FOLLOW2 AV編 -9-(エピローグ)



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			          エピローグ


   その後、アストロ・ジャパンは警察に捕まることは無かったが、しばらく
  して事務所は閉鎖、高田を含めアサカタ、モヤマ達もいづこへともなく消え
  去っていった。
   なんだかんだ言っていても、僕等が警察にたれこむ事を怖れたのだろう。
   こうして、彼とは再び別れる羽目になった訳だ。
   今にして思うと、あの時の高田に関する怒りは自分自身に向けられていた
  のじゃないだろうか。大学時代と変わったのは、彼だけじゃ無く僕もまた以
  前の僕とは違っていた。それをあんな形で確認して、それが腹立たしかった
  のかもしれない。
   以前あった映画に対する思いはどこか奥深くに押し込まれ、日常の仕事だ
  けが僕の関心事になった。いつもと同じ顔、いつもと同じ場所、いつもと同
  じコーヒー。それが今の僕の生活で、全てだった。
   きっと、高田は言うに違いない。
   「おまえと俺と、どこが違うんだ」と。
   彼は、確かにカメラを使い人をだまして、金を取っていた。そして僕もカ
  メラを使って、現実とは違う現実を日夜つくり続け、金を貰っている。違う
  のは高田のしている事は違法で僕のはそうじゃ無いという事だけだ。
   やはり、根本的な所で僕等は似ていたのかもしれない。
   人は、他人に自分の姿を見ると、それを否定したくなるものだ。大抵の場
  合それは自分の悪徳の面だからだ。
   だけど、僕は高田のように社会に反発するような事はしない。僕の居場所
  はこの社会と決めた訳だし、僕にとってそこで生活することは大して難しい
  ことではないからだ。
   しかし、高田にはそうでなかったのだろう。それを思うと、少し彼に対し
  てどこか済まないような気持ちになる事もある。
   ところで、一つ思い出した事があった。
   「余世を過ごすんならペンションでも経営しながら、適度に働き、ぼけず
  に死にたいね」と昔、高田が言っていたのを思い出したのだ。
   彼が加賀未貴子になんと言ったかは解らないが、案外彼は彼女に対してだ
  けは本気だったのでは……とも想像してみる。だが、もし本当に彼女の事を
  想っていたらあんな風に彼女を捨てられるだろうか。……いや、捨てたんじ
  ゃなく父親の元に返したとしたら……。
   そんな事があるはずもないか。きっと女をひっかける為の手段としてそう
  いった事を話したに過ぎないのだろう。
   これ以上、あいつの事を詮索するのは止めにしよう。
   今はこれ以上解りそうもない。

   加賀親子のその後の消息は良くは知らない。
   それにしても、あの突撃取材は全くあの親子の為だけになされたようなも
  のだった。ディレクターは最初からそのつもりで取材を始めたのではなかろ
  うか。
   事実、あの時のテープは未だ編集される事無く倉庫に眠っている。
   ディレクターは、プロダクションの社長の叱責を浴びながらも「収穫無し」
  と、番組の制作を事実上取りやめにしてしまった。普段、めちゃくちゃな事
  ばかり言ってとぼけている彼が、なんとも意地ましい男に見えてくる。
   もっとも、親子のきずなが戻ってハッピーエンドという訳にもいかないだ
  ろう。彼らは、彼らなりに各々の事情と思いを抱えており、本当の修羅場は
  これからなのかもしれない。僕等はただ彼らに話し合いの機会を与えただけ
  だ。お互いが向き合った今、そこから先はもう僕にもディレクターにも関係
  の世界が続く。
   「わたしはわたし……それでいいよね」
   そう言った彼女の言葉は今でも僕の心に残っている。
   僕は僕であるだろうか。
   そして、「おまえは私の子供だ」と答えた加賀氏の言葉ように僕は誰かの
  何かでありうるのだろうか。





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	 かくして、僕の語りはここで終わる。
	 高田とはいつかまたどこかで出会う気がする。
	 そしてその時には、お互い、今とは違った自分になっているだろう。
	 願がわくばそれが、幸あるものであらん事を。





				  (了)




						   【以下に−解説−あり】



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