私の声を聞いて
私の方を見て
私を愛して
私を捨てないで
私を殺さないで・・・
第 二 章 冷 た い 真 実
アスカがおそるおそる目を開けてみると、血塗れの青年が地面に横たわっていた。
出血はかなりひどいらしく、夥しいほどの血が地面を濡らしていた。
「ちょっともう、何だっていうのよ!!」
むせかえるほどの血の匂いを前にして、なお気丈にもシンジに接近するアスカ。
「・・・あんた、大丈夫?」
声をかけるが返事がない。手を取って、脈を確認した。
「よかった、生きてる」
アスカはほっと胸をなで下ろした。
「ちょっと待ってなさいよ!」
そういいながらアスカは家に携帯で電話をかけた。
「・・・『早く出なさいよ・・・』・・・プツッ・・・あっ、ミサト!?あたし、アスカ。今からすぐ迎えにきて!!」
葛城ミサトはアスカの保護者である。よくいえば楽天的で明るい人、悪くいえば自堕落なおばさん、と評価が人によってまったく違うのも特徴的だ。
「何よアスカ。あたし今忙しいの。それに今日の買い物当番はアスカでしょー」
「どうせまた飲んでるんでしょ。とにかく大至急。場所は第三公園の噴水前!」プッ。
アスカの携帯が切れた。
「ちょ、ちょっとー」
『何なのよぉー!もぉ!』
文句たらたらながら、その声に何か異変が起こったことを感じ取ると、ミサとは素早く仕度をした。
アスカは、そのころ携帯をしまうと、ハンカチを取り出し、水で濡らしていた。そしてシンジの血をふき取ろうとしているのだ。
「人がいなくてよかったわ。それにしてもどうやったらこんな風に怪我するのかしら?」
そのときかすかにシンジが身をよじった。
「ウ・・・ウウ・・・」
「気がついたの?」
シンジの顔を覗き込むアスカ。
シンジがだるそうに目を開けた。その深紅の瞳を覗き込みながらアスカが尋ねた。
「あんた一体どうしたのよ」
「レイ・・・カヲル・・・」
アスカの声が聞こえなかったかのように、それだけ言うとシンジは再び目を閉じた。
「ちょっとー、起きなさいよー」
そうしているうちに車の爆音が聞こえた。
「・・・アスカ!人が話してるのに携帯切らないでよ!」
ミサトが車から降りてきた。
「そんな事いいからちょっと手伝って。」
ミサトの愚痴を無視するアスカ。一人でシンジの足を持ち上げようとする。
「だ、だれよ、それ!?あんた、何する気?」
常識では考えられない状況である。ミサトが驚くのも当然だった。
「きまってるでしょ。運ぶのよ、家まで。ほらぁ、はやくそっち持って!」
「う、うん」
言いたいことはまだあったが、アスカの目が余りにも真剣なのでとりあえず手伝うミサト。
華奢なシンジだがやはり持ち上げるのは一苦労だった。やっとの事で車に運ぶと、エンジンをかけた。
走行中。
静寂が空間を支配していたつかの間の事だった。
「ねぇ、アスカぁー」
「何よ」
「その子誰?」
単刀直入。全くミサトらしい切り出し方であった。アスカは小さく笑うと首を横に振った。
「知らない」
「またまたぁー。もしかしてアスカのか・れ・し?」
にやりと笑うミサト。ミサトができる限り明るく話そうとしている事は、アスカにでも分かった。だから、それに乗って怒ったように答える。
「ちがうわよ!」
「もぅー。照れない、照れない。アスカも16才、お年頃だもんねー」
「違うって言ってるでしょ!名前も知らないわ!」
「はぁ、あんたどこの馬の骨ともわからないような奴をうちに連れてくの?」
「いいでしょ!」
「アスカ、あなたまだ・・・」
アスカは何も言わなかった。
「そうか・・・まだ「あの」夢、見るのね・・・」
車の中に、シンジの寝息だけが聞こえていた。
『イヤァァァァァ!!!!!ママ、私を殺さないで!!!!!!』
『呪ワレタ子、オマエハ化ケ物ノ血ヲ持ッタ魔物・・・』
アスカの母、惣流キョウコがナイフを持ってアスカに接近した。
『化け物?魔物?ママ、何を言っているの?ヤメテェェ!!!!!!』
『ソシテソノ血ガ私ノ中ニモ・・・アアアアアアア!!!』
絶叫とともに血が飛びちった。
ナイフはキョウコの腹に深々と突き刺さっていた。アスカが次に見た物は血塗れの母の姿だった。
『イヤァァァァァ!!!!!!!!!!!!』
