「京都慕情」
京都駅の空中庭園から東山の方角を眺めた。本山の知恩院に向かって合掌した。
今回はここから失礼しますと。俺は大阪から足を伸ばして来ていた。
新大阪から博多行きののぞみ号に乗車するまでの間の散策のつもりだった。
秋も半ばだと言うのにこの気温の上昇は何なのだろう。
久しぶりに浅草の空気を吸ってみたいと九州から赴任している甥御を訪問し、帰路大阪に立ち寄った。
大阪ではメル友と会う約束をしていた。実際対面したが忙しい時節と言う事で当人とは食事をし、
予約のツインルームはその用件を満たさないまま空転すると思われたが、
後二時間位ならばとホテルの部屋に同行して来てくれた。
そして、その御仁の為にあだちやで求めた赤地に白の小桜散らしの鯉口シャツ、
そして赤地に黒の鯉模様の六尺褌を渡した。土産だ。
しっかりお持て成しも出来ず、またあわただしく会社に戻っていく身上を悔いている上にこの土産、
恐縮ですと体育会系上がりのバンカラな御仁は感激の色を見せていた。
そして、気ぜわしく、むさぼるようにお互いの体を欲した。
そして、それが済めば別れる定めにあったのだ。
俺の不案内な地・大阪はそのようにして終わった。忙しい御仁と予期してはいた。
会えた。その実感が残されただけの大阪だった。
のぞみ号の出発まで何処にも行きようが無く、俺は京都へと足を伸ばしたのだった。
京都までは以外に早く到着したのが実感だった。
尿意を催し、駅舎の中に入っている伊勢丹の何階か部分に設置されているトイレに向かった。
小便器に立つとすぐさま隣に進み来て立った男があった。
すぐさま声を掛けてくる。何か落し物でもしたのだろうか。
「締めてらっしゃるね」? 半身になって男を振り向いた。
食事をして空中庭園に何基ものエカレータを乗り継いで上昇する前に、
人待ち姿で改札口を見守っていた男のようである。
現任されたのか?この陽気では上着を脱がなくてはいられない。
上着を無くせば俺の腰部には六尺褌の突起が、その部分を意識している者には見取れる筈である。
この男は現任している。「ええ、締めています」
まさかこのままズボンを降ろして見せてくれと言うものではないだろう。
俺は男に応えてその先の天機に構え気味になった。
男はベルトをその場に外してズボンのホックをも外してジッパーを引き降ろした。
潔くシャツの裾を捲り上げて俺に向かって股間を瞬時見せた。
緋縮緬の締め込んで色が抜けた半幅の物から
生勃起気味の完全露呈した肉嵩の張った肉茎を放尿時そのままに開示したのだ。
唖然と仕向けられるより、この場の相当な所業だと認められる俺も淫欲なのか。
茂れる筈の陰毛の色が薄いのじゃないかと瞬時認められた。
男は片頬を連帯の親しみを示すとばかりに笑ませて居る。
その知的だが眠れる野生の煌きを秘めている濃い目のマスク。
髭濃く、剃り跡が青い。五分に刈った頭の額は少し薄めである。何処か南海の匂いがした。
俺も応えるべく男に向き直って、男根を褌に包み入れるようにして下帯を整えた。
友に鏡に向かうようにズボンを整えた。二人は意識下に共存する輩となりえたようである。
再び空中庭園に出た。日溜りは暑い程の陽光が茂っていた。
「誰も居ないのならすっ裸で日光浴するに値する陽気ですな。忘れ夏って言いますか」
「ええ、信じがたい天候ですね。汗臭いのに自分でも気付くと言う」
「実際。観光っすか?」「ええ、九州に帰る前に大阪から」
「はあ、そおっすか?俺はどおやら振られたようすよ。待ち人来たらずって言う感じです。無念ながら」
「下の改札口に居られたですよね」「まあ。あの時は期待に胸膨らんでいましたがね」
携帯電話を操作する。そして、画面(窓)を見せてくる。
