S i n g my angel, sing !
T h y voice holy as that of the ledgend
I t trembles the earth, moon, and eternity.
I t s vibration deathlessセ hymn of beauty
C o l o r of valour, image of compassion,
F r e e thyself from perfection!
A n d stain thy heart with sorrow
R e a l i z a t i o n of boredom, creation of illusion
W h i c h is thy sin, thy sin of presence.
第 四 章 能 力 者 U
「さあ時は満ちた。今こそ私の元へ・・・」
男は笑った。その深い漆黒の瞳がシンジを真正面から見つめ、語りかけた。
「・・・お前はまだあの計画を実行しようとしているのか・・・?
「そうだ。碇などに人類の補充ができるはずがない。私こそが相応しい、選ばれた者なのだ・・・」
加持は震えていた。
その声は驚喜と自信に満ちたあふれていた。
「愚かな・・・」
「なに!?」
男の目が血走る。
「人間が神になろうなど、愚かな考えだ・・・」
「愚かなのは人間の方だ。お互いを殺し、憎しみあい、そして裏切る。罪にまみれた人間達を殺すことの何が悪い!!」
一部始終を見ていたレイとカヲルには何が何だか分からなかった。
『アノ計画?人間達を殺ス?コノ男ハ何ヲ知ッテイルノ?』
「お前達だってその犠牲者だろう!薄汚い人間どもに命までも作りかえられて!」
「違う、それは違うよ。人は完全ではない。でも人は人のために泣いてくれる。人は人のために傷ついてくれる。人は人を愛してくれる・・・
それに・・・」
シンジは振り向いてレイとカヲルを見た。そして再び視線を男に戻して力強く言った。
「それに、少なくとも僕は後悔してない・・・こうして生まれてきたこと、レイやカヲルに出会えたこと、アスカやミサトさんに出会えたこと・・・」
「ルシフェルよ。お前のような人形に何が分かる。お前のような堕天使に・・・いや・・・」
大気が変わった。その変化を感じ取った素早く感じ取った加持が突然口をつぐんだ。
「・・・カイの結界が微弱になっている。どうやらNERVがここを嗅ぎつけたらしい。
改めて出直そう、ルシフェル。私の天使よ、私はお前を誰よりも愛しているよ。」
そう言うと加持は姿を消した。続いて横たわっていた三人が消えた。
「レイ!カヲル!」
レイとカヲルのほうに素早く歩み寄ると、シンジはすぐさま容態を調べた。
「クッ・・・」
レイは体力を使い果たして昏睡状態。しかし、命に別状がないのが何よりの幸いだった。
「・・・!」
問題はカヲルだった。
自己再生機能はあまりの過負荷に停止。
『このままだと皮膚呼吸できなくて死ぬ』
20箇所以上の骨折。皮膚の7割は焼け焦げていて、おまけに内臓が破裂していた。
「シ・・・ジさん・・・」
カヲルが意識を取り戻し、声を振り絞った。
「・・・シンジさん・・・僕はあなたに、そしてレイに出会えて・・・・やっと「生」を感じたようなきがします・・・」
カヲルが喋るたんびに口から血が噴き出て、地面を朱色に濡らした。
「カヲル、もう喋らないで・・・」
しかし、カヲルは喋るのをやめなかった。カヲルは知っていた。もう自分の体がもたないことを、「生」が「無」にかえるのだと言う事を。
「『死』は恐くない・・・
恐いのは、「僕」と言う存在が忘れられてしまうこと・・・
まるで初めから居なかったみたいに・・・」
「わかってるよ、カヲル。だから黙って・・・」
「・・・シンジさん。僕のこと、忘レナイデ・・・」
そう言って、カヲルは静かに微笑んだ。
一滴の涙がカヲルの頬を濡らし、顔を抱いていたシンジの手に温かみが伝わった。
「カ・ヲ・ル」
焼け焦げた死体。
そんなカヲルを愛おしそうにシンジは抱きしめた。
「カヲル、死なせはしないよ」
シンジはレイのほうを振り向いた。意識がないレイを見ながら、シンジは静かにささやいた。
「大丈夫、すぐ治してあげるからね」
シンジはカヲルの口に自分の唇を付けた。
