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愛しの豆苗
中華料理が好きな人なら知っていると思います。豆苗(とうみょう)っていうのは緑色の巨大なモヤシです。出会ったのは、近所にあるスーパー。見た目は大きなカイワレ大根のようでした。袋には「滋味豊富、健康食品」などと魅惑的な言葉。以前にとある場末の料理屋で食べたことがありました。脳裏に甦る歯ごたえと香り。けっこううまかったんではないかいな。1袋100円(税抜き)。こいつは買いだ。異臭の豆苗
他にもいくつか買い物をしました。何を買ったのかはあまり覚えていません。歯磨き粉がなくなりそうだったので、アクアフレッシュを買ったのだけは覚えています。匂いや味がわりと好きな歯磨き粉です。豆苗がつぶれるといけないと思って、お持ち帰り用ビニール袋の底に入れたので記憶に残ったのです。
このように大切に豆苗を持って帰りました。さっと洗ってまな板の上に載せ、根の部分のスポンジと茎を包丁で分離しました。そのとき、豆苗が包まれていた袋の解説をなにげなく読むと、驚くべきことが書かれていました。「水栽培すればもう一度食べられます」。
豆苗料理第一弾は、鶏肉を使い卵とじにしました。残った根はクッキーの缶に水をはった中に入れ、栽培をはじめました。日当たりの良いベランダに置いてあります。毎朝水を足します。
豆苗は順調に伸びています。自分で育てた愛しの豆苗の味はまた格別でしょう。収穫を楽しみに待つ日々が続いています。
豆苗はジャックのやつほどではないにせよなかなかに順調に伸び、気づいたら蔓をまいていたのであせって収穫しました。豆苗が蔓巻いちゃあ駄目だ。蔓。さて、どうして食べようかと思い、冷蔵庫の中を探るとアヒルの卵があったので一緒に炒めて食べました。お便りは iwami@geocities.com
「冷蔵庫にアヒルの卵」なんて書いて誤解されると困るので言っておきますが、家にアヒルが放し飼いにされていてかってに冷蔵庫の中に卵を産んでいるのではありません。友達にもらったんです。「これアヒルの卵よ」って。ほんとに。いい人です。大好き。
まあ、それでよかったんです。収穫して食べたまでは。それからがいけない。残った根の部分を見てこんな文字を思い出してしまったんですね。「水栽培すればもう一度食べられます」。無限ループにはまっちまいました。黒い思念が頭をもたげます。フフフ。こうして切っては食べ、切っては食べしていればずっと豆苗が食べ続けられるんじゃないか。あたしって頭いい。
頭悪いです。アホ。そこが私の愚かさでした。ベランダに出したままだった少し錆びたクッキーの缶に再び水をはり、栽培を再開したのです。お・ば・か。
ところで、豚の尻を切って肉を食べ、泥を塗っておくとまた尻肉が再生するっていう嘘かホントか判らない話を聞いたことがあります。豚を殺さずに肉を食べ続けられるって。←言ってたのはうちのパパだったような気が。父ちゃん、子供だましてそんな楽しかったか。いやはや、のんきな話です。
まぁね、ずっと豆苗を食べ続けようってのものんきな話でした。いや、のんきなんてなまやさしいものではありませんでした。いくら待ってもまったく芽がでないので世話をする気も失せて、何日かちょっと目を離した隙に豆苗スポンジが腐ったのです。夏は恐い。
私はベランダの方向に頭を向けて寝てるんです。頭から風が入ってきて気持ちいいし、目覚めりゃすぐに空が見えるってのもなかなか粋じゃないですか。まあ、狭いアパートだから仕方がなくやってたりしますけどね。で、風が心なしか臭い。もう豆苗のことなんか忘れてます。鶏なみの記憶力です。で、外から臭いのがやってくるのできっとまた隣のやつがベランダに変な物でも出したにちげえねえなんてあらぬ疑いを抱いたのです。いつもは快く交わす挨拶も心なしかとげとげしくなりますし、おもわず壁も蹴ってしまいます。
ほんと悪かったです。ごめんね■■さん。私は悪い隣人です。何日かしてベランダで変質した豆苗に気づいて隣の方に見つからぬよう極秘に処分したのは言うまでもありません。