27-Sep-97 編集

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ブドウ日記  (97年 その1)


「最近のブドウ日記」(更新分)はこちらへ。


--- 97年1月〜7月分は少々お待ち下さい。 ---


そのかわり、と言ってはナンですが....
92年〜95年の方へもぜひお越し下さい。


7月26日(土)

「いつものところ」で巨大ブドウを見つけた。どんな風に巨大かと言うと....一本だけやたら成長の盛んな樹があって、そもそも房の数が異様に多い上に、その内の数個以上の房が一個所に密集している。結果的に、ちょっと見た目にはラグビーボールか、はたまたバスケットボールくらいの巨大なブドウの房みたいに見える。

どうしてそうなったのか勘ぐるに....この列の端から2本分ほど、元植えてあった樹が枯れてしまっていて、こういう場合の常としてその隣の樹の枝を通常より長く伸ばして枯れてしまって空いている垣根の部分にも枝が茂るようになっているのだが、どうやらその長く延びた枝の先端に向かって、水や養分が集中的に回ってくるらしい。

それにしてもこんなのは初めて見た。もっとも、たまたまいつもの散歩コースの農道に面した所なので気が付いたのだが、実はちょくちょくあることなのかもしれない。いずれにせよ、これはちょっと面白いので、収穫期までチェックを続けることにしよう。

なお、この辺り全般のブドウの様子はというと、斜面の下の方では粒は1センチ弱で、最終的な大きさに近づいているが、色はまだまだ固そうな薄緑色である。上の方へ行くと、成長の度合いも少々遅いように見える。


8月2日(土)

昼間は天気も今一つなので開設したばかりのHPの整備に勤しんでいたが、夕方天気が回復したので、またして「いつもの所」へ。さすがにブドウの粒の様子は先週とほとんど変わらない。例の巨大ブドウもとりあえずは健在。この時期、枝の伸び方が一段とすごい。結構まめに刈り揃えているようだが、すぐにどんどん伸びる。


8月5日(月)

出張で日本へ来た。昼頃東京のホテルへ着き、とりあえずニュースでもと思ってテレビを点けたら、ニュースは終わっていて「勝沼のブドウ園」からの中継などやっていた。日本式ブドウ棚が広がる中、ごく部分的にではあるが、垣根造りのブドウが映る。シャルドネ種だという。面白いのは、垣根造りのブドウの上をすっぽり覆うような、長〜いカマボコ型のビニールの屋根。なんでも、このブドウにとってはこの地の気候は雨が多すぎるので、ブドウが濡れないように傘をさしてあるというのだが....枝を払ったりの作業(ドイツでは大抵機械で行われる)の邪魔にならないのかなぁ、などど余計なことを一瞬考えた。


8月13日(水)

快晴に恵まれ、出張でパリへ向かうヒコーキの窓から空中ブドウ散歩。この路線、実はよく乗るのだが、朝起きの苦手な僕はいつもはギリギリのチェックインなので、窓際の席は滅多に取れない。今日は変な時間の打ち合わせのために昼頃のフライトとなり、ガラ空きのヒコーキで難なく窓際、しかも右側の席となる。

フランクフルト発の小型・中型機は、かなりの確率で真南向きの「離陸専用滑走路」から離陸する。離陸してすぐ進路をパリの方角(西)へ取ると、間もなくライン川を渡り、まずはラインヘッセン北部のブドウ畑の上空を通過する。次いで、向きを変えたライン川が右(北)からだんだん近づくとともに、我が家の「いつもの散歩コース」すなわち、ラインガウのラウエンタールの丘が見えて来る。ちょっと距離が離れているので、個々の町の特定はちょっと難しいが、でもなんとなく分かる。ほどなくヨハニスベルクの丘がなんとなく特定でき(シュロスの建物が微かに見えるような気がする)、リューデスハイムからアスマンスハウゼンにかけてはライン川が大きく曲がっているので簡単に分かる。その頃真下に見えるブドウ畑は、ナーエ地方のものだと思う。

10分ほどブドウ畑が途絶えた後、今度はモーゼル川の上空を通る。台地状のところを蛇行しながら深くえぐるモーゼルの、急な斜面の上のほうまでぎっしりブドウ畑で埋まった景色は壮観だ。何度見ても見とれる。