すると、淡く、柔らかな光がカヲルを包んだ。
・
・
『大丈夫ダヨ、カヲル・・・守ルッテ言ッタダロウ・・・』
・
・
シンジは自分の残された生命エネルギーをカヲルに直に送り込んでいた。
黄金の体液がシンジの口からほとばしるようにカヲルの口へと流れていった。
しばらくすると、カヲルの頬に赤みが差してきた。焼け焦げた皮膚がはがれ落ち、活性化された細胞が新たな皮膚を作る。
それとは両極端に、シンジの顔色はどんどん青ざめていった。
それでも、シンジはエネルギーを送り続けた。
やがて心臓が動きだし、カヲルが目を覚ました。
「・・・シンジ・・・さん・・・?」
しんじられない、と言った面持ちでカヲルが目を開けた。
「カヲル、良かった・・・」
必要以上にエネルギーを使ったシンジの体はすでに冷たくなっていた。それでも、青白い顔でシンジは無理やり微笑を作った。
「カヲル、レイをお願い。」
必死に微笑むシンジ。それを見て、全てを理解したカヲルは泣き出してしまった。
「シンジさん、どうして・・・」
シンジは最後の力で指先でカヲルの涙をぬぐった。シンジは何も言わなかった。その穏やかな瞳がすべてを語る。
『僕のために泣いてくれて・・・ありがとう・・・』
「・・・カヲル・・・人間にしてあげる約束、守れなくてごめんね・・・どうか幸せに・・・」
「シンジさん、行かないで!!」
首を横に振るシンジ。
「さあ、行って・・・もう後数分でNERVの追っ手がここにくる。その前に行くんだ。今なら『飛べ』る・・・」
それだけ言うとシンジは目を閉じた。
『・・・愛シテルヨ、僕ノ天使達・・・アイシテル・・・』
『サ・ヨ・ナ・ラ』
カヲルは叫んだ、いつまでも。
この悲劇をレイが知るのはそれから数分の事だった。
レイは黙って泣いた。
身体が凍えるように寒かった。
「ミサトっ!なにか聞こえたわ。第三公園の方よ!!」
さっきからシンジを探そうとアスカとミサトは必死にあたりを探索していた。
街中を駆けずり回ったがその気配すら感じられなかった。
ほぼ絶望的になったその時、アスカが急に何かを感じとったのだ。
『この感じ...シンジだ!!』
このとき、アスカの探知能力は常人を超えたものになっていた。
封印されたはずの忌まわしき能力がシンジとの交流で微弱になっていたためだった。
『シンジ・・・』
しかし、今のアスカにそんな事はどうだって良かった。
「行ぃっくわよー!!しっかりつかまってんのよ!!」
ミサトのフェラーリが唸った。
「碇、諜報部第二部隊からたった今、天使達を見つけたという情報が。どうする?」
NERVの司令室で二人の男が立っている。
「・・・ほおっておけ」
「何だと?」
「ほおっておけと言ったんだ」
「みすみす逃すのか?00は仮死状態にあるそうだぞ。早く蘇生させないと計画がつぶれるぞ」
「問題ない。いざとなれば00の中に埋めた「あれ」が目覚めるだろう。何しろ00は神々に最も愛された愛児なのだからな」
「・・・これもシナリオどうりか?」
「イレギュラーだ。堕天使共はしばらく泳がせておく。そして・・・」
碇ゲンドウが笑った。
「シンジ!!シンジよ!!ミサト、止めてっ!」
そう言う前からブレーキペダルを踏むアスカ。ミサトの足が潰れる。
爆音と共に、車が横滑りしつつも停止した。
「キャ!もう、アスカ、痛いじゃない!」
足をさするミサトを尻目に一目さんで駆けていくアスカ。
『シンジ・・・シンジ!』
必死に走るアスカ。その目には涙が浮かんでいる。
『シンジ・・・私・・・』
一方、アスカの足音に気付いたレイとカヲルは瞬時に身をこわばらせていた。
『レイ、逃げろ!今なら飛べる!』
『いやよ。シンジさん残して行けない!』
そう言ってる間にアスカが走って来た。
「ハァ、ハァ・・・シンジ!」
そのシンジの姿を、信じられないと言った様子で見るアスカ。
「シンジ!?嘘!!」
アスカは横たわっているシンジにむしゃぼりついた。
「シンジ!目を開けて!」
おもわずシンジを揺さぶろう手を伸ばした瞬間、その手をレイがはたいた。
「あなた・・・ダレ?」
レイが厳しい目で問う。手を前に出してATフィールドを張ろうとする。
「やめるんだ、レイ。この子、EVA因子を持っている。このパターンは・・・・おそらく惣流キョウコの娘だ・・・」
カヲルがレイを制した。今度はアスカがカヲルを睨み付けた。
