04-Jan-98 再編集

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ブドウ日記  (97年 その4)



11月1日(土)

今日はAllerheiligen、訳して「諸聖人の日」という、カトリック系の祝日。バイエルン州等では法定休日であるが、ここヘッセン州では平日扱い。もっとも今年は土曜日なので、我々サラリーマンにとっては「平日扱い」の方がお店が開いているぶん有り難い。さて我が家は、今週もまたラウエンタールとキートリッヒのブドウ畑へ。ここまでくると、タダの意固地というやつかもしれない。

まずはバイケン畑から。先週はまだ殆ど100%ブドウがぶら下がっていたが、この1週間で2割程の区画で収穫済みに。約10haと言われる国営醸造所の畑で言うと、0.4ha程の部分(長さ100m強の垣根が17列分だったか)は明らかにアイスヴァイン用と思われるビニール覆い(キレイに葉を落として、覆いの上下両端ともホッチキスで閉じてある)が施工済み。その数倍、ざっと目分量で2〜3ha分は、葉が付いたままの「ミニスカート状」のビニール覆いが完了。それよりもう少し広い範囲では裸のままのブドウが更なる熟成を待ち、残りの部分(これまた2〜3ha分か?)は収穫済み。

周囲のヴュルフェン畑やゲールン畑は先週の時点ですでに相当部分が収穫済みであったが、一部ブドウが残っていた区画は今週もおおかたそのまま残っている感じ。先のバイケン畑ともども、何時どんな風に、どのくらいの区画が収穫されてゆくのかが楽しみ。それぞれがどの等級のワインになるのかは、アイスヴァイン以外は関係者に聞かないと分からないが。

なお先週の日記で「全般的にブドウの樹の葉っぱがキレイな黄色になることなく、緑色から直接茶色く枯れている」と書いたが、これはバイケン畑の下半分に関しては全くその通りだが、他の部分では様子はさまざま。バイケン畑の上半分、その更に上のゲールン畑の一部では、まだ十分青い(もちろん若干茶色ばんではいるが)元気な葉が茂っている。そうかと思うと、もっと上の最上部の畑(畑名としてはLangenstueckになる)の方では、すっかり落葉している区画もちらほら見られる。

また、場所的に近い隣どうしの区画でも、葉の様子が相当異なることも多い。品種としてはほとんどすべてリースリングなのであろうが、それぞれの区画ごとの苗の遺伝子の微妙な違い等によるのであろう。ついでに言うと、一つの区画(同じ栽培家が同じ年に植え付けたと思われる単位)の中では、葉の様子はよく揃っている。

なお、今日は一個所でごく小規模な収穫風景が見られた以外には畑仕事をする人影はなく、専らブドウ散歩する人達でブドウ山は賑わっていた。このところの冷え込み(朝の気温はフランクフルトの街中でも零下になっている)もあり、散歩する人達の服装は、ほとんど真冬のそれに近い。

この後、先週同様にキートリッヒのグレーフェンベルク畑周辺へも回ってみたが、風景は先週と殆ど変わらず。グレーフェンベルク畑に限って言えば、半分以上の区画が「ビニール覆い」済みとなっている。こちらでも収穫風景は見られず。かわりに、ビニール覆い作業中のところに出くわす。

ブドウ畑から集落へ入ったすぐの所にあるロバート=ヴァイル醸造所の作業場の大扉が開いていたので近づいてみたら、中はプレス機が並ぶ部屋で、プレス作業の終わった機械を清掃しているところであった。表の駐車場には摘み取りの季節作業者のものとおぼしきポーランドナンバーの車がまだ何台も並ぶ。グレーフェンベルク畑など、まだほとんど未収穫なのだから、当たり前といえば当たり前。辺りには発酵中の、まさにFederweisserの香り(という字を充てるほど、さわやかなものでもない。むしろ、「臭い」という字がふさわしいか?)がたち込める。もっとも、こういう醸造所の、高級ワインになるべく丹念に作られたワインの元は、一般の人々にFederweisserとして飲まれることは決してないとのこと。

