二人はまず、唇をあわせた。一度軽く触れあわせてから、力を抜いてゆっくりと吸いあう。ファバルはイシュタルの両のほほを手のひらで包んで、震えてくる唇を押し付けた。
「ん」
彼女ののどの奥で息がつまるような声がする。イシュタルは、唇を割って何か入ってるような気配がしたので、唇を柔らかく緩めてそれを迎えた。入ってきた舌が、上下の前歯を擦り、その奥でまだ物おじしている風情の舌を待つようにうごめく。
「…んふ、くぅ」
つい、苦しそうな声が出る。ファバルは一度体を離した。
「苦しいか?」
「…いえ」
一回深呼吸をしてから、イシュタルはやや呆然とした表情で答える。その手が、もたげた身を支えるファバルの腕に絡まってきて、身を近付けた二人はもう一度、深く唇をあわせた。
しゅ、と乾いた音がする。イシュタルが夜の衣装の合わせを解く音だった。導かれるようにファバルの手がはだけた場所に入ってくる。豊かなまろみを、形を確かめるように丸く撫でる。
「…」
力を入れて、丸くもみこむと、イシュタルの顔はみるみる赤く染まり、その赤らみが胸元にまで広がってくる。だが、ファバルはそれも見ず、耳たぶやうなじにくちびるをふれていく。
手探りで捕まえられた胸の敏感な突起を指の腹でひねられて、イシュタルは
「あぁ、あ」
と声をあげた。びりりとした感覚が半身を駆ける。それが何度か繰りかえされて、そのたびに切なげな細い声が、耳を通じてファバルの脳と体に形容しがたい熱をためてゆく。
動きを止めて、見つめあった。
イシュタルの目尻には涙が滲んでいる。両腕を頭の方向に簡単に投げ出して、はだけて半ばあらわになっている乳房を隠すことにも思いが及ばないようである。自分のたったあれだけの動きでここまでになったと思うと、ファバルは感激と愛しさがあいまった複雑な感情が溢れてきて、目の前のヒトを抱き締めたくなってきた。
「イシュタル…」
「?」
「お前、かわいいな」
「何言うの」
突然あらたまれて、イシュタルは憎まれ口をたたいてみるものの、声には力が入らず、しかも鼻にかかって説得力がない。
「惚れた俺が言ってるんだ、認めろよ」
ファバルはその憎まれ口を唇で塞いで、再び愛撫を始める。服を上からゆっくりとはがしながら、彫刻のような肢体の上にかぶさり、つんと緊張して呼吸と鼓動で震える胸の突起に手を添える。片方はそのまま指でひねり、もう片方はためらわず当てられた唇の中に吸い込まれる。
ぴん、とした刺激がはしり、
「ふぁぁ」
と声があがり、体が震える。ファバルは上目遣いに、自分の行動のいちいちに、うてば響くように反応して喘ぐイシュタルの表情を見た。
毅然としたまなざしは影を潜め、与えられた刺激を戸惑うように受け入れた、すこし眉を潜めた顔が、やっぱり、自分の顔を見ていた。
「ん?」
顔をあげる。
「どした?」
「…いえ」
イシュタルは一度そう言おうとしたが、ふとファバルの目を手で覆った。
「うわ」
「…私をみてなにがおもしろいの」
「わかってねぇな」
目を塞がれたままでファバルはにや、と笑う。
「そう言う顔を見てるのがだいご味ってやつと違うの」
「そうなの?」
「少なくとも、俺は楽しいぜ」
イシュタルは手を離す。ファバルはいたく平然とした目でそう言って、
「だからさ、素直になれよ。もっと可愛くなってくれよ」
と、イシュタルの顔をわざとのぞくようにしながら手に力を入れた。
「あっ」
イシュタルは手をまわして、ファバルの頭をぐいと自分に引き寄せる。イシュタルの喘ぎは、内側にしっとりとしたものを含んで、細くのびてくる。
絶妙のあおり加減の、少し掠れた声が、部屋の中に満ちてゆく。イシュタルの体から、邪魔なものを全部のけようとしていた途中、ファバルは、彼女の左の腰骨の当たりに、ハッキリとしたかげりをみつけた。
「これ、ひよっとして」
「そこ? …そう、トードの印よ」
よく見れば、天からふる雷のようにも見える。人間の体にここまでハッキリと何かの形を残すことができる、聖戦士の血に、すこし驚く。
「あなたにもあるでしょう」
イシュタルが右腕をもたげて、ファバルには左の、肩に近い胸板の上にある薄いアザについ、と指を当てた。
「こっちはオードだな」
腕のを見て、ファバルが言う。
「剣の扱いはうまくないから、あってもあんまり意味がないんだ」
