Under the cold asphalt
Life! Its presence so holy, yet so strong
Growing, maturing, nurturing.
being the tiniest part of the great circle of life.
そして全てを感じて・・・
第 七 章 完 全 な 真 空
シンジとアスカはその頃、第一研究所にいた。辺りに人気は、全くと言っていいほど感じられない。
冷たい打ちっぱなしの壁が緊張感と圧迫感を盛り上げる。
「誰もいないのね・・・」
アスカはあたりを見まわしてぽつりと言った。
『罠?でも、それならそれで好都合。』
シンジはアスカの手を握ると、一気に加速した。
地下七階まで駆け抜ける二人。それはまさに神速だった。
ちょうど七回目の階段を駆け下りたときだった。
「シンジ!あそこ!」
そう言うアスカが指さす前には、NERVマークが大きくプリントされた厚い扉があった。
セキュリティーロックが組み込まれている。
すぐにアスカがなにやら手帳を取り出して照合する。
「見た目はアナログ式ってとこね。でもいろいろ回線をいじってそう。どうする?」
そんなアスカの問いかけに、無言で対応するシンジ。黙って手を前に突き出す。
「・・・!!」
軽い呼声と共に衝撃波が生まれる。
的確に扉の留め金だけを狙ったその刃は四方に飛んで穴をあけた。
一瞬にして灰になる扉。警報が鳴る隙も与えない。所詮、「人」の作った物など天使の前では無力だった。
そんな中を、平然とシンジが駆けていく。
彼は急いでいた。
NERVのジャミングによって鈍っているシンジの探知能力だが、それでも先程から感じる邪気にシンジは気付いていた。
『この気は多分、能力者だ・・・レイ・・・カヲル・・・』
バン
それから数枚の扉を同様に蹴破ると、第一研究所に着いた。
青白い看板が目に付く。
あくまでも人気が感じられない部屋は、不気味なまでに静かだった。
「静かね。誰もいないのかしら?」
アスカが首を傾げる。シンジは一目散にMAGIの前に座るとデータを探し出す。
「アスカ、君はジャミング・プログラムを流しておいて。昨夜、カヲルがくんだ特製版だ。これならたぶん、五分は持つだろう。僕はその間にデータを探す。」
そう言いながらアスカに数枚のMDを渡すシンジ。急ごしらえだが、高度な技術を要するものだった。
それを受け取り、NERVのネットワークに流すアスカ。ついでに、独自の隠し味を加える。
「えぇーっと、火事と地震。どっちにしようかなぁー。」
セキュリティーシステムにハッキングするアスカ。防犯プログラムなどをオフにし、ついでに火災装置なども電源を切っておく。
コンピューターの第一人者といったのは、伊達ではなかった。
「これで良し!後は、非常ベルも消しちゃいましょう。」
ボン
一瞬、モニターが黒くなった。しばらくしてまたつく。
作業が終わったアスカが振り返ると、そこには次々とファイルを読み飛ばしていくシンジの姿があった。その額には、汗が浮かんでいた。
目的のファイルがなかなか見つからなく、焦るシンジ。そんなシンジを黙って見つめていたアスカが急に何かを打ち出した。
「シンジ、ちょっと」
アスカがモニターを指さす。その先には「第一研究室」と証されたファイルが二十ほど並んでいた。
「さっき、セキュリティーにハックしてる時に、変なものを見つけたの」
マウスを忙しく動かすアスカ。
「ここ見て、「第一研究室」のファイルの容量は二ギガを越えているわ。でもこれらのファイル達を合わせてもせいぜい五十メガしかないのよ」
神妙にモニターに見入るシンジ。
「ダミーだな。ちょっと退いて・・・」
場所を変わったシンジが、忙しく画面をスクロールする。
「どこかに隠しファイルがあるはず・・・アスカ、ちょっと、さっきのMD貸して」
黙ってディスクを渡すアスカ。それをドライヴに荒々しく入れた。
「シンジ、何これ?」
「このプログラムはシークレットファイルを見つけだす、いわば「ピーピングトム」さ。昨日、あのジャミングプログラムと一緒にカヲルが作ってくれたんだ」
アスカは顔にこそ出さなかったが、内心とても驚いていた。
『・・・』
その知識は人の域を越えていた。短時間であれだけの物を作るのは、熟練したプログラマーでも困難なはず、いや不可能だった。しかも、たかが大学の設備で。そんなうちにカヲルの組み上げたプログラムが作動していく。
SEARCHING FILE - DONE 1 hidden
file(s) found |
「あれ?名前がない?ねぇ、シンジ。このコードの「G」ってなに?」