先週末で夏時間が終わったこともあり、5時半にはもう相当暗くなる。「秋の夜長」というのは日本の言葉であるが、これからの季節、ここドイツでは「こんなに長くなくてもいいのに」と言いたくなるくらい、夜が長くなる。


11月2日(日)

今日はプファルツへ。但し主目的はブドウ散歩ではなく、買い出し。ブール(Buhl)醸造所(正式名はもっとややこしくて長い)の、「Classic」という一種の限定品みたいなシリーズが目当て。以前訪れた際に「9月頃売り出す」と聞いていたが、行きそびれていた。この2ヶ月の出遅れのため一部は売り切れてしまっていたが、何種類かは買うことが出来た。

ブドウ散歩が主目的では無かったとは言え、やはりここまで来たからにはブドウチェックもしたい。まずは、ブール醸造所のあるダイデスハイムの街の裏山、畑の名前としてはKieselbergと呼ばれる辺りへ。この辺り、「プファルツの3B」と呼ばれる著名3醸造所(後述)の畑が入り乱れている。なんで部外者にそこまで分かるかと言うと、それぞれの所有部分の両端に打たれた杭に、各々のマークがペンキで記されていたり(BuhlとBassermann-Jordan)、ラベルと同じデザインの小さな標識が打ち付けられていたり(Buerklin-Wolf)するため。なお、いつものラウエンタールの丘と同様、「ブドウ散歩」する人影はここでも多い。

ブドウの方はというと、収穫済み区画はざっと見てまだ半分以下という感じ。収穫済み部分についてよく見ると、明らかに機械収穫の跡がわかる区画もあれば、手摘みと思われる区画もある。特に、「この醸造所は手摘み、あの醸造所は機械摘み」とかいうような対応関係もないようだ。ブドウの状態や、作るワインの等級等に応じて使い分けているのだろうか。

ところで、このあたりのブドウの樹はまだ青々とした葉が結構元気に茂っている。ここへ来る途中の通り道の「もっと安価なワインを大量生産している地区」では殆ど落葉していたのと対照的。晩熟のリースリングは、葉も遅くまで残るということか。(例によって素人の推測。僕は樹を見ただけでブドウ品種を見分ける程の知識はない。)

次いで、北隣のフォルスト(Forst)村のブドウ畑へ。プファルツの中でも最も評価の高い畑の一つであるJesuitengartenやUngeheuerの畑が、この村の西側に広がる。Buhlのカタログによるとこの辺りの畑ではEisweinも造っているらしいので、例の「ビニール覆い」なんかが、どんな風になっているかを見てみようと。

もう日も沈んで相当冷え込む中、15分程歩き回ったが、結局それらしいのを見たのはたった一個所、Ungeheuer畑の一角の10列程度で、先に説明した「畑の所有者を示す標識」もなし。興味深かったのは、覆いに使われているのがラインガウでよく見る「穴明きビニールシート」ではなく、青いビニール繊維でできた網だったこと。ラインガウでも、このような網を収穫前の鳥除けか何かの目的でブドウ垣根をすっぽり覆うようにかぶせているのはたまに見かけるが、「見るからにEiswein用の覆い」として使われているのは見た事がない。

ある意味でもっと興味深いのが、それらしい覆いを施された区画が非常に小さかったこと。それだけの分量しかEisweinを造らないのか、このあと覆いをどんどん施してゆくのか、はたまた何も覆いを施さずにEiswein造りをトライするのか、今後も足繁く通えば見えてくるであろうが、ここは毎週末のように通うにはちょっと遠い。でも、ここまでチェックしたのだから、なるべく頻繁に来ることにしよう。

ところで、この「ブドウ日記」、筆者自身と妻以外に読む人がいるのか、ちょっと気になっていたのだが、少なくとももう一人、読んでいてくれる人がいることが分かった。ま、元はと言えば、HPなんて考えもしなかった時分に単に自分の為の記録として始めたものなので、読者がいる/いない、はあまり気にせず、気楽に続けよう。


