キャッチワールド解毒
キャッチワールドとは?
2000-01-16
Psycで〜す! ハゲなのだ! さて、これから我々は超難解SFにしてワイドスクリーン・バロックの金字塔であり、なおかつ愛すべきダメ本でもある「キャッチワールド」の解読ならぬ解毒作業にとりかかるわけやけど、今回は「キャッチワールド」という作品自体の解説をするで。「キャッチワールド」は1975年にスコットランド人であるクリス・ボイスによって発表された。日本では1981年に(早川文庫SF431 冬川 亘訳 ISBN4-15-010431-X)として初版が出される。イギリスのゴランス社と大衆紙サンデー・タイムスが共同主催したSFコンテストに入選。ワイドスクリーン・バロックの代表的作品といわれる。
けっこう昔の作品なんだね。特にメジャーな賞じゃなさそうだけど一応賞も受賞しているんだ。ところでワイドスクリーン・バロックって何?
一言でいってしまえばとてつもなく濃いSF作品ってことかな? 例えば、あらすじが背表紙に載っているけれど、これがこの作品の全体像を説明しているとはとても思えんよなあ。
(あらすじ―ハヤカワSF431「キャッチワールド」背表紙より)
西暦2015年、木星軌道上で周回している結晶状生命体の群れが発見された。だがその謎の生命体は、発見されるやいなや地球に対し恐るべき攻撃を開始したのだ! 人類は木星に決死隊を派遣、かろうじて全滅をまぬがれたが、その被害は甚大だった。それから40年、田村艦長ひきいる《憂国》号を含む報復艦隊が、いま地球を離れアルタイルめざし出撃の途についた。その星系こそ敵の故郷である可能性がもっとも大きかったからだ。もしアルタイルに敵がいるとすれば、なんとしてもその敵を絶滅し、地球人類の種としての生存を確保せねばならぬ……傑作ニュー・スペースオペラ登場!ハハハ、確かにこのあらすじは何の説明にもなっていないね。この作品はヒーローが活躍する典型的なスペース・オペラであるわけがないしね。でも、「キャッチワールド」を簡潔にまとめようとすればどうしてもこうなってしまうんじゃないかな。内容は頭がクラクラするくらいアレなだけにうまくまとまるわけがないよ。確かにとてつもなく濃いSF作品だからね。
「キャッチワールド」は特にアクの強いハチャメチャ度数が高いけれど、一般的に小説のアイデア部分に異常なほどの力を注ぎ、つぎつぎにくりだされる(ときに未整理なほどの)アイデアの奔流によって、一種の“めまい”とも呼べる効果を導きだすような作品ないしは作風をワイドスクリーン・バロックちゅうらしい。この言葉をいい始めたのはのはブライアン・W・オールディスという英国のSF作家やねんて。オールディスはワイドスクリーン・バロックをSFの中のSFとみなしてこういっている。
「私自身の好みは、ハーネスの『パラドックス・メン』である。この長篇は、十億年の宴のクライマックスと見なしうるかもしれない。それは時間と空間を手玉にとり、気の狂ったスズメバチのようにブンブン飛びまわる、機知に富み、深遠であると同時に軽薄なこの小説は、模倣者の大軍がとうてい模倣できないほど手ごわい代物であることを実証した。私はそれを《ワイドスクリーン・バロック》と呼んだ。これと同じカテゴリーに属する小説には、E・E・スミス、A・E・ヴァン・ヴォクト、アルフレッド・ベスターの作品が挙げられよう」
「ワイドスクリーン・バロックでは、空間的な設定に少なくとも全太陽系ぐらいは使われる――アクセサリーには、時間旅行が使われるのが望ましい――それに、自我の喪失などといった謎にみちた複雑なプロット。そして、“世界を身代金に”というスケール。可能と不可能の透視画法がドラマチックに立体感を持って描き出されねばならない。偉大な希望は恐るべき破滅と結びあわされる。登場人物は、理想を言えば、名前が短く、寿命もまた短いことが望ましい」
なるほど。この定義をワイドスクリーン・バロックとするならば、「キャッチワールド」はまさにそれに当てはまるよね。もっとも、ピッタリ当てはまったからといってだからどうということはないんだけれど……
確かにそうやけど、SFの中にそういった一つのジャンルがあるということは頭に入れといても損はないと思うで。
ところで、ブライアン・W・オールディスという人の作風はいわゆるワイドスクリーン・バロックなの?
う〜ん、どうなんかなあ。現時点で俺は「地球の長い午後」しか読んだことがないけど。これは今でも書店で簡単に手に入ると思うわ。偉そうにワイドスクリーン・バロックの講釈を垂れているオッサンだけあって、好き嫌いはともかく、読み応えは充分にある作品やで。E・E・スミス、A・E・ヴァン・ヴォクト、アルフレッド・ベスターの3人の関してはまさにワイドスクリーン・バロックそのものやな。とにかくやたらと濃いでぇ!
ふ〜ん、機会があれば僕も目を通してみるのもいいかもしれないね。
よっしゃぁ! 「キャッチワールド」の解説はここらへんにして、さっそくページをめくっていくでぇ! 張りきって解毒開始!
そんなに張りきっていても、こんなコーナー誰も見ていないって……