[GE・N・JI]


 GE・N・JI

横森 健一

 

 毎度のごとく、乗車率百二十パーセントの殺人電車であった。
 今年でかれこれ十数年間は乗り続けている訳だが、それでも身体の方は、一向にこの混雑に慣れようとはしてくれない。
 実際、すし詰めという表現がこれほど適切に使えるところも、他にないと思う。
 押される身体。そのつもりはないのに、押す、身体。
 ひょっとしたら毎日、顔を合わせているのかもしれないが、私の中ではすでに記号化されている、見も知らぬ他人。
 男も、女も。子供も、壮年も、老人も。
 私にとって、それらはまったく世界を構築するだに値しない『他人』というモノ、それ以上でもそれ以下でもなかった。それこそ、文字通りの意味で。
 ……もちろん『私の世界』ではあるが。
 傲慢な考えかもしれない。おそらく傲慢なのだろう。しかしもちろん、他人にはそれぞれ他人の世界が在るはずだ。ただ、それと私とは関係がない。そして私の世界も。ただ、それだけの事だった。
 そんな、よしなし事を考えるとも考えないともしているうちに、また一つ、負への加速度が始まり、脇腹に他人の圧力を感じた。電車が駅に止まる。降りる人間と乗る人間との入れ替えが始まる。
 私も背中からの人の波に押され、別段降りる駅だという訳でもないのに、一旦、ホームへと降りてしまう。ドアの脇に寄って、客が降り切るのを待つ。
 ひんやりとした風が、頬に涼しい。
 そしてまた、更なる混雑の中へと身体を押し込みながら、私はつい、思わず一つ、意味ありげな溜め息を漏らしてしまうのだった。
 このラッシュが苦だという意味ではなかった。もっとも、それが心地好いという訳でもけっしてないのだが、ただ、今日の私の脳裏には――そう、今日に限っては――そんな些細な事が入り込む隙間などまったくと言っていい程残ってはいない、ただそういう訳だったのだった。
 私の思考は、まったく別の事で占領されていた。
 十六年間。
 十六年間、私は、今日のこの日を、ずっと、長い間、ありきたりの言葉ではあるが、まさに一日千秋の思いで、待ち、望んできたのだ。それに比べれば、この程度の満員電車の混雑など、どの程度の苦になろうか。
 十六年前から、想いは少しも変わってはいない。
 ガラス越しに映る、流れる光の列を見て思った。
 ようやく、私の願いが叶うのだ。
 十六年間、想い続けてきた、私の願いが……。
 螢。

 

 ようやく電車が駅に着いた。
 私は、いつもの駅の、いつもの階段を下り、いつもの改札口を出ると、いつもの駅前の、今度はいつもではないが、時々使う事のあるこぎれいなケーキ屋へと、足を運んだ。
 そこで、数日前に注文しておいた大きなバースデーケーキを受けとる。
 生クリームで彩られたデコレーションの上には、色とりどりの蝋燭がきっちりと十六本並べてあった。真ん中に飾られた板チョコレートには、ホワイトチョコでお祝いの言葉が書かれている。
 ハッピーバースディ・ディア・螢。十六年目の、お祝いの言葉。
 この事は、螢には秘密だった。
 今から、螢の喜ぶ顔が見物だった。
 顔なじみの若い女性の店員が、笑顔でそれを渡してくれる。
 おそらく彼女は完全に誤解しているのだろうが、まあいい。逆に言えば、完全に誤解してもらわないと、今度はこっちが困るのだった。
 私は軽く会釈をすると、ケーキの箱を受け取り、その店を後にした。
 ふと、夜空を見上げる。
 駅前商店街のアーケードのイルミネーションが、目に眩しかった。街路樹にも、電灯が枝に沿ってちらちらとまぶされていたりする。
 冬の寒空なのに、大通りにはまだ、そこそこの人通りと車通りがあった。
 私は思わず肩をすくめ、また一つ溜め息を吐くと、人混みを避けるかのように、ケーキ屋の横の薄暗い小路へと入っていった。
 車が一台、ようやく通れるくらいの、細道が続く。
 そこから大体、十分ほど歩いて、ぶらんこやシーソーなどの遊具が置いてある、ほんの小さな公園を通り過ぎた所にあるのが、私達の住むマンションだった。
 ハイツ北山中。
 余り大きなマンションではなかったが、私と螢、二人で住む分には、この程度の大きさで充分すぎる程であった。
 いろいろ気に入っている部分はあるが、中でも良いと思われるのが、防音が実にしっかりしているという点だった。隣室や上下に住んでいる者の生活音など、大方の人々が部屋ですごしている夕方以降においても、ほとんど何も聞こえてはこない。
 隣家の事情を知りたがる、お節介な婆さんも住んではいない。
 ここでは、近頃とみに失われつつある、プライバシーというべき物がきちんと守られているのであった。
 私は、カードキーで自動ドアのロックを空けて、エレベータホールへと向かった。エレベータに乗りこんで、自分の家のある階へのボタンを押す。
 そこは、小さいながらも私の城だった。
 かわいいお姫様の待っている、私の城だった。
 私は、呼び鈴を押して鍵を開けると、家の中へ入っていった。