「G・・・」
神妙なおもむきのシンジ。急いでファイルを開ける。
ACCESSING
FILE - START CCOMMAND: RUN_ _ _ _ |
ファイルを開けてみると、そこには巨大な数のサブファイルが並んでいた。
どれにも名前はなく、番号が通しでふってある。
「なによ!これじゃ何が何だか分からないじゃない!」
考えて見れば当たり前のことでアスカが怒鳴った。
シンジはとりあえず、0000のファイルをクリックした。
ENTER PASSWORD ************* _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ |
小気味よい機械音と共にスクリーンが変わった。
「パスワードか・・・」
「シンジ、何か心当たりある?」
「分からない。僕の前のパスワードは「LEVEL AA」までだったから・・・
ここまで隠蔽されているという事は、これはたぶん「LEVEL S」だろう・・・」
お手上げといった感じのシンジ。
「これってシンジ達の事が記されているんでしょ?そういえば、さっきこんなファイル、見つけたんだけど・・・」
そう言って、アスカは別のモニターにあるファイルを表示させた。そのファイルの上は、『ANGELIC FILE 01』と記されていた。
「これ、ここのところを見て・・・」
アスカが指差す先には、数字の羅列が並んでいた。
「ここの230641865580132、デコードすると・・・」
画面が一瞬ブラックアウトして、数字列の代わりに文字列があらわれた。
「『ANGEL』・・・多分、パスワードよ、これ・・・」
自信たっぷりといったアスカの表情とは対照ににシンジの表情は暗かった。
『・・・『ANGELIC FILE 01』・・・?どうも変だな・・・』
しかし、あまりにせがむので、とりあえずいわれた通りに打ち込んだ。
ENTER PASSWORD ************* ANGEL _ _ _ _ _ |
ビビー
ERROR! ACCESS DENIED ************* The password you have entered was not verified. |
ENTER PASSWORD ************* _ _ _ _ _ _ _ _ _ (1) |
「やっぱりダメか・・・」
無機質なエラーメッセージは冷たくシンジ達を見ていた。
『ダミーファイルまであるとは・・・よっぽど重要な事が書かれているんだな・・・』
「・・・アレ?この隅の(1)ってなに?」
その赤い文字は明らかに意味深だった。
「まさかこれって・・・」
「・・・たぶん自動防衛プログラムだと思う。(1)って事は、後一回間違うとファイルが自己破壊する」
「エエエエー!ちょっと、どうすんのよ!!」
「アスカ、ごめん。ちょっと静かに」
考え込むシンジ。アスカはいたたまれなさのあまり、俯いていた。
「シンジ・・・あの・・・えっと・・・ゴメンナサイ・・・」
アスカは恥ずかしかった。
コンピューターのエキスパートと言っておきながら、こんな初歩的なミスに引っかかるとは。
『MAGIほどのコンピューター・・・ダミーファイルの一つや二つ、予期して当然だわ・・・』
そんなアスカに笑顔を向けるシンジ。
「気にしてないから」
「シンジ・・・」
笑ってすませてくれるシンジの心が、今のアスカには泣けるほど嬉しかった。
「さてと、パスワードは・・・」
ドクン
「!?」
ドクン
『・・・貴方はなぜ、それほどまでに福音にこだわるのですか・・・』
いきなり頭の中に鮮烈なイメージが広がった。穏やかに輝く闇色の光が、頭の中を通過したような感覚が訪れた。
ドクン
『私は神を越えてみたい。そのためにはどんな禁忌も犯す』
「グッ・・・アアアァ!!」
急に頭を押さえて倒れるシンジ。
「シンジ!?」
慌ててアスカがシンジを揺すった。
「シンジ、しっかりして!!」
ドクン
『神をも越える・・・ならば私も共に落ちましょう。地獄の紅蓮の底まで・・・共に・・・』
「ガアアアアアアアアア!!!!」
突然シンジの体が発光した。
ぐったりと倒れているシンジ。そんなシンジをアスカが涙声で揺さぶる。
「シンジ!シンジ!」
「アスカ・・・」
かぼそい声がシンジの口から漏れた。
「シンジ・・・よかった・・・」
「アスカ・・・パスワードは「福音」だ・・・」
「フクイン?「EVANGELION」?」
頷くシンジ。それに続いてアスカも頷いた。
ENTER
PASSWORD |
「やった!」
軽い電子音と共に,画面がかわった.