「ウルの印はどこにあるの?」
「ん?」
話を聞こうとして、つい、と、イシュタルのからだの線にあわせて手を滑らせると、突然彼女は
「ひっ」
と高い声をあげた。その声のただならなさにファバルも思わず声をあげる。
「どしたっ?」
「…」
イシュタルは一度は、なんでもない、と、いうように首をふったが、
「お願い、しるしは、さわらないで」
と、消えるような声で言った。
「どうして」
ファバルがいいながら、また手のひらで触れると、イシュタルは体をひねらせて
「ふぁぁっ」
と声をあげた。
「…ひょっとして」
胸板に額を寄せてくるイシュタルの銀色の髪を撫でながら、ファバルはつい、にやり、と言う形容が相応しい笑いをした。
「ここがいいのか?」
「…でも」
イシュタルは顔を曇らせた。おそらく、以前も知られていた場所なのだろう。
「…わかったよ。お前がイヤなら、やめる」
「ごめんなさい」
「いいってことよ」
さめた気分にもう一度火をつけようと、今にも泣きそうなイシュタルにくちづける。彼女の唇は今はさらに柔らかく、きれいに白い歯の間から尖らせた舌先が出るようになっている。舌先どうしをあわせると、イシュタルののどからまた、甘いうめきが漏れた。内ももの間に入ってこようとするファバルの手を、イシュタルの脚は拒まなかった。さわりとした感触のあと、指先は柔らかさと、熱さにも似た感覚を感じ取る。手が動きやすいように、わずかに脚は開いてゆく。
「…いいか?」
念を押すように(臆病そうに)尋ねると、イシュタルは、胸の前で腕を縮こませて、口に出せないもろもろの感情の入った瞳でジッと見上げてきた。親指と人さし指の間の線を、イシュタルのその場所に添わせるようにしずめ、親指の腹で秘密の突起を押さえた。
「んっ」
イシュタルの顎がくい、と天井をさした。その顔を確かめるように真顔で見つめながら、人さし指は奥に通じるあたりに止まる。
「濡れてんのな」
と囁くと、イシュタルは
「…こんなきもち、はじめて」
と舌足らずに言った。
「どうしてさ。俺より年季積んでるくせに」
「ほんとうだもの。あなたに嘘言ってどうするの」
「…気持ちいいのか?」
「…ええ、とても」
「それでいいのさ」
ファバルは、彼女の額に唇を当てて、しずめた指に力を入れた。イシュタルの神経にさざ波が立つ。
「んん、あ、ああ」
「…いい声、出すよな」
つい、思ったことが口に出る。正直、その声にあおられて、臍の下が痛い。
「…う」
得物が鼓動にあわせてひく、と震える。イシュタルがその声を聞いていた。閉じた目をうすくあけて、自分の身にそうファバルのからだの気配を辿り、きくきくとするファバルの得物にそっと触れた。
「あ」
今度はファバルが声をあげる。先端に滲む粘液を指の腹で塗り広げられる。
「よ、よしてくれよ」
こいつめ。彼はとたんどん、とイシュタルの真上に乗り上げた。
「…今は自分のこと考えろよ」
と、イシュタルの瞳を視線で嬲る。
「おとなしく気持ちよくなってろよ…な?可愛いイシュタル」
わざと返答に困るようなことを言いながら、ファバルはつ、と唇でうなじを撫でた。それから胸元、乳首、脇の下を撫でる。あえて、一度拒まれたトードの印を驚かせないように撫でる。
そうして再びのばしてきた指は、今度は遠慮なく奥まで入ってゆく。イシュタルは
「は…ああ」
と息を引いた。そして別の指だろうか、はっきりと潤みのなかで自己主張している秘密の突起が下から上に撫でられる。
「ひいっ」
イシュタルの喘ぎはほとんど叫びと泣き声になっている。汗の冷たく残るファバルの背中に腕をからめて、涙をだしそうな表情で悶える。
ファバルはため息を付いた。このままでは、自分の方が参ってしまいそうだ。奥をかき回していた指を抜き、熱さをさますように潤みを弄びながら、
「な」
と言った。イシュタルは彼の意志を悟って頷く。だが、すぐ、ファバルは悪戯っぽく笑い、
「な、お前、自分から言ったことってあるか?」
と言った。
「…なにを?」
「なにをって」
そう言う体験があるのかないのかしらばくれているのか、もうろうとしたイシュタルの耳に息でも吹き掛けてみるように、ファバルは言葉を続けた。
「言ってみろよ、自分から。『欲しい』って」
「…そんなこと…」