 

「ただいま、螢」
 ドアを閉め、私がそう言うか言わないかのうちに、奥から一人の少女が勢いよく玄関の方に駆けてきた。
 長い黒髪をまるで兎の耳のように、ぴょんと両側に分けている。大きな、くるくるよく動く瞳が、印象的だ。
 螢、だった。
 螢は、軽い膨れっ面をしながら、私の目の前に立っていた。
 開口一番、螢は言った。
「おっそーい、パパ!! ……螢、学校から帰ってきて、ずうっと一人で待ってたんだよ?」
 螢は、セーラー服の上に、ピンクのフリルのエプロン姿という風な格好をしていた。きっと、学校から帰ってきてすぐに今晩のための料理を作って、私が帰るのを待っていたのだろう。
 両腕を胸の前で組んで、自然な色のままの唇を、つんと尖がらせている。
「せっかく、今日は螢の十六回目の誕生日なのにさ」
 かなり拗ねているようだった。ちょっとばかり首を傾げてるのが、昔から変わらないその証拠だ。
 じろり、と睨み付けられる。
 私は、慌てて言い訳をした。
「ごめんごめん。ちょっと、予定より会議が長びいちゃってな」
 右手で頭を掻きながら、左手で、さっきから後ろに隠していたバースデーケーキの箱を差し出す。
「これで、許してくれるか?」
 上目使いに、螢の顔をうかがう。
 箱の中身が何であるか気づいた瞬間、螢の瞳が、ちら、と輝いたのを、私の目は見逃さなかった。実は、あそこのケーキは、螢の大好物なのだ。
 螢は、それを気取られないようにか、しばし、返事を渋った。
「んー、どっしよっかなぁ……」
 わざとらしく、考える振りをしていた。
 そのくせ、確かに螢の頬は、緩んでいる。
 ゆっくり十秒以上は考えただろうか。ようやく、螢が口を開いた。
「ま、パパの事だし、許したげる」
 たっぷりと恩着せがましそうに、言う。
 もちろん、そう言った螢の目は笑っていた。私もほっと、一息吐いた。
「そりゃどーも、ありがとさん」
 軽く頭を下げ、螢にケーキの箱を手渡す。螢はそれを受け取ると、私の手を引いて、部屋の中へと誘っていこうとした。
「ねっ、行こっ!!」
「ちょっ、ちょっと、そう急ぐなって……」
 私と螢は、靴を脱ぐのもそこそこに、部屋の奥へと、入っていった。
 脱ぎ捨てられた靴が、ころりと一組、玄関先に転がっていた。

 