11月8日(土)

今週のノルマを果たすべく....じゃなかった、好きでやっているのだった....いつものラウエンタールと、最近巡回コースに加わりつつあるキートリッヒへ。

まずは概況から。(気象情報ではない。)先週は場所によってはまだ結構青い元気な葉が茂っていたのだが、この1週間でラインガウのブドウの樹々は、全面的にみごとに落葉した。

次いで各地の状況へ。

バイケン畑のうち、国営農場建物の下(南東側)に広がる部分では、アイスヴァイン用にしっかりとビニール覆いの施された小さな部分を除き、ほぼ収穫済み。 農場建物の東側から北側にかけての区画は、先週説明した「ミニスカート状の覆い」のままで変わらず。ただ、葉はほぼ完全に落ちていて、覆いのスソが開いている点以外はアイスヴァイン用区画とほとんど同じ様にみえる。

農場建物の北側〜西側にかけての区画は、おおむね裸のままのブドウが残っている。先週は葉が茂っていて目立たなかったが、今日はほぼ完全に落葉して、言ってみれば枯れ木に、まだ十分緑色の残るブドウの房だけがぶら下がっている状態。なかなか面白い光景だ。収穫が極めて遅い、ドイツの、リースリングの、しかもシュペートレーゼ以上の等級のワインを作ろうとしているところだけに見られる光景と言ってよかろう。もし、この近辺に住むかたで、ちょっと興味のある方は、今のうちに行ってみることを薦める。順次収穫されてゆくだろうし、来年以降もまた同じ光景が見られるとは限らないので。

バイケン畑全体の収穫状況は、丘の上から見た感覚的な数字では、3〜4割が収穫済み、といったところか。

バイケン畑の奥、ゲールン畑の一角で収穫作業中。20人くらいの摘み取り人が10列足らずのブドウ垣根に散らばって、ヨーイドンで斜面の下から摘み取って行く。数人の運び屋専門の人達が背中に専用の容器をしょって、摘み取り人がバケツから放り込むブドウを、斜面の下のトラクターの容器のところまで運ぶ。落葉しきってブドウだけになっている所為か、はたまた相当の人海戦術でやっているためか、作業は結構速く、みるみる収穫は進む。斜面の上端まで到達したら、横に10数メートル移って、同じことを繰り返す。この人達、斜面の下の車ではラジオかなんかをガンガン鳴らし、ドイツ語ではない言葉をしゃべりながら、とってもにぎやかにやっていた。

なお、バイケン畑以外では、ゲールン畑のうちのバイケン畑のすぐ上に接する一角を除き、ほぼ収穫済み。先週はそこそこブドウが残っていたが、おおたかこの1週間で収穫されたということのよう。

この後はやはり先週同様、隣村のキートリッヒへ。こちらも状況は似たような感じ。最も高名なグレーフェンベルク畑では、まだ7割かそこらが未収穫であるが、周囲の他の畑はほとんど収穫済み。グレーフェンベルク畑に関して言うと、ざっと見て半分以上の区画で「ビニール覆い」が施されている。この比率は先のバイケン畑以上である。なお、こちらはぐるっと歩いて見て回った限りでは、スソをぴっちり閉じた覆いになっている個所は見当たらず。すべて「スソ開き」である。

今週後半は天気がぐずつき、気温も随分高い日が続いた。今日も朝はうっとおしい天気だったが、午後から晴れだした。ラウエンタール、キートリッヒのどちらのブドウ山も、相変わらずブドウ散歩する人達で賑わっている。


11月15日(土)

フランクフルトでは今にも降り出しそうな冴えない天気であったが、天気予報では明日はもっと天気が悪いとのことだったので、今日の内にと、「いつもの所」へ。

この一週間、収穫状況にはほとんど変化なし。すなわち、ビニール覆いのある個所はもとより、覆いの無い場所についても、先週ブドウが残っていた個所は今週もほぼそっくり残ったまま。とは言え、ブドウの様子には変化があった。そこかしこで、ブドウの樹の根元の地面に、ブドウの房がちらほら散らばっている。粒はまだ全然しぼんでおらず、落ちて(落とされて?)間も無いことが分かる。

