"Haud ignara mali, miseris succurrere disco."
私もつらい目にあわなかったわけではないので、不幸な人々を救済することを知っている。
ウェルギリウス「アイネーイス」第2巻第630行
"Tros, Tyriusve mihi nullo discrimkne agetur."
トロイア人であろうとテュロス人であろうと私には差別はない。
同書同巻第574行
第 三 章 能 力 者 T
午前四時。
その後、部屋に戻ったアスカは部屋に閉じこもってベッドの上に無言で座っていた。
ミサトが何か言ってたが、アスカは聞こえなかった。
『シンジが・・・』
『シンジが人間じゃない・・・』
泣かないと決めたはずの瞳から水晶のような涙がこぼれ落ちた。
奇妙なことに、今のアスカにはシンジの事の方が母親の死の真相より切実に感じられた。
幼い頃から愛情に飢えていたアスカ。ミサトでは与えられなかった安らぎのような何かを与えてくれたシンジ。
『ママを殺した物・・・シンジはそれを受け継ぐ者・・・』
暗闇の中で苦悩するアスカ。朝日はまだこなかった。
涙はただこぼれおちていった。
そのころミサトは一心不乱にデータベースを漁っていた。
『・・・セカンドインパクト、そしてNERV・・・』
次々とファイルを読み飛ばしていくミサト。
「NERVは表向きはセカンドインパクト後の復興を目的に設立された組織となっているのか・・・」
そして、次に碇ゲンドウのファイルにアクセスを試みた。しかしそれはMAGIによって開発されたセキュリティーシステムで完全プロテクトされていたため、進入できなかった。
「これはS級プロテクト・・・?ここまでして隠したい何かが・・・何かがあるのね・・・」
彼女は本能的にシンジの言葉を信じていた。ミサトは再びスクリーンに目を落とすとプロテクトを破ろうと試みた。
彼女は真実が知りたかった。
翌朝。
結局何もつかめなかったミサトが起きてみると、時計はまだ四時を指していた。
あくびをして立ち上がると、ミサトはシンジの様子を見ようと部屋を出た。
客間に行くミサト。そのドアは開いていた。
「シンジ君、起きたの?」
部屋には人気がなかった。壁にミサトの声だけがむなしく響いた。
「・・・」
きちんと畳まれた布団とシンジに貸して上げたパジャマ。かわりに、ボロボロだった血塗れの服が消えている。
その上には一枚の紙がおいてあった。
無言でそれを拾って読むミサト。
「あの子・・・」
ミサトは思わず手を覆った。手紙の上に、水滴が落ちてしみを作った。
「・・・!」
何かを決意したようにミサトは立ちあがった。
その書き置きを持ってアスカの部屋に向かう。
「アスカ!入るわよ!」
返事を待たずにドアを開けた。カーテンが閉じられた部屋でアスカが俯きながらベッドの上に座っていた。
「・・・」
アスカは何も言わなかった。それどころか、何の反応も示さず、ただジッと座ってた。
ミサトは黙って書き置きを渡した。
「アスカ、いつまでもうじうじしてんじゃないわよ!シンジ君出て行っちゃったわよ!」
アスカがハッと顔を上げた。しかし再び俯く。
「・・・だってあいつは人間じゃないから・・・それに私のママを・・・私も・・・」
その瞬間、ミサトがアスカの頬を叩いた。アスカは赤くなった頬を押さえながら下を向く。
「誰が人間だかなんて、誰が決めるのよ!!
ただ他の人と少し違う能力があるからって、人間じゃないって言えるの!!?
あんたも女だったらねぇ、真実は自分の目で確かめな!
