かえるさんレイクサイド (5)




眠れないかえるさんがテレビをつけると、深夜情報番組「びわこ20」の時間だった。ウォーターフロント曽我沼に、いよいよ「クラブ」が出来たらしい。「クラブ」にかえるさんは行ったことがなかった。TVの中の「クラブ」は、あやしい色がぴかぴかして、みんなが踊っていて、ときどき、きゅう、という音がしていた。かえるさんは、きゅう、という音が気に入った。


次の夜、かえるさんはクラブ曽我沼にいた。ぴかぴかして、みんな踊っていた。かえるさんは、早く、きゅう、という音が鳴らないだろうか、と思った。さっきからどんどんという音ばかり続いている。かえるさんは踊れないので、ミジンコスペシャルを注文した。オカメミジンコの入った水を日向に置いて、ミジンコを倍に増やした水だった。喉を通るとき、ミジンコがぴちぴちはねるのがわかった。さわやかな喉ごしだった。


とつぜん歓声が上がった。きゅう、という音がした。誰もがこぶしを挙げている。きゅう、というのは、こぶしの音だろうか。かえるさんは、こぶしを挙げてみたが音は鳴らなかった。向こうで人だかりがしていた。かえるさんは、人だかりをかいくぐっていちばん前に出てみた。かえるがレコードを回していた。DJけろっぐだった。


音楽はけろけろに変わった。レコードが回っていた。DJけろっぐがそれにさわると、きゅう、と音がした。けろけろきゅう、はDJけろっぐの得意技だった。けろけろきゅう、けろけろきゅう、フロアは大合唱になった。誰がやっても、きゅう、と鳴るのだろうか。かえるさんは手を伸ばしてレコードにふれた。そのとたん、体ごとひっぱりこまれてぐるぐると回りだした。歓声が上がった。


気がつくとかえるさんは、クラブ曽我沼の奥のベッドで寝かされていた。DJけろっぐが覗き込んでいた。「やあ、災難だったね。でもみんな盛り上がってたよ。これ飲むかい。」かえるさんはミジンコスペシャルを一気に飲み干した。「よかったらこれ持って帰ってよ。昨日作ったんだ。」蛍光塗料で描かれたかえるがぼうっと光っていた。けろっぐステッカーを手に入れた。





第六話 | 目次

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