ミサトがアスカに出会ったのは5年前の冬のことだった。
親戚中をたらい回しにされていたアスカ。その第一印象は酷いものだった。
「いやぁ、すまないねー、葛城君。今、孤児院の手続きを取っているところなんだが、うちのカミさんがどうしても家にはおけないって言うんでねー」
ミサトはとある事情でそれまで所属していた機関を辞めた後、つなぎの仕事として、小さな印刷会社に勤めていたのだった。
そのへらへらした男は当時ミサトの上司であり、昼休みに呼ばれたミサトは一人の女の子を2、3日預かってほしいと頼まれていたのであった。
「さっ、アスカ。挨拶しなさい」
男がアスカと呼ばれた少女を前に押した。
「・・・」
無言。
「すまんなー、どうにも無愛想な子で。アスカ!挨拶しろ!」
先ほどより強い口調で男が怒鳴る。
「・・・」
やはりアスカは何も言わない。
ミサトはアスカから目が離せなかった。その無表情な顔にミサトは自分を見ていた。
『この子も…』
ト・ラ・ウ・マ
それを持った人間は限りなく弱くなる。儚くなる。自分の殻にこもって、人を信じなくなる。
何とかしなければ。ミサトは思った。
「あなた、アスカっていうの?私は葛城ミサト。」
優しく話しかけるミサト。しかし案の定、アスカはミサトを見ようともしなかった。
「すまんねぇー、葛城君」
その男がアスカをはたく。倒れるアスカと絶句するミサト。
「この馬鹿者が、早く立て!」
無理矢理立たせようとするが、アスカは動かなかった。
『・・・コロシテヤル・・・』
その瞳だけが、あきらかな憎悪を放っていたのをミサトは見逃さなかった。
バチーン
気付くとミサトは無意識のうちにその男を張り飛ばしていた。
「私がこの子を引き取ります!!」
そう豪語するミサトをアスカが不思議そうに見ていた。
さっきまでの憎しみは驚きと共に消えていた。
それは奇妙な友情の始まりだった。
再びミサトの車の中。
「アタシ・・・」
アスカが沈黙を破る。
「私、もう人が私の目の前で死ぬのはいや・・・たとえそれが誰であっても・・・」
アスカの目には涙が浮かんでいた。
『あの子と母親をだぶらせたのね、可哀相な子・・・』
そんなアスカを見て、すべてが解ったように頷くミサト。
「わかったわ!それにあの子かっこいいもんねー。」
いつものミサトの口調に戻った。
「バ、バカ言ってんじゃないわよ!!」
「フフッ、冗談よ。でもアスカって面食いだったのねー。」
「ミサトっ!!」
その姿は、仲の良い姉妹のようであった。
研究所に突如現れた2つの影。
敏速に塀を飛びぬけると、先程戦闘が行われていた場所で影が止まった。
「カヲルっ、あそこ!」
レイが指を指した方向には赤い血液と青い人工体液が流れていた。その横に、朽ち果てられたサキエルの体も放置されていた。
「!!」
その場にへたり込むレイ。カヲルは青ざめながらも近ずいていった。
「・・・レイ、シンジさんの気配は残っていない。大方、サキエルと接触したときに反動で飛ばされたんだろう」
「じゃあ、シンジさんは生きてるのね。」
レイの顔に安堵の表情が浮かんだ。
「多分・・・でもこの血の流れ方からいって、シンジさんも相当負傷しているみたいだ・・・そろそろ行こう。人の気配を感じる・・・」
手を差し出すカヲル。その手に捕まりながら起きあがるレイ。
二人は闇に紛れて消えた。
シンジを探しに―――
「さっ、ついたわよ。じゃあ運ぼっか」
家についたミサト達はやっとのことででシンジを運びあげた。
客室のベッドの上に寝かせると、やっと一息つけた。
「これでよしっと。次は着替えね。(くすっ)」
ミサトが妖しく笑った。
「アスカも見たいでしょー」
「じょ、冗談じゃないわよ!」
赤い顔して出ていくアスカ。扉を乱暴に閉めた。
「ではさっそくぅー!!若い男の子〜!」
手際よく服を脱がしていくミサト。ずいぶん手慣れている。
貼りついていた上着を脱がせると、ミサトはシンジの身体をお湯に浸したタオルで丁寧にぬぐった。
「何よ、怪我なんてどこにもないじゃない。アスカったらもぅ。」
もちろんシンジの自己修復機能が細胞を活性化させたのだが、そんなことミサトは知る由もなかった。
「きっがえーきっがえー楽しいきっがえー」