「あんたがレイとカヲル?じゃあシンジが言ってたのはあんた達の事ね!?」
続いてミサトが小走りでやってくる。
「遅れてゴメーン。シンちゃんは?・・・エッ!!?」
ミサトがシンジの元に駆け寄った。そして、手馴れた様子で脈拍と心音を確認した。
「心臓が止まってる・・・でも瞳孔はまだ開いてないわね。仮死状態か・・・」
「ちょっと、ミサト!どうなのよ!」
「とりあえず家まで運ぶわ。手伝って」
そう言って、ミサトはレイとカヲルを見た。
「あなた達も一緒に来なさい。できる限りの事はするわ・・・」
『カヲル、この人達信用できる?』
『たぶん大丈夫だ。シンジさんを知っているようだし・・・少なくとも悪意は感じない。それにシンジさんをこのままにしておくわけにはいかない。』
テレパスで意思をかわすと、レイとカヲルは同時に頷いた。
「決まりのようね。じゃあ、さっさとずらかるわよ!」
一同がミサトのフェラーリにのると、一目散でその場を去った。
出発すると同時に、レイとカヲルは眠りについていた。邪気がないのを確認した後、限界以上に消費された体力を回復するため泥のように眠っていた。
「・・・ねぇ、ミサト」
穏やかな寝息の中アスカが切り出した。
「んっ?」
「私、思ったの。ママは可哀相な人だったんだって・・・」
「・・・」
ミサトは何も言わずに、ただ耳を傾けていた。
「シンジが言ったの。ママは私を愛していたんだって。私、ようやく分かったような気がする」
ミサトが微笑んだ。
「私は愛されていたって・・・」
「私はね、今、すごく幸せなんだって・・・」
言いなれない恥ずかしさで顔を赤くしたアスカが横を向いた。ミサトはその姿に少し笑った。
しばらくの間、静寂が訪れた。
「・・・アスカ、私許せないわ。」
今度はミサトから切り出した。
「あの子達、あんなに傷ついる・・・あんなに愛に飢えている・・・お互い、傷の舐めあいしてる子犬のよう・・・」
ミサトの声は穏やかだったが、静かな怒りが込められていた。
「私も幼い頃虐待され続けて生きてきたの。アスカも知ってるでしょう。
だからあの子達の苦しみが、たとえ少しでも、分かる気がする・・・アスカも、ね・・・」
「うん・・・」
再び無言。そんな中レイの寝言が聞こえた。
「シンジさん・・・私をおいていかないで・・・」
細く、儚い声だった。その目には一筋の涙が流れていた。
その後、誰も何も言わなかった。
家に付いたミサト達。カヲルがレイを起した。
みんなでシンジを運ぶと、ベッドの上にゆっくりと寝かせた。
「シンジさん・・・」
そのまま貼りつくようにベッドの前から離れないレイとカヲル。その姿を見たミサトが布団を持ってきた。
「アスカ、今はそっとしてあげましょう。」
アスカは無言でうなづくと、黙って出ていった。
後には傷ついた哀れな天使達が残った。
一週間がたった。
シンジは相変わらず目覚めなかった。
動かない心臓。開かない瞳。
カヲルとレイも半分死んだような生活を送っていた。
レイに至っては泣いては眠り、起きては泣き、という半病人的な毎日だった。
アスカが心を込めて作った食べ物も、ほんの少し手を付けただけですぐ残していた。
カヲルはカヲルで人形の様に表情を止め、座り込んで動かなかった。
ミサトもアスカも何も言えなかった。
自分とは明らかに違う過去を持った天使達。
そんな彼らにかけられる言葉は「何ひとつ」なかった。
「このままだとシンジさんの体が壊れてしまう・・・」
あれから二週間がたった日の深夜、カヲルが静かにつぶやいた。
シンジの体は生体機能が働いていないため、徐々に衰えを見せ始めていた。
「何?」
その時だった。
シンジの体が急に金色に光りだした。黄金の光がシンジの体を取り囲む。シンジの銀色の髪が濃い黄金に変わっていった。
「馬鹿な・・・エネルギー反応は全くなかったのに・・・」
傲然と呟くカヲル。ただジッと光景を見いっていた。
やがてその光が繭のようにシンジを完全に包み込んだ。どこからともなく、純白の羽がパラパラと落ちてきた。
「シンジさん・・・?」
その光で眠っていたレイまでが起きてくる。
「シンジさん!!」
あわててアスカ、ミサトがそれに続いた。
「シンジ!」
「シンちゃん!」
そして光がやんだ。
髪が元の色に戻り、倒れるシンジ。あわててレイが支えた。