あんたいいの、このままシンジ君行かせても!!」
「・・・」
アスカは沈黙のままだった。この時、ミサトがもう少し落ち着いて観察していれば、アスカが震えていた事に気付いたであろう。
しかし、ミサトは怒っていた。かぎりなく。
ミサトは自分とダブらせる事によってシンジの苦しみを分かろうとした。アスカにもそれができるはずだと、ミサトは願っていたのだった。
「アスカ・・・見損なったわ・・・」
感情を殺した冷たい声だった。ミサトは無言で部屋を出ていった。
ドアが閉じられ、アスカは重い沈黙の中に残された。
『・・・私…』
頬の痛みより心が痛かった。
『・・・私あんな事言うつもりじゃなかったのに・・・』
大いなる後悔の波がアスカを襲った。その手にはシンジの書き置きが乗せられていた。
それを手に取るアスカ。開いて読み始めた。
『アスカとミサトさんへ
幸せに生きてください。』
短い手紙、しかし、それは全てを語った。
「シンジ・・・」
嗚咽が漏れ、涙が止まらなかった。
『私はシンジが怖かったんじゃない。私は・・・私はきっと・・・』
シンジの書き置きの上に水滴が落ちる。涙で字がにじむ。
『・・・私は「私」が「私」でなくなることが怖かったんだ・・・』
再び書き置きに目を落とすアスカ。それを持つ手が小刻みに震えた。
『追伸: 全ての真実はあなたと共に。儚く脆い勇気を永遠に守り通して』
『勇気・・・私に足りなかったのはこれ。真実と直面する勇気・・・
でも、もう大丈夫・・・
ママ、私はもう大丈夫。
今ならこんなにも分かる。ママは私を愛してくれた。だからくるうほどに私を愛してくれる人がいる、それでもう大丈夫・・・』
次の瞬間、アスカは部屋を飛び出ていた。
部屋の前で立っていたミサト。その瞳は慈愛にあふれていた。
「ミサト、私・・・」
声がうまく出ないアスカ。涙で顔がグチャグチャだった。
そんなアスカにミサトが優しく語りかけた。
「アスカ、あなたもシンジ君も、そして私も同じなの。みんな心に深い傷を持ってる。だから、傷ついてる分だけ人に優しくなれる・・・」
何度も頷くアスカ。ミサトも泣いていた。
「みんな愛情に飢えている。みんな心が泣いている」
ただ頷くアスカ。ミサトの言葉が心にしみた。
「シンジ君は人一倍傷が深いわ。だからあれだけ優しくなれる。だから出ていった。あなたを傷つけないために・・・」
「うんうん」
心が浄化する。嘘と壁が消え、真実と本音がでた。
「ミサト、私・・・私、シンジに会いたい」
ミサトが頷いた。
「そうね、私も・・・じゃあ、行くわよ!」
「うんっ!!」
二人は綺麗だった。顔は涙で汚れ、服も皺だらけだったが、二人は美しかった。誰かのことを思うだけで、人はこんなにも美しくなれた。夜の闇はもう沈んでいた。
冷たい空気の中、シンジはミサトのマンションからそう遠くない林の中で一人たたずんでいた。
『ミサトさん、アスカ・・・どうかお元気で・・・』
きらきらと光が木の葉に反射し、小鳥が囀った。
「・・・レイとカヲルを探さなくては・・・」
体力がまだ回復していないため飛べないシンジはそうつぶやいた。
そしてゆっくりと歩き出す。一歩一歩、足取りを確かめながら。
レイとカヲルはまだ夢の中にいた。安らぎを感じる二人。その姿はまさに天使だった。
彼等は幸せの中にいた。しかしそれはつかの間の事でしか過ぎなかった。
疲れ果てたレイとカヲルには二つの蒼い目が彼等の方に向いているのに気がつかなかった。
旧東京都市
一九九九年に起こった不可解な爆発によって壊滅した旧首都。
原因は巨大な隕石の落下と報道されたが、真相は謎のままだった。
何か巨大な組織が隠蔽工作に走ったそうだが。
その後都市は封鎖され、密閉された。
「そうか、やっと天使達が現れたか・・・」
ある地下室の一室で不気味に男が微笑んだ。側には一人の少年が立っている。端整な顔立ちと深い蒼色の瞳が闇の中で光った。
「はい。たった今レイとカヲルを見つけました。ルシフェル様はおりません」
「そうか、おまえの、「戦車」の「影」に気付かないとは相当弱ってるな・・・よし、お前がいけ。ついでに「女帝」と「法王」を連れていけ。レイとカヲルは殺れ。ルシフェルはできるだけ殺すな。」
