特集:フィギュアスケート
愛しのセルゲイ エカテリーナ・ゴルデーワ 石井苗子訳 ベースボール・マガジン社 MY SERGEI Ekaterina Gordeeva |
メダルと恋と秘密警察 カタリーナ・ビット 畔上司訳 文藝春秋 Meine jahre zwischen Pflicht und Kur Katarina Witt |
■COMENT■ 私はゴルデーワ&グリンコフのスケートを生で一回だけ見たことがある。 まばたきする間さえ惜しんで一生懸命見ていたつもりだが、今思うと、 もっともっともっと一生懸命見ればよかったと思う。当時もそう思っていたけれど、 本当に夢のようなペアだった。 著者のエカテリーナ・ゴルデーワはフィギュアスケートで2回のオリンピック金メダリスト。 ペアのパートナーであるセルゲイ・グリンコフと結婚し、女の子も誕生した。 美貌にも才能にも愛情にも恵まれた彼女だったが、夫のセルゲイが練習中に心臓麻痺で急死したのは、95年11月のこと。 ニュース速報でテロップが流れた時は、なにかの間違いじゃないかと思ったものだ。 その彼女が書いた半生記・・・なのだが、訳者あとがきを読んでいて思い出した。 彼女はまだとても若いのだ。だから、本当に読んでいて泣いてしまった痛々しい回想録だった。 まだ、消えない痛み、そこにある痛みが、読み手に触れるくらい。 (私は、プロローグで既に泣いてしまったんですが) 「神様はなぜ彼を与え奪ったのか」というくだりは、私にもとても痛い。 たまに人間が背負えると思えないくらいの試練て、ある気がする。 「私は、夫と、親友と、それからダリア(娘の名)の父親を一度に失いました」 でも、いったい世の中の女性のどれだけが、恋人で夫で親友で仕事のパートナー、 という男性に巡り合えるのか。 「きっと何もかも完璧すぎたの。(中略)セルゲイと私は幸せすぎたんだわ」 彼女に、神様は奪いもするけど与えもするんだなあ、って、思ってもらえるような 出来事があるよう祈ります。そして、私にも。 |
■COMENT■
ブラボー、カタリナ・ビット!読後感はこれ。 たぶん、ある程度以上の年齢の方なら、スケートファンでなくても知っているという、 サラエボとカルガリー2つのオリンピック金メダリスト、ビット。 前出の「愛しのセルゲイ」で女王気質の人、みたいな記述があったので、 「どうしよう、回想録なんか読んだら、カタリーナ・ビットを嫌いなっちゃうかしら」 なんて心配していましたが、全然ヘイキっ!逆に「愛しの・・・」の重たい気持ちを 吹き飛ばしてくれました。 何しろ、「ビットは今までシュタージ(旧東ドイツの秘密警察)の活動をし、友人や選手をスパイしていた」 という報道に反論すべく書いた本だけあって、構成がまたすごい。 手記と秘密警察文書(東西統一後は閲覧できるようになった)が交互。 これは結構、いちスケート選手の回想録を超えているかもしれない。 ゴーカイな書きっぷりが、いっそすがすがしいです。 でもさ、罪を告白するより、性格の悪い生意気なチビだったって自分のことを言うほうが、 ナンボか難しいもんじゃない?そういうところにも敬意を表したいと思うんだもの。 |
五十嵐文男の 華麗なるフィギュアスケート 白石和巳 新書館 |
■今回の感想■ |
■COMENT■
五十嵐さんは、NHK杯などの解説でおなじみですね。実は私は以前は解説者にたいして重きをおいていなかったのですが、 ○○○○の解説があまりに不快だったため、解説って大事なんだなあ、 と思うようになりました。 この本は、解説者として、元選手として書いているムックです。 ある程度のファンにも楽しめるし、スケートを見始めたばかりの人でも楽しくよめるはず。 なにより、写真が多いのがいいですね。初めて金メダルを取った頃のゴルデーワ&グリンコフの 写真なんて「愛しのセルゲイ」にも入っていなかったもん。 もちろん、ご本人が元選手ならではのコメントがまた楽しい。 『伊藤みどりが、男子でなくてホントによかったと思った』なんてくだりもアリ(笑)。 (確かに絶頂期のあのジャンプはすごかったもんねえ) 超有名選手は、ピックアップされて数ページ割かれていますので、昔からのスケートファンとだって、 お話ができちゃう!(笑) 巻末には基本のスケート用語集もあり、親切です。 |
全部を読んで思ったのは、「スコット・ハミルトン、あなたってなんて素敵なの!」。 もともとスケート好きの友人のご贔屓で注意してみるようになったのですが、 その見ているとハッピーになる演技に引き付けられてしまいました。 今回の3冊のうち2冊に彼の話が出てくるけど、私生活も演技どおりの人なのねえ、と納得。 あのハッピーは、彼の内面からのものだったのか! 私は普段スポーツ選手の回想録とか読まないのですが、今回はこの企画のため、 がしがし読みました。面白かったです。いや、そのスケートに対する語りはともかく、 個々のスタイルが。 なにしろ、同じ共産圏、本を書いた時の年齢が、ほとんど違わないゴルデーワとビットが、 全然違うものを書いているんだもの。キャラクターの違いってすごいなー。 でも、たとえどんな人でも、スポーツ選手は試合がすべて。 一度、世界選手権を見に行ったとき、あちらにもこちらにも往年の名選手がいて、 スゴイと思ったものでした。(コーチになった人もいるんだろうけど、解説者やレポーターとして 来ている人が多いみたいです)現役選手も客席にたくさんいたし(笑)。そんな楽しみはそれとしても、 スポーツは、やっぱり生で見なくちゃだわ。 (99.04.04)
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