特集:名画ミステリ
ラファエロ真贋事件
イアン・ペアズ 鎌田三平訳 新潮社 The Raphael Affair Iain Pears |
偽りの名画
アーロン・エルキンズ 秋津知子訳 早川書房 A Deceptive Clarity Aaron Elkins |
■STORY■ イタリア警察盗難美術品特捜部のボッタント部長は、部下のフラビアの 「興味をそそられること請けあい」というメモのついた報告書を目にする。 イギリス人の大学院生が、ローマの小さな教会に入り込んだのを放浪罪で保護されたのだ。 彼、ジョナサン・アーガイルは、300年の間、他の絵の下に塗りこめられていた ラファエロの絵を調べるためだという。ところが、彼が教会に侵入した時には、 既にその絵はなくなっていて・・・。
■COMENT■
うー。まず、ごめんなさい。 とりあえず、ここで紹介する本は、UPした時点で手に入るもの、としてます。が、 先日本屋に行って今年の新潮文庫の目録を見てみたら、この本・・・載ってない!? ということは、・・・絶版?(涙) でもね〜、とても面白いんですよ。で、なんと本国ではシリーズ化もされているらしいので、 続きが発刊されていないかと目録を調べたのであった。実は。しかし、絶版(涙)。 いいや、「面白いぞ!」と言っていれば、復活するかもしれないし、他の出版社から出るかもしれないし。 この小説は、ミステリにはめずらしく、イタリアが舞台です。永遠の都ローマや、 きれいな中世都市シエナ。両方とも行ったことがあるせいか、読んでいるのが楽しかったです。 そして、そして今回のスターは、なんといってもラファエロ!説明する必要がないほど有名な、 ルネッサンス時代の超スーパースター。絵画では有名作家ほど偽物が多いそうですが、 この本のラファエロ、果たしてホンモノかニセモノか。 まあ、殺人事件も起こったりするのですが、そんなものがなくても充分なほど面白いミステリでした。作者はジャーナリストで美術史家だそうです。その知識がいかんなく発揮されていて、真贋のチェック方法など興味深いですよ〜。 |
■STORY■
サンフランシスコ郡美術館では<略奪された名画展>の開催を予定していた。 これはイタリアの著名な収集家ののもとから、第2次世界大戦中にナチスに略奪され、 戦後米軍の手で返還された名画の企画である。 学芸員のクリス・ノーグレンは、主任学芸員ヴァン・コートラントを補佐を命じられ、 ベルリンへ。コートラントは「あの中に贋作がある」と言い残してフランクフルトに旅立つが、 そこで奇妙な死に方をして・・・。
■COMENT■
「皆さんがたとえ学芸員についてどんな話を読んでいようと、わたしは国際的な盗難事件や (中略)、むろん、殺人には縁がない」 と、主人公、クリス・ノーグレンは語る。 うそつき!(笑) 40P目にして、既に格闘なんかしちゃったりして、立派に派手な学芸員生活じゃないの。 ちなみに学芸員というのは、図書館なら司書にあたるようなものです。(ちょっと違うけど) この小説にも有名な画家がゴロゴロ出てきます。ミケランジェロ、テッツィアーノ、エル・グレコ、 ルーベンス・・・。学芸員なら、こんな有名絵画と触れ合えるのかというと、 普通そんなことはありません。だって、私も実は学芸員資格を持っているんだもん。 実習に行った限りでは、陰謀も乱闘も秘密の名画なかったぞ。 そうなの!この小説を読んでの驚きは、学芸員生活のリッチさでしたね。 海外旅行の機会が多くて、いいホテルに泊まって。これが、ふつーの学芸員の生活とは 思えないんだけど、でも、もしかしたらアメリカこには、こんな学芸員さんたちもいるのかも しれない。日本の学芸員は・・・。なんとなく、そこはかとない貧乏が漂う感じがしてしまうわ。 いや、学芸員として働いたことはないんだけどさ(笑)。 この第一作の中では、舞台がめまぐるしく移動しています。アメリカ→ベルリン→ フランクフルト→フィレンツェ→ロンドン・・・。出張費をケチられることはないのか? と、私は途中でケチおばさんモードに入り込みそうになりました。でも、だからとっても舞台が派手。 ちょっとしたラブロマンスもあり。ホントにサービス満点だなあ。 |
写楽殺人事件 高橋克彦 講談社 |
■今回のまとめ■ |
もうひとつ、名画テーマの海外ミステリを・・・と、思ったのだけれど、
日本人なら、これを取り上げなきゃ、と思い直しました。 江戸川乱歩賞第29回受賞作品です。 ■STORY■ 主人公・津田良平は大学の研究室で助手として浮世絵の研究をしている。 彼が古本市で偶然手に入れた古い画集には、まったく新しい写楽の正体の 手がかりがあったのだが・・・。 ■COMENT■ もともと写楽という絵師の存在自体がミステリー、みたいなところがあって、 写楽関係の本を読んでいても、相当面白い。 例えば、写楽は実は約10ヶ月しか活躍していない。 いったいどうしてか。 人気がなかったのだろうか。しかし、新人としては破格の豪華な印刷で発売されている。 こんなことから、写楽は他の絵師の別名だったと言う説もある。(一番センせーショナルなのは 「写楽は歌麿だった」説かな?) この本は、殺人事件もある推理小説なのだけれど、写楽の謎についての推理も 太い骨子となっていて、何を隠そう本を半分まで読んでも、まだ殺人の推理に入らないんだよ、 これが(笑)。 でも、それに不足があるかというと、そんなにない。この写楽の謎ときが面白いんだもの。 「ただ殺人事件の部分が、これに比べて見劣りする。アリバイトリックも平凡である」 (西村京太郎氏選評より) 巻末に選評が載っていましたが、選者の先生方の厳しいこと。これだけ面白いものを書いて、 あんなに厳しく批評されたら、私なら泣いて走って逃げそうです(笑)。 私は、この本がきっかけで浮世絵に興味を持つようになりました。と、いえば、 どれくらい面白かったかわかってもらえるかしら? |
リーガル・サスペンスの時も実はそうだったのだけれど、1冊どうしてもフューチャーしたい本を
読んだ時、特集を決めてしまいます。今回は、それが、『ラファエロ真贋事件』でした。
しかし、どうしたんだよう、新潮。Yondaくんグッズくれなくてもいいからさ。海外翻訳ものを
絶版にしないでくれよう(涙)。 でも、あきらめないでいれば、そのうち復刊するかもしれない。どこかの出版社が版権を買って、 シリーズを出してくれるかもしれないし。 日本人はパリに行けばルーブルかオルセーに行くし、フィレンツェに行けばウフィッツィに行く。 最近開催されたオランジェリーも、大好評だったらしい。のに!なぜなぜ名画ミステリには 冷たいの〜? そんなわけで、図書館や本屋さんで見かけた時にはお手に取ってみて下さいませ。 ちなみに『写楽殺人事件』は絶版になることは、まずないでしょう。(江戸川乱歩賞だし) これは、発表当時には思いもよりませんしたが3部作になりました。映画の2みたいに 失速することなく面白かったです。永谷園のカード(古かったか!?)だけじゃない 浮世絵の世界を読んでみて下さいませませ。
(99.04.27)
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