最初、これは状態の悪い房を人為的に落としたのかと思ったが、どうもそうでは無いらしい。というのも、結構状態のよくない房が樹に残っている一方、結構キレイな房が地面に落ちていたりする。落ちている房を拾ってみたが、茎の部分にも刃物で切ったような跡はない。むしろ、茎が弱っていて、拾った瞬間に自重でちぎれてしまうようなのも多い。ということで、今日見た地面のブドウは、人間様が間引いて落としたものではなく、自然に落ちてしまったものと伺える。かくして、遅摘みの畑ほど単位収量が少なくなるわけだ、と納得。

今シーズンは天候にも恵まれてブドウの生育も良好で、バイケン畑あたりではアウスレーゼ以上のワインと狙ったものとおぼしきブドウがまだ大量に残っている。ここ数日は雨がちであったが、また持ち直して健康なブドウが更に持ちこたえてくれることを祈る。

薄暗くなった帰り道、エルバッハ村のマルコブルン畑の前を通りかかる。車窓からの瞬間的目分量によると....半分程の区画は収穫済み、1/4程の区画では裸のブドウが残り、残りの部分ではビニール覆いが施されている、といったところか。この界隈でも、周囲の他の畑はほぼ100%収穫済みである。

今日は時間切れにつき、キートリッヒ村のブドウチェックはパス。日がどんどん短くなり、4時半にはもう結構暗い。まださほど寒くはないが、この暗さはまさにドイツの冬の景色である。


11月23日(日)

今日は日本では「勤労感謝の日」で祭日。10数年前(だったっけ?)に人気取り政策の一つとして導入された「国民の休日に関する法律の一部改正」により、日本では明日月曜日は振り替え休日である。ちなみにここドイツではそのような振り替え休日制度はないが、近くのイギリスでは祭日が土日にかかると振り替えで月曜日が休みとなる。

さて、この数日ずっと天気が悪く、週末もずっと霧雨が降ったり止んだりという状態である。天気予報では日曜日の方が幾分「まし」との事なので今週のブドウチェックは日曜日に決定。「こんな天気じゃ散歩でもなかろう」と言いたいところだが、なにせ今年はまだたっぷり残されたブドウの行方が気になるので仕方ない。午後3時頃いつものラウエンタールへ向かう。

収穫状況は前々週に続きこの1週間も殆ど変化なし。ビニール覆いのところはもとより、覆いなしで裸のブドウが残された所も先々週以降ほとんど収穫した気配はない。「殆ど」と書いたのは、ごく一部では先週はブドウがあったのに今週はブドウが無くなっていたところがあるため。この裸のブドウが場所によってはまだまだ結構緑色をしていて健康そうに見えるのが不思議な位だ。

このようにすっかり落葉した樹にブドウを残しておくことで更にそのブドウの成熟が進むというのも、これまた不思議と言えば不思議だ。尤もこうなると光合成で糖分が増加することはもはや有り得ないので、酸の分解が進むことでブドウの中身の状態が変るのであろう。また、この時期に貴腐菌がうまくついて貴腐が進むと、類希なる貴腐ワインの誕生となる。あるいは、貴腐菌のかわりに第一級の寒波が来れば、それこそドイツワインの独壇場ともいうべき(他の国でも少々作っているらしいが)アイスヴァインの誕生となる。

なお、「アイスヴァインとは何ぞや」との質問に関しては、私が愛読書の内容を転記してもしようがない(というより、著作権上それはまずい)ので、本当ならちょっと詳しく書かれた書物(例えば、私の虎の巻である「新ドイツワイン」伊藤眞人著・柴田書店発行)等を読まれることをおススメしたいが、そこまでするほどではないが簡単に知りたい方にはこのHPなんかも良いかも知れない。

