かえるさんレイクサイド (22)



暑さはまだきびしかった。マシヤデンキから案内状が届いた。 「マシヤデンキ夏の社員休み!社員は休みですがマシヤデンキは夏もがんばります。ご来店いただくだけでハローかえるのテレビリモコンプレゼント!」夏の日差しの中をマシヤデンキまで行くのは冒険だった。でもハローかえるのリモコンがもらえるのだった。


ヘルロードにはかげろうが立っていた。日陰と湿った地面を選びながら進んでも、からだの水分はみるみる蒸発した。遠くがゆらゆらしていた。かげろうなのか頭がぼやけているのかわからなかった。進みながら、かえるさんはリモコンを手に入れたら何に見ようか考えていた。きっとかえるリモコンで見るテレビは、いまのリモコンで見るテレビよりずっといいテレビに違いない。マシヤデンキがゆらゆらしていた。


マシヤデンキの中はひんやりとしていた。店員が駆け寄ってきたので、かえるさんは案内状を差しだそうとした。ところが店員は、かえるさんの横をすり抜けてトイレに駆け込んだ。トイレならしかたないので、かえるさんは何種類もある電池の値札を見ながら、一本当たりどれが安いのか考えた。


店員が出てきたので、かえるさんはもう一度案内状を差し出した。気づかない様子なので、ひらひらと振ってみた。店員は、はっとこちらを振り向くと、目を見開いたり細めたりしながら、かえるさんの手元を見つめ続けた。そのくせちっともこちらに近づいてこない。


「香車がだめなら桂馬で取る」ぴしりと音がした。将棋のおっさんがリモコンを握っていた。「今日は社員休みや、ストレートではいかん。気のないふりして王手金取り」おっさんはわざとらしいイントネーションで付け加えた「ちうことや」そして、案内状をとりあげると、部屋の隅に置いて、そこから離れた。


店員は案内状を不思議そうに見つめてから、手ではたいた。案内状はひらひらと飛んだ。それを追いかけてまたはたいた。飛ばしては、はたくうちに、店長室へ入った。店長があわてて出てきてあたりを見まわした。「失礼いたしました。案内状をお持ちになったお客様」そしてかえるさんを見つけると駆け寄ってきた。「本日は社員休みの中、ようこそお越しいただきました、明日から平常営業いたしますので」店長は白い箱を手渡した。かえるリモコンを手に入れた。





第二十三話 | 目次





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