下手な鼻歌を歌いながら、シンジの腕を洗おうと手を取ったその時だった。
「なっ!!」
思わずシンジの腕を握り締めるミサト。そこには焼き後手で「00」と押してあった。
「ミサトぉー、まだぁー?」
扉の向こうで声をかけるアスカ。ミサトは反射的にシンジの腕を隠した。
「も、もうちょっと待って」
「もぅー、早くしなさいよね!」
遠ざかっていく足音を聞いて、ミサトはほっと胸をなで下ろした。あわててシンジの体をぬれタオルで拭き、パジャマを着せる。
「ちょっと小さいけど、まぁいっか。あたしのだもんね。アスカー!終わったわよー!」
ドンガラガッシャーン
待ってましたと言わんばかりにアスカが扉を開けた。
扉の開け方一つにも人の個性がでる。ゆっくりと丁寧に開ける人、蹴り飛ばす人。
どうやらアスカは後者であった。ミサトに至ってはお尻で開ける始末である。
「で、傷どう?」
アスカが心配そうに尋ねた。
「何言ってるの。傷なんて何処にもなかったわよ」
「うそぉ!だって私見たもん!」
シンジに詰め寄ると強引にパジャマをめくった。
「傷が・・・ない・・・?」
しんじられないといった様子で、アスカが呆然とつぶやいた。
「アスカぁー、どうでもいいけどずいぶん大胆ねー。」
傍目から見れば、アスカが馬乗りになってシンジの服をはぎ取っている様にしか見えなかった。
「バッ、バカ言うんじゃないわよ!」
赤い顔したアスカが怒鳴った。
「ウウッ、」
突然シンジが目を開けた。
「あら、気がついたみたいよ!」
「・・・ここは・・・どこ・・・?」
まだ焦点が定まらないシンジがミサトに問いた。
「ここはあたしの家よ。昨日の夜は二人で燃えたわね〜」
「馬鹿なこと言ってんじゃないわよ」
アスカが睨んだ。
そんなアスカを無視して自己紹介するミサト。
「あたしは葛城ミサト。で、こっが・・・」
「惣流アスカよ!」
「・・・惣流アスカ・・・?」
その名前を聞いて、シンジの目が一瞬光った。アスカもミサトも気付かなかったが。
「そう。あんたは?」
「・・・シンジ・・・」
「ふーん。ちょっと、助けてあげたんだからお礼ぐらい言ったら?」
照れくさいのか、しきりに強くでようとするアスカだったが、それに対してシンジの反応は穏やかだった。
「・・・ありがとう・・・」
なんか調子が出ないアスカ。静けさが訪れた。
「・・・」
「・・・」
「・・・」
その間を破ったのもアスカだった。
「そういえばあんた、レイとカヲルってだれ?」
その言葉を聞いて、シンジが突然立ち上がろうとした。
「ウウッ・・・グッ。」
激痛がシンジの体を駆け抜けた。
「ちょっと、まだだめよ。傷はなくても体力は相当落ちているみたいだし・・・」
あわててシンジを押さえるミサト。アスカもそれに続く。
「そうよ。おばさんの言うとおりよ!」
「ちょっとぉー、その「おばさん」って言うの聞き捨てならないわねぇ。私、まだ29歳よ!!」
「ふんっ。四捨五入すれば30でしょ。立派なおばさんよ!」
「いったわねぇー」
体力が限界近く消耗している事を肌で感じ取ると、せめて居場所だけは確認しようと、残った精神力でレイとカヲルを探ろうと試みた。
しかし、シンジが疲れすぎているせいか、あるいはレイとカヲルが疲労しているせいか、結果は芳しくなかった。
「お・ば・さ・ん」
「きぃーこのぉ!」
シンジの体力は限界以上に失われており、またシンジのセンサーが何の危険もキャッチしないので、シンジは休むことにした。
ようやく不毛な争いをやめるアスカとミサト。時計を見るともう2時をすぎていた。
「シンジ君も疲れているみたいだし、もう寝ましょ。」
アスカの方を見るミサト。
「・・・ハァーイ」
渋々アスカが立ち上がる。そしてミサトがそれに続いた。
「アスカ・・・」
そのとたん、シンジがアスカに声をかけた。
「・・・アスカ・・・君はまだ惣流キョウコを恨んでいるんだろうか・・・」
アスカが絶句した。
『なぜこいつはママの事を知ってるの!?』
何か言いたそうな彼女を止めるミサト。
「お休み、シンジ君」
「・・・」
そして扉が閉められた。
残されたのはシンジ。
シンジには解らないことだらけだった。
なぜ彼女たちは僕を助けたんだろう?なぜ「おばさん」と言われて怒るのだろう?
