ポートランド市のコミュニティ計画
〜その3〜
さて,3ページ目はいよいよ具体的な計画づくりの現況についてです。
先日市民説明会に400人が押し掛ける大混乱となった南西コミュニティ計画の計画プロセ
スについて,詳しくみてゆくことにします。
まず計画づくりの現況を客観的に解説します。
南西コミュニティ計画の概要
- 南西コミュニティ計画(以下SWCP)は前回紹介したポートランド市の「コミュ
ニティ&近隣計画プログラム」下で策定される2番目のコミュニティ計画で,その
名の通りポートランド市の南西部(以下SW)の地区を計画の対象としています。
- SWは地形的に丘陵の上にあり,市の中でも金持ち・インテリ層が住んでいるエリ
アです。住環境も最も良く,当然住宅の値段も一番高いところです。
- SWCPプロセスは1994年7月に開始され,当初は97年6月に完成させる予定でし
た。(後述するようにこの混乱を受けてスケジュールが延期になりました。)
- プロセスは次の手順を踏んで進められます。
- 情報の収集・分析
- 計画イメージの作成
- ドラフトの作成
- 計画原案の作成
- 計画委員会での審議・採択
- 議会での審議・採択
- 「計画イメージ(Alternatives)」は,市民にいくつかの土地利用パターンのイ
メージを示して(SWCPの場合2通り),どのパターンが好きか問うもので
す。これを受けて計画の大まかな方向性を定め,ドラフトを作成します。
- 「ドラフト(Draft Plan)」は計画の体裁(政策/目標/行動とゾーニングマッ
プ)を概ね整えて公開される最初の文書です。日本でいう「たたき台」に当たる
でしょうか。はっきりしたゾーニングマップが初めて提示されるので,この段階
が最も市民の関心も高まるところです。
- 「計画原案(Proposed Plan)」は委員会・議会の審議に使われるフォーマルな文書
で,計画の体裁が完全に整ったものです。
混乱の経緯
- 現在の混乱は,上の手順の3番のところで市役所がドラフトを作って公開したとこ
ろ,一部の市民がそれを強く拒否し,計画内容とプロセスの見直しを要求したこと
によります。
- ドラフト策定にともって9月から10月にかけて開かれた計5回の市民説明会には,
ゾーニング変更によって影響を受ける住宅所有者を中心に大勢の市民が押し掛け,
その数は延べ1000人にも及びました。特に最後の説明会には400人が押し掛ける大混
乱になりました。
- 問題となったのはゾーニングマップの内容で,具体的には以下の2点です。
- 将来の人口増加を収容するために,全体的に高密度を許容するゾーニングへの
変更が提案されており,その規模と程度が市民の予想以上だったこと
- 特に,SWの中心にあたるマルトノマ(Multnomah)近隣組合の一角が,集中的に
R2.5ゾーニング(テラスハウスを許容するゾーニング)に変更されようとしたこ
と
混乱への対応
- この一部市民の反発を受けて,事態を危惧した市議会のCharie Hales議員(彼は計
画局の監督責任者で,かつSWの住民でもあります)が調停に乗り出しました。
(※1)
- また,SWCPの市民参加について計画局に諮問する立場にある市民の代表(市民
勧告委員会)が臨時の公開討議会を開催し,事態の収拾を図りました。(11月2
日)
市民の要求
討議会など一連の議論の中で一部の市民が指摘,市に改善を求めた問題点は以下の4
点にまとめられます。(※2)
- アメとムチのバランス
ドラフトでは,将来の人口増を収容するためにゾーニングを変更することは明記
されているのに対して,人口増に伴って必要なインフラ整備や公共サービス向上
については十分担保されているとは言えず,人口増加のツケが市民に回ってくる
恐れがある点
- 近隣間の不平等
ドラフトでは,マルトノマのようにゾーニング規制が大幅に緩和される近隣があ
る一方,一部の近隣(特に高級住宅地)の中には全くゾーニングの変更がされな
い場所もあり,近隣間で不平等感があること
- 計画内容の根拠の薄さ
ドラフトでは,将来の人口推計などの数値がどこから出てきたか,どの上位計画
に内容が規定されているか,またゾーニング変更の規模と程度の根拠は何か,な
ど,計画の内容の根拠についての説明が不十分であること
- 近隣組合の参加の不足
これまでのプロセスでは,計画の内容についてSWの各近隣組合が十分知らされ
ていないこと,各近隣計画とSWCPとの関係が弱いこと,また市民勧告委員会
と近隣組合の役割分担が不明瞭なことなど,総じて近隣組合の参加が不足してい
ること(注:近隣組合は主に住宅所有者によって構成されており,市民の中でも
特に彼らの声を代弁すると考えられます)
▽市民の要求に対する市の対応
- これらの要求に対して,計画局は計画プロセスの見直し案を発表し,その中で市民
の要求を全面的に受け入れました。(11月下旬)
- 見直し案では次の各項目について,改善のための方策を列挙しています。(※3)
- 市民への十分な説明を確保すること(3,4への対応)
- 市民勧告委員会,各近隣組合などの役割を明確化すること(4への対応)
- 計画の根拠を明確化すること(2,3への対応)
- ゾーニングマップづくりへの近隣の参加を促進すること(4への対応)
- インフラ整備・公共サービス向上の担保強化(1への対応)
- 計画期間の延長(4への対応)
- 現在,計画プロセスは一時凍結状態にあり,まずこのプロセス見直し案について一
部市民との間で話し合いを繰り返すことで,新しい計画プロセスを確定させようと
努力しているところです。
長くなったので考察は次のページに書きます。
なお,市議会Charie Hales議員のSW市民への呼びかけ(※1),11月2日の討議会の
議事録(※2),計画局の計画プロセス見直し案(※3)などは,Hales議員のホーム
ページ
http://www.europa.com/~hales/
にて読むことができます。
Copyright (c) 1996 Takeo Murakami