<急用あり。行けません>非常な伝言ではある。しかし、して来るのは良識はあるようだ。
あながち断罪の対象にはならないと。「メールではやっぱり取捨選択が容易で軽薄ですな」
開き直っているのか、持ち前の持論を引っ張り出して虚栄して見せているのか。
この男の多分これは可愛い部分だと思わされた。
お互いの上着は植込みのコンクリの縁に置きやっている。男はとっくにネクタイを外していた。
その白いYシャツにランニングの下着が透け出ている。ボタンを外して風を入れる素振りを作る。
繁茂する胸毛が想定される男の毛深さだが、ランニングのえぐりからは、
いや、生え行く胸毛の欠片が覗いている。
これは故意に人工的に剃った形跡があるのではないかと、
俺はほくそ笑んで男の胸を人目をよそに辿った。
「剃られてしまいましてね。東京本社に出張した際の上野の夜に」
「じゃあ」 俺の期待通りだと嬉しそうな苦笑を作って頷いて見せた。
「そおっすよ。下の毛もお察し通りですよ」「Sっ気ある奴からですか?」
「でしょうな。なにもS&Mバーでであった御仁じゃなかったんすがね」
「読まれましたね。あなたの中のMっ気って言う奴を」
「あんたもそう言う風に俺を見抜いてくれるので?」 自己サイドに誘導してくれている。
俺はこんな男はすこぶる快調に接せられるのである。紐解く手間が取っ払われている。
その理由により、もっと奥義の部分を知りたく探求の色が濃くなる。
「ああ、ここであんたをすっ裸にひん剥いてやりたい衝撃に駆られているよ」
男は背後から押されたように意を決してシャツのボタンを全部外して、
大胸筋の肉厚な突起を誇らしめて陽光に差出した。
その胸の頂に豆粒に硬くなった乳首が綿地を押し上げているのが明確に見取れた。
ランニングの左えぐりを押し下げて乳首の豆粒を露わにした。乳首は潰れがちに熟れていた。
「上着の内ポケットにピアスのケースが入っているんだ」 俺に着装を促す目で誘う。
俺は六尺褌の中の男根が軋むように怒り出すのを覚えた。「負けたよ」
俺は再びトイレに歩先を向けた。
ボックスで揺らめき色の眼差しで乳首にビアスが通される瞬間を感じやる男を拾い物とするのか、
なにか特異な関係と繋げるのか理解しがたくこの淫靡な時を感じ取っていた。
通し終えると男は気弱に頷いて俺にしな垂れかかって来た。
ガッツと受け止めたが、ここは場末の公衆便所ではなかった。
声さえ漏らせられない。禁断の領域である。
このままウズモレタいとする男を宥めるようにして先に外に出した。
大空間である。こんな巨大な空間は始めて体験する構造物だった。
精神的に俺に心身を委ねてしまったような男が、
半分俺にしなだれかかるようにしてエスカレーターを下って行く。
南口に車を止めている。時間が無くても家に寄ってくれと当然の約束だとでも言いたげに吐いた。
この小さな旅の終焉はこの男なのだ。
予期せぬ事だったが、京都に足を伸ばした事はこの男と会う為だったと思うと
この逢瀬も格別なものを感じやれた。
「俺の事は健吾と呼び捨てでいいすよ。あんたにはさん付けだなやっぱ」
「じゃあ、頼児さんてな」「頼児さんか。いい名前すね」
車は五重塔の西に下って行った。
そして、古く床しい町並みの一角に入った改装中の旅館の雑然とした傍らの狭路を通った。
楡の木の落ち葉が点在する庭に車は突っ込んで停車した。
一方はここへの入口だ。一方は旅館の改装工事の現場。
工房のような作りの建物が田舎の分校舎のような形である。
健吾は俺をその工房に案内した。
「弟分がここで注文家具を製作してましてね。
今は蛻の殻ですが。時たまジャズコンサートなんかに使ってまして」
木の床の隅に家具の原材料の端くれが置いてある。