 そして、奥の居間に行ってかばんを降ろして、背広をするりと床に脱ぎ捨て、一息、私は、さっきから何かとしきりにじゃれ付いてくる螢に対して、今日までずっと発してきた、いつもの台詞を、言った。
「それじゃ、螢。パパに、いつものお帰りなさいの挨拶を、してくれるかな?」
 見ると、螢の瞳は、いつもの色に戻っていた。
 いや、そこにはむしろ、喜々とした様子さえ、見受けられた。
 螢は一瞬、私の腕の中から見上げるように私の目を正面から見つめ、そしてこくりと肯き、そして、はっきりとした口調で言った。
「はい、パパ」
 螢はそう、明るく返事をすると、私の手からするりと抜けて、私の目の前へと回った。ぺろりと一度、悪戯っぽそうに唇を舐め、そのままの格好でおもむろに跪く。もう一度、私の目を見つめる。それから――。
 ゆっくりと、私のズボンのファスナーを下ろした。
 ビキニブリーフ越しに触れてくる螢の手が、妙に冷たい。
 そして螢は、前空きの部分から器用に私自身を取り出すと、それを十六才の唇に、ためらいもせず含み始めたのだった……。
 螢の可愛らしい顔が、私自身を咥えて、上下に運動していた。手のひらで包むようにして、まだ柔らかい私を支えている。指先に、微妙に力が加わる。
 先端を包みこむ湿った感触に、私の物も少しずつ充血し始めた。
 むうぅ、と、子猫のように鼻を鳴らして、螢が言う。
「もう固くなってきたよ。パパの、スケベ……」
「……螢が、う……上手いんだよ」
 その通り、すでに日常化されている事とはいえ、やはり螢のは巧かった。実際、並の女とは年期が違った。何しろ、十六年間もそれをやっているのだから。
 螢は一度、私自身から口を離すと、右手でそれを、ぐっ、としごいた。
「ん……、もっと固くしてあげる」
 そう言って私を見上げた螢の目は、とろんと濡れながらも、確かに喜びに輝いていた。
 攻撃が再開された。
 今度はいきなり咥えこむような事はしない。焦らすように、螢の柔らかい舌先が、私の物の裏側を、つつつっと下から舐め上げる。そうかと思うと、口内にたっぷりと唾液をためて、塗り付けるように私の先っぽに丹念にまとわりつかせてくる。唇で、猛った棒を締め付け、空いている手で、やわやわと袋をいじっている。
 螢の口の中は、暖かくって最高だった。
 ただ、『最高』ではあったが、一方的にやられてばかりいるのでは、さすがに私の親としての沽券にかかわった。
 私は手を下げると、螢の後頭部を、軽く、つかんだ。螢の動きを邪魔しないように気を付けながら、撫で上げるように、螢のうなじから耳のあたりを弄ぶ。
 螢は黙って、それを受け入れていた。
 螢は、それが好きだ。
 気付かない振りをしていても、感じ始めているのがだんだんと螢の態度に現れてくる。
「あ……あん……、ふう……」
 上下の間に間に、螢のあえぎ声が混ざってくる。
「どうだ、螢? いいかい?」
 私自身を含んでいて、まともに口がきけないのが分かっていながら、私はわざとそんな事を螢に聞いてみたりした。
 螢はそれに答える代わりに、より早く顔を上下させはじめた。螢の舌が、まるでそれ自体意思を持った軟体動物のように、私に絡んでくる。そう、すべてを吸い尽くす蛭のように……。
 いつもより激しい螢の動きに、私の物は、最大限までに膨張していた。
「う……。いいよ……螢、いつもより、いいよ」
 私の声が聞こえているのかいないのか、螢は火照った顔で、一心不乱に私をしゃぶっていた。私はもう、じっとしているのに耐えきれなくなっていた。
「螢……、いくよ、いくよ……」
 私は両手で螢の頭をしっかり抱えると、思いっきり腰を使って螢の口の中を突き回し始めた。螢はそれにあらがわずに、じっと口内をかき回されている。
 一つ突くたびに、先っぽと口壁が、粘膜どうしくっついて音を立てる。
 緊張しきった先端が、そんなに長い間持つはずはなかった。
「ぐっ!!」
 ついに私は、螢の喉奥に熱い粘液を放出した。脈打つたびに新しい粘液が、途切れもなく螢の中に送り込まれていく――。
「ん……」
 さすがに螢は長年の経験からか、私の急な発射にも別段驚いた様子も見せず、しっかりとそれを受けとめていた。舌先を丸めるようにしてすべてを受け止め、脈動が終わると、ためらわずにそれを全部飲み干す。それどころかまだ物足りないのか、先端に吸い付いて、最後の一滴まで絞り取ろうとした。
 私は思わず呻いた。
 螢の喉が、こくん、と鳴った。
 螢はようやく満足したのか、私から唇を離すと、ほ、と一つ、ため息を吐いた。
 螢が、私の顔を見て言った。
「ねえ、パパ、よかった?」
 再び、目が合った。螢は、あの――そう、あの時以来の――妖しげな、なんとも言いようのない色気を含んだ瞳をしていた。
「ああ、よかったよ。いつもより、ずっとよかった。螢のは、最高だ」
 私は本心、そう言いながら、螢の髪の毛を優しく撫でた。
 すると螢は、顔にぱっと嬉しそうな表情を浮かべた。
 天真爛漫そうに、にっこり笑った。
 そして言った。
「さっ、パパ、それじゃご飯、食べちゃいましょ。早くしないと、せっかく螢が作ったの、冷めちゃうよ?」
 そう言うと、螢はおもむろに立ち上がって、キッチンの方へと駆けていった。
 私は思わず、螢のその身代わりの早さに苦笑しながら、身支度を整えて、螢の後を追っていったのだった。

