は、満員状態。この問題の市場規模は「一兆円」とも「三兆円」とも言われている。
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