ステージにピアノ、ドラム、ギター、パーカッシヨンの類。
マイク、コード。照明器具。天井のミラーボール。
弟分の置き土産らしい単品の椅子がステージに向かって配列されていた。
俺も健吾も奥のドアが不意に開かれたので驚かされた。
丸刈りに鋭角な眼光。睨み付けるものはすべて丸呑みにしてやると言う気迫のある強面であった。
健吾に立ち向かうなり平手を食らわして健吾は辛うじて足を踏ん張れた。
健吾を睨み据えて片手は携帯電話の操作をする。
「奴は捕まった。迷惑かけたな」 相手に威圧的に命じている。
「どおしてワシから逃げたりするんや?ああ?何時だって」
健吾を抱き寄せて額に額を宛がって目の奥を見抜かんとしたまま動かない。
健吾も応えるように同じように見据えている。
痴話喧嘩か。俺は用無しとなった感は否めない。
外に出た。出ると旅館の改装をしている大工が足場の幌を掻き分けて出て来た。
紺地の長袖のTシャツがこの男の肉体の上体の形を如実に誇示して見せていた。
大胸筋が豊かな谷を深く形成しており、その鳩尾に神社の木札が浮上して見える。
不精髭が精悍な面構えを助長している。胸の谷、そして両脇には汗が滲み出て乾かずにある。
七分ズボンが頑丈な腰部から意思を持って穿かれていると言う格好にある。
丸刈りにタオルの鉢巻を捻っている。俺の顔を見て遠慮がちに会釈して見せた。
健吾が戸口から手を合わせて非礼を詫びている。
それを大工が見流して俺に再び視線を戻した。
俺は車から上着を取って楡の木を見上げて煙草を吸った。
仕方なく去ろうと出入り口に向かった。
大工が別の狭路に面した幌の中から現れて俺に軽度に訴える目を向けた。
「茶が入ってますんでどうです?」予期せぬ言葉だった。
同僚が居ないのか?大工が案内したところは料亭の離れ座敷と言う所で、
現状改築とも言える工事に勤しんでいるようであった。
欄間にはビニールシートが張られている。
柱の狂いを強制する仕掛けが方方に突っ張られて伸びていた。
畳を剥がれた剥き出しの床に茣蓙が敷かれている。
そこに茶の接待の盆が置かれている。外観は張られた幌のお陰で遮断されている。
大工はバケツの中に張った水に捻り鉢巻を解いて濯いだ。
絞って顔を拭き、そして、Tシャツを脱いでさらにタオルを濯いだ。
「暑いすね。今日は。これじゃ汗子のもとで」と脇の下を露わにしてタオルを這わせたが、
脇毛は伸びかかった常態にあった。大工流の汗子対策か?
幌のせいで風の抜けが悪く、温室効果を感じさせてくれていた。
お茶を薦められた。「誰か同僚の?」
「居ましたが他の現場に行きました。女将さんが分からず用意してくれたものと。遠慮なく」
甘える事にした。「下脱いでいいすか。ほんと俺って汗かいたままにしてると汗子が」
言うなりもう幅広ベルトを外している。
一気に七分ズボンを引き降ろすと益荒男なる男の下半身に赤褌がきりりと締め込まれていた。
上体は肉浮く偉丈夫な創りである。
木札が吊るされていると言う事がまた頑丈な骨格を引き立てていた。
俺の為に誇示したかったと言うべき肉体がここに提示された。
六尺褌を解いて縁の端に踊り出て何をか探った。ホースを手にした。
そして、なるべく幌側に裸身を寄せてホースの先から水を放出させて頭から浴びた。
大工の股間には脇と同じように伸びかかった陰毛が露呈され、
黒光りのする亀頭を支える肉茎は野太かった。
宝袋は重々しく股間に位置していた。見る間に大工の魔羅棒は勃起して行った。
滴る水に濡れた大工の体が半シュルエットで扇情的に映えた。
しかし、現場を水浸しには出来ないと大工は水を止めた。
解いた赤褌の端に消えかかる墨文字で「蛮竜」と読めた。
この大工は誰かに傅いていたのだろうか?現行の証なのだろうか?