「ハッ」
その少年が手を振ると空間の歪みが開いた。その中に身を踊らせると少年の姿が消えた。
「ようやく時がきた。NERV、地上に降りた堕天使達・・・そして私のルシフェル。駒はそろった。後は・・・」
その表情からは何も読みとれなかった。朝日が上がったというのに、部屋は厚い闇の層で包まれていた。
レイとカヲルが反射的に目を覚ました。
「この感じは・・・しまった!レイ、逃げるんだ!」
駆け出す二人の前に突然穴があき、歪みの中から三つの影が飛び出してきた。
「こんにちは、天使諸君」
その中で一番背の高い青年が微笑みながら言った。
「あなたがレイ、そしてあなたがカヲルね!」
可憐な少女が天使達を指さした。
「フフッ。人形なのに名前が付いてるなんておかしい」
コロコロと鈴が鳴るような声で少女が笑った。
「いや、それは違うな。彼等は「肉」から生まれた未完成の人間。本当の人形は00だけさ。」
無表情な第三の男が少女を訂正した。
「カイ、ルシフェル様と呼べ!」
背の高い青年が鋭く叫んだ。
「シンジさんは人形じゃないわ!」
レイが怒鳴る。その間カヲルは状況を分析しようと目を閉じていた。
「あっ、ごめんごめん。まず自己紹介するわね。私は03『女帝』エリス。そしてこっちの背の高いのが07『戦車』ロキ。仏頂面なのが05『法王』カイよ!」
三人とも特徴的だったが、全員ブロンドの髪と金色の瞳を持っていた。
「君達には悪いが死んでもらうよ」
笑いながらロキが言った。
そのオーラが不気味にレイたちを取り囲んだ。
『まだ体力が回復してない・・・奇襲しかない!』
その瞬間カヲルが跳んだ。ATフィールドを展開させながらロキに突進した。
カヲルが両手を前に出すと一点に集められたATフィールドが衝撃波となってロキを襲った。
余裕でそれを避けるロキ。すると刃が軌道修正した。
「なにっ!」
驚くエリスとカイ。その隙をついてレイがATフィールドで真空光線を円上に作り、二人に飛ばした。
「リングスライサー?ATフィールドの形状は自由自在だという噂は本当だったのか!?」
テレポートで避ける二人。しかしその先にはカヲルがATフィールドを纏った拳で二人を攻撃した。
「ぐっ!」
縛炎が三人を襲った。
しかし煙がはれた後には三人の影も形もなかった。
驚愕の表情のレイ。カヲルは無言で立っていた。
「驚きましたよ。天使達もなかなかやりますね」
後ろを振り向くとロキが立っていた。続いてエリスとカイが現れる。服はぼろぼろだったが、体は無傷だった。
「あーあ。この服、先月買ったばっかりなのにぃー!」
エリスがぼやいた。
「まあまあ。僕が新しいの買ってあげるから機嫌なおして!」
「ホント!」
楽しそうにロキとエリスが笑う。それをレイとカヲルが見つめていた。
「余興はこれまでだ・・・」
その中でただ一人無表情を保っていたカイが口を開いた。
金色のオーラがカイを取り囲む。
レイは本能的に恐怖を感じていた。
『シンジさん助けて!!』
心が叫んだ。
「はっ!」
全身を「何か」がほとばしった。
「この感じは・・・しまった!レイとカヲルが危ない!」
その瞬間、シンジの体は消えていた。まさに光速の出来事を確認できた人はいなかった。
次の瞬間、シンジは第三公園にいた。
「シンジさん!」
カヲルが叫んだ。
「やっと来て下さいましたか、ルシフェル様。」
ロキが丁重に言った。
「改めて挨拶させていただきます。私はロキ」
「で、あたしがエリスよ!」
「・・・カイ・・・」
息を切らしながらシンジが三人を睨みつけた。
「そう邪険になさらないで下さい。私達はただマスターの名により、貴方をお迎えにきただけです」
ロキが微笑む。その微笑みには悪意は全く感じられなかった。
「シンジさんはあなた達とは行かないわ!」
レイが思わず怒鳴る。それをものともしないでロキが続けた。
「それでは困るのです。我々にはどうしても貴方の「失われた力」が必要なのです。あの計画を実行させるためにも・・・」
「あの計画?まさか・・・?」
驚愕の表情のシンジの目が見開く。
それには答えないロキ。只だじっとシンジを見つめている。
