9月6日朝日に、電動歯ブラシの上手な選び方という記事が出ました。
読んでも、内容が全く無いので理解できません。選び方も「4銘柄とも使いやすさに問題は無かった。」そうです。一万円くらいのが、高機能なので勧めているようです。高機能なのを主体に解説しています。
機能・価格・専門家へのインタビュー等で記事が構成されています。
河合 医院は歯科でありません。プラークの知識もありません。おまえなんぞに、これ以上の記事が書けるのか?新聞は少なくとも、多機種の機能を実際調べて、詳しく述べているではないか・・・。
でも・・・・。できます。
ついでに、インターネットで日本のサイトをかなり調べてみました。親切な歯科医が丁寧に、経済的に負担の無いように、一万円くらいの音波式ないし、超音波式を勧めていました。5000円以下はおもちゃで意味が無いそうです。私も、うっかり「専門家の意見」を信じて一万円を払って超音波式を買ってしまいました。
大失敗でした。
超音波式は使い心地も良く、実際歯垢もよく取れます。特に、歯間の歯垢もよく取れて、使用感も良いのです。
でも、失敗でした。
もっと調べると、古い歯科医では歯ブラシ万能主義の人も多く、電動歯ブラシはあまり評価されていません。若い歯科医は勧める人も多いようです。
暮らしの手帖が実験したのもわかりました。結論は、「電動歯ブラシは不要であり、手でブラッシングを上手にすべきだ。」らしいです。(読んでいません)
現物も見ない、実験もしない。かなりの実験に逆らっても、非専門の河合医院ごときが反論できるのでしょうか?
できます・・・。
新聞記者の倫理や論理を、心から軽蔑しているのは先月号のコラムを読めば理解できるでしょう。
経験も無いのに、なぜそんなに自信があるのでしょう。専門家の談話や、消費センターや暮らしの手帖の実験に抗して、なぜ反論できるのでしょう。
河合 医院が新聞記者と違うのは、数学的に論理的判断ができるという一点だけです。
あまりに、難しい分野ですので、途中を飛ばしますが、個々の少数実験や、専門家の経験などたかが知れています。統計処理がなされていないので、信用するのが愚かなのです。
歯科も医学の一分野に過ぎません。海外の信頼できる文献をインターネットで検索すればよいのです。それを、統計医学的に判断すればよいのです。歯科大学教授のコメントなど、学問的に吹っ飛んでしまうのです。具体的には、エビデンス最高のメタアナリシスです。2004年春だから、最新です。Oxford EBM centerの勧告度A・エビデンスとしての質レベル 1aと考えられます。(と新聞記者を煙に巻いておきますが)
すべての医師が当然この結果に縛られると考えてよいのです。それくらい、重要で科学的結論です。新聞記事ごときとは一緒にしないで下さい。
河合医院は明確な最高レベルの科学的根拠を提示でき,そこから議論をはじめます。ところが、新聞記事とは、根拠も無く「誰それがこういっていた。」という伝聞と、多少の事実関係の主観的印象を並べた物にすぎないのです。それでいて、結論を出せるのですから驚きです。
学問・医学では、こんなことは想像もできません。軽蔑されるだけです。まさに、砂上の楼閣です。
新聞記者と科学者とは別世界で生息しているのです。
結論から言います。
1.機械式と手磨きを比べても、ほとんど同じである。機械式・高価な超音波式は、手磨きよりすぐれているというデータは全く無い。
2.ただし、回転往復式だけは手磨きより、プラークを7%・歯肉炎を17%を減らすのでやや良い。
3.虫歯予防・歯周病予防に関しては十分評価に耐えるようなデータが世界的に無い。
具体的には他のアメリカの文献で、Crest SpinBrush Pro and Oral-B CrossAction Power つまりクレストスピンブラシがあがっていました。もちろん、日本でもっとポピュラーな、ブラウンオーラルB、その他の日本製回転式でも同じです。価格的には(近くのホームセンターで)充電式で3000円前後、電池式で1000円位のでよいのです。動いて磨く部分が丸い方式です。
