12-Aug-98

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ブドウ日記  (98年 その9)



--- モーゼル・ザール・ルーヴァー地方の醸造所巡り(その2) ---


ゲルツ ツィリケン(Geltz Zilliken)醸造所


--- ケラー天井の「鍾乳石もどき」(後述) ---


8月6日午後遅く訪問。先ほどまでの3軒はいずれも「ワイン村」という感じの小さな村にあったが、この醸造所は、Saarburgという、この辺りではちょっと大きな街にある。住所(通りの名前と番地)が分かっていたのでさほど難なく見つけたが、表にはVDP(ドイツプレディカーツヴァイン協会)のマークの看板以外にはそれらしい看板類がまったくなく、建物もまた一見普通のモダンな住宅風なので、これが有名な醸造所だとはまず気がつかない。

約束の時間に20分ほど遅れてしまったが、幸いちょうど前の訪問客が帰るところであった。早速試飲しながら話を聞く。....が、この日3軒目ということもあり、話の中身はというと、アイスヴァインについて質問したのと、糖度(エクスレ度)と等級の話くらいしか記憶に残っていない。アイスヴァインについては、午前中のフォン・ヘーフェルと殆ど同じ答えが返ってきた。すなわち、ビニール覆い方式はアイスヴァインの特徴を害すると思うので用いない、との意見である。その分収量は一段と減るので価格はかなり高いという点もまた、共通している。糖度と等級に関しては、これまた他の所でもほとんど同じ事を言われたが、ほとんどの場合、法定区分により許容されるランクより少なくとも1ランク、しばしば2ランク分下の等級をつけているとのこと。

この醸造所では、先ほどのヨルダン&ヨルダン醸造所とは逆に、「中甘口〜甘口がメイン」とのことであったが、同時にまた「専らドイツ国内市場向けに、少量ながら辛口も造っている」との説明を受ける。試飲の印象も、ごく大雑把に言ってしまえば最初の2軒のそれと共通するものを感じたが....この辺については深入りは避けよう。そもそも、ぼくはえらそうに試飲の印象を書いたりするほど経験を積んではいないので。

かくして、結構いいやつまで試飲させてもらい、かつ話も結構弾んだところで、ケラ−へ案内してもらう。街中の醸造所ということもあって敷地があまり広くない分、ケラーは多層構造になっている。ここでも、発酵から熟成まで、伝統的なフーダー樽(1000リットル入りの木樽)のみを使う。午前中のフォン・ヘーフェルと同様、「フレッシュでクリーン」な試飲の印象が強かっただけに、これまた意外に思う。面白かったのは、ケラーの天井に成長した「鍾乳石もどき」。土質のミネラル分が高いところへもって、天井から染み出る水が多いので、こういうのが出来るのだと言っていた。(冒頭の写真)

帰り際に、とりわけ気に入ったワインを2、3本買って帰ることにした。そのうちの一つはラベルを貼った壜の在庫がなく、Zilliken氏がケラーからカビだらけの壜を持ってきて、目の前で洗ってラベルを貼る実演をしてくれた。何ともシンプルな仕掛けの機械(というより、「道具」と言ったほうが似つかわしい)による、何ともシンプルな「手作り」の作業であった。




ラインホルト ハールト(Reinhold Haart)醸造所


--- ステンレスタンク群(後述) ---


最終日、8月7日の昼前に訪問。ようやくモーゼル本流沿いの醸造所へ。ここは銘醸畑「ゴルトトレプヒェン」(Goldtroepfchen)を所有しており、その中でもひときわ質の高いワインを産する蔵として有名らしい。醸造所の建物自体もそのゴールトトレプヒェンの畑のすぐ下にあり、ケラーに至ってはまさにそのゴルトトレプヒェンの畑の真下の地下にある。

プライスリストにはシュペートレーゼ以下の等級のものしか載っておらず、聞くと「アウスレーゼは、日本を中心とする輸出向けに完売してしまい、ここにはプライベートストック分しか残っていない」との事。....であったが、話が進むうちに、アウスレーゼやベーレンアウスレーゼまで試飲させていただいた。極めつきは、ラベルの無い壜の底に酒石の結晶がたっぷり堆積して、ワイン自体も濃く色を帯びたもの。高い糖度の上に長期の熟成を思わせる色と香りであったが、飲んでみると甘味は非常に薄い。聞けば、71年のシュペートレーゼとのこと。(糖度的には十分アウスレーゼ級と言っていた。)感激!! オーナーのハールト氏がこのワインを我々とご自身のグラスに注いだ時、脇にいて一緒に試飲していた奥さんのグラスに注ぐのをうっかり忘れていたら、奥さんが「チッ、チッ」といって催促したのが微笑ましかった。