この後しばらく平凡な森と畑の景色が続くが、パリ到着の10〜15分前にランス(Reims)市上空を通過する。シャンパン産地である。殆どのブドウ畑は左(南)側の窓に広がるが、右(北)側の窓からも少し、ブドウ畑が見える。

なぜそんな上空から、ブドウ畑が識別できるかって?
それはおそらく、普通の畑に比べて、農道がずっと密に、かつ不規則な形に網の目のようになっているからだと思う。言葉で説明するのは難しいが、ドイツ周辺の実物のブドウ畑を地上で何度か見慣れた人には、上空からでも簡単に分かると思う。(地中海地方とか、ボルドー地方とかはまた雰囲気が違うかもしれない。)

それにしても、今日はホントに景色が最高! たまにはこれ位の御利益でもなきゃね。


8月16日(土)

久しぶりの「週末一泊旅行」に。まずは「いつものところ」で例の「巨大ブドウ」の無事を確認した後、プファルツ(Pfalz)地方へ向かう。

途中の通り道にあたるラインヘッセン地方のブドウ畑でも寄り道。黒ブドウ(赤ワインの原料となるブドウは、果実の状態では暗紫色〜ほとんど黒い色をしているので、このように総称される)がぼちぼち色づき始めていて、ちょうど一つの房に緑の粒から薄茶色の粒まで、まだら模様になっていて面白い。ラインガウ辺りでは、気候の違いの上に主に栽培される品種の違いもあってか、もう少し後になってこの「まだらブドウ」が見られたように記憶しているのだが......あとで帰り道にチェックしよう。

さて、「プファルツへ行こう」とは決めたものの、具体的にどこへ行くかは決めていない。結局、何度か訪れたところではあるが、ダイデスハイム(Deidesheim)へ向かう。一般的には膨大な量の日常ワインを産するプファルツ地方にあって、このダイデスハイムとその周辺のごく限られた地区だけはいわゆる「銘醸ワイン」が集中している。

さて夕方遅くダイデスハイムへ着いたところ、たまたまワイン祭りの最中。これはラッキー。前もって調べて来た訳ではないが、「きっとどこかでやっているだろう」と思って来たら、「たまたま、今週はこの村の番」だった。ただこの祭りの為か、村のホテルは一杯。結局、数キロ先のノイシュタット(Neustadt an der Weinstrasse)でようやくホテルを確保。ここから家(フランクフルト)まで、車で1時間かそこらだが、安心して飲むには泊まったほうが良いと言うわけ。(どうやってお祭り会場を往復したかは、ないしょ。)

かくしてお祭り会場へ着いたのは夜9時半ころとなったが、ますますもって盛況。後で、「かつてこの地に2年間住んでいた」という人からメールで聞いたのだが、なんでもここのワイン祭りは「ひときわクレイジー」だそうで。そもそも、500ml入りのでっかいコップ(単純な円筒形)で豪快にワインをガブ飲みするのだから、クレイジーになる条件も揃っているということか。

ところで、暑い夏、こういう気さくな所での飲み物に「ワインショーレ」(Weinschole)がある。何のことはない、ワインの炭酸水割りである。ちなみに、ドイツでは「ワインの比率は半分以上であること」との法律(?)があるとかいう話を「教科書」で読んだが、僕達の目の前で作られるそれは、7〜8割方がワインであった。ワインにうるさい人によっては「とんでもない飲み方」というかもしれないが、こと暑い夏の盛りともなると、うまいものは誰がなんと言おうと、うまい。回りの地元の人々を見ても、ショーレにして飲んでいる人が多い。但し、「日常用ワインを越えるレベルのワイン」をショーレにしてしまうのは、ワインを作った人たちと、なによりワイン自身に対して失礼なのでやめておこう。

なお、ドイツ以外で「ワインの炭酸水割り」をメニューに載せているのはまだ見た事はない(アルザスにはあったかも???)が、ワインとガス水を両方注文して、自分で勝手に割って飲んでいる光景は、フランスでもイタリアでも良く見かける。


8月17日(日)

「泊りがけ」の、もう一つの利点に気が付いた。朝、必然的にまともな時間に起きること。家にいればぐだぐだと昼まで寝てしまい、結局無為な1日を過ごすはめになることは多い。