この分では来週以降もブドウチェックが不可欠だが、一方で来週末はアドヴェント第1週、即ち「クリマル」が始まってしまう。ますます週末が忙しくなる。


11月29日(土)

例によって土曜はだらだらと朝寝をしてしまうので出発は昼頃となる。今日は始まったばかりのクリマル巡りがメインで、ブドウチェックはおまけ。「日帰りで両方出来る所」ということでモーゼルへ。ライン川左岸のアウトバーンA61を西へ向い、ビンゲン(Bingen)を過ぎてしばらく行った所から丘陵地帯を横切る一般国道B50へそれて一路ベルンカステル(Bernkastel)へ向かう。この途中にはブドウ畑はない。

丘陵地帯からモーゼル川へ向かう急な斜面をぐいぐい降りてゆき、ベルンカステルの街が近くなったところで急にブドウ畑が姿を現す。街の北側の南斜面がかの有名なドクトール(Doktor)畑である。上の方に、アイスヴァイン収穫の為とおぼしき青い網のブドウ覆いが施された小さい区画が目に入るが、遠くなのと運転中なのでよく見えない。ベルンカステルの街でクリマルをやっているのを横目に、まずはヴェーレン(Wehlen)村の「日時計」(Sonnenuhr)畑を目指す。かつて日本からの旅行の折、トリアーからバスで来てベルンカステルまで歩いた所だ。去年も収穫期に訪れている。

ヴェーレン村にある橋でモーゼルを渡り返した正面一帯が、これまた高名な「日時計」畑である。命名の元となった日時計は橋よりだいぶ左(西)側の斜面にある。ほんの小さな一角にアイスヴァイン収穫の為のビニール覆いを施されたのが目に入るが、それにしても小さい。日頃ラインガウでは大々的にビニール覆いを見かけるだけに、この小ささはちょっと意外なくらい。

雨模様なので車のまま周囲を偵察するうちにブドウが残った区画を見つけ、車を降りて見物。樹に残ったブドウはそこそこ健康に見えるが、それ以上に無残に地面に散らばったブドウが目に付く。地面のブドウはまだほとんどしぼんでおらず、それこそ昨日か今日落ちたばかりと思われる。風が強かったので茎の弱ったブドウが一気に落ちてしまったのかも知れない。結局、ブドウが残された区画はほんの一部であった。別の一角で畑仕事をしている一団を見たが、収穫ではなくて枝の剪定であった。

ベルンカステルの街でクリマル見物(この話は別途紹介)の後、モーゼル川沿いにトリアーへ向かう。途中、村としてはクリュッセラート(Kluesserath)ではないかと思われるところで面白いものを見た。「蚊帳張りのブドウ畑」とでも言おうか。巾・奥行きとも数十メートルの小さな部分であるが、この一角が大きな網ですっぽり覆われていて、まさに「蚊帳張り」のイメージである。お察しの通り、この蚊帳の中だけブドウが残っている。ベーレンアウスレーゼもしくはアイスヴァイン収穫を目指しているに違いない。こういうのは、ラインガウでは見た事がない。所変ればなんとやら、である。

ここで完全に日が暮れたので、本日のブドウチェックは終了。アトは「クリマル」へ。


11月30日(日) ちょっぴり番外編、でもブドウの話もあります。

今日は実は結婚記念日。さて何回目でしょうか。

昨年までも一応、この日もしくは前後の週末等に「ちょっと良い所でお食事」するように努めてはいたが、根が貧乏性なのか、それともそういう雰囲気にひるんでしまう為か、いわゆる「かなり高級な所」とは無縁であった。しかしながら来年からしばらくそういう所とはますます縁遠くなりそうなので、清水の舞台から飛び降りんばかりの勇気を振り絞って(僕の場合、決してこれは誇張ではないのだ!)、ラインハルツハウゼン城(Schloss Rheinhartshausen)ホテルのメインダイニング、「マルコブルン」(Marcobrunn)を予約した。

