私が留学しようと考えるようになったのが1994年頃である.1994,旭川医科大学 の大学院を卒業して,その後,後期の臨床研修をするために釧路市医師会病院 に勤務していた時である.ここは救急病院で体力的に厳しかったが,すばらし い研修ができた.そんな激務の毎日の中,この研修が終わったらまた違う面から 臨床(患者を診ること)を見つめなおそうと考え,基礎研究の世界に再び身を置 いてみたいと思ったのであった.基礎研究に専念するには,私には留学しか選択 枝がなかった.毎日同じことをやっていると必ず悪い意味で慣れが生じる.それ は進歩を妨げる.ちょうどそんな風に感じている時期であったと思う.1995年斜 里町国保病院に勤務していた私は,ついにこの希望を実行に移すことにした.こ の時私は色々な困難があり,それまで所属していた大学医局を辞めた.それは, これから留学するまで手続きや留学中の経済的な負担などを,全く個人として, 何の支援もなく進めなければならないことを意味している.もちろん日本に帰っ てからの仕事や収入の保証もない.幸い,私の良き理解者である大学の先輩が私 を支援してくれ,私の留学に手を貸してくれた.留学先は私が興味を持ってこれ からやろうとしていることができるところを先輩と相談して,UCLAの消化器病セ ンターと決めた.ここの教授は先輩が学会等で面識があるため,私の紹介の手紙 を書いてくれた.それが1995年12月のことであった.年が明けてすぐに受け入れ を了解する旨を書いた返事が届いた.期間は2年.ただし経済的なサポートはで きないと書かれていた.何とか1年分くらいの生活費は都合がつきそうであった ので,このまま留学の手続きを進めることとした.ただし2年間無給というのは 無理なので,2年目からはなんとかサポートをお願いする内容で手紙を書いた. 履歴書(curriculum vitae )も手紙と同封した. 


I am very happy to hear from Dr. A.U. that you will kindly accept me in your lab as a post-doctoral fellow. It has long been my dream to work for a certain period of time in a top-notch research lab like yours, and your generous consideration and arrangement for me have made me extremely pleased. I am now determined to do all my best to meet your highest expectations.
I have no source of financial support for my salary for the duration of my stay, but I have been setting aside a certain amount of money to stay in the States, at least, for a year. I hope you will be generous enough to consider my first year's productivity for the second year's support for me. Enclosed please find my C.V. including my bibliography. I hope the necessary official arrangements for my visit to the States will be proceeded smoothly. Please send me the visa application form soon and let me know what I should do from now on.

4月になってから返事が届いた.留学目的に渡米するにはパスポートとvisaが 必要である.visaには色々種類があるが,私のような研究を目的に留学する場合 はJ1-visaと呼ばれるものである.このvisaを申請するのに,IAP-66というform が必要である.これは大学や研究所などの受け入れ先が発行し,本人に送付され ,これをパスポートとともに在日アメリカ大使館に提出し,visaの申請を行う. 当面はこのIAP-66を手に入れることが最重要項目となる.手紙と一緒にIAP-66の 申請用紙が同封されていた.必要事項を記入して向こうにできるだけ早く送り返 す.申請用紙には,手続きには最低90日かかると書かれていた.(ここの日にち は申請時期によって記述が異なっている.)質問項目は,生年月日や住所,パス ポート番号,パスポートの有効期限,渡米後の経済的な負担は誰が行うか,自分 の口座の残高(別に銀行に依頼して英文で交付してもらう)などである.また渡 米中,健康保険に加入することを宣誓する書類にサインする事を求められる.( 健康保険は最低基準が決まっており,それをクリヤするものに入らなければなら ない.)また家族と同時に入国するか,別々に入国するかをチェックする.ここ は重要.同時に入国することにすると,IAP-66は一枚交付されて,visaもJ1が一 枚発行されるだけである.アメリカでの生活のset upを1人で行ってから家族を 呼び寄せるのなら,IAP-66は家族用のも取る必要があり,家族用のvisaはJ2と 呼ばれるものになる.私は別々に入国するようにした.全ての書類をそろえてむ こうに送り返したのが4月下旬であった.以下の手紙を同封した.渡米時期がvisa の発行時期から計算していつ頃になるか,またこの頃,米国の他の研究所から 先輩経由で私を研究者として迎えたいという(年2万ドルの経済支援あり)あり がたい話があったが断ったことも付け加えている.


