電磁波
人体への影響あるの?テレビ、電子レンジ、携帯電話など身の回りの家電製品や送電線から発生する電磁波が、人体に有害ではないかという不安が最近出ている。目に見えず浴びる時間が長いだけに、どうも気になる。実際のところはどうなのか。
有 害 説
電磁波問題に詳しい京都大工学部の荻野晃也助手によると、電場は直流、交流とも有害というデータはあまり出ておらず、地磁気などの直流磁場も同じ。疑われているのは交流磁場。 火付け役になったのは一九七九年、米国の研究者が発表した疫学調査。送電線近くに住む子供は、そうでない地域の子供より白血病になるリスクが高いという結果だった。これに驚いた欧米各国で同様の調査が行われた。 このうち大規模で信頼できるデータとされるのが、スウェーデン・カロリンスカ研究所が九二年に発表した調査結果。六〇年−八五年の間に同国内の高圧送電線(二十二万、四十万ボルト)の三百メートル以内に住んでいた全員(約五十万人)を対象に、がんの発生率を詳しく調べた。十六歳未満のがん患者百四十二人が確認され、年齢や性別を一致させた健康な子供約六百人と比較した。 すると、二ミリ・ガウス(地磁気の約二百五十分の一)以上の磁場を浴び続けた子供が白血病にかかるリスクは、他の地域の二・七倍という結果が出た。送電線に接近するほどリスクが高まることもわかった。 無 害 説
世界保健機関(WHO)はこの問題に決着をつけるため、九六年度から五年計画で予算総額三百三十万ドルをかけ、電磁波の人体への影響を洗い直すと今春発表した。米国でも五−七年がかりの大規模な動物実験などが進行中。 わが国では疫学調査はまだ実施されていないが、電力中央研究所が通産省・資源エネルギー庁の委託で動物実験を続けている。国立環境研究所(茨城県つくば市)も最近、電磁波がホルモンや免疫、自律神経などに与える影響について研究を始めた。
測 定
スイッチを入れた十四インチテレビ画面の手前三十センチで三、横十五センチで十五前後。モーターを使うものは強く小型扇風機の手前三十センチで七十、横三十センチだと百にもなった。また資源エネルギー庁が約三年前にまとめた電磁波問題の報告書では、ヘアドライヤーの手前三センチは二十五−五百三十、電気カーペットは三十センチ離して五十四−七十六。 送電線近くはどうか。関西電力によると、住宅地付近に設置されている同社の高圧送電線の電圧は普通七万、あるいは十五万ボルト。地上一メートルの磁場は送電線からの距離によって異なるが、数−数十前後。電磁波に囲まれて暮らしていることを改めて実感する。 こうした測定値はWHOの環境保健基準(五万ミリ・ガウス)、国際放射線防護学会の定めた暫定ガイドライン(千ミリ・ガウス)を大きく下回る。しかし、カロリンスカ研究所報告ではわずか二ミリ・ガウス以上で影響が出たとされ、すっきりしない。 電磁波に対する関心が高まるにつれ、防護材や測定装置を求める人が徐々に増えている。大阪・日本橋のある家電量販店は二か月前から防護材を扱い始めた。セラミック製でポケットなどに入れる人体用(小指大)と家電製品に張り付るタイプ(直径数センチの円盤)の二種類。電磁波を一部吸収するといい、両方合わせ月二十数個が売れる。 市民団体の「ガウスネットワーク」(東京都東大和市)は測定装置を米国から輸入販売している。値段は四万円とやや高いが、最近は月約百台が売れ、全国から注文があるという。 携 帯 電 話
携帯電話の使用周波数は電子レンジと同じ極超短波(UHF)を使っており、耳のそばで使う携帯電話が脳の温度を上げるのではとの不安がある。 出力が高いほど発熱作用が強く、通信機器などの安全基準を決めている米国規格協会が八二年に定めた内容では、最大出力が七ワット以下なら安全とされ、わが国でもこれに沿った防護指針を採用。ただ、指針はアンテナと人体の距離を七センチ程度と想定し、体に密着させて使う場合は注意することが望ましいとしている。 携帯電話(デジタル)の最高出力は〇・八ワット、PHSは〇・〇八ワット程度と指針を一−二けた下回るため、郵政省の調査研究会は今春、安全と報告した。しかし、耳のそばで使うときは問題がないのか。 この場合、アンテナと耳の距離は三センチ程度。電磁波のエネルギーが頭部にどう影響するかについて東京工科大の黒田道子助教授はコンピューターでシミュレーションした。その結果、エネルギーは皮膚と骨にほとんど吸収されることがわかった。黒田助教授は「脳への影響はまずないと思う。体から少し離して使えば、より安全」と話している。
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