この「ブドウ日記」を読んで下さるような方々にとっては、「ラインハルツハウゼン城」はむしろラインガウの一流醸造所の一つとして有名で、「マルコブルン」はまたこの醸造所が一部を所有する高名なブドウ畑の名前として有名である。更に言えば、「マルコブルン」は元はブドウ畑の中に湧き出る泉の名前で、その周囲のブドウ畑にその名が冠せられた。ちなみに、同じ等級のワインの価格で比べると、この畑のワインはラインガウでも最高価格のものの一つである。今回はすでに清水舞台から飛び降りた後なので、食事のワインも迷わず「マルコブルン」にした。なお、この時のお勘定は5年間の欧州暮らしの中でも新記録となったが、実は欧州外ではもっと散財したことが2回ある。いずれも一時帰国中の東京の鮨屋でのこと。

さて、この「お食事」は昼食であった。本当は土曜日の夕食としたかったのだが、3日前に電話した時にはすでに「予約満杯」と。で、このレストラン、日曜日は昼しかやっていない。(ついでに、水〜土は夜のみ、月・火は休み。)

この「お食事」の後、実は雨でも降ったらどうしようかと心配していたのだが、幸い曇天ながら雨は降っていないので酔い冷ましを兼ねてまずは「マルコブルン」畑のブドウ散歩へ。この畑、旧街道とDB(旧国鉄)線路に挟まれた、奥行き数十メートル、巾1キロほどの細長い小さな畑である。緩い斜面なのでブドウ垣根は縦・横両方ある。それぞれ、栽培家の方針の違いによるのだろう。そのうちの巾100メートル程の部分....ここはブドウ垣根が「横」になっているのだが....ビニール覆いがなされている。更に近づくと、下側の約半分(15列程)はビニール覆いがたくし上げられていて、中身は空っぽである。少なくともアイスヴァインが出来る程の寒波は到来していないので、この部分はアウスレーゼかベーレンアウスレーゼになったのだろう。上側の残り約半分(10列程)はまだブドウが残っていて、かつまたビニール覆いもスソがぴっちり閉じているので、アイスヴァインを目指すものと思われる。もう少し周囲を見渡したが、他の区画はすべて収穫済みのようだ。

この辺でだいぶ暗くなったが、やはり「いつもの所」(ラウエンタールのブドウ山)の様子が気になるのでそちらへ向かう。バイケン畑最下部のアイスヴァイン用覆いの部分は変化なし。農場建物の東〜北側の「裾空きミニスカート状」のビニール覆いの区画も、ブドウはそのまま。一方、農場建物西側の、先週まで裸のブドウが残されていた区画は今日はもぬけの空。この一週間の間に収穫された。とは言え、暗くなったのであまり奥の方までは見なかったが....来週は明るいうちにチェックに来なければ。


12月6日(土)

今日はドイツ語圏では「聖ニコラウスの日」。聖ニコラウスは一説によるとサンタクロースの起源とも言われ、12月6日に子供のいる家庭を回っては「今年はいい子にしていたか?」みたいなことを聞き、いい子にはお菓子をくれ、悪い子には鞭でおしおきするという。こう書くとまるで日本の「まなはげ」だ。詳しい話はもっとちゃんとした知識を持つ人が書いた本でも読んでください。

今日もまた「ブドウチェック」と「クリマル巡り」の掛け持ちなので忙しい。午前中は妻が所用のため昼過ぎに出かける。行き先は当然(?)いつもの所。

収穫状況は先週から特に変化なし。「ビニール覆い無し」の部分のブドウは先週までにすべて収穫し尽くされ、「ビニール覆い有り」の部分のブドウはここラウエンタールの場合はまだ手付かず。先週と違って今日はまだ日も高いので、ブドウの様子もよく見える。....とは言ったものの補足すれば、ここで「日が高い」と言ったのはあくまで慣用句としての表現でしかない。北緯50度の地の冬の太陽は、真昼であってもそれはもう低いところにいて弱々しく照らすばかりで、渡独以前は大阪と東京周辺にしか住んだことのない僕にとっては真昼でもまるで夕方の雰囲気である。