遅い朝食の後、ノイシュタットの街中を見物。言っては悪いが、これと言ったものは無し。よって再度ダイデスハイムへ向かうが、途中のギンメルディンゲン(Gimmeldingen)なる村でもお祭りとのポスターを見かけ、寄り道。結局ここで昼食。飲み物はやはり、ショーレ。

ブドウと全然関係ないが、クラシックカーとクラシックバイクの愛好家の一団がちょうどこの村を訪れていて、自分達の宝物を自慢げに並べていた。「いいなあ」とは思うが、僕には出来そうに無い趣味だ。洗車なんていつも洗車機専門(塗膜が痛むとかで、車をとことん可愛がる人達は洗車機を使わない)だし、それだって数ヶ月に1回。登録から7年(そのうち5年は僕が乗った)の僕の愛車は、これら30〜40年前に生まれ、この上なく丁寧に手入れされたクラシックカー達よりずっとみすぼらしい。

午後4時頃、ダイデスハイム着。時間が半端なせいか、人出は昨日の夜よりずっと少ない。また夜になると盛り上がるんだろうな〜。我々はちょっと体調不良気味なので、アルコール抜きの「ブドウ果汁ショーレ」で抑える。

この後、昨日来気になっていたラインガウの黒ブドウの様子を確かめに、アスマンスハウゼン村(Assmanshausen)へ。ここはラインガウでも例外的に赤ワイン(即ち、黒ブドウ)の生産が大半を占める村。で、行ってみれば意外にも、ちらほらと「まだらブドウ」が。今年は色づきが早いのかな?


8月23日(土) (番外編)

「ブドウ観察」ではないが、フランクフルトのワイン祭りへ行ってきた。曰く、「Der Rheingauer Weinmarkt」。 実はフランクフルトでも少々ワインを作っている。とは言っても、ホーホハイムの手前、昔は市外だったのがその後フランクフルトへ編入された辺り。だから、ここフランクフルトの中心部にいると「ワイン産地」という雰囲気はあまりない。それに、「リンゴ酒」があまりに有名。

そんな訳で、我が家にとっては当地で5回目の夏であるが、このワイン祭りへ出かけたのは今日でまだ2回目。でも、高層ビルに囲まれた都会の商店街のホコ天でのワイン祭りというのも、これはこれで珍しい。それともう一つ、ラインガウ地方のいろんな地区から、いろんな蔵元が出店しているのも悪くない。というのも、普通の産地の祭りでは、地元の蔵元一色なのが普通なので。

以前のブドウ日記でも書いたが、いろんなワインが少しづつ飲めるのもこの手のお祭りの魅力の一つである。今日も、白・ロゼのゼクトに始まり、カビネット、シュペートレーゼから、最後は85年のアイスヴァイン(50mlで12マルク)、76年のベーレンアウスレーゼ(50mlで14マルクだったっけ?)まで。これらを、隣人夫妻と4人で、少しづつ味見した。但し、これまたどこかで書いたが、こういうところでは「一流醸造所」はシュペートレーゼか、せいぜいアウスレーゼまでしか出さない。


8月24日(日)

実はこのところ「だいぶマンネリだなぁ」と感じつつあるのだが、それでも「いつもの所」へ行く。昼間はあまりに蒸し暑かったので、夕方6時頃出発。散歩の始まりは7時近かったが、それでもめちゃくちゃ蒸し暑かった。これだけ暑いと、さすがにブドウ散歩のドイツ人の姿も少ない。でも、これまたいつも思うことだが、ブドウがよく育つ所なんて、真夏は暑くで当たり前である。暑くないとブドウ栽培農家が困るし、我々ワイン愛好家も困る。

さて見物対象のブドウであるが、粒の大きさはかなり最終的なものに近づいて来た。先週この場所では見そびれた黒ブドウも、ごく部分的にではあるが色づいているのを確認。もちろん、例の巨大ブドウの無事もチェックしたが、一部粒が割れたり枯れたりしている。このまま無事完熟ブドウになって、ワインに生まれ変わることを祈る。


8月31日(日)

