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特集:名画ミステリ

ラファエロ真贋事件  イアン・ペアズ 鎌田三平訳 新潮社
The Raphael Affair Iain Pears
偽りの名画  アーロン・エルキンズ 秋津知子訳 早川書房
A Deceptive Clarity Aaron Elkins
COVER STORY

  イタリア警察盗難美術品特捜部のボッタント部長は、部下のフラビアの 「興味をそそられること請けあい」というメモのついた報告書を目にする。 イギリス人の大学院生が、ローマの小さな教会に入り込んだのを放浪罪で保護されたのだ。
 彼、ジョナサン・アーガイルは、300年の間、他の絵の下に塗りこめられていた ラファエロの絵を調べるためだという。ところが、彼が教会に侵入した時には、 既にその絵はなくなっていて・・・。

COMENT

 うー。まず、ごめんなさい。
 とりあえず、ここで紹介する本は、UPした時点で手に入るもの、としてます。が、 先日本屋に行って今年の新潮文庫の目録を見てみたら、この本・・・載ってない!? ということは、・・・絶版?(涙)
 でもね〜、とても面白いんですよ。で、なんと本国ではシリーズ化もされているらしいので、 続きが発刊されていないかと目録を調べたのであった。実は。しかし、絶版(涙)。 いいや、「面白いぞ!」と言っていれば、復活するかもしれないし、他の出版社から出るかもしれないし。
 この小説は、ミステリにはめずらしく、イタリアが舞台です。永遠の都ローマや、 きれいな中世都市シエナ。両方とも行ったことがあるせいか、読んでいるのが楽しかったです。
 そして、そして今回のスターは、なんといってもラファエロ!説明する必要がないほど有名な、 ルネッサンス時代の超スーパースター。絵画では有名作家ほど偽物が多いそうですが、 この本のラファエロ、果たしてホンモノかニセモノか。
 まあ、殺人事件も起こったりするのですが、そんなものがなくても充分なほど面白いミステリでした。作者はジャーナリストで美術史家だそうです。その知識がいかんなく発揮されていて、真贋のチェック方法など興味深いですよ〜。

COVER STORY
 サンフランシスコ郡美術館では<略奪された名画展>の開催を予定していた。 これはイタリアの著名な収集家ののもとから、第2次世界大戦中にナチスに略奪され、 戦後米軍の手で返還された名画の企画である。
 学芸員のクリス・ノーグレンは、主任学芸員ヴァン・コートラントを補佐を命じられ、 ベルリンへ。コートラントは「あの中に贋作がある」と言い残してフランクフルトに旅立つが、 そこで奇妙な死に方をして・・・。

COMENT

 「皆さんがたとえ学芸員についてどんな話を読んでいようと、わたしは国際的な盗難事件や (中略)、むろん、殺人には縁がない」
と、主人公、クリス・ノーグレンは語る。
 うそつき!(笑)
 40P目にして、既に格闘なんかしちゃったりして、立派に派手な学芸員生活じゃないの。
 ちなみに学芸員というのは、図書館なら司書にあたるようなものです。(ちょっと違うけど)
 この小説にも有名な画家がゴロゴロ出てきます。ミケランジェロ、テッツィアーノ、エル・グレコ、 ルーベンス・・・。学芸員なら、こんな有名絵画と触れ合えるのかというと、 普通そんなことはありません。だって、私も実は学芸員資格を持っているんだもん。 実習に行った限りでは、陰謀も乱闘も秘密の名画なかったぞ。
 そうなの!この小説を読んでの驚きは、学芸員生活のリッチさでしたね。 海外旅行の機会が多くて、いいホテルに泊まって。これが、ふつーの学芸員の生活とは 思えないんだけど、でも、もしかしたらアメリカこには、こんな学芸員さんたちもいるのかも しれない。日本の学芸員は・・・。なんとなく、そこはかとない貧乏が漂う感じがしてしまうわ。 いや、学芸員として働いたことはないんだけどさ(笑)。
 この第一作の中では、舞台がめまぐるしく移動しています。アメリカ→ベルリン→ フランクフルト→フィレンツェ→ロンドン・・・。出張費をケチられることはないのか? と、私は途中でケチおばさんモードに入り込みそうになりました。でも、だからとっても舞台が派手。
 ちょっとしたラブロマンスもあり。ホントにサービス満点だなあ。
写楽殺人事件
高橋克彦 講談社
■今回のまとめ■
COVER もうひとつ、名画テーマの海外ミステリを・・・と、思ったのだけれど、 日本人なら、これを取り上げなきゃ、と思い直しました。
江戸川乱歩賞第29回受賞作品です。
STORY

 主人公・津田良平は大学の研究室で助手として浮世絵の研究をしている。 彼が古本市で偶然手に入れた古い画集には、まったく新しい写楽の正体の 手がかりがあったのだが・・・。

COMENT

 もともと写楽という絵師の存在自体がミステリー、みたいなところがあって、 写楽関係の本を読んでいても、相当面白い。
 例えば、写楽は実は約10ヶ月しか活躍していない。
 いったいどうしてか。
 人気がなかったのだろうか。しかし、新人としては破格の豪華な印刷で発売されている。
 こんなことから、写楽は他の絵師の別名だったと言う説もある。(一番センせーショナルなのは 「写楽は歌麿だった」説かな?)
 この本は、殺人事件もある推理小説なのだけれど、写楽の謎についての推理も 太い骨子となっていて、何を隠そう本を半分まで読んでも、まだ殺人の推理に入らないんだよ、 これが(笑)。
 でも、それに不足があるかというと、そんなにない。この写楽の謎ときが面白いんだもの。
「ただ殺人事件の部分が、これに比べて見劣りする。アリバイトリックも平凡である」 (西村京太郎氏選評より)
 巻末に選評が載っていましたが、選者の先生方の厳しいこと。これだけ面白いものを書いて、 あんなに厳しく批評されたら、私なら泣いて走って逃げそうです(笑)。
 私は、この本がきっかけで浮世絵に興味を持つようになりました。と、いえば、 どれくらい面白かったかわかってもらえるかしら?

 リーガル・サスペンスの時も実はそうだったのだけれど、1冊どうしてもフューチャーしたい本を 読んだ時、特集を決めてしまいます。今回は、それが、『ラファエロ真贋事件』でした。 しかし、どうしたんだよう、新潮。Yondaくんグッズくれなくてもいいからさ。海外翻訳ものを 絶版にしないでくれよう(涙)。
 でも、あきらめないでいれば、そのうち復刊するかもしれない。どこかの出版社が版権を買って、 シリーズを出してくれるかもしれないし。
 日本人はパリに行けばルーブルかオルセーに行くし、フィレンツェに行けばウフィッツィに行く。 最近開催されたオランジェリーも、大好評だったらしい。のに!なぜなぜ名画ミステリには 冷たいの〜?
 そんなわけで、図書館や本屋さんで見かけた時にはお手に取ってみて下さいませ。
 ちなみに『写楽殺人事件』は絶版になることは、まずないでしょう。(江戸川乱歩賞だし) これは、発表当時には思いもよりませんしたが3部作になりました。映画の2みたいに 失速することなく面白かったです。永谷園のカード(古かったか!?)だけじゃない 浮世絵の世界を読んでみて下さいませませ。
(99.04.27)

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