さてブドウの様子はというと、バイケン畑の下の部分にあるアイスヴァイン用に残された区画、すなわち「裾もぴっちり閉じたビニール覆い」の方のブドウは、全体に茶色っぽく変色が進み、どうしてこれが旨いワインになるのか不思議なくらいみすぼらしい。それでも、カビた感じや落果の進み方は95年よりは「まし」に見える。このまま寒波が来れば結構な量のアイスヴァインが出来そう。

同じバイケンでも上の方にある「裾開きのビニール覆い」の方のブドウは、まだまだ緑色がよく残り、健康そうである。そのかわりというか、貴腐菌の類が付いているような気配はない。ただこちらの方も、ブドウの房の付け根が弱ったものから、どんどん落果は進んでいる。樹の根元の地面に目をやると、「もったいない!」と言いたくなる感じ。バイケンから道一本隔てて更に上方のゲールン畑の一角に残る「裾開きのビニール覆い」付きの区画の物も、我々素人の見た目には全く同様。では先を急ぐことにしよう。

この後、隣村のキートリッヒに行っても良いが、おそらく状況は似たようなものであろうと思い、ひと月ほど行っていないプファルツへ向かうことにする。早くも日が暮れそうな時間(ラウエンタールを出たのが3時15分頃)なので、途中の景色のことは二の次にして、プファルツのブドウ地帯の心臓部であるフォルスト村目指して高速をすっ飛ばす。

この付近の一流畑は集落の西側の平坦地〜緩斜面に広がる。この前11月2日に来た時はまだ半分程の区画のブドウが未収穫であったが、今日ではごく一部に残る「アイスヴァイン用」以外はすべて収穫し尽くされている。前回は「網で覆った個所」は1個所しか目に付かなかったが、今日はもう一個所「青い網で覆われた区画」と、更にもう一個所「ビニールの覆いが施された個所」に気づいた。いずれも、落果の進行は先程のラウエンタールよりも激しい感じ。樹に残っているのはどう見ても半分以下である。そうこうする内に日も沈み、ギンギン冷えてきたので、そそくさと本日のブドウチェックを終了する。

この後は隣町ダイデスハイムのクリマルへ向かう。そちらの報告はまた別のコーナーにて。


12月20日(土)

先週末はクリマル巡りに専念したため、今日は2週間ぶりのブドウチェック。行き先は言うまでもなく、ラウエンタールのブドウ山。数日前にはちょっとした冷え込みもあったので、ブドウの行方が一段と気になっていたところ。ちなみに、フランクフルト市内の自宅のベランダで毎朝8時過ぎに見る寒暖計では、火曜日(16日)は−4℃、水曜日(17日)は−6℃であった。ラインガウのブドウ山はもう少し冷えるだろうから、アイスヴァインの収穫があったかもしれない。(ちょっと冷え込みが足りない感じではあるが。)なお、水曜日の午後からはまた気温が上昇し、その後今日まで0℃以上である。

いつも車を停める所(ブドウ畑の数百メートル手前)まで行くと、例のビニール覆いが所々でまくれ上がっているのが見える。そんなに風が強い訳ではないから、どうやら少なくとも一部では収穫が行われたらしいと分かる。次いで、ブドウ畑のすぐ手前に搾りカス捨て場があるが、久しぶりに発酵臭のする搾りたてのカスの匂い(臭い)がする。これで、つい先日収穫作業が行われたことは確実だ。

ではブドウ畑の状況へ。まずはバイケン畑最下部の、「アイスヴァイン用」とおぼしきビニール覆いの区画。全部で17列のブドウ垣根(長さ約100m)にこのビニール覆いが施されていたが、そのうちの最下部の3列は覆いが破られてもぬけの空になっている。部分的に収穫が行われたのであるが、この分が本当にアイスヴァインになった(なる見込み)かどうかは当事者でないので分からない。仮にブドウが凍ったとしても、搾った果汁の糖度(エクスレ度:具体的には比重を測る)がある既定値に達しないと、ワイン法の規定により「アイスヴァイン」を名乗ることはできない。