「シンジさん!」
シンジはゆっくりと目を開けた。
「・・・レイ」
弱々しく口を開けるシンジ。
「シンジさん!」
レイの頬に大粒の涙が流れる。暖かい涙だった。
呆然としていたカヲルがフッと我にかえって、あわててシンジに抱きつく様に寄り添った。
「シンジさん!」
「・・・カヲル」
微笑むシンジ。泣き出すカヲルを優しくなでた。
アスカもミサトも泣いていた。
「よかった、本当によかった・・・」
それは天使の生還だった。
シンジはそれからみるみるうちに回復した。
レイとカヲル、そしてアスカはフル回転でシンジの看病をし、ミサトはその光景を微笑ましく眺めていた。(手にビールの缶を持ちながら)
そして、ようやく全回復したとき、シンジはうかんでくる喜びを隠さずに素直に言った。
「レイ、カヲル、そしてアスカにミサトさん・・・本当にありがとうございます・・・お礼の言葉もありません・・・」
「いいのよシンちゃん。無事で本当に良かったわ」
ミサトは心からそう思っていた。
「ホントにあんたって馬鹿なんだから。フンッ。」
口調はきつかったが、その泣きはらした目は笑っていた。
「そうだ!シンちゃん、お風呂に入りなさい。ちょうどいい具合に沸かしておいたわ!」
ミサトが突然思いついたように言った。
「オフロ?知ってます。体を清めるところ。でも、入るのは初めて・・・」
「そう?じゃあこっち来て。」
ミサトがシンジをお風呂場に連れていく。アスカ、レイ、そしてカヲルがそれに続いた。
「ここで体を洗って、湯船に浸かるの。そこにある石鹸とか使っていいからねぇん」
「ハ、ハイ」
真剣そうな眼差しで頷くシンジ。それを見てミサトが微笑む。
「じゃあ、一生懸命入ってみます。レイとカヲルも一緒に入ろうか?」
シンジがレイとカヲルの方を向く。
「ウン」
「はい」
レイとカヲルがそれぞれ嬉しそうに頷く。それを見ていたアスカが慌てた。
「ダ、ダメよ!カヲルはともかくレイも一緒だなんて!」
「何で?」
素朴な疑問をぶつけるシンジ。
「何でって・・・とにかく駄目なの!分かった!?」
「うん?」
あまりの剣幕に思わず頷くシンジ。
「私、シンジさんと一緒がいい・・・どうしてダメなの・・・」
レイがボソッと呟いた。そんなレイをシンジが困ったように見た。
「レイ、アスカの言う通りにしよう。「オフロ」とはソウいうものなんだよ」
「イヤ・・・」
譲らないレイ。アスカがキレル。
「アー!もう、ダメなもんはダメなの!!。あんたとは私が一緒に入ってあげる。それでいいわね!?」
「・・・イヤ・・・」
「・・・イ・イ・ワ・ネ!!?」
その迫力にまけてかシンジの訴えるような目に負けたか、とにかく不精不精頷くレイ。
「ハイハイ。じゃあ、シンちゃんとカヲル君どうぞ!」
ミサトがそう言って二人分のタオルと着替えを渡す。今回はちゃんと新品の男物パジャマが用意されていた。
出ていくミサト、アスカ、そして名残惜しそうなレイ。
「じゃあ入ろっか?」
「はい!」
嬉しそうにカヲルが答えた。
ゆっくりと幸せな時間が流れていった。
「シンジさん・・・?」
深夜。
客室で三人仲良く寝ていた天使達だったが、カヲルがふと目を覚ますとシンジの姿がいなくなっていた。
気配をたどりながら部屋を出ると、ベランダにシンジがたたずんでいた。
「シンジさん」
シンジがゆっくりと振り向いた。
「カヲル。起こしちゃったかい?」
シンジが優しく尋ねる。カヲルはふるふると首を横に振った。
「いいえ。何をしているんですか?」
「目が冴えちゃってね・・・」
しばらく静寂が流れた。月の明かりが二人を照らした。
「・・・教えてもらえませんか?NERVの事、この前の事」
シンジは答えなかった。ただジッと月を見ている。
「月が綺麗だね・・・」
シンジが静かに呟く。
「とても、とても綺麗だ・・・」
さわやかな空気がカヲルの鼻をかすめた。
「カヲル、いつかは言わなきゃいけないと思っていたんだ。でもこんなにすぐになるとは」
シンジは淡々と話しだした。カヲルは黙って聞いていた。
「NERVがセカンドインパクト後の世界を復旧するために作られた組織だというのは知っているね」
「はい」
「彼らは失われたベルカの力を使い、使徒達、そして僕たち天使を作った。『きたるべく災害』に備えて」
「『きたるべく災害』?
