かえるさんレイクサイド (42)



目が覚めると目の前は真っ暗だった。真っ暗だと思って顔を上げると、真っ黒な枕があった。一晩たって、豆は固く黒ずんでいた。昨日しごいたさやも真っ黒になっていた。裏表を均等にしごいてあったので、見た目にそりはほとんどない。


かえるさんは真っ黒なさやを口にくわえてみた。さやの鋭どい割れ目から、はあっと丸い息を吹き込む。息はしゅうとさやのすき間からもれた。今度は、さやを押さえているあしに少し力を入れる。息は苦しそうにすき間からもれた。そのもれた息の中に、かすかにかえるの声がする。


さやにもっと力を入れる。息はまるでもれない。少し力をゆるめる。かすかにかえるの声がする。たぶんこのへんだ。このあたりにかえるがいる。かえるさんはほんの少しだけ力を入れる。かえるの声がする。さっきより大きい。息の音はさっきより小さい。ほんの少しの力をキープしたまま、両あしを少し上にずらせてみる。かえるの声が大きくなる。


かえるはすぐそこにいる。割れ目はびりびりと震えている。少しでもくわえ過ぎると口が切れてしまう。かえるさんはもうあしの位置は動かさないで、吸盤のちからだけで探った。一つ一つの吸盤の吸い付きかげんだけを感じる。


目の前は真っ暗だった。かえるさんは目をつぶっていた。真っ暗な中に手ざわりがある。固いさやから、はねかえってくるような弾力がある。あしのようやく生えそろった、陸に上がったばかりのかえるの手ざわりだ。つかまえたと思ったとき、何かはぜたような手応えがあって、ぼえー、と間の抜けた大きな音がした。目を開けると、真っ黒いさやが、よだれでつや光りしていた。





第四十三話 | 目次





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