かくして満足な試飲の後、ケラー見物に移る。ここのケラーには、真新しいステンレスタンクと伝統的な木樽が共存しているように見える。聞けば、発酵過程はすべてステンレスタンクで行ない、オリ引きの後もしばらくタンク熟成したのち、試飲の結果に応じて一部のワインは木樽に移して熟成を続けるとの事。木樽を使う/使わないの区別と、糖度の高低や辛口/甘口の区別とのなにがしかの相関があるかと聞いたが、「規則的な相関は全然ない。専ら試飲の結果で判断しており、結果的にはほとんどランダムになっている」との回答であった。なお、このステンレスタンクを導入したのは、93年からという。

また、例によってアイスヴァインのことを尋ねたが、ビニールシートを使わない点においては昨日までの醸造所と全く同じであった。更に、この醸造所の看板畑であるゴルトトレプヒェンの場合、そもそも畑が真南を向いている上に、モーゼルの水面から近くで気温が下がりにくいこともあって、実際にアイスヴァインの収穫に成功するのは2〜3年に一度あれば良い方で、一番最近のは94年とのことであった。なお、先にも書いた通り、このクラスのワインは醸造元ではとっくに完売していて、ここでは入手できない。欲しければ専門のワインショップやワイン流通業者を通じて探すしかない。

最後に、貴重品とも言える71年のワインを含む充実した試飲とお話しに再度礼を述べ、次の醸造所へ向かう。




Dr.ローゼン(Dr. Loosen)醸造所

この一つ前に訪問したラインホルト・ハールト醸造所で長居をしてしまったので、昼食抜きで続行となる。この醸造所は、住居表示上は「ベルンカステル市内」ということになっているが、実際のロケーションは北隣のグラーハ(Graach)村との中間くらいの位置で、川沿いの国道の脇にぽつんと一軒建っている。大変幸運なことに、もうかなり空腹と思われる息子も、まだおとなしくしている。

昨日までのザール・ルーヴァーよりはワイン観光客もずっと多いせいか、訪問・試飲客向けの小道具なども準備されていて関心する。ここの醸造所は、エルデン、ユルツィッヒ、ヴェーレンの、それぞれ土壌の異なる3つの村に畑を持っていて、それぞれからの同じヴィンテージ、同じ等級のワインなんかを比較試飲させてくれるのだが、その説明用に各畑の遠景写真と、各畑から拾ってきた石ころを用意してあって、その説明を聞きながら試飲する訳である。そうするとアラ不思議、ぼくのような素人でも、なんだかそれぞれの畑からのワインの違いが理解できるような気がするから面白いものだ。もっとも、今ここでワインだけを比較試飲してもどこまでその記憶が再現できるかはかなり怪しいが。

中でも、この醸造所のカンバン畑はエルデナー・プレラート(Erdener Praelat)という畑であるが、遠景写真でもって、如何にこの畑が理想的な地形の元にあって、ミクロ気候に恵まれているかを得々と説明してくれる。そうして試飲するこの畑のワインは、同じ等級であっても他を寄せ付けない抜きん出た素晴らしさを感じた。もっとも....これまた当然ながら、価格の方も抜きん出ている。

ここでも、かなり等級の高いものまで(一日に何軒も廻ったのにメモも取らなかったので、いまいち正確に覚えていない)試飲させてもらい、大いに満足する。最後に、ぼちぼちケラー見物をお願いしようかと思っていたら、「悪いけど、この後税理士さんの所へ行く予定があるので....」と言われ、時間切れで断念する。そういえば、他の所ではたいてい、応対するオーナー氏自身もいっしょに試飲するのだが、ここのオーナー氏は香りこそ確認していたが、飲んではいなかった。もしかしたら、税金の話が控えていたから我慢していたのかもしれない。そんな訳で、ちょっと尻切れトンボになってしまい、木樽でやっているのか、ステンレスタンクを使っているのかというような話も聞きそびれてしまった。同じ理由で、この醸造所の写真は一枚も撮らずであった。残念!




マックス フェルディナント リヒター(Max Ferd. Richter)醸造所


--- ずらっと並ぶ、フーダー樽 ---


この醸造所は、モーゼル川沿いに車で15分ほど遡った、ミュールハイム(Muelheim)という村にある。意外とこじんまりした建物の所が多かった中で、ここは最初に訪問したカルトホイザーホーフと並んで立派な建物である。建物の中へ入ると、黒光りしてギシギシ音を立てる木張りの廊下や階段からも、いかにも由緒ある建物という雰囲気を感じる。....とは言っても、現存する地上の建物は1881年の完成というから、ここドイツにおいては決して古いとは言えない。きっと、あまり大規模な内部改装をしていないことが、先に述べたような雰囲気を醸し出しているのだろう。