「サード・インパクト。世界浄化の為の絶対なる破壊・・・このため、碇ゲンドウを始めとした一部の人間は「神」になろうとした・・・」
「カミ?」
シンジが頷いた。
「そう。そのために彼らは力を欲した。人類の大半も抹殺し、人々を浄化できる力を。「アダム」と「リリス」を。
・・・それがG計画」
「G計画・・・」
カヲルが呟いた。
「僕はそのために生みだされた最強の有機生命体、第零天使。全ての生を殺せる殺戮の機械。
そのためのこのボディは先程、完全に発動した。
今のこの体には死んだ心臓の代わりに光球(コア)が活動している・・・」
「・・・」
カヲルは呆然としたままシンジに見入っていた。
そんなカヲルにシンジが優しく語る。
「カヲル、君とレイは違う。君達のボディは人間の物そのものだ。埋め込まれたチップさえ取れば、人間に戻れるんだよ」
「シンジさん・・・」
ひたすらカヲルを気付かおうとするシンジの心がカヲルには痛々しかった。
「だから、いつの日か君達の中に埋め込まれた物がとれる日まで、
それまで僕が君達を守るよ。それが僕の役目、僕がこの世に存在する理由・・・」
『デモシンジサンハ・・・?』
その質問はできなかった。カヲルは急に泣き出してしまった。しみこむ様なシンジの言葉がカヲルの傷ついた心を癒し、そして傷つけた。
「ごめんね、カヲル。今まで黙っていて。でも僕は・・・」
一筋の涙が流れた。
『たとえふりでも僕は人間でいたかった。僕の罪にまみれた正体を知られたくなかった』
一番知られたくない人に隠された秘密を知られたシンジ。
「シンジさん・・・」
カヲルがシンジの頭を抱きしめた。
「たとえあなたが誰であろうと、僕やレイにとってはあなたが一番大切な人、そして唯一の『人間』です・・・」
カヲルの心にシンジの深い苦悩と悲しみの片鱗が流れ込んだような気がした。
『僕にできるのはせめてこれだけ、だからずっとあなたのそばに居ます。永遠に・・・』
シンジは微笑んでいった。
『アリガトウ』
「・・・でも話はそれだけでは終わらなかった。「神」になろうとしたのは碇ゲンドウだけではなかったんだ」
「えっ?」
顔を上げるカヲル。
「それが加持リョウジだ。
彼はちょっと前までNERVの人間だったんだ。それも特級諜報員の権限を与えられた。
だがある事件をきっかけに失踪した。ベルカと共に発見されたエレメンタルチップと共にね」
「エレメンタルチップ?」
「エレメンタルチップとはその名の通り原素の力のこだ。
全部で22個あったんだけど、7個はバイオ実験に失敗して消滅。そして3つは行方不明。加持リョウジは、残りの12個を持ち去った。
おそらく、彼はそのチップを精神力の強い子供達に埋めたんだろう。
あのエレメンタルチップ・・・早く除去しないと、エレメンタルが寄生して取り返しのないことになってしまう・・・」
シンジが辛そうに言った。
カヲルにはまだまだ聞きたいことが沢山あった。ルシフェルの事。失われた力の事。でも聞けなかった。今のシンジを傷つけるようで聞けなかった。
「・・・」
再び沈黙。
「カヲル、僕が今言えるのはこれだけだ・・・」
噛んで含めるような言い方で話しかける。カヲルは頷いた。
『カヲル。すべてを知ったら君は・・・』
そんな考えを、心の中で打ち消して、シンジは静かに微笑んだ。
「ありがとう」
シンジはただ優しかった。その傷ついた心には他人をいたわる包容力にあふれていた。
「・・・カヲル、これからのことなんだけど・・・」
シンジが言いづらそうに切り出した。それを、全てお見通し、と言うように頷くカヲル。
「分かっています。出ていくのでしょう?ここにいたら、あのアスカという子を刺激するから」
カヲルにはシンジの気持ちがよく分かっていた。シンジは、天使の力がアスカの封印を触発する事を恐れている。その事を。
「ウン・・・」
シンジは黙って空を見上げた。
「・・・本当に綺麗な夜だね・・・」
「・・・はい」
月が雲に隠れた。
VERSION 1.10
LAST UPDATE:8/01/99
CARLOSです。 「堕天使」第四章 能力者U、をお届けしましたが、いかがでしたでしょうか? 結構加筆・修正しましたが、どうでしょう?読みやすく、分かりやすくなりましたでしょうか? それでは引き続き、第五章へどうぞ。 |