 

「それじゃま、螢、乾杯」
「ん」
 ちりん。
 乾いたシャンパングラスの音が、私の鼓膜を心地好い振動で満たした。
 ゆっくりと、黄金色の液体を一口、口に含む。
 螢は、頑張ってそれを一気に飲み干したようだ。
 目を丸めて、ほふ、と一息吐く螢に、私は思わず微苦笑をする。
 けれども、ケーキに挿した十六本の橙色の明かりごしに見る螢の顔はやはり、心なしか少し、上気しているようにも思えた。
 それから私達は、螢が学校から帰ってきてから目いっぱい気合いを入れて作ったご馳走と、私の買ってきたケーキとで、二人っきりで螢の誕生日のお祝いを始めたのだった。
 いつものような、他愛もない冗談が口に出る。
 螢がころころと笑う。
 いつも通りの食卓。
 いつも通りの二人。
 螢は、本当に楽しそうだった。
 何事も、微塵にも疑っていない様子だった。
 それを見た私は、左胸にちくりと、ずいぶん長い間忘れていたはずの心の痛みを、つい思い出さずにはいられなかった。
 むろん、それを螢に悟られるような真似はしなかったのだが。
 私には、螢に言ってない事が、たった一つだけあったのだった。
 いつかは言わねばならないと思いつつ、毎年毎年……ついに今日も言えなかった台詞。
 そう。
 今日は、正確には螢の誕生日ではなかったのだ。

 

 螢は、法的には私の娘であり、実質的には妻同然であるが、血縁的にはまったくの赤の他人だった。
 あれは、珍しく東京に雪が降り積もった日の事だった。その日私は、仕事が終わった後に久しぶりに大学の時の友人と会う約束があり、彼と再開の杯を祝しているうちに、二、三軒と飲み屋をはしごしてしまい、いつの間にか深酒をしてしまっていた。そして私がいつもの駅にたどり着いた頃には、とうに日付は変わっており、駅前の商店街もすべて明かりが消えてしまっていた。
 アーケードの街路樹のイルミネーションだけが、暗い夜道を照らしていた。
 私は、ほろ酔い気分で、帰宅の途についていた。まあ、ほろ酔いだったと思ってるのは自分一人で、実際には泥酔だったのかも知れない。
 空からはちらちらと小雪が降っていたが、酔っている私は傘もささずに、そのままふらふらと千鳥足で家へと向かっていた。
 妙な音が聞こえてくるのに気付いたのは、帰り道にある公園に入ってからだった。
 最初は、幻聴かと思った。
 次いで、猫の声かと思った。
 しかし、猫の声にしてはちょっと大きすぎるようにも思った。
 それは、公園の中にあるゴミ捨て場の方から聞こえた。
 気にしまい、と思いつつも、酒の勢いだったのか、いや、それとも――。
 とにかく、つい、そう、ほんとについ、のぞき込んでしまったのだ。
 私は見た。
 一瞬にして身体中から酒が引いていた。
 そこには、ガラクタとともに置かれたダンボール箱の中には、薄物に身をくるんだだけの赤ん坊が捨てられていたのだった。
 動転した。
 動転はしたが、動転した頭でも、このまま放っておけば朝にはどうなっているかは、簡単に想像がついた。間違いなく、奇跡でも起こらない限り、この子が生き残っている可能性は万にひとつもないだろう。
 しかし俺には関係ない、それにどうせ拾ったって、どこかの施設に流されてしまうに決まってるんだ。それならばいっそ――。
 そうも思った。
 そして私はそれを見なかったふりをして、その場を立ち去ろうとしたのだった。
 そのとき。
 ――赤ん坊と目が合った。
 赤ん坊の瞳が私を射すくめていた。
 瞳と瞳の間に、光の橋が架かった。
 赤ん坊の瞳に、私の顔が映った。
 暗がりで見えるはずもないのに、確かにそう感じられた。
 そして。
 その子は、私に笑いかけたのだ。
 黒目がちの、大きな瞳だった。
 その瞳には、なんとも言えない、妖しげな、強い意思が秘められていた。
 しばらくの間、私はその瞳に縛り付けられていた。
 あるいは、恋をしたと言ってもいいかも知れない。
 そして――。
 そして、自分でも信じられなかったのだが、私はその子を抱きかかえていたのだった。
 それが、十六年前の今日だったのだ。