LEVEL
S: FILE 0000 |
ファイルが開き、続いて膨大の量の情報が画面に流れ込んできた。
「シ、シンジ・・・これって、まさか・・・」
「・・・」
冷や汗が流れた。
二人の目はモニターの前で固まっていた。
そんな二人を二つの瞳がじっと見つめていた。
「ハッ!!」
二人の能力者とレイ達は空中を舞っていた。
レイとカヲルは一瞬、目配せし、反対の方向へ飛ぶように駆けた。
能力者達もそれぞれ追う。ランはカヲルを、リュキアはレイを。
カヲルがやってきたのは高い建物の真上。それは皮肉にも、シンジ達のいる第一研究所だった。
「空中戦。いいですねぇ、風情があって。そう思いませんか、カ・ヲ・ル?」
軽やかに宙を飛ぶランを冷たい眼で無視するカヲル。その瞳には殺気というよりも、むしろ憐れみがこもっていた。
ランは笑っていた。しかし、それはセルロイドのような人形の微笑だった。
「・・・一つ聞かせてほしい。君達はなぜシンジさんにそんなに執着するんだ?」
「・・・」
今度はランが沈黙した。
「・・・彼がルシフェル様だからだ。我々の計画には彼の力が必要・・・」
「それだけではないはずだ。君達は何かもっと別の・・・」
「・・・」
再び沈黙。ランは何か思い詰めているかのように、うなだれていた。
「君達も呪縛から逃げられない。シンジさんなら何とかしてくれる、そう思っているのではないのかい?」
「黙レ!お前などになにが分かる!そもそも、お前達がいなければルシフェル様だって・・・」
「えっ・・・?」
カヲルが聞きかえる前に、ランは攻撃を繰り出していた。
「死ネ!」
突然、もの凄い衝撃波がカヲルを襲った。
「クッ・・・」
咄嗟に展開させた赤い壁がカヲルの体を覆う。
絶対のATフィールドだった。
「神の鎧か・・・だが所詮、お前達の物は偽物。ルシフェル様ならともかく、お前達の「偽」天使の力など・・・」
ランが手を交差した。
不可視の風の刃がランの手に集中する。
見えはしないものの、その存在は肌にひしひしと感じられた。
「!#&!!」
バッと、大きな音がして、ランの姿が揺れた。
その一瞬の後には、カヲルの目の前にランの拳があった。
「グァッ!」
フィールドを通してやってくる衝撃によろめくカヲル。
その一瞬の隙の逃さず、ランが圧縮された刃を打ち出した。
それを間一髪で横に回避するカヲル。
「ひょいひょいと忙しいこと。おとなしく死ね!」
先程までの同じ刃を今度は無数に繰り出すラン。
数十の風のエネルギーがランを取り囲んだ。
「俺の属性は「風」。それは全てを切り裂く、大いなる力!!」
その一つ一つの刃が膨れ上がった。
あまりのエネルギーに空間が歪んだ。
「ハァァァ!」
軽いかけ声と共に、何十もの波動が一斉にカヲルに向かっていく。
微妙な角度に展開されたATフィールドがそれらをはじき飛ばした。
「甘い!!」
突然、背後に出現したランが最大級の衝撃波を、カヲルの神経に直接たたき込んだ。
「・・・ガハッ・・・」
鮮血がカヲルの服を鮮やかに濡らした。
カヲルの身体は壊れた人形のように深く、深く落ちていった。
「フゥー。後はレイか・・・」
ランは無表情のまま、空に浮かんでいた。
「ルシフェル様、私は・・・」
その口調はどことなく言い聞かせるような物だった。
その頃、レイはリュキアと対峙していた。
「あんた、ルシフェル様のことが好きなの?」
突然切り出すリュキアにレイは何も答えない。ただジッと、対峙の間合いをはかっていた。
「どうなのよ?」
「・・・私も、そしてカヲルもシンジさんのことを愛してる。誰よりも大切に思っている・・・」
レイは、ATフィールドを広げ、手の甲に刃状に発生させた。
それを見て、リュキアの瞳を殺気が覆った。
「笑わせんじゃないわよ!人形が「愛」を語るなんて!!」
「私は人形ではないわ。シンジさんが私の心を解き放ってくれた。私はシンジさんに「人」を貰ったの・・・」
「ウルサイ!!!あんたなんてルシフェル様のお情けで一緒にいるだけのくせに!!」
リュキアの回りを不気味な大気が覆うと同時に、両手にはめているグローブから鋭利な鍵爪が飛び出た。
「あんたみたいな人形を見てると虫唾が走るわ!!」
その手元が月の光をちらりと反射した。
「あんた、殺すわ・・・」
そのオーラは徐々にリュキアの手元に集中し始めた。光る爪が気を纏い、異様な感覚を醸し出していた。
「私の力は「精霊」パワーの上を行く。それはまさに進化した力!!」
とたんに四つん這いになったリュキアの肢体がしなやかに揺れた。
「ガァ!!」
唸る鍵爪がレイの方に突進した。
「!!」