アメリカのクレストは、日本のサンスターやライオンのようなもので、どこのスーパーにもあるトップブランドです。だから、名前が挙がったにすぎません。
根拠の無い、一万円から三万円もする高機能音波式・超音波式を解説して勧めるなど、科学的には行ってはいけないということになります。朝日新聞と正反対です。超音波式は使い心地も良く、実際歯垢もよく取れるように思います。特に、歯間の歯垢もよく取れているようですが、多少多く歯垢が取れたとしても、歯肉炎等の予防効果が無いなら意味がありません。手磨きとの差は示せません。拡大手術と縮小手術で予後が同じなら、縮小でも良いのと同じです。
手磨きでも、丁寧に行えばかなりのものです。機械とほぼ同じです。鏡でブラシが上手にあたっているか確認してください。機械がないとだめというわけではありません。不適切な機械よりよほどましです。はぐきのマッサージも重要です。
これが新聞記者の、一般意見・専門家の見解・少しの実験・商品紹介程度の記事との差。河合医院の科学的思考の結論です。
ここになると、非専門家の悲しさ、多分という見解ですが、歯を失うのは成人では歯周病が多く(虫歯ではない)、歯肉炎を抑える効果の高い回転式が、やや良いのでしょう。超音波式は咬合面や前後面の歯垢を多く落とします。つるつる感が多いのです。しかし、前後面は虫歯にほとんど関係しません。さらに、咬合面の歯垢を多く落としても、虫歯が減るわけでは無いのです。回転マッサージが歯肉に少しよいと考えられます。超音波式では歯肉の刺激は少ないのです。
現在歯肉炎やトラブルのある方には、回転式電動歯ブラシを勧める科学的根拠を河合医院は示せるということです。高機能ではなく、単純な安い機種で十分です。それでも発生率を17%減らしたにすぎません。現在病気の人に使ってどれくらい減るかの確実なデータはありません。もっと多いかもしれないし、少なくて効果はほとんど無いかもしれません。17%では、薬の効果としてなら極めて弱いといえるでしょう。
「医者が考えたXX歯ブラシ」等は十分な実証データが無いと断言できます。「薬用成分XX」も頼れるようなものではないようです。17%さえないでしょう。
これくらい書けんのかねえ?書けないでしょうね。科学を理解していないから・・。記事とは話が全く噛み合いません。接点はありません。別世界に住んでいるからです。
医学は厳密なプロの世界です。「権威筋の誰それが良いといっているから、多分良いのだろう。プロポリスをがん治療に使ってみようか。」という伝聞で医学は成立しません。新聞記事ならそれで結論を出せ、医学を非難したり、癌治療の良悪を決定したり、声高に結論を出すのも可能です。別世界に住んでいるということです。
一人の医師が薦めた画期的治療等も、検証が済むまで信用などできはしません。
これからも、新聞の医学記事など、科学的にまったく信用できないのが証明されました。歯ブラシなら、被害は15000円で済みます。科学的根拠の無い新聞記事ごときで、自分の治療方針を決定するようなレベルの低い大衆がいるとすれば、もっとも被害は大きいでしょう。
(ガン報道で被害の例, 科学的データを評価できないマスコミ最低俗報道の一例 ダイオキシン)
2004.10.1
http://geocities.datacellar.net/kawaiclinic/
〒6050842 京都市東山区六波羅三盛町170
河合 医院
初級システムアドミニストレーター 河合 尚樹
ここまで非専門家を信じて読んでくれた方におまけ。
手でも、機械でもブラッシングだけでは虫歯は防げません。意外に思うのは知識不足です。
下記の論文でも、虫歯に関しては評価できる論文は無かったようです。回転式でも虫歯を防ぐという根拠は無いようです。成人にとって歯の喪失は歯肉炎からの歯周病ですから、それでも良いのでしょう。子供に機械式を与えて安心するのは愚かです。