「済みません見難い物をお見せしてしまい」
大工はバックからバスタオルをひっぱり出して体を拭きながら恐縮の弁を吐いた。
「自然体が俺には嬉しいよ」「これ締めるのか?」
赤褌を差し向けた。「それ締めるのはほんとは虚しいんです。親方は今は亡き御人ですからね」
「蛮竜というのは」
「俺の修行名です。この赤褌は修行時代に必ず締め込みを義務付けられたものですから」
「しかし、恋慕の色は隠せないと締め込んで?」
「ええ、このところ無性に親方に会いたくてですね。
ですから。あの時々のままに振舞おうとして。でもですね」 大工は涙を落とした。
「あなたと会った時、このお人は親方の再来だって感じさせられました。
そっくりそのままと言う訳じゃないのでして、
その、なんか威圧感めいた統率力のある匂いがそのように感じさせられて」
落ちる涙を払おうともしない。屈強な大工が涕流す様は痛々しかった。
俺もこのように慕われると言うだれぞの存在になりたいと願われた。
正座したまま大工は視線を落とし続けた。
「あなたはこの地のお人ではありませんね」
「そうだ、新大阪に戻って博多行きののぞみ号に乗って帰省するんや」「博多ですか」
見上げた顔にはうっ血した眼があった。「そうでしょうね。上手く行かないもんすね」
冷めた茶を一気に啜った。「でもここぞこの時」
大工は俺の胸に飛び入って来た。俺は抱きすくめた。
俺もこのまま大工を紐解いて意のままに操りたい衝撃に駆られていた。
「抱いてくれるんですか」
「俺もお前さんを見た時何がしかの思い入れが交差したんだ。こいつはいい奴かも知れないってな」
「嬉しいっすね。嬉いっすよ」 俺を見上げて自分に納得の色を塗るように頷いた。
そして、お互い刹那の誓いなる唇を重ねた。
粘っこく甘いそれの。大工の本名は祥吾だと俺を軽トラで家に案内する時教えてくれた。
車で新大阪まで送ると言う。俺は祥吾の気持ちに甘えてしまった。
仕事は明日頑張れば元は取れると軽笑して心配には及ばないと念を押してくれた。
市街地の西の外れ桂川に面して祥吾の工務店があった。
兄弟弟子と建築業を協業しているが近く発展的解消と分裂する手筈になっているらしい。
作業上の傍らで待つとはなしに待ち、
桂川の流れを見下ろして京都に立ち寄る事は一転して
祥吾との出会いを意味していたと感慨にほろ酔った。
浅草でも褌スナックで知人と会って来た。しかし、再会したと言う程度のものだ。
祥吾は会えなかったかも知れないゆえの尊さがあった。
祥吾は、白いボタンダウンのシャツに紺のジヤケットを手にしていた。
スーツのようだ。やはり、駐車のベンツは祥吾の物であった。
その車に俺を案内する。「ほんとに時間ずらせられるんですね。嬉しいすよ」
「明日勤務開始時間までに帰省すればいいんや。極端な話な」「ええ、配慮ありがたいです」
体育会系上がりのビジネスマンに見えない事も無い。
しかし、その特有な草臥れた匂いと言うのが一向にたちこめて来ない。
凛として毅然とした実業家の自信が忍んでいる。「途中俺の秘密のアジトにご案内しますんで」
「秘密のアジト?」「同行願えば分かりますよ」 祥吾は片頬で意識的に笑んだ。
「それは楽しみだな」「ええ、案内出来るのもおいらにはありがたく」
俺の頬から耳朶へ祥吾の手が辿った。その手を握って下に降ろした。
ギアチェンジの辺りで祥吾は握り返した。
車は、Sウィスキーの山崎工場の前を通り竹林の中の道を登った。
程なく走ると祥吾は竹林の中にある資材庫らしい建物に向かって車を乗り入れた。
さらさらと笹の葉がそよいでいる。
「ここは博打で収得した代物でしてね。あの頃は俺も若かったと思いますよ。今はしてないすが」
しかし、資材庫らしい建物には案内せず、せせらぎの音を聞く小脇の道に入って行った。
雑木林の斜面にバンガロー風の建物が見えて来た。
「夏場の俺の隠れ家でしたね。ま、年間通じて利用できるようにしてはいますが」
二階部分に階段が伸びている。テラスから観葉植物が垂れ下がっている。
一階部分は小道場の様式である。空手をしているのか巻き藁が道場脇に立っていた。