はじめてスイスのブドウ畑散歩をした。といっても、わざわざそのためにスイスまで行った訳ではない。火曜日(26日)から休暇でオーストリアとスイスの山間部へ山歩きに行っていて、その帰り道の高速道路からたまたまブドウ畑が見えたので寄っただけのこと。場所はというと、ライン川上流(Bodenseeよりもっと上流)のChur市の北方、リヒテンシュタインとの国境間近のMaienfeldという街。

正直言って、スイスのワインはスイスへ山歩きやスキーに行った際に「地元に敬意を表して飲む」以外に飲んだことはなく、そもそもどの辺りでワインを作っているのかも良く知らなかった。それでも微かに記憶にあったのは、レマン湖に注ぐローヌ川上流周辺のフランス語圏が主な産地だということくらい。

そんな訳で全く期待していなかった今日の帰り道にブドウ畑が見えたもんだから、「これはぜひともご挨拶せねば!」と思って寄り道した次第。ただ、ちょっと時間も押していたので手短に済ませた。で、たまたま散歩した辺りに植えられていたのは赤ワイン用の黒ブドウばかり。これまた意外に思う。何となれば、スイスのワインはほとんど白ばかりだと思っていたので。

ブドウの様子はというと、ちょうど先週〜先々週ドイツで見たのと同じように、ぼちぼち粒の色が変わりはじめていて、緑色の粒と茶色の粒がまだらになった房がちらほら見られる。植え方は、ドイツのラインガウあたりと似たような、ちょっと背の高い目の垣根作りが主。

さほどあちこち見てまわった訳ではないので、これが「一般的」なのか「たまたま」なのかは自信がないが、しいて違いを挙げるとすれば....ラインガウやプファルツ辺りでは、垣根に沿って5〜6mごとに木(もしくは鉄アングル)の太い杭が打たれていて、その間を針金で結んでいるのに対し、今日見た辺りでは太い杭は垣根の両端のみに打たれていて、それとともにブトウの樹一本一本にやや細目の木の杭が添えられている。垣根に沿って針金が張られているのはドイツと同様。

ラインガウ辺りでもブドウの樹がごく若いうちは細い杭が一本一本の樹に添えれれているが、ある程度樹が育つとこの細い杭は引き抜かれる。それに対して今日見た辺りでは、立派に成長した太いブドウの樹にも、そこそこ太い(先程は「やや細め」と形容した)杭が添えられたままである。

なにか特別は訳があってこの違いが生じているのかどうかなんて、素人の僕には分かるはずもないが、でも「所変われば....」で、いろんな形態を見るのは楽しい。


9月7日(日)

先々週も書いた通り、マンネリ感を感じながらも例によって「いつもの所」へ。まだブドウの葉の黄葉は始まっておらず、蔓も相変わらず元気に伸びている。早速気になる「巨大ブドウ」の所へ行く。普通のブドウはまだ熟すまで日がかかりそう(例年だとリースリング種の収穫は10月中旬頃か)だが、この巨大ブドウだけはもう相当熟したような色をしていて、ごく一部の粒は腐り初めている。かと言って、まさかこの樹のブドウだけ先行して収穫する訳にも行かないし....とにかく無事それまで持ちこたえてくれることを祈る。

この後引き続いて、黒ブドウの色変わりの様子を見に、アスマンスハウゼン(赤ワイン産地)へ。色変わりのペースは畑の区画ごとに結構違う。早いところでは、まだまだ「黒々と」とは言えないものの殆どの粒が茶色〜黒くなっているのに対し、遅いところはまだまだ青い粒が過半数である。この村の場合、黒ブドウの品種はすべて同一種(シュペートブルグンダー種)だと思われるが、かくもばらつきがあるのは苗の素性によるものか。考えてみれば、同じ「ヒト」(生物学名)の「モンゴロイド」(日本人を含む人種区分)にも、いろんな姿形の人がいるのだから、同じ品種のブドウの変色のペースが少々違っても不思議はない。そういう目で見れば、逆に同じ区画のブドウの生育(発色)の具合が結構揃って見えるのが不思議とも言えよう。

さて、今日はもう一つチェックの目的があった。Federweissr(摘みたて・絞りたての濁り酒)がもう出回っているかどうかである。随分あちこち見てまわったが、結論は「まだ」。この地方、晩熟のリースリング種、シュペートブルグンダー種が主力なこともあり、まだどこでも収穫している気配もない。(昨年、プファルツでは9月7日に収穫が進行中で、かつある村の祭りでFederweisserが出回っているのに出会った。)