「言えるよ」
もう何度目だろう、ゆっくり、深く、唇をからめる。
「言ってみな」
優しい愛撫に揺られて、イシュタルは、喘ぎに掠れた細い声で、しかしはっきりと、
「…ファバル、来て」
と、潤んだまなざしと一緒に言った。いきりたつ得物をなだめながら、そっと先端を触れさせると、イシュタルは腰を動かして自分からその場所にあわせた。
「ここか?」
「ええ」
ため息の出るような熱さと存在感を共に味わいながら、ファバルの腰が沈む。
「ああ…」
やっぱり、ため息が出る。遊びでなく、心のこもった切ないまでに愛しいイシュタルの奥底。
しっとりと柔らかく、この上もなくみだら。だが、それでないとつまらない。
イシュタルは、のどを震わせて何かを堪えているようでもある。そして、その先を促すように、ぴくりと、震えた。
ファバルは埋まった腰を、本能が命ずるままに揺らしてみた。イシュタルの声が、堰をきる。
「ふぅ、ん…ぁあ、あ」
その声に、脳髄までもが溶けそうになる。イシュタルの声は低く、高くなり、そのたびにうっとりとしたまなざしを宙におよがせる。ただ柔らかいだけのはずのイシュタルは、声の高さと共に、はっきりと、繋がるファバルをくい締める。
「んぁ」
ファバルは、背筋にぞくりとするものを感じて、思わず、突き放すようにイシュタルから離れた。
「!」
彼は、肩で息をしていた。イシュタルは呆然と、離れたファバルを見ている。
「…どうしたの?」
「…」
フアバルはふるふると頭をふった。
「…いや、なんでもない。…ごめん。慣れないから」
イシュタルはひざでファバルに近寄り、抱き締め、汗が滴ってくる唇に、自分の唇を寄せた。
「…あれで、いいのに」
「…」
「怖がらないで。今はあなたが、私を知っているただひとりの人」
「…イシュタル…」
へたりこむファバルの前で、イシュタルはまくらに手を付き、背中を向けた。動物のような格好だ。振仰ぐイシュタルのひとみが、身震いする程の狂おしさで自分を求めていた。背中から、彼女の腰骨をつかむ。上下がさかさまになって見える例のあたりに、得物を当てると、今度はさらにするりと柔らかく包まれる。イシュタルの肩がかくん、と落ちて、尻だけが高くなる。そこをファバルは、遠慮なく突き立てた。
イシュタルが喘ぎながら、手をついたまくらをぎゅっと握る。苦しそうに嬉しそうに眉根をしかめた顔が肩の向こうがわにに見える。イシュタルの痙攣するその強さが、今受け入れている凝るばかりの歓びの証と思える。
「…なぁ」
イシュタルの背中を覆うように屈み、言葉の出せるようなゆっくりとした動きにしながら、ファバルは囁く。
「幸せ、か?」
「ええ、とても」
イシュタルが答える。
「幸せよ。どうにか…なりそう」
「なっちゃえよ。あれが王女かって、笑われるぐらいに、どうにか、なっちゃえよ」
手がのびて、胸と秘密の場所にある敏感な突起を同時に責められる。腰の動きはもちろん、休む事がない。
「かはっ く…ん、ん、んんっ」
イシュタルは目をぎゅっと閉じた。全身に力が入る。それがファバルを締め付ける。
「んぁ」
ファバルも目を閉じて、天をあおいだ。体中の熱が一転に集中している。揺れる体を支えるひざが震えてくる。
「あっ、あっああっあ」
イシュタルがのどを振り絞る。
「私、もう、…んああっ」
身体の軋むスピードは一瞬最高潮に達した。
「あはっ」
イシュタルの全身が一瞬震えた時、すかさずファバルはその身を離した。直後、彼女の太もものあたりに、ぱっと白いものを散らす。しかしイシュタルはそんな事も分からないように、ひざの力を落として、うつ伏せに寝台にへたった形になった。その傍らに、ファバルも体を投げ出す。
「はぁ」
同時にため息が出て、二人はつい笑ってしまった。イシュタルの手がファバルの汗になった額を撫でた。
「凄い汗」
「たりめーだ、幸せは疲れんだよ」
「ファバル?」
「ん?」
「…いえ、別に」
「じれったいなぁ」
「いいのよ、本当に」ずっと私とこうしてくれる? そんな質問こそ、今の自分達にはいらない言葉だと、思った。
裏ペニーロイヤル をはり
お・ま・け
ファバルのウルの印は、本人から見て左の太ももの外側にあります。
イシュタルのファラの印は、本人から見て左側の背中、大分お尻よりにあります。