二階に上る。洋間に誘い入れる。金気を感じさせるものは無くすべて目に入るものは木と布であった。
暖炉に飾りの薪が組んである。部屋は長方形で一方に低めのベットが設置されていた。
「いい所だな。奥さんは知っているのかな。ここを」
「どおして妻帯者だと?」
「なんとなく」
「あいつは看護婦でしてね。すれ違ってばかりでして。また、そんなでお互い不干渉になって
。第一あいつはレズでして」
「はあ、そんなか?」「くしくもそう言う巡り合わせでして、あいつもうすうす俺の事は」
だから俺は自由だと俺に向かい堂々の体躯を寄せて来た。
抱きつく力が俺の胸を圧迫した。「俺の体好きにしていいすよ」
「ああ、貰い受けるさ」 俺は祥吾の上着を払った。
胸高くシャツに突起している肉なる盾。辿れば弾力が踊る。
素肌にシャツは仮の装いと通されていた。
無造作にズボンからシャツを引き出してボタンを外した。
開くと艶めいて動機の脈を浮上させる大胸筋が突出して来た。
ズボンを脱ぐ事を目線で命じると祥吾は潔くベルトを外した。
想像した通り下帯を付けない勃起した魔羅棒が踊り出た。
靴下を取り祥吾はすっ裸の体を再び俺に露呈した。
俺も祥吾の前で脱衣した。その間祥吾は痛いほどの視線を放ち寄せている。
俺は六尺褌の体をこれが俺だと誇示して見せた。
祥吾は何度も頷いて、俺の手前に膝折って座した。足先に唇を当てた。
「馬鹿だな同格でいいのに」
「いえ、俺がしたい事を少しの間だけでもさせてくださいませんか?」
「俺を親方と仰いでくれても」「いいすよ。そんな感覚兄貴さんも好きな筈で」
祥吾の誘導が俺の感性と重なる。
「俺が下帯なしと言うのも兄貴さんのこの褌を授かりたいと。
兄貴さんはここに置いているものを締めて」
「魂胆有りか」「だって、この先」言いかけて俺の股間に頬埋めてすすり泣いてしまった。
「どおした?」「だってこの時限りになるかも知れないじゃないすか。俺はそれがそれが」
俺は屈んで祥吾の涕顔に頬を寄せた。
「何や、始まったばかりで。この先楽しい逢瀬が待っているやも」祥吾はか弱く首を振った。
「俺をバンカラに豪快に雄っぽく振舞う事を強いるもの達ばかりで、
俺もそれは面白いって装っていましたが、でも、
やっぱ、俺は精神的に組み敷かれるような玩具のように弄ばれるような事が好きなんで。
俺は兄貴さんにはすっぴんの俺を可愛がってもらいたく」
「だから、そのように。泣いては事は進まんよ」
「いいすね。ずっと、俺でいいすね」
「でなけりゃ、お前と同行はしなかった」
祥吾は言葉を待って俺に向かって正座して一礼した。
俺はすかさずその場から祥吾の背後に廻って祥吾の片腕を取って逆手に引いた。
あぐぐ。祥吾は嬉しく悲鳴た。苦しく頬を床に押し当てて尻を持ち上げた。
便宜上俺の六尺を外して祥吾の両手首を結わった。硬直と緊張の狭間で祥吾の体が撓った。
膝ついて上体を起越した。胸がさらに突起している。祥吾は半目で様相を変えてしまった。
強面の面構えは囚われて揺らめく性だと官能的に変容した。
怯むがテラスに連行するように祥吾を押し出した。
抵抗の色を見せたが、股間に憤る肉茎はいきり勃って萎縮はしない。
隠せぬM性の確実性だ。テラスの手摺に六尺の端を解いて結びつけた。
俺はその光景を肴に煙草を吹かした。祥吾は伸び上がって揺らめき酔っている。
何気なく下を見て何かこの先の展開を予測しようとした。
そこに、予期せぬ姿をした男がここを見上げていた。
肉塊と圧縮した体の造形に濃い胸毛を誇る赤褌の禿げ頭の親父だった。
俺を見上げて合掌する所作を取る。下部に有った刈田の持ち主か。
丸太い腕に頑丈な下肢の肉付き。懐柔するに値する御仁だが、
このまま親父をここに引き入れては祥吾が戸惑うだろう。
俺の視線に気付いて祥吾が下を見返った。「邪魔者が」「誰だ?」
「わしの中にMっ気が有ると見抜いた隣人でして。
好きで田畑買って農夫の真似事している親父で。ここに俺が来たのは即刻承知なんでしょう」
「Sっ気があるのか?」「どちらも自由じゃないすか?」