さて、Federweisseをご存知ない方のために、ごく簡単に。(以下は、先日あるMLに僕が投稿した記述の抜粋である。)

<某氏の投稿の一節>

確か、どなたかFederweisserが出回り始めたっていってましたね。

<筆者のレス>

Federweisserとは、収穫期に、絞った果汁が発酵しはじめた時点〜発酵がかなり進んだ時点で、ろ過等をしないでそのまま飲んでしまう、「濁り酒」です。

発酵が終了する前なので、残糖も多く、相当甘いのが常です。でも酸味も十分あるから、結構たくさん飲める。というより、日頃お酒をあまり飲まない人には、かえって口当たりがよくて飲みやすいかも知れません。その意味では、危険ともいえます。悪用しないように。

しばしば、「Neuer」とも呼ばれます。全く同義語なのか、なにか違いがあるのか、私は知りません。

<某氏>

あれ、大好きなんです、密閉できないから、あまり沢山買えないし。

<筆者>

まだ良く知らなかった頃、ブドウ散歩の折に道端で1リットル瓶で売っていたのを買って、車の座席に寝かせておいて走っていたら、ちょっと漏れていた。この時のやつは、実はコルク栓がされていなかったのだが、それを覆うビニールのキャップシールは普通通りについていたので、栓がされていないことに気が付かなかった。キャップシールには、小さい 穴が開いていた。

別のときに買ったら、コルク栓を中途半端に押し込んであるのだが、一緒に爪楊枝みたいなものがコルクを瓶の口の間に挟まれていて、スキマが開いている。

なぜなら....Federweisserはまだ発酵が終了していないので、どんどん炭酸ガスが出るから。下手に栓をすると栓が吹っ飛んでしまうわけ。

話はそれるが、実はリンゴもぼちぼち収穫が始まっていて、リンゴ酒場では「濁りリンゴ酒」も出回り始める季節である。この日、フランクフルトへ戻ってから何軒かのリンゴ酒場の入り口でチェックしたが、まだ「濁りリンゴ酒」の張り紙は見当たらなかった。


9月13日(土)

隣人(日本人)のお誘いで、ラインガウはキートリッヒ(Kiedrich)村にあるロバート・ヴァイル醸造所の試飲会へ。業者やマニア向けのではなく、一般向けの気軽なやつ。隣人が招待状をもらい、我々の分も申し込んでおいてくれたもの。正直に告白すると、大量にワインを飲み続けている割には、いざ「試飲」しても大雑把な感想以上のことはよくわからないのである。だから大量に買い込みする時も、その場でいろいろ試飲して決めるのではなく、最初は1本ずついろいろ買って家で飲み、気に入ったやつを箱単位で買うようにしている。そんな訳で、あまり「試飲」を意識しないで、単に遊びに行く感覚で出かけた。

実はこの醸造所、数年前にサントリーが資本参加(経営も?)してから評判が高まっているようだが、いまひとつ我が家の定番には入っていなかった。一番の理由は、週末でも開いている直売所がないためだろうと思う。試飲会は盛況で、日本人の姿も随分見かける。サントリーのフランクフルト事務所長なる方がいて、日本人訪問客を見かけては、挨拶に回っていた。これも大変そうな仕事だ。

さて肝心のワインのほうであるが、そもそもここの醸造所、日頃の売れ行きが良すぎてか、95年以前のものはもう買えない。96年物についても、辛口・中辛口のワインはそれなりに品数も揃っていて試飲に供されているのだが、普通口のものは、QbAが1種あるのみで、カビネットは「在庫わずかにつき試飲はご勘弁、お買い上げも一人x本まで」とのこと。日頃、家で食事と飲むには辛口・中辛口主体となる(食事が日本風なこともあり)ものの、ちょっといいワインを買ってみようという時は普通口・甘口を対象にしたかっただけに、ちょっと残念。それでもアウスレーゼと、アイスヴァイン(!)は試飲に供されていた。当然量はごくわずかだが、グラスからの香りを嗅いだだけで、「そこそこ名の通った醸造所の同じ等級のワインに比べても、相当の優れもの」と感じさせる。これまで全然買って飲まなかったことを後悔する。但し、値段も十分、優れものである。