Thank you very much for your letter of March 21, together with the visa application form. I greatly appreciate your prompt reply for my request. I am now returning to you necessary documents for my visa application, including those for certificate of my personal funds, statement for medical insurance during my stay in the States, and the visa application form completed. The instructions attached to the form say that it takes about 90 days to process for IAP-66. So, I am wondering if I will not be permitted to enter the States until August or later this year. As I have to inform the Hospital Personnel Department of my resignation at least 2 months before the resignation date, I truly appreciate your telling me about the time schedule of my visit to the States. I am planning to continue to work here at this hospital until my visa will be issued.
As I wrote in my previous letter, I have been trying to obtain some scholarships, but unsuccessfully up to now. Incidentally, I was recently offered a chance to work for Dr. A. A., a professor of T University School of Medicine, for whom Dr. A.U. used to work. Not knowing that I will be joining your research team this coming summer, he kindly offered a finical support of $20,000 per year. I courteously told Dr. A. A. that it has been my long-term hope to work at your lab even despite some financial disadvantage.
I do hope that the official arrangements for my visit to the States will be processed without delay. Dr. A. U. joins me in sending our best wishes to you.

返事がすぐに届き,渡米時期は安全な時期として10月としたいと書かれてあっ た.渡米時期も決まって手続きも始まり,いよいよ後戻りができない状況になっ た.5月の中旬にfaxが送られてきて,保険証書をすぐに送れと書かれてあった. 渡米もしていないうちから,渡米後の保険の証書を遅れというのは理不尽なこと である.しかし文句を言っても手続きが遅れるだけなので,保険の手配を大至急 行った.JAL family clubの会員になると,海外赴任や留学の手続きの疑問に対 して無料で答えてくれ,さらにclub memberだけに特別お得な健康保険や自動車 事故などを含めた総合保険が用意されることがわかったので,ただちに会員とな り保険の手続きを進めた.保険会社はAIUで,今回の私の遭遇したことを話すと ,渡米前に保険に入って証書を遅れなどと言われたことは聞いたことがないとの こと.しかしAIUでは今,直ちに保険に加入しても,保険を渡米するまで保留に して渡米時に保険を有効にすれば,なんら問題ないとコメントしてくれた(保留 期間は保険料を課さない).証書は保険を保留にしても直ちに発行してくれると のこと.これでやっと保険の問題は解決したと思っていたら,手続きに78ドル必 要なので小切手を送れと催促された.私の口座がある銀行に小切手を作ってもら ったら78ドルの小切手に,手数料が30ドル以上取られた.保険証書と小切手を同 封して手紙を書いた.また渡米してからの家捜しを助けてくれる日本語の分かる 人を紹介してくれるよう頼んだ.


I enclose my check in the amount of $78 and the original documents of our proof of insurance with this letter.
I feel uneasy whether I can find a house by myself because of my poor language skills. I would appreciate your introducing me to any persons understanding Japanese who help me to find our house together when I will reach the States in October.

e-mailで返事がすぐに届き,labには日本人はいないが,隣の研究室にT先生と いう日本人研究者がいるので,私の渡米後の生活のhelpをしてくれるよう頼んで くれることになった.これでひとまず安心.


Thank you very much for your e-mail. I greatly appreciate for your kindness that you introduced Dr. T to me. I will contact him by e-mail about finding my house in LA. I do hope that the official arrangements for my visit to the States will be processed without delay.

ところが6月の中頃,向こうのoffice からe-mailが届き,UCLAの事務局が私の 銀行の残高証明をなくしたので,再び送るように催促が来た.アメリカでは良く あることである.visaの手続きが遅れるので,over nighht mailで送ってくれと 書かれてあったが,太平洋をはさんで一日で手紙を送ることは不可能である.文 書をなくしたくせに勝手なことを言うものだ.


Thank you for your fax dated on July 3. I send the original copy of my bank statement certified on Apr. 2, 1996 by fax avoiding any more delay of my visa preparation. I cannot send the letter by overnight mail because the post office in this town doesn't support this service. I also send its document by express mail, so you will receive it within a few days.

そんなtroubleもあって結局,IAP-66が手元に届いたのは8月の初めであった. きっちり3カ月かかった.渡米予定の10月までは2カ月弱あるので,後の手続きは ゆっくりできる.このあとはpassportと一緒に書類をアメリカ大使館に提出し,visa の発行を待てばよい.札幌の領事館に電話してみると,かなり前からすでにvisa の発行業務は停止しているとのこと.東京のアメリカ大使館に直接申請するし かないとのこと.また,受け取りは自分か,自分の依頼人が直接大使館に出向か なければならないとのこと.東京に行く暇もないので,旅行代理店にvisa申請の 手続きを依頼した.料金は15000円でだいたい2週間ほどで発行されるはずだとの こと.手続きを依頼する旨を承諾する文書にサインと,あとはvisa申請の時に必 要な質問が記載されている用紙に必要事項を書き入れて,手続きを始めてもらっ た.旅行代理店は私の家から車で一時間ほどのところにあり,ちょっと遠いので ,結局visaを受け取りに行くまで実は一度も自分で行ったことはなかった.全て ,電話かfaxでやりとりをして手続きを進めてもらった.2-3日すると必要な書類 があるので送るよう言われた.それは家族の渡米費用や健康,精神的careについ て自分が責任を持つことを宣誓する書類である.以下に引用する.


