inu biscket

アメリカ的いぬの生活 その十三
「アメリカ的ねこの生活」

ポチはなかーさんは、夜学で週二回大学院に通っている。しかしいつも仕事が 終わってポチはなを軽く散歩させるため家にいったん寄ってから行くので、 めったに学校の入り口近くの駐車場に車を停められることはなく、遠い遠い 所に停めている。その日は、すごーくめずらしくいい場所がすっと空いて 「やっほー」とそこに停めて授業に出た。

さあ帰ろうと夜の9時もまわった頃、車に近づくと
「にゃーぁ」
どきっとした。まさか・・・。でも、また
「にゃーぁ」
声のする方を覗くと、やっぱりいた、小さい小さいねこが座って鳴いている。 ふと隣の車を見ると中に乗っている人が「そうなのよ」っていうような顔を したが、そのまま行ってしまった。とりあえず生け垣の向こう側にまわって 近づいてみたら「にゃぁ」と言いながらこっちへ歩いてきた。正直どうしようか パニックになったが、抱き上げてしまった。わたしの学校のある場所は、いわゆる ビジネス地区で近隣に人家もなく、子猫がひとりで迷ってくる場所では決して ない。わたしは誰かが捨てたのだと思った。子猫を抱いたままもう一度建物の 中に戻り守衛さんに空き箱か何かないか尋ねてみたが、冷たい返事・・・。 しかも子猫は4匹ほども生け垣の中でここ数日うろうろしていたと言う。 こりゃもう絶対捨て猫だ。きっと春になって暖かくなったと思ったから、 兄弟ごと捨てたんだ。

守衛さんは「ほっといても死なないよ」なんて言うが、わたしはすでに今晩は うちに連れて帰ることに決めていた。私たちと出会うまでポチとはなこの 面倒を見てくれていたアニマルシェルターに預けてみようと思ったのだ。 家にはポチもはなこもすでにいるし、ねこのことは何にもしらないのだから すぐに自分で飼う決心はできなかった。

箱もないので、運転中飛びつかれても困るから、かわいそうだったけど車の トランクに入れて帰った。家ではポチはなの健康面からの心配と子猫がいじめられても 困るので、ガレージの中で大きな箱にフカフカを敷いてそこで一晩泊まってもらった。 24時間スーパーにネコ缶を買いに行き箱の中に水と一緒に入れてやったら、 一生懸命に食べた。

翌朝は驚いたことに雪が積もっていた。昨晩寒かったはずだよ、あー連れて帰って きてよかった。夕べ出会えてよかった。 昼休みに家に戻り、子猫を箱から出してポチが小さかったとき使っていた リードと首輪を付けて車の助手席に乗せてシェルターへ。オープンまで15分ほど あったので車の中で遊んだ。ちっちゃい手でわたしの指をちょいちょいと捉えようとする。 とてもかわいい。シェルターの係りの人に事情を説明すると連れてきてもよいと言うので、 車から出して連れていった。一応わたしのネコでなくてもわたしが預けるわけだから 書類にサインして25ドルの寄付金も必要だとのことだったが、そんなことぐらいしか してあげられないのだからと子猫に申し訳ない気持ちで40ドル置いてきた。 子猫は女の子で、たぶん生後6〜7ヶ月らしい。早速シェルターのおばさんの膝の 上で爪を切ってもらっていた。膝の上はとても気に入ったようだ。 おばさんの「心配は入らないよ、この子はきっと大丈夫。」の言葉を信じてその場を 後にした。

数日後シェルターに様子を見に行ったら、なんと彼女はすでに新しいお家を見つけて シェルターから旅立っていた。もしももらい手がなかったらと心配してネットでのお友達に イヌとネコとの生活についてアドバイスなどを頂いていたのだが、うれしい取り越し苦労と なった。まだ他の兄弟が駐車場に残っていまいかとこちらも心配になり、ポチはなと おとーさんも一緒に週末現場に戻って探してみたが、ポチとはなこの鼻でも見つけることは できなかったので、きっと誰かに拾ってもらったのだと信じたい。

今回改めて学んだことは、3つある。一つ目は、どこの国にも生き物の命を命とも思わない思い上がった 人間が存在すること。これは子猫達を捨てた人。二つ目は、野良を見つけても多数の 人は単に無視するかかわいそうとは思っても何もしないかのどちらかなんだということ。 これは、アメリカと日本では事情が少し違う。日本では自分で飼えなければ、 それ以外の選択肢は非常に少ないからだ。しかしアメリカでこの態度は残念の一言に つきる。その理由は次の三つ目と関連がある。三つ目は、アニマルシェルターのありがたさ。 わたしだって、ケイズ アニマルシェルターと他にいくつか心当たりがあったからこそ、子猫を連れて帰れた のだ。もちろん自分で飼うことも真剣に考えたけど・・。せめてシェルターに連れていて やるぐらいのこと誰でもできるのにね。

アメリカ的(野良)ねこの生活は決して楽観できるものではないが、 捨てる神あれば拾う神あり。今回の拾う神は、わたしではなく子猫を養女に してくださったどこかのご家族のこと。にゃにゃ幸せになってね。


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