親父の淫欲な視線をよそにに祥吾を抱いた。祥吾は粘っこいキッスを返す。
俺の前で祥吾を嬲られては適わないと俺は祥吾の菊座を貫いた。
祥吾はぬめり気を豊かに俺の魔羅棒を迎え入れた。
「邪魔が入った。やらねばな」「いいすよ。いい。嬉いっすよ」
背後に親父の気配だ。して、まんまと俺が囚われて菊座を模索されてしまった。
俺の腰の動きは止められない。
陽光と親父の熱い吐息を背後に受けて俺はこの午後の魔性に蹲って行った。
親父の獰猛な肉茎が容赦なく突入して来る。
こいつ、本気で。俺は挿入した快感と突入される菊座の快感の狭間で激震と打ち震えた。
祥吾は俺の挿入を受けて白目剥いて別の境地に舞い上がっている。
親父が堂々の吐息を吐いて俺に挑んでいた。
「いけねぇすよ。もう。我慢できねぇ」
祥吾は俺に発砲の承諾を得ようと眉を顰めた。
「行くか?いいぜ」 俺もこの先我慢の我慢の限界に突き当たる。
「あぐっ!」 親父が先に催して腰をせわしなくうち振って来た。
「うぐっ!」 菊座が親父の発砲を感じてひくついた。
親父はこの時とばかりに腰を押しつけて来た。
祥吾が連鎖して、俺へと飛び火した。三連結は秋には異様な日溜りの中に瞬時に事をなし得た。
「この野郎!」まだ、放心の色を隠さない親父に向かって祥吾は殴りつけた。
一打、親父の頬に鉄拳が飛んだ。すかさず俺が祥吾の腕を取った。
「大事な俺の兄貴との情交を邪魔しやがって。何しでかしたんだ、このじじいは」
「美味しくいただいたそれまでや」
祥吾より早く俺の足が親父の胸を蹴り上げた。その一言には我慢できなかった。
好きでやった菊座ではない。成り行き上の拒絶できない過程の予測のつかないものだった。
親父はその恩恵に預かっただけだ。それをこの言いぐさだ。
「腹立てているのですか?」「いや」
「あのまま、あそこに寄らずにモーテルで抱かれたかったですね」
「いいよ。気を使ってくれなくて。今はもうあまり祥吾と時間が潰せない事に
こだわっているのかも知れないな」祥吾は熱い視線を向けた。
「あの旅館が改装し終えれば、行けるよ。九州。
だから、その時は今日の分まで抱いて欲しい」
「来いよな、福岡に」「ええ、好きな博多に、兄貴を訪ねて行けるんだ」
だんだんと新大阪が近づくにつれて言葉は交わされなくなった。
寂しい小旅行の終わりであった。巡り合う祥吾への恋心ではあったが、恋情とは虚しいものであった。
新大阪で、ロッカーの荷物を出した。
あだちやの袋から、赤地の中に黒く昇り鯉を染めた六尺褌を取り出した。
「えっ?せっかくの誰かさんへの御土産じゃないんですか?」
「自分用にとな。そんな男はいねぇよ」
「感激だよ。ありがたく」祥吾の目が潤んだ。
ホーム。ここまで送られては去りがたくなる。祥吾は煙草ばかり吹かし続ける。
上鳥羽のバス停から中に入った所に祥吾は居た。俺は本来の目的を遂げる事無く祥吾と出会った。
そして、これからの行方の為に新大阪のホームに居た。
「兄貴さんへの思い、何もいってなかったよ」
「居るだけでいいんだ。ここに。それは俺だって同じだ。
祥吾と会えたと言う事がこの旅の成果だと上手く言えなかった」
「ほんとに?」
のぞみ15号の到来を告げるアナウンスが流れた。
「別れじゃないと言ってください」「そんなにナーバスになっちゃ京都まで帰れないぞ」
「ええ、帰れないかも」「俺だって訪ねて来るさ。お前の住む京都へな」
「きっとですよ」「お前を一人にさせとかないさ」
「兄貴さん・・・」 ベルがのぞみ号のホーム入りに重ねられた。
「気をつけて」「祥吾も気をつけて運転してくれな」「ありがとう」
デッキから祥吾を見返った。我慢に引きつっている顔を見せまいと意地らしく突っ張っている。
席に着いた俺に歩み寄って来る。誠意一杯笑顔を作ろうとするがならない。
始動してしまうのぞみ号。手を思いきり上げて振る。俺もこの時とばかり応えた。
誰に見られたって良い。祥吾は両手を振っていた。そして、一気に視界から消えて行った。
目頭が今になって熱くなって来た。
そして、俺は南に帰って行くのだった。
終わり