思考のループは考えれば考えるほど解らなくなっていった。
「レイ・・・カヲル・・・」
シンジは静かに月を見上げていた。
レイとカヲルも同じ頃、第三公園のベンチで月を見ていた。
「きれい・・・」
疲れていて、おなかも空いていて、寒かったが二人は平気だった。
研究所では得られない自由が手に入り、そして何よりシンジが生きている。
『明日にはシンジさんと会える』
そう思えば何でも我慢できそうな気がしていた。
「お休み、レイ」
「お休みなさい」
穏やかな月明かりが二人を照らしていた。
午前3時。
扉を叩く音がした。
「シンジ君、まだ起きてる?」
あれから目が冴えてしまったシンジはずっと月に魅入っていた。
「はい・・・」
扉の外に立っていたのはミサトだった。
「悪いわね、こんな遅くに。でもどうしても聞きたいことがあったもんで」
「何でしょう・・・」
ベッドの側の椅子に腰掛けるミサト。しばらくの間、ミサトは無言でシンジを見つめていた。
「あなた何者?」
決心したようにミサトが口を開いた。
「・・・」
シンジは無言のまま俯く。
「言いたくなければいいのよ」
再び沈黙。
「・・・あなた行くところはあるの?」
シンジはやはり何も答えなかった。
「そう。じゃあ、もしよかったら私達と一緒にここに住まない?」
シンジがハッと顔を上げた。
それを見ながらミサトが続けた。
「私もアスカも多分あなたと同じ。だからあなたの過去は聞かないわ。もちろん話したければ話していいのよ。それで、あなたの心が少しでも楽になるなら」
それを扉の向こうで聞いていたアスカが部屋に入ってきた。
アスカも何も言わない。
「・・・何であんた、ママの事知ってるのよ・・・」
シンジは沈黙を保ったままだ。
「答えなさいよ!あんた何者!!」
アスカが怒鳴る。シンジは依然として無表情のまま、ただ座っていた。
「・・・君には聞く権利がある・・・だが、聞けば君は必ず後悔するだろう・・・それでも?・・・」
「構わないわ。私本当のことが知りたい。なぜママが私を殺そうとしたのか・・・その理由が・・・」
しばらく考えて決心したようにアスカを見るシンジ。
「セカンドインパクト、って知っているかい?」
シンジが重い口を開けた。
アスカは、突然なにわけのわからないことを聞いてんだろう、と思いつつも、さらりと答えた。
「ええ。約50年前に起こった巨大隕石の落下の事でしょ」
「表向きはそう。でもそれは政府とマスコミが垂れ流したガセネタ。
本当の原因は・・・」
シンジはそこでいったん口を切った。
「本当の原因は「大いなる神の怒り」だった・・・」
「神の怒り?」
「そう。最初から話そう。
そもそも、奢った科学者達がオホーツク海で、ある細胞を見つけたことが、悲劇の始まりだった。
その見つけられた細胞は、その当時、地球上に存在したすべての生きとし生ける物とは異なった物だった。どんなに熱反応を加えても死なず、寒さにも強かった。無菌室に入れても自分でエネルギーを作り出せ、物的な力にも強かった。
その細胞を科学者達は分析した。すると、17の遺伝子羅列を発見したんだ。科学者達はその細胞を「ベルカ細胞」と名付け、培養した。
その羅列はは人間に非常に近い遺伝子パターンを持っていたため、科学者達はその遺伝子の司令塔とでも言うべき一番と二番目に強い反応を持った羅列にアミノ酸などを足し、卵細胞を組み上げた。そしてそれらを溶液に入れ、育てた。
それはまさしく「禁断の果実」だった・・・」
アスカもミサトも何も言わなかった。驚愕の表情を浮かべながら、シンジの話に聞き入っていた。
「そして生まれた2つの生命体はそれぞれ「アダム」と「リリス」と呼ばれ、10年がたった。
2060年、科学者達はついに一生消えない罪を犯してしまう。
