FOLLOW2 AV編 -8-




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   「ばかやろう!焦ったぞ、あんなに警官呼びやがって」
   そういったディレクターの顔は本当に青ざめて病的ですらあった。
   そう告げると彼は、ますます怒りをつのらせ、様々な悪態を僕のみならず
  辺りのスタッフ達にまであたりちらしていた。
   チーム全てが、疲労困憊といった様子であの場の緊迫した状況を僕に激し
  く想像させる。

   結局の所、警察は何とか騙せ通せたのだが、高田達は、女の子二人を置い
  て事務所からそうそうに立ち去っていった。そうすることで、彼女達を自分
  達と関係の無いものに位置づけようとしているかのように。
   実際、「コウノ・アツミ」こと加賀未貴子は全く状況が理解できなかった
  らしく、殆どおいてけぼりを食った子供のような有り様だったという。
   「客」であった男達は、警察が来たのに怖れをなしたのか、高田達と共に
  いずこかへ消えてしまっていた。
   その間、僕と加賀氏は警察を遣り過ごすため、少し離れた通りの向こう側
  に車を移し事の成り行きをじっと見守っていた。他に何もする事は出来なか
  ったからだ。
   そうして、僕は運転席でハンドルにもたれかかっていると、一台の外車
  (おそらくBMW)が目の前を走り去ってゆくのが見えた。中にいたのは、
  高田健児だった。
   よっぽど後をつけて行こうかとも思ったが、すぐに思いかえして止めた。
   もうそんな事はどうでも良くなっていた。
   あいつは、あいつで自分の道を進んでゆけばいい。

   僕は、再び後部スペースに移動して、レシーバーの一つをかけてみた。
   パネルのスイッチを入れ、ボリュームをゆっくりと上げる。
   盗聴マイクの一つがまだ生きていたらしい。
   男と女の声が聞こえた。

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 女:どうして、こんな所にいるのよ。
 男:未貴子、お父さんの言う事をきくんだ。
 女(未貴子):うるさいな。どうして、こんなことするのよ。
 男(加賀氏):落ち着いて、話しを聞きなさい。
 未貴子:やめてよ!何も聞きたくない!説教たれるのももう沢山。さぞかし、驚いて
     ることでしょうよ!「こんな風に育てた覚えはない」っとでも言うの?
     そりゃ無いだろ。あんたは何にもしてないんだから。……何よ、いまさらの
     このこ出てきて親父面?やめてよ。ほっといてよ。……見ないでよ。見ない
     でって言ってんだよ!
 加賀氏:お前にはすまなかったと思ってる。
 未貴子:どうして?どうしてそんな事言うの?……。
 加賀氏:……昨日、お母さんに会って来た。
 未貴子:うそッ!
 加賀氏:嘘じゃない。
 未貴子:お母さんに言ったの?私の事。
 加賀氏:……ああ。
 未貴子:どうして!関係ないじゃない!余計な事しないで!
 加賀氏:関係ないわけないだろ!親子だぞ!こっちこそ聞きたいぐらいだ!どうして
     そんなこと言うんだ。
 未貴子:……。
 加賀氏:……いや……きっと私のせいなんだろう……でも、お母さんは心配していた
     んだぞ、本当に。
 未貴子:……なんか言ってた?
 加賀氏:お母さん泣いていた。
 未貴子:……戻ってくるの?
 加賀氏:……昨日、離婚届けを出してきたよ。もっと早くこうするべきだったんだ。
 未貴子:ねえ、私のせいなの?だったら止めてよ!私のせいなんて嫌だよ!
 加賀氏:お前のせいじゃない。これはお父さんとお母さんの問題だから……。
 未貴子:私の問題じゃないわけね。……そうだよね。どうせ私は関係ないんだよね。
     いいよ、別に。関係ないもん。わたしはわたしだし……いいよね?
 加賀氏:おまえは子供だ。お母さんの子供で、お父さんの子供だ。それだけは忘れな
     いでほしい……

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   カチッという音がして、音声がとぎれた。
   傍らでディレクターが立って、パネルのスイッチをOFFにしていた。
   僕は彼を見上げて、そしてゆっくりとまた下を向いた。何か言って来るの
  を待ってみたが、ディレクターは無言のままじっとその場にたたずんでいた。
   沈黙に絶えきれず僕は、つぶやくように口を開く。
   「まるでドラマみたいですよね」
   返事は無かった。続けて僕は言う。
   「現実じゃないみたいだ」
   その言葉を聞いてディレクターは、
   「現実があるからドラマがあるんだ」
   と言った。
   また、しばらくの間どんよりとした沈滞ムードが僕等二人の間に流れる。
   だが、結局はそれは30秒と持たなかった。口火を切ったのはまたしても
  僕だった。
   「そういえば、加賀さん、やけに逆探知の事に詳しかったですね。パトカ
  ーをあれだけ呼んでこさせたのも不思議だし」
   「ああ、それか」
   ディレクターもいつもの調子に戻って、首筋をさすりながら答えてくれた。
   「あいつの勤め先というのが警備会社でね」

   ……納得。





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