「・・・断る。君達はあの計画がどんな物だか知っているのか?あれは・・・」
「そうですか。ではやはり死んでいただきます。」
シンジには答えず、ロキが突然宙を舞った。外の二人がそれに続く。それぞれ金色のオーラを纏っている。
「エレメンタルパワー(原素力)?すると君達のマスターは?」
「ほぅ。俺達のパワーを知っているとはさすがはルシフェル」
カイが少し驚いたように言った。
「まさか!加持リョウジは君達にアレを埋め込んだのか。すると君達は人間!?」シンジは驚愕の表情で三人を見る。その眼差しには深い哀に満ちていた。
「キャハハ!人間ですって。笑わせないで。私達とあんな下等生物を一緒にしないで!私達は人間という殻を捨てて生まれ変わった新しい生命体よ!」
エリスが笑う。顔は笑っていたがその瞳には殺気が込められていた。
「死ね・・・」
突然カイが手を空にかざす。その手のひらにパワーを込めた。
「ハッ!いけない!レイ、カヲル、今すぐ飛べ!」
シンジが危険を感知して叫ぶ。レイとカヲルは敏速に動いたが、体力を限界以上に使い果たした彼等より、カイの方が一歩早かった。
「ガァァァァァァ」
カイの両手が交差する。それと共に空が「閉じて」行く。
「空間は閉じた。もう逃げられない・・・」
「クッ!」
シンジが舌打ちする。
「1km四方もの空間を閉じる能力者がいるとは・・・」
「当たり前だ。俺の属性は「空」。何人たりとも俺の結界は破れない」
封印された空間は能力者の意のままに動く。その空間からでるには本人が自分の意志で解くか、能力者を殺すしかない。
「死んでもらいます」
ロキの手から火炎の固まりが飛ぶ。火の粉が生き物のようにシンジ達を襲う。
咄嗟にATフィールドを張るシンジ。火炎がかき消されると同時にロキが特攻する。
「無敵のATフィールドか・・・厄介ですね」
そう言いながらもロキの口元には微笑が漂っていた。
ブンッ
ロキの炎が槍状に変化する。圧縮された火炎が互いに相乗効果を生みだす。
「これではどうですか?ハッ!」
軽い呼声と共に槍がシンジに向かって放たれる。
「なっ?」
ATフィールドを簡単に貫通していく槍を見てあわてて回避するシンジ。
「言い遅れましたが私の属性は「炎」、今の貴方のATフィールドなど無力です。」
シンジの額に冷たい汗が流れた。
レイとカヲルは苦戦していた。
力を使い果たして気絶したレイと残った僅かなエネルギーでレイを守るカヲル。
「じゃあ、あなた達は私が!」
エリスが小馬鹿にしたような顔でレイとカヲルを見た。
「灰になりなさい!!」
エリスの手が黄金に輝いたと思うと、巨大な電撃がほとばしった。
カヲルは無言でレイを自分のフィールドに入れると青空に舞った。
「あまいな・・・」
空中で待機していたカイが圧縮された空間をたたきつけた。
「アァァァァァ!!」
吹っ飛ぶカヲルとレイ。そこに容赦なく電撃が飛んでくる。
「くっ!」
レイに覆い被さるカヲル。電撃はフィールドを貫きカヲルに直撃した。
「・・・!!・・・」
声にならない悲鳴。何かが焦げたような異臭が鼻についた。
ロキは次々と火炎の波をシンジに向かって飛ばしていた。
『おかしい・・・?』
ロキは考えていた。
『ルシフェルの力はこんな物ではないはず・・・とすると・・・』
必死にフィールドで防御を試みるシンジ。しかし効き目はなかった。
ロキの力は使徒級。たった一つの違いはロキは紛れもない人間だという事だった。
「ルシフェル様、貴方は優しい方です・・・
貴方はそんなに人間が大事ですか?なぜ貴方は愚かで無知な生き物のためにそこまでするのです?」
ロキには分からなかった。アダムの力を使えばロキなど敵ではなかった。だがシンジは自分自身に制御をかけていた。
「僕は人は殺さない。人は愚かではない。人は愛する心を持った・・・」
「・・?!!」
そこまで言うとロキがシンジを遮った。彼の黄金の瞳が血走った。
「黙れ!人が愛する心を持っただと?私は生まれてすぐ母親に殺されかけた。その後、孤児院で豚箱のような暮らしを送ってきた。私を見る人すべてが私を拒絶した。そんな人間どもが愛する心を持っているだと?笑わせるな!!」