さて、息子の空腹は極地に達しているようなので、ちょっとおっぱいタイムをいただき、その間に男どもはケラー見物に行く。建物も立派だが、その地下ケラーも広大である。後で聞いた栽培面積(数字が思い出せない..)に不釣合いなくらいに大きく感じる。ケラーには、これまたモーゼルの伝統的なフーダー樽(1000リットル入りの、比較的小ぶりの木樽)が並ぶ。発酵、熟成とも、基本的にこの木樽が用いられる。....が、この他にステンレスタンクもあり、もっぱら、発酵を途中停止させるための冷却工程にのみ使われるという。すなわち、発酵は木樽で行ない、残糖が目指すレベルになったところでステンレスタンクに移し、冷却して発酵を停止させたのち、酵母を濾過して再度木樽に戻して熟成するという。....ということは、ズースレゼルヴェを使わないということだ。

ケラー見物の後は、建物のすぐ目の前の畑の様子をちらっと見る。ここは平坦地で、植えられているのもミュラートゥルガウで、機械化のため垣根作りになっている。傾斜地のリースリング畑ではどうしているのか聞くと、これまた垣根作りだという。その心は、リーズナブルな価格で良質なワインを供給するためには、品質をさほど犠牲にしない範囲での合理化は不可欠だからと言う。そういう話をしていたので、農機具小屋へ行って、「急斜面専用トラクター」なるものをも見せてもらった。いまいち、何処がどうなっているのかよく分からなかったが。

さて、いよいよ試飲に移る。正直言うと、すでに2軒を廻って結構飲んだ後なこともあってか、最初の方のカビネット、シュペートレーゼ辺りはほとんど印象に残っていない。はっきり覚えているのは、最後のベーレンアウスレーゼだけと言ったほうが正しい。93年の、ブラウネベルガー・ユッファー=ゾンネンウーアのそれは、濃い色に、ちょっぴり刺激的な香りといい、典型的な(などとエラそうなことを言うほど場数を踏んでもいないが....)リースリングのベーレンアウスレーゼという感じで、これは素直に感激した。

先ほどのケラーでの説明で、ズースレゼルヴェを使っていないらしいことが分かったので、そのことについて質問してみた。「あれをやると、どうしても味に違和感があってしっくり来ないんだよね」という、半ば予期した答えとともに、ちょっと意外な、もう一つの理由を聞かされた。曰く、「いろんな畑を持ち、いろんな等級のワインを作っていると、それぞれ別個にズースレゼルヴェを保管しておくのって、難しいんだよね。で、似たような別の畑のやつを混ぜたりする人もいるという。ワイン法上も、糖度等の条件を満たしていれば、15%までは他の畑からの果汁もしくはワインが混じっても許されるしね。でも、そうするとどうしても、個々の畑の特徴が阻害される。それはイヤだから、ウチはズースレゼルヴェをやらない。」

実はこのズースレゼルヴェの話題、見物ツアーの前には「ぜひ質問してみよう」と思っていながら、結局他のところではいつも聞きそびれ、結局最後のここで初めて聞いた。何故これに興味があったかというと....ぼくの教科書ともいうべき本(約15年前の本)では「ごく一般的に用いられる」と書かれているが、最近別の人に聞いた話では「今時、高級ワイン作りには殆ど使わないという話ですよ」と聞いたからである。そして、この醸造所では「昔も今も、使ったことはない」というし、周囲の同業者でも、ある程度以上の品質のものを作るところでは使っていないだろうと言う。「活字を盲信してはいけないなぁ」と、今更ながらに思った。

そんなこんなで、色々話もはずんだが、さすがに良い時間になってしまったので引き上げることにした。最後に、グラスの底に微かに残っていた最後のベーレンアウスレーゼをすすっていたら、「この残り、あげる!」といって、まだ半分近く残っているハーフボトル(注:我々がその前の半分を飲んでしまったわけではない。その前から、試飲に小出しにしていたもので、開封したのは1週間ほど前だと言っていた)を、お土産に持たせてくれた。「ダンケシェーン!!」.

2日半にわたる蔵巡りの小旅行は、これにておしまい。...実はこの原稿、最後にもらったベーレンアウスレーゼをちびりちびりやりながら書いている。




おまけ

ところで、どこの醸造所でだったか思い出せないのだが...(なんとなくツィリケン醸造所だったような微かな記憶がある)...ちょっと面白いものを試飲させてもらった。ラベル上の等級標記はアウスレーゼになるのだが、実は同じ畑のアイスヴァインとベーレンアウスレーゼのブレンドだと言う。「なぜまた?」との質問に対しては、「ある畑から、その両方が収穫されたのだが、どちらもそれぞれ単独のアイスヴァインもしくはベーレンアウスレーゼとしては何か物足りなかったので、相互補完を狙ってブレンドしてみた」とのこと。そんな訳で、法律上アイスヴァインともベーレンアウスレーゼとも名乗ることは許されないので、ラベル上はアウスレーゼになるというが、値段はアイスヴァインやベーレンアウスレーゼ並になるであろうことは容易に想像がつく。これまた、それらしい表現ができなくてお恥ずかしいところであるが、「とにかく美味しい!」と思った事だけは確かである。





醸造所巡り(その1)を読む。

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