それを間一髪で避けるレイ。咄嗟に身体が反応したから逃れたものの、その速度はレイの予想をはるかに上まわっていた。
レイの腕に朱線がはしった。
自動的にATフィールドが身の回に展開される。
「フーン。それが無敵のフィールドってわけね・・・」
リュキアは感嘆の声でそれを眺めた。
「でも私のクローにはどうかしら!!」
リュキアの両手が瞬間的に詰め寄ると、レイの目の前で交差した。
次々に繰り出される爪の波状攻撃に、レイはリュキアに接近することが出来ない。
「何時まで持つかしらね?クスッ」
さらにスピードを増すリュキア。
「クッ!」
レイの反応がコンマ1秒遅れ、その隙をリュキアの爪が襲った。
レイの身体に爪が到達する刹那の瞬間、鍵爪が爆発的に伸びた。
その爪はレイのフィールドを容易く貫き、内蔵までも貫いた。
「アアァ!!」
服が血で染まった。
「・・・」
その傷をATフィールドで強引に止血すると、レイは再び戦闘ポジションに戻った。
「血を止めただけで戦えると思ってんの?」
リュキアは跳躍し、両手でクローを微妙な角度で投げつけた。
レイは目を閉じた。
あたると思われた瞬間、クローはレイの数センチ目の前で爆発した。
レイは、ATフィールドでクローを包むと、そのまま反転させたのだった。
「やるわね。でもそろそろ体力の限界見たいね。フフッ」
「ハァハァハァ」
荒い息をするレイ。そもそも彼女はテストタイプとして造られた天使。攻撃には向いていなかった。
「そろそろ死ぬ?」
その瞬間、リュキアはレイに向かって突進していた。
その爪には先程までとは比べ物にならないオーラが結集していた。
レイは手を前に交差し、来る衝撃に備える。
赤い、何重にも交差されたATフィールドがレイの手のひらに集まる。
「ナニ・・・?」
リュキアの爪は根本まで折れ、レイのフィールドに突き刺さっていた。
『爪が折られた?馬鹿な!!』
レイは、手のひらに全ATフィールドを集結させ、次々とフィールドを蓄積する事によって、ブロックしていたのだ.
驚いているリュキアを尻目に、レイはフィールドに突き刺さっているリュキアの爪を見た。
『一本足りない?』
「甘いわ!!」
リュキアは事前に折っておいた爪の一部をレイの背後に向かって飛ばした。
前方にあまりに集中していたフィールドは咄嗟のことに反応できず、崩れ去る。
「キャアアアアアアア!!」
レイの力の全てが消え、レイは墜ちていった。
そんなレイの姿を目で追うリュキア。彼女の心の中には先程レイが言った言葉が強くリフレインしていた。
『私も、そしてカヲルもシンジさんのことを愛してる。誰よりも大切に思っている』
「・・・ルシフェル様・・・私・・・」
『私は羨ましかったんだ・・・あの人形が・・・』
リュキアは自分の呪われた容姿を呪った。
『私ハ人形以下・・・』
しかし、それは初めてのことではなかった。
「バカな!!あり得ない!」
無機質なモニターの中には、眠る銀髪の赤ん坊の写真があった。
その首には「EVE」と判を押されたプレートが掛けられ、腕には00の焼き後手が押してあった。
「・・・こんな・・・」
それは、紛れもなく、「シンジ」だった。
「そんな・・・僕は九年前に造られた九歳のメールタイプ。赤ん坊であるはずが・・・」
シンジは愕然と膝をついた。
「シンジ・・・」
アスカは何が何だか分からなかった。
そこに打ち出されているデータは明らかにシンジの物。そして「EVE」と判を押されたプレート。
「NERVのカモフラージュ!?どこかにきっと・・・いや、まさか!!」
「それは違うわ!」
突然、女性の声がした。
とっさに後ろに振り向くと、そこには白衣を着た金髪の女性が立っていた。
「それは紛れもない真実・・・」
「赤木博士・・・」
その女性は赤木リツコ、シンジを造りし者だった。
「久しぶりね、00。」
『00』と聞いて少し怪訝そうな顔をするシンジ。
そんなシンジをリツコは無表情に見ていた。
「よくMAGIのセキュリティを破れたわね・・・プログラムを組んだのは02ね?さすが演算能力を極限まで高めた第二天使だけあるわ・・・」
「シンジ、誰なのこいつ?敵?」
アスカが横で怒鳴った。
「・・・アスカ、この人は赤木リツコ博士。MAGIの創造者の娘・・・」
シンジがゆっくりとリツコの方を見た。
「・・・そして僕を『造った』人・・・」
「・・・えっ・・・?」
アスカが驚きのあまり,リツコを凝視した。そのリツコは静かに手に持っていた銃をシンジの方に構えた。
「おしゃべりはいいわ、00。黙って研究室に戻りなさい。さもなくばそのお嬢さんが死ぬわ」
その標準は的確にアスカをターゲットにしていた.