一通り試飲の後は、「ケラーご案内」へ。説明はドイツ語のみ。ドイツに住んで5年にもなるのに、仕事で使わないこともあって僕のドイツ語レベルはむしろ退化気味。この日の解説も、残念ながら理解できたのはごく一部。

まず最初に、バルコニーに出て眼前に広がる畑の説明などを。今現在、この醸造所の所有する畑は50ha程あり、その内でも特に自慢の畑(この醸造所の所有する畑の中では最も良質のワインを産する部分)であるグレーフェンベルク(Graefenberg)は9haを所有。この畑、他の所有者の分も全部合わせて11haとのことなにで、独占所有に近い。帰宅してから引っ張り出して見た書物(89年に日本語の翻訳が出版されたもの)で「ドクター・ヴァイル醸造所」(当時はそういう名前)の畑の説明の項をひくと、「畑の総面積は18ha、うちグレーフェンベルクは3ha」となっているので、この10年程で随分規模拡大したことになる。(畑の総面積は殆ど増えることはないから、周辺の栽培家から買い取ったことになる。サントリーの資本参加で実現したのだろう。)

栽培品種は9割強がリースリング、残りの殆どがシュペートブルグンダー(赤ワイン用品種)ということで、こちらはほぼ予想通り。この他自慢していたこととしては;
 ・100%手摘み(機械収穫をやらない)
 ・個々のブドウの状態を見ながら、10回程に分けて収穫(このためには手摘みが必須)
 ・面積当たり収量は、3.5kl/ha程度で、ラインガウ地方全体の平均の約半分
  (もちろん、絶対値の方は年によって相当のばらつきがある)
など。とにかく、「品質第一」をアピールしている。

次いで建物の中へ。最初のところは瓶詰め機とラベル貼り機。ピカピカに清掃された機械は良好な衛生管理を裏付けるようで気持ち良いが、特に面白い見物対象でもない。

次の区画はこれまたピカピカに磨かれたステンレスのタンク群。発酵とそれに続く熟成に使われるらしい。大きい方は10kl程の容量の物が見渡すだけでも10個ほど並び、小さいのは数百リットルのものが、これまた十個以上並ぶ。小さいものはアウスレーゼ以上の収穫量の少ない上級ワインに用いられることは想像に難くない。奥の方にももう少しある模様。もし僕のドイツ語聞き取りが間違っていなければ、以下のようなことを言っていた(「変だぞ」と思われた方は、メールで教えてください。);
 ・タンクは14℃〜18℃の間で個々に温度管理(コンピュータ制御)
 ・タンクの温度は、元のブドウの状態、中身の発酵や熟成の具合、ワインの等
  級や性格に応じて個々に設定する。
 ・発酵中は随時、その後の熟成中は毎週最低3〜4回以上テイスティングして、
  中身の状態がチェックされる。
 ・発酵と熟成あわせて4週間〜8週間ほど、ワインはこのタンクの中にいて、
  その後瓶詰めされる。
 ・赤ワイン、一部の特殊は白ワインは、タンクでの発酵と1次熟成の後、別の
  ところで木樽熟成する。
等々。

その先には、小さな「宝物庫」ともいうべき瓶詰めワイン貯蔵庫があり、鉄格子の向こうには10年、20年以上前の年号と共に「アイスヴァイン」、「ベーレンアウスレーゼ」 等と書かれた札が見える。(ラベルはこの段階では貼られていない。貼っても痛んでしまうだけなので。でも、何かの間違いで中身が分からなくなってしまう心配はないのだろうか???)まあ、規模の大小こそあれ、こういうのは何処の醸造所にもあるものだとは聞いているが、それにしても眼前に見ているとよだれが出てくる。解説者によると、一番古いものは1830何年だかのやつがある、とか。(縁がないので、あまり真剣に聞いていなかった。)