虫歯は歯のカルシウムの溶出と、再石灰化のバランスで決まります。食べ物が入ると菌により口内は酸性になります。歯を磨いても、酸性度は約3時間続き、この間歯のカルシウムは溶けつづけます。3時間を越えると、やっとアルカリ性が回復し、再石灰化が数時間続きます。少しの穴は修復されるのです。
おやつの好きなOLは机の中にお菓子を隠しています。口がさびしくなると、3時間以内に甘いものをつまみます。こうなれば、酸性はさらに持続し、再石灰化は起こらず、穴はあきつづけるのです。
3歳くらいの幼児は、昼のおやつは生理的に必要で、できれば甘いものでなく何かを補う必要がありますが、学齢期以上では3時間以上できるだけ長く口に物を入れない必要があります。だらだら喰いが虫歯の最大原因です。砂糖は酸を産生します。
磨いただけでは無駄です。3時間以上がキーポイントです。磨かなくて、高度の酸産生が続くなど論外です。糖分の入った飲料などもってのほかです。口さびしくて、どうしてもなら、酸産生の無いキシリトールガムが良いでしょう。努力なしで健康は守れません。キシリトールでも、副作用はありえます。
寝ている間は唾液の分泌が減少します。つまり、口内の酸性度は改善しません。3時間でも足りません。寝る前に飲食すると、寝ている間歯は溶けつづけます。寝る前の2時間程度は、飲食を避けます。
なお、歯周病の最大原因はタバコです。
回転式もブラシは、使用後に食器洗い機で洗っています。完全にブラシが消毒できるからです。牛乳の低温殺菌のようなものです。これをやっていると、ブラシが長持ちするのに気づきました。ブラシは外にひろがってくるのですが、熱でナイロンブラシがもとの形に戻るからです。食器洗い機の無い場合は温水が有用ですが、100度の熱湯だと溶けると思います。何度が良いかは、やっていないので解りません。食器洗い機は 70度以下です。歯ブラシメーカーに問い合わせても、怒るだけでしょうが・・・。
機械式の歯ブラシでは研磨剤や歯磨き剤は使いません。しかし、口臭はこれでは取れないので、朝は手で磨いています。歯の健康のため、科学的には歯磨き剤は全く不要です。エチケット用です。
歯磨き剤の量は1cm以下で十分です。それ以上だと、泡が口からあふれ磨きにくくなります。また、口がさっぱりするので磨き方が中途半端になる弊害があります。宣伝でたっぷりつけるのは、消費増のための戦略です。科学的には無駄です。
職場など十分な時間が取れないなら、歯磨き剤無しで十分です。
キシリトール(口洗剤・ガム)は食前に使用します。ばい菌もお腹がすいているので、キシリトールを慌てて吸収します。後で入ってきた糖分を吸収しにくくなるそうです。食後に使っても効果は減るそうです。校医の方から聞きました。メタアナリシスの検証はしていません。
学校などで集団で行うときには、試薬レベルのキシリトールを使うとかなり安くなります。歯科医師会で、濃度・使い方のパンフレットがあるはずです。これとて、一律強制は避けるべきでしょう。
2005.3.5 追加
校医の同僚の雨宮Drから伺いました。虫歯の部位別原因判定です。予防の参考にしてください。
奥歯の上 あめ等糖分のある菓子が頬と歯の間に長時間あったことが考えられます。
奥歯の下 寝る前2時間以内に食べ物が入り、そのまま寝た可能性が大きいです。
前歯 糖分を含むジュース等をだらだら・ちびちび飲む習慣の可能性。乳児で有名なのはおっぱい虫歯と呼び、乳首をふくませたまま寝入ると前歯が侵される。飲み物を与えたまま寝かせるなど。
Manual versus powered toothbrushes: a summary of the Cochrane Oral Health Group's Systematic Review. Part II.
Forrest JL, Miller SA. J Dent Hyg. 2004 Spring;78(2):349-54.