「そんなモノで僕はおろか、アスカも殺せませんよ・・・」
「はったりはよしなさい。これが加粒子砲だという事はあなたなら分かるでしょう。」
加粒子砲。それは使徒開発の間に、唯一ヒトが使徒達に対抗するために作られたモノ。ミクロ単位の粒子を発生するこの加粒子砲はATフィールドを無効かする威力を持つ。
シンジは、そんな銃をものともせずに切り出した.
「・・・あなたは僕の記憶を二重に制御しましたね・・・」
そのシンジの声は冷たかった。しかし、それは、怒っている、というのではなく、どことなく悲しみに溢れていた。
「お見通しのようね.そうよ。あなたに最初に施したコントロールが破れたその直後にね・・・」
「その第二のプロテクトは、僕に『制御がかかっていない』と思わせるためのモノだったのですね・・・」
「・・・」
リツコはなにも答えなかった。しかし、その沈黙が全てを肯定していた。
「・・・僕は誰なんですか?」
「・・・」
リツコは何も答えなかった。ただその黒光りする銃をシンジに突きつけていた。
「・・・あのデータが僕の物だと仮定すると、僕は無から造られたのではない、ということになります。
赤ん坊の体では巨大なるアダムとリリスの力に耐え切れませんからね・・・」
「・・・」
「これは僕の仮説ですが、あなた達はある女性の卵子細胞にアダムとリリスの遺伝子情報を植え付け、その処女生殖で産まれた子は、能力に耐えるために異常成長し、ちょうど今から九年前に体調が安定した・・・違いますか?」
アスカの額から一筋の汗が流れた。
「その女性が「EVE」・・・イヴは誰?」
「・・・あなたに答える必要はないわ・・・」
ビービービー
突然、電子音が部屋に響きわたった。
アスカが慌ててモニターを覗き込むと、そこにはエラーメッセージが浮かんでいた。
ERROR! SECURITY VIOLATED ************* Level A intruder detected. Shutting down the system. |
「シンジ!ばれたみたい!」
その言葉に軽く舌打ちするシンジ。
「もう五分か・・・アスカ、行こう!」
力強く頷くアスカ。
「動かないで」
アスカが駆け出そうとするの一瞬早く、リツコは銃を手にしていた。
その銃身は正確にアスカの心の臓を狙っていた。
「動くと、撃つわ!」
その言葉をもろともしないでアスカの前に踊り出るシンジ。
「・・・赤木博士、はったりをやめるのはあなたの方です。こんな所でそれを使えば、あなたも確実に死にますよ。」
そしてシンジは静かに笑った。
「それに・・・」
リツコは黙って銃を向けている。
「・・・それに人は神には勝てません。たとえそれが堕天に墜ちた神でも」
「・・・」
リツコの手がだらりと下がる。
シンジとアスカは一瞬、目を逢わせると、暗い廊下を駆けていった。
足音が次第に小さくなっていき部屋には再び静けさが戻った。
残されたリツコはモニターに移る赤ん坊の姿をじっと見ていた。
「・・・『シンジ』・・・」
そのか細い呟きには、決して人には聞かせたことのないかすかな人間味が微かに混じっていた。
VERSION 1.10
LAST UPDATE: 6/05/99
CARLOSです。 「堕天使」第七章 完全な真空、をお届けしましたが、いかがでしたでしょうか? さあ、どんどん行ってください。 |