11-Oct-98 ブドウ日記 (98年 その11) 10月4日(日) プファルツ(Pfalz)地方
やってきました、新酒の季節。
前回のブドウ日記は8月末だったから、もう1ヶ月以上も経ってしまった。ラインガウのリースリングの収穫はまだまだであろうが、プファルツやバーデンあたりの早熟品種の収穫は相当進んでいるはずだ。この間の週末に我が家は何をしていたかというと、最初の2回は悪天候のため家でごろごろしていて、あとの2回は帰省で日本にいた。 久々のブドウ散歩は、いつものラインガウではなく、ちょっと足を伸ばしてプファルツ(Pfalz)地方まで。プファルツを選んだ理由は2つあって、その一つ目は、季節の風物とでもいうべき新酒とツヴィーベルクーヘン(Zwiebelkuchen:タマネギケーキ)を、いかにもそれらしい雰囲気で味わいたかったからである。これらの飲み物と食べ物、フランクフルトの街中だって入手できないわけではないが、ブドウ地帯の道端の、無名醸造所の中庭の仮設テントのベンチに腰掛けて飲み食いしてこそ、その雰囲気が出ると言うものである。 もう一つの理由は、この地方のワイン業界の中心地であるダイデスハイム(Deidesheim)という街の、とあるお気に入りの醸造所へ行って、我が家の酒蔵を補充することである。前回買い付けに行ったのは昨年の今時分で、96年モノを買った。今年も早く行かないと、97年モノがどんどん売りきれてしまう。.....というわけで、まずはその醸造所の中庭にて。 醸造所では「試飲する?」と聞いてくれたが、中庭に止めた車中で家族を待たせたままであったし、買いたいものはすでに決まっているので、そそくさと用のみ済ませてブドウ散歩へ向かう。なんだか雲行きもあやしいしね。 我が家がプファルツへ来た時のブドウ散歩は、この街の北隣にあるフォルスト(Forst)という小さい村の裏のブドウ畑へ行くのが習慣化しつつある。広いプファルツのブドウ地帯の中でも、とりわけ高品質のワインを産する畑が、この界隈に集中している。散歩するだけだからワインの品質はどうでも良さそうなものだが....まあ、これは気分の問題である。もちろん、車を止めやすくて、ベビーカーでの散歩に便利で、かつそこそこに景色が良いという条件を満たしていることもまた、ここへ来る理由の一つである。 プファルツ地方全体としては普及ワイン用の早熟品種の栽培量が多いが、このフォルスト村周辺ではリースリングが圧倒的に多いらしい。リースリングの収穫はまだまだ始まっておらず、こんな感じに実をつけている。その一方で、この地方はドイツとしては赤ワインの生産も比較的盛んな方で、赤ワインの原料である黒ブドウも結構見かける。そういえば、この紅葉途中の黒ブドウの葉っぱが、安ワイン酒場の紙のコースターの図柄みたいでおもしろい(といういよりは、その逆なんだろうな。モノの順番としては...)というようなことを、去年だか一昨年だかのブドウ日記で書いたっけ。 周囲を見渡すと、このところの湿っぽい天候のせいか、カビカビのブドウもしばしば見かける。これが、いわゆる「貴腐ワイン」を生み出すような善玉のカビなのか、それともただの無益なカビなのか、専門知識のないぼくには全く区別がつかない。 さて、1時間ほどの散歩の後は、もう一つの目的である新酒を売る所へ。この季節、旧街道に沿って走っていると、道端のそこかしこで、こんな感じで新酒を売っているスタンドを見かける。大きなポリタンクの中身が白、赤の濁り新酒で、近所の人達や遠方からのマニアックな人達なんかはポリタンクを提げて買いに来るし、「ちょっとで十分」という普通のブドウ観光客は、1リットル入りのビンで買って行く。同じスタンドで、リンゴやジャガイモなんかも売っていることが多い。 こういうスタンドはたいてい自家醸造所が家の前の道端に出しているもので、その奥の中庭では、これまた多くの場合、テントを張って折りたたみ式のテーブルとベンチを並べた臨時酒場が繰り広げられている。おつまみとしては、ハムやチーズを載せた黒パンなんかが季節を問わない定番であるが、新酒の季節は、何と言ってもツヴィーベルクーヘンである。 なお、新酒(地方によってNeuerと呼んだり、Federweisserと呼んだりする)のことについては、例えば去年のブドウ日記の「その1」(9月7日分)や「その3」(10月12日の後の番外編)なんかでけっこうしつこく書いたので、まだ読まれていない方はそちらをどうぞ。 ツヴィーベルクーヘンについても、たしかどこかで書いたと思うのだが....発掘できないので今一度簡単に書いておこう。これは至って素朴な、田舎の香りがぷんぷんするお菓子(?)である。薄いピザみたいな(でもピザみたいに弾力は無い)、もしくはクッキーみたいな(でもクッキーほど甘くはない)生地の上に、細かく刻んだタマネギ、これまた細切れにした少量のベーコン、何がしかの小麦粉、タマゴなどを混ぜた具をたっぷり載せて、オーブンで焼いて作る。フランスの「キッシュ」に、ちょっと似ていなくもない。名前は「クーヘン」(ケーキ)であるが、さほど甘くもないので、ビールや安物ワインのおつまみとして良く合う。年中いつでも作れるものであるが、風物としては「秋の収穫感謝祭の必須アイテム」という印象が強く、ブドウ産地においては濁り新酒と強く結びつく。おそらく、新タマネギの季節にこれを材料に作っていた名残ではないかと思う。 辺りも暗くなりかけた頃、この仮設飲み屋を辞して、道端のスタンドで赤の新酒を一本買って、帰路につく。最後に、本日の獲物。念のため、しょっちゅうこんなに大量に買い込むわけではない。これは「たまたま」である。
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