Division of Health Promotion, Disease Prevention and Epidemiology, University of Southern California School of Dentistry, USA.
PURPOSE: A systematic review examining the clinical effectiveness of power versus manual toothbrushes was conducted by the Cochrane Collaborations Oral Health Group. Their review examined clinical trials conducted through 2001 and used international standards to identify, access, evaluate, analyze, and report the data. Part I of this series discussed distinguishing characteristics of evidence-based publications, such as systematic reviews, whereas this report provides a summary of the Cochrane Review, its importance to the profession, and discusses the strengths and limitations of systematic reviews. METHODS: Search strategies to identify published clinical trials on power toothbrushes were developed, and manufacturers were contacted for additional published and unpublished information. Trials were selected based on pre-established criteria; including whether they compared power versus manual toothbrushes used a randomized research design tested products in the general population without disabilities, provided data on plaque and gingivitis, and were at least 28 days in length. Six reviewers independently extracted information in duplicate. Indices for plaque and gingivitis levels were expressed as standardized mean differences for data distillation. Data distillation was accomplished using a meta-analysis, with a mean difference between power and manual toothbrushes as the measure of effectiveness. RESULTS: Searches identified 354 trials, of which 29 met inclusion criteria. These trials involved 2.547 participants who provided data for meta-analysis. Results indicated that for both plaque and gingivitis, all types of power toothbrushes worked as well as manual toothbrushes, however only the rotating oscillating toothbrush consistently provided a statistically significant though modest benefit over manual toothbrushes in reducing plaque (7%) and gingivitis (17%). None of the battery powered toothbrush studies met the inclusion criteria. CONCLUSION: The Cochrane systematic review used international standards to examine more than 30 years of published studies. A concern is that only one type of electric toothbrush, the rotating oscillating toothbrush consistently demonstrated a statistically significant benefit over manual toothbrushes, and the majority of studies did not meet the standards for inclusion in moving forward it will be important to conduct methodologically sound studies demonstrating the ability of power toothbrushes to reduce the incidence and prevalence of caries and periodontal disease.
A systematic review of powered vs manual toothbrushes in periodontal cause-related therapy.
Sicilia A, Arregui I, Gallego M, Cabezas B, Cuesta S.
Section of Periodontology, University Clinic of Dental Surgery, Faculty of Medicine, University of Oviedo, Oviedo, Spain. asicilia@clinicasicilia.com
BACKGROUND: Power-driven toothbrushes (PDT) have been designed to improve the efficacy of oral hygiene. It is not clear how they compare in efficacy with manual toothbrushes in cause-related periodontal therapy. OBJECTIVES: To evaluate the effectiveness of the use of a PDT as compared with a manual toothbrush (MT), in terms of gingival bleeding or inflammation resolution, in cause-related periodontal therapy. MATERIAL AND METHODS: An electronic (MEDLINE and Cochrane Oral Health Group Specialised Trials Register) and a manual search were made to detect studies which permitted the evaluation of the efficacy of PDT in the reduction of gingival bleeding or inflammation, and their effect on other secondary variables. Only randomized studies in adults, published in English up to June 2001, which compared a PDT with an MT, and evaluated the evolution of gingival bleeding or inflammation were included. The selection of articles, extraction of data and assessment of validity were made independently by several reviewers. RESULTS: Twenty-one studies were finally selected. The heterogeneity of the data prevented a quantitative analysis. A higher efficacy in the reduction of gingival bleeding or inflammation in the PDT patients was detected in 10 studies. This effect appears to be related to the capacity to reduce plaque, and is more evident in counter-rotational and oscillating-rotating brushes. No solid evidence was found for a higher efficacy of sonic brushes. In short-term studies with prophylaxis after initial examination, independently of the type of PDT tested, no significant differences were found. CONCLUSION: The use of PDT, especially counter-rotational and oscillating-rotating brushes, can be beneficial in reducing the levels of gingival bleeding or inflammation. There is a need for methodological homogeneity in future studies in this field to enable quantitative analysis of their results.