LETTER OF GUARANTEE
The following persons, my wife and son, by the name of *.* and *.* are planning to go your country for the purpose of staying with me as a family. They are scheduled to leave Japan on October 28, 1996 and stay there for 1 year and 11 months. I hereby guarantee all the necessary expenses concerning their trip to and from your country as well as their subsistence, and take full responsibility in regard to personal conducts there. I also take responsibility for their physical and mental health care.

さて自分のvisa申請手続きを済ませてからすぐに,今度は家族のIAP-66の申請 手続きに取りかかった.家族は私の渡米1カ月後に呼び寄せようと思っていたの で,できるなら私の渡米前にその手続きを始めておきたかった.そこでそれが可 能か,問い合わせてみた.


Thanks to your assistance, I received the IAP-66 Form from Dean's Office yesterday. Thank you very much. By the way, the document enclosed with IAP-66 said, "If your family is to enter the U.S. at a different time from you, they require their own IAP-66. Please tell the department sponsoring you at UCLA to contact this office after your arrival in the U.S. so that we may prepare a duplicate IAP-66 for your family". My family; wife and 2-years-old son intend to enter immediately after my arrival. To enable my family to enter as our will, can I begin the formality to obtain my family's IAP-66 Form before my arrival? If not permitted, applying for it after my arrival, how many days does my family need to be permitted to enter the States after my arrival? I greatly appreciate your answering me this question.

家族の渡米前少なくとも45日前に手続きを完了しなければならないので75ドル の小切手を送れとの返事が届いた.Dean's officeからの手紙では手続きは私が 到着後に始めると書いてあったが,その前でも可能なようである.すぐに小切手 を送らなければ手続きが始まらないとのことだったが,どこに払い込めばいいの か書いていない.ありがちなことである.


I received e-mail from office saying that you need a check for $75 for visa request of my family. I will send it as soon as possible. Please teach me which department or office do I make a payable check to. Should I make it to CURE Foundation? I do hope that the official arrangements obtaining my family's IAP-66 will be processed without delay and my family will be permitted to visit to the States within 2-3 weeks after my arrival.

返事が来て振り込み先はわかったが,銀行で小切手を切ろうとすると,相手先 の住所がわからなければだめだとのこと.このころは8月中旬で仕事も忙しく, いささか手続きに無用な労力と時間がかかるので,嫌気がさしていた.


Regarding to my family's IAP-66, I will make a payable check for $75 to Regents of the University of California. Please inform me of the address of Regents of the University of California. This information is needed for making a check.

住所を知らせるe-mailが来て,家族のIAP-66の申請手続きが完了したのは8/15 だった.


Thank you for your e-mail. I send a check for $75 to you today. After 4-5 days later, you will receive it. I do hope that I will obtain my family's IAP-66 before my departure. I'm looking forward to meeting you in October.

私のvisaは9月の初めに発行された.旅行会社に10/4の飛行機の予約を入れた .仕事は9/12でやめ,あとは渡航の準備に入った.問題は留学中の家具や荷物を どこに保管するかである.幸い実家の足寄町で事業をやっている叔父が,社宅を 無償で提供してくれることになり,そこに運ぶことにした.アメリカに持ってい く荷物は,すぐ使うものは厳選して航空便に,残りは船便に分けた.航空便にし たものは,コンピューター,モニター,本,服などで段ボール4つ.他に40個ほ どの段ボールに必要なものを梱包した(妻が日本で使っていた食器,鍋,服,子 供のおもちゃ,コンピューター,プリンター,本など.こちらに着いて何でこん なものをと思うものが大量に入っていた.こちらでは安く何でも手にはいるので ,本当に必要なものだけにした方がよい.).引っ越し代金は全部で45万円程( 高い!).引っ越し先は私が渡米してから日本にFAXで知らせて,両親に書き入 れてもらうことにした.胃薬や鎮痛剤,風邪薬,子供の熱冷ましの座薬なども多 めに持っていくことにした.もし米国入国の際に薬が見つかってtroubleとなる ことをさけるため,薬は私と妻の2人で分けて運ぶようにして,念のためなぜこ れほどの薬が必要かを証明する,診断書を作成した(これは自分で書いて,先輩 のサインをもらった).


To whom it may concern Medical Certificate Patient's name: TNozu Date of birth: June 21, 1963. This is to certify that the above patient suffering from gastric ulcer and lumbago and should take medicines which I prescribed at least in 6 months.

渡米する直前に,国際運転免許証を取りに行って,この時visaも旅行会社に行 って受け取った.航空券も手渡されいよいよ渡米の準備が整ったのが10/2.10/3 に妻と子供を実家に送っていき,これで全て準備完了(家族のIAP-66は私の渡 米後すぐに交付され,私が日本に送り返し,10日ほどでvisaが発行された).


10/4は朝から雨だった.2年間は日本に帰らないと思うと寂しくもあり,また これまでの手続きを自分でやり遂げた充実感とで複雑な心境だった.両親が空港 まで送りに来てくれた.2年後元気に帰ってくることを約束して,飛行機に乗り 込んだ.

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