残り14列はそのまま。樹によってはかなりブドウの落果が激しいものもあるが、95年の晩秋にみた悲惨な光景よりはずっとまし。今後の冷え込みに期待したい。

同じバイケン畑でも中程の部分では、先々週まで「ミニスカート状」のスソ開きのビニール覆いの中でブドウが残されていた。僕は勝手にこれを「ベーレンアウスレーゼもしくはトロッケンアウスレーゼを狙ったもの」と想像している。面積としては1ha以上で、先に述べた「アイスヴァイン用」と思しき区画よりずっと広い。ここのブドウは、逆に東端側のごく一部(ブドウ垣根にして8列分、0.2ha弱か)のみを残し、すべて収穫されている。

この時期に見ると不思議な感じすらするのだが、残されたブドウはまだ結構健康そうで、その一部はいまだに緑色味を残している。....ということは、収穫された部分にもどうやら貴腐は起こらなかったものと想像される。

この他、バイケン畑の上方に隣接するゲールン畑の、州営醸造所の所有部分と思われる「ミニスカート状ビニール覆い」の区画(0.5ha分ほど)は、すべて収穫済み。また、この周囲で他に2個所、個人所有畑を思われるところで「アイスヴァイン用」に残してビニール覆いの施された部分(いずれも、0.1ha以下の小さな部分)があったが、1方は収穫済み、他方は未収穫である。

これら「ビニール覆いブドウ」がどの等級のワインになった(厳密には、今後の公的検査を経るのでまだ確定はしていない)かは、業界情報が入ってこない僕にとっては、来年の春以降に発行される価格表を見て初めてわかることとなろう。(その段階でもまだ「想像」の部分は残るが。)

本日この後、隣村キートリッヒのブドウ山もチェックしたい気持ちもあったが、同時にアドヴェント第4週週末の今日、クリマル巡りも控えているので、ブドウチェックはこれにて終了。


12月28日(日)

昨夜の「ワイン鯨飲会」の余波(ただの二日酔い)の中、とりあえずいつものラウエンタールへ向かう。アイスヴァイン「以外」用と思われる部分は先週までにほぼ収穫され尽くし、この1週間が随分暖かかったので、きっと何の変化もないだろうと予想はつくが、やはりこの目で確かめたいので。

行ってみるとやはり予想通りで、この1週間で少なくとも新たな収穫の形跡はなく、我々素人の目に映る限りではブドウの様子は先週と変わらず。とは言え、当然傷みは進行しているのだろう。

念のため記すと、「密閉ビニール覆いの区画」では、樹から落ちて覆いの底に溜まっているブドウが多いほか、幸いにして樹に残ったブドウ達も完全に変色して、しぼんでいたりカビが着いているものも多い。これでも、冷え込みがあって凍ると、あの素晴らしいアイスヴァインになるというのが、むしろ不思議なくらいだ。

一方「スソ開きビニール覆いの区画」では、落果は同様に激しくて樹の根元に落ちたブドウが散らばっているが、樹に残ったブドウは結構健康そうで、カビたりしぼんでいるのは少ない。所々で、まだ緑色を残すブドウも結構見られる。

これを見ていると、「全部スソ開きにすれば良いのに」と思いたくなるが、凍った場合のアイスヴァインの収量のことを考えると、そうも行かないのであろう。(何かの本で読んだのだが、冷え込みが来て凍った時には、樹から落ちて覆いの底に溜まったブドウも、樹に残っていたブドウといっしょに収穫されてアイスヴァインの原料になるとか....)

天気もいまひとつ(小雨がときどきパラつく)だし、クリスマス〜年末年始の休暇で旅行や帰省に出払っている人も多いのか、途中で遭遇したブドウ散歩の人は1組だけ。ちょっと寂しい本年最後のブドウ散歩であった。





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