最後に見せてくれたのは木樽の熟成庫が2個所。一方の部屋には、最近流行(?)のバリク造り(Barriqueausbau)用の小さ目の新樽が数十個並び、もう一方の部屋には昔ながらの大きな木樽が数十個並んでいた。「バリク」を名乗るには新樽を使うのが必須なので、毎年新樽を買わねばならない。ある客が、「2年め以降はどうするの? 樽は一ついくらするの?」と聞いていた。解説者曰く、「2年目以降もしばらくは『バリク』でないワイン用に使用し、そのうち売っぱらう」とのこと。樽の値段も律義に答えていたが、聞き取れなかった。


この後、普段ならブドウ畑散歩に出かけるところであるが、今日は堅気の人達と一緒なのでパス。Federweisserの話をしたら、「知らない。でも面白そう!」とのことだったので、「どこかありそうな所へ」という話になり、ラインを渡ってマインツ(Mainz)へ。先週見てまわったところではラインガウではまだ出回っていない様子だったので、マインツまで足を伸ばした。

さてマインツでは、運良く何かの祭りみたいなものをやっていて、思惑通りFederweisserも出回っていた。見渡した範囲でも2軒で売っていて、片方のは「どろっ」とした感じで1杯(0.2リットル)3マルク、他方のは「さらっ」と薄い感じで1杯1マルク50。近くの屋台で売っているツヴィーベルクーヘン(Zwiebelkuchen)ともども、秋の庶民の味覚を味わう。


9月14日(日)

今日は午後から妻が、私の勤める会社(日系)の「婦人会の集まり」に行く予定。

(注) この手の特殊な文化に興味のある方は、どうぞ「蘭学者ひろさんのHP」の、エッセイ集の中の『銀行員シリーズ』をご覧あれ。でもウチの場合、ヒエラルキーの構造がだいぶいい加減になっていて、あそこで書かれているほど壮絶なものはないですよ。駐在員予定者の奥様方、ご安心を。(もしくは、幸運を祈ります。)

....であるが、朝起きるとあまりに良い天気だし、昨日はブドウ散歩をしそびれたのと、来週は仕事の予定があってブドウ散歩が出来そうにないので、あわただしくも午前中のブドウ散歩に向かう。場所はもちろん「いつもの所」。

前回からたったの1週間であるが、ブドウの実の成熟は結構進んだ感じである。先週はまだまだ真っ青で固そうに見えたブドウの実が、今日は少し透き通ってかすかに黄色味を帯びた感じになってきている。例年のこの辺りのリースリングの収穫は10月中旬であるが、天候に恵まれてブドウの生育がとびきり早い時は、これが数週間早まることもあるという。今年の収穫はいつ始まるのだろうか。(ワイン農協の掲示板を見れば、もう掲示が出ているかもしれない。....そう、ここドイツでは収穫時期を勝手に決めてはいけないのだ。詳しい話は本でも読んで下さい。)

当然、気になる「巨大ブドウ」もチェックするが....ちょっとヤバそう。生育の早すぎるこの巨大ブドウ、だいぶ痛みがひどくなってきた。辺りは甘い香りが漂っていて、蜂が旨そうにブドウの実を吸ったりしている。この分では収穫までもたないかもしれない。残念。あまり「入れ込む」と後でダメだった時に悲しいから、「たかがブドウ」と気軽に構えるようにせねば。....とは言っても、やはり気になるものは気になる。

引き続き、丘の上の方の黒ブドウが植えられている区画へ向かう。前回は、茶色い粒と緑色の粒が「まだら状態」であったが、今日見るブドウはおおかた変色が完了して、ほぼ全面的にこげ茶色〜濃紫色になっている。とは言っても、まだまだ色素の濃度は上昇中のようで、収穫期に見るブドウのように真っ黒い感じではない。

ところで、今日は日曜日で、しかも絶好の天気ということもあり、ブドウ畑を散歩する人の数もひときわ多かった。人出の理由としては更にもうひとつ、「収穫期近し」ということもある。我々のように年中ブドウ散歩をする人達も少なくはない(主に地元の人達であろう)が、一般の人が思い出したようにブドウ畑に繰り出すのは、やはりブドウの房が見られる時期に限る。事実、週末ブドウ旅行に出かけて宿の確保に苦労した経験は、すべてこの時期である。
帰りがけに通りかかった、とある無名醸造所の玄関先には、「Heute Federweisser!」とのカンバンが出ている。なんだ、ラインガウでももう出始めているじゃん!



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