かえるさんレイクサイド (1)




そろそろ暖かくなってきたのでかえるさんは冬中こもっていた犬上川ほとりの穴から出ることにした。しかし、腹が減って何もする気にならないので喫茶店に行く気になった。


かえるさんは橋を越え、マシヤデンキを越え、ココヌを越え、芹川沿いにある喫茶かえるに向かった。4トントラックに轢かれたカナヘビがいた。カラスの白骨があった。ちょっと不吉だった。かえるさんは、白骨にたかる、まだ動きの鈍いハエを舌に巻き込んだ。少し厄払いをした気分になった。


「喫茶かえる」のマスターはかえるさんの姿を見るなりレイクサイドモーニングの準備に取りかかり始めた。琵琶湖の汲み置き水から丁寧にスポイトであくを取りのぞき、日向水ほどのなまぬるさに温め丁寧にグラスに注ぐ。皿のユスリカはボウフラミックスで、かすかに藻の匂いがする。どこの喫茶でも出そうなありふれたメニューのおかげで、かえるさんは思うぞんぶん長居をしてよい気分になる。


かえるさんはかえる新聞の番組欄を見た。かえるさんがまず読むのは「わたしの番組批評」だ。「『九死に一生スペシャル、バキュームカーの吸引から生還した私!』に感動」という投稿を、かえる目を皿のようにして探した。かえるさんの名前はなかった。代わりに載っていたのは「お腹を抱えて笑った『冬の眠りのうきうきウォッチング』」だった。かえるさんは3年間、この欄への投稿を欠かしたことはないが、まだ載ったことはない。蛙生わずか10年、この先自分の投稿が採用されることはあるのだろうか。かえるさんはグラスに残った水を飲み干しながらほうっとためいきをついた。




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