最大級の縛炎がシンジを襲う。吹っ飛ばされるシンジ。
「ルシフェル、お前は私が人間だから殺さないのか。愚かな・・・所詮は堕天使、クズと同じか!」
「違う、ロキ。君も今に分かるよ。君を今に・・・」
「ガァァァァァァ!!!!」
そう言ったとたんカヲルの絶叫が空に響いた。
「カヲルー!!」
助けに行こうとするシンジを遮るロキ。
「お前の相手は私だ!」
「退きなさい、ロキ。さもないと僕は・・・」
震えるシンジの手。しかしロキはそれに気付かない。
「アァァァァァ!!」
再びカヲルの悲痛の叫びが聞こえた。
その瞬間シンジはロキを圧倒的なATフィールドで吹き飛ばし、空を蹴ってカヲルのもとへ向かった。
「カヲル!レイ!!無事か!」
カヲルとレイの元に駆け寄るシンジ。
「シンジさん、すみません・・・」
弱々しく口を開くカヲル。その顔にシンジの涙がこぼれ落ちた。
「ホゥ。さすがは天使。あれだけの電撃を受けても灰にならんとわ・・・」
カイがつぶやく。エリスはどことなく不満そうだ。
レイとカヲルはもう虫の息だった。特にカヲルの方は全身が焼け焦げていて、生きているのが不思議なくらいだった。
「お前達、許さないよ!」
その瞬間シンジの中で何かが融けた。悲しいアダムの力が再びよみがえった。
ロキは寒気を感じていた。
『バカな・・・アダムの力はこれほどまでに・・・』
シンジがATフィールドをレイとカヲルの回りに張る。それに向かってロキが火炎を飛ばした。
シンジも負けずとフィールドを飛ばす。紅の縛炎と真空の刃が激突して衝撃波が生まれた。
「火炎をはじき飛ばした!?バカな?!」
隙を与えずにシンジが三人に向かって蓄積されたATフィールドで作った波動を飛ばした。
「キャァァァァァ!!」
エリスが吹っ飛ぶ。助けに向かうカイの腹にシンジの作った刃が突き刺さる。
「グフッ!」
血を吐いてカイが倒れた。
爆発的な威力で膨れ上がるシンジのATフィールド。しかもその威力は絶大だった。
『ロキ、このままだと結界の許容量を越える。どうする!』
テレパスでカイがロキに話しかける。その表情は青ざめていた。
『・・・』
ロキは何も答えない。いや、答えられないと言った方が正しかった。
結界が破れる直前にシンジが止まった。
静けさが訪れる。
大気の震えが収まった。
「ウォォォォォォォォォ!!」
次の瞬間、膨れ上がったATフィールドを三人に叩きつけた。
「ギャァァァァ!!!」
絶叫。悲鳴。そして血。
すさまじい波動が相乗効果を生みだし、大気が歪んだ。
後には屍のような哀れな「入れ物」が残った。
『カヲル!カヲル!』
『レ、レイ?無事だった?』
『うん。カヲルが、そしてシンジさんが助けてくれたから』
精神で通話する二人。まだ動けないまでも、シンジのATフィールドのおかげでだいぶ痛みが和らいでいた。
『カヲル、このままだとシンジさんあの人達殺しちゃう。そしたらシンジさん絶対後悔する』
『大丈夫。今のシンジさんはアダムの力を完全にコントロールしている。結界が壊れなかったのもそのおかげだよ』
事実、三人はまだかろうじて生きていた。「生かされていた」と言った方が正しかった。
シンジは悲しかった。身体が、そして心が痛かった。
三人の方に駆け寄るシンジ。その瞳から敵意はもはや消えていた。
「ルシフェル、なぜ貴様のような堕天使がこれほどまでの力を・・・」
カイが苦しげにつぶやいた。
「カイ、ロキ、そしてエリス・・・君達も僕と同じなんだね。殺らなきゃ殺やられる。何処まで逃げても追ってくる・・・」
「その通りだ」
背後から低い声がして振り向くシンジ。そこにはカイの結界を物ともしないで進入してきた男がいた。
「お前は・・・」
「久しぶりだな、私のルシフェル・・・」
「加持リョウジ・・・」
長い黒髪を後ろで束ねているその男は加持リョウジ。
七年前NERVを裏切り、行方不明になった男だった。
VERSION 1.10
LAST UPDATE: 8/02/99
CARLOSです。 「堕天使」第三章 能力者I、をお届けしましたが、いかがでしたでしょうか? つづいて、どうぞぉ〜 |