ある科学者が「アダム」と「リリス」の遺伝子を灰素子などと一緒に組み合わせ、より強大な生命体を創ろうとした。結果、二つの細胞が相互作用で膨れ上がり、大爆発が起きた・・・
それはまさしく、セカンドインパクトだった・・・」
「じゃあ、セカンドインパクトはその科学者のエゴのために?」
ミサトが声をやっと絞り出す。アスカに至っては無言のまま表情を止めていた。シンジは頷いた。
「しかし、それですべてが終わった訳じゃなかった。それから7年後、ある男が再び「禁断の果実」に毛を伸ばそうとしていた。
その男、碇ゲンドウは、密かに培養されたベルカ細胞を見つけだし、同じ事を繰り返した。世界中から一流の研究者達を呼び寄せ、17すべての羅列を培養した。生命体は「使徒」と呼ばれ、それぞれ天使の名前が付けられたんだ。
今度の男もより巨大な生命体を創ろうと企んだ。男は「アダム」と「リリス」の遺伝子を取ると、それを人間の遺伝子に限りなく似せて創りかえた。そうする事によって、「アダム」と「リリス」の力を封印することに成功した」
皆が無言だった。
「・・・で、私のママは?」
アスカが口を開く。
「・・・惣流博士は15年前、NERVという国際的組織のドイツ部署に勤めていた。その組織の総司令があの男、碇ゲンドウ・・・」
「うそよっ!」
アスカが叫んだ。
「ママが、ママが、」
「アスカ、落ち着きなさい!」
ミサトがアスカを押さえる。
「惣流キョウコはある時、ふとしたことでセカンドインパクトの本当の理由を知ってしまった。そして彼女は真実を知るため、一人娘のアスカと共に日本へ旅発った。 」
『こんな忌まわしい研究のために私はこれまで働いてきたと言うの・・・』
『このままでは、星が滅びる・・・』
「・・・日本で惣流キョウコはゲンドウに会い、真実を問いただした。裏切りをおそれたゲンドウは彼女とその娘にEVA因子を植え付けた。」
「EVA因子?」
「そう。EVA因子はベルカ細胞と共に発見された遺伝子達の一種で、人間の遺伝子と99。89%変わりません。
感覚が鋭くなったり、反応速度が上がったりしますが、基本的には大した影響はありません。
しかし、それを苦にした惣流キョウコは自殺し、アスカはゲンドウによって能力を封印され、捨てられた・・・」
「イヤアアアアア!!」
アスカが泣き叫ぶ。シンジはアスカをじっと見つめる。
「アスカ、おそれることは何もないんだよ。君は紛れもない人間なのだから。」
シンジが優しく告げた。
「封印は解けるの?」
シンジが首を横に振った。
「アスカが望まない限りは、永遠にこのままだ」
シンジが優しくアスカの背中をなでた。ミサトは呆然としていた。
「アスカは今までどうりの生活を送ればいいんだよ」
アスカが不安そうに顔を上げた。
「大丈夫。そのために僕はいるのだから・・・」
哀の天使、シンジがそっとつぶやいた。
「それで、どうしてあなたがそんなこと知っているの?」
ミサトが尋ねた。
「「アダム」と「リリス」の力を制御するために生まれた意志体は「天使」と呼ばれ、ゲンドウはそれを使って「神」になろうと企んだ・・・」
「僕がその無から生まれた最初の天使、第零天使です。」
シンジが悲しそうに言った。
それから二人は部屋を出た。
アスカは聞かされた事実に呆然としており、ミサトはミサトで考えていた。
また、シンジも悲しみにあふれていた。自分で自分を否定するシンジ。
『僕ハタダノ人形・・・』
長い夜が明けようとしていた。
VERSION 1.10
LAST UPDATE: 5/27/99
CARLOSです。 新「堕天使」第二章 冷たい真実、いかがでしたでしょうか? 再び今回は改訂版、ということなので、表現や言いまわしに若干手を加えました。 結構、初歩的な間違いなどが多数あって、赤面させられます。 それでは引き続き、第三章へどうぞ。 |