ボストンの運転事情
(1996年10月の手紙より抜粋 )

ボストンヘ来たばかりの頃、「ボ ストンは自動車の運転が荒い、危ない、クレイジーだ」というようなことを、あちこち で聞きました。そう言っているのは主にアメリカ人で、東京から来た私には、むしろ、 こちらの方が穏やかで、東京なんかもっと凄いよ、と思ったものです。

例えばクラク ションなどは、東京では何かというとすぐ鳴らしますが、こちらではたまに聞くぐらい で、こっちへ来てから鳴らしたことが無いと言う友人もいます。また、歩行者に対する 態度も東京とは正反対。東京ではちょっともたもた横断歩道を渡っていると、青信号で も左折車ににじり寄られて急かされ、黄色では左右の車のエンジンの空吹かしに脅され て、左折車からはクラクションを鳴らされることもありますよね。ましてや、赤信号な のに渡ったら(渡れるほど交通量の少ない道でさえ)「おんどりゃ、死にたいんか!」 (これは東京弁ではありませんが)と言わんばかりのクラクション責めにあい、加速し て向かって来る車こそあれ、渡るのを止まって待っていてくれる車なんて見たことがあ りません。ところがこっちへ来て驚いたのは、歩行者が信号が赤でも平気で道を渡ろう とし、また、それを青信号の方の車が、止まって待っているのが普通だということで す。

車同士のやり取りも、優先権のある方の車が止まって、目や手で合図したりして、 本来待っているべき車を先に行かしてやることが多いのです。明らかに相手が先だなと 思う場面で、道を譲られて「え、いいの?」と思ったことがずいぶんありました。東京の、「我先に」の運転とは、大違いです。しかし、これもいい面ばかりではないことが次第に解ってきました。譲られた方 はいいのですが、譲った車の後ろにいる車にとっては、ちょっと迷惑だったりするので す。例えば、直進の車線で何故か対向する左折車に道を譲った挙句に自分は黄信号で さっさと行ってしまい、後続の車はとり残されてもう一回信号待ちをする羽目になるな んてことが起こるわけです。

初めのうちこそ、穏やかな運転マナーに感心していましたが、そう やって少しずつ悪いところも目に付くようになってきました。まず、ウィンカーを出さ ずに進路を変える車がかなり多いということが挙げられます。それでも、曲がる方向に 寄ってから曲がってくれれば、ウィンカーの合図が無くとも「あ、これは右折しようと しているな」とか予測できます。ところが、道の真ん中でいきなり減速して、後続車を びびらせてから曲がる車が結構いるのです。それから、いきなり(みんな、いきなり、 なんです)道をバックで走る車がいます。これは、路上の空いている駐車スペースに、 通り過ぎてから気付いた場合によく見られる現象で、4〜5mなら分らなくもないです が、平気でワンブロック、下手をすると交差点までもバックで通過するのです。(さす がに、これを見たときには、私だけではなく回りの人も呆れていたので、そんなに しょっちゅうあることでないのでしょう。)バックで走るといえば、一方通行の道を、 車の向きはあっているけれどバックで走っている車も、時々見かけます。こちらは一方 通行の道が多いので、やむなくそうなってしまうのでしょうか?(そんな!?)さら に、車線に左折オンリーとあっても直進する車がいるし、矢印表示の信号で、左折の青 矢印は出ていないのに左折する車もよくいます。

信号を守らない歩行者も含め、ここでは、皆に共通の交通ルールなど無い様で、皆好 き勝手にやっている気がするのです。だからこそ、交差点などで対向する車と行き会ったときは、相手の表情を読み取ったりしてその 場でお互いのルールを確認する必要があるのでしょう。日本では、皆が無表情に車を運転していて、ドライバー同士のちょっとした表情のやり取りがないと書かれていましたが、日本では、アメリカと違って、交通ルールというも のが徹底していて、さらにかなり守られているので、いちいち相手の出方を窺わなくと もお互いに了解しているからこそ、無表情になるのかもしれません。

長くなってしまいました。最後に、一年経った今では、私も立派にボストン流の運転 を身に付けた事をご報告申し上げます。

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