 

 螢という名は、私が名づけた。
 あの日、螢と初めて会った時に舞い降りていた雪が、街灯の光に照らされて、まるで、儚げな螢のように美しく、そして清らかに光り輝いていたからだった。
 念のために言っておくが、私は、初めから螢をこういう風に育てるつもりで拾ったのではなかった。
 螢はある意味では、私にとっての天使、心の安らぎであった。日々の仕事を終え、重い身体を引きずりながら家路に辿り着いたそのときに、螢のその無垢な笑顔に、汚れた心の痛みを救われたことが、いったい何度あっただろうか?
 どこの誰が、自らの手で自らの聖域を汚すような事をしようか? 私とて、螢とのこの安らかな関係を崩すつもりなど毛頭なかったのだ。
 そう、むしろ最初に求めてきたのは、螢の方からだった。
 もちろん本人は、完全に自覚していなかっただろうが――。
 私が螢を正式に引き取ってから、おそらく、数ヶ月くらいが過ぎた頃だったろうか。私が螢を、お風呂に入れてやっていた時のことだった。
 私は洗い場で螢をあやしながら、大きめの手桶を使って、螢の身体を洗っていた。
 別に、変な気持ちがあった訳ではなかった。
 生後数ヶ月の乳児に、性欲を覚える訳もなかった。
 ただ単純に、お風呂に入れてやっていただけだった。
 螢は、これくらいの赤ん坊にしては珍しく普段からあまり泣きわめかない方で、この日もこにこしながら、お湯に浸かっていた。
 そこまでは、どこにでもある風景だった。
 問題は、その後だった。
 螢をお風呂に入れてやる時は、私もついでだからという事で、一緒に自分の分の入浴も済ませる事にしていた。風呂桶に湯を溜めておいて、そこから手桶に湯を取り、水で薄めて螢を沐浴させる、そんな按配である。
 当然そのときも、私は裸になっていた。あぐらをかくような感じで腰をタイルの上に下ろし、手桶を股の間に置き、そこで螢を洗っていたのだ。
 そして、螢をそろそろ風呂から上げるために抱えようとしたその時。
 一瞬、何が起こったか分からなかった。
 何を思ったか、螢が無造作に私自身の先を咥え込んだのだった……。
 その時の衝撃と快感は、まさに筆舌に尽くしがたい物があった。
 今の螢のようなテクニックは持っていないが、まだ歯の生えていない赤ん坊の歯茎は、フェラチオを行うのには最適だった。そればかりか、螢は、私自身を母親の乳首と勘違いしたのか、先端を口の中に吸い込み、一心不乱にそれを吸うのだった。
 信じられない光景だった。
 だがそれを頭の中で正しく理解する暇も与えずに、螢の舌は断続的に、そして確実に私の先端へと快感を与えつづけていた。
 私自身は、激しく膨張した。
 だが、それでも螢は口を離さずに、あろう事か舌まで使って、たっぷりと唾液をまとわりつかせてくれるのだ。
 もはや私には、これ以上耐えるのは不可能だった。
「……ぅ……くぅ……!!」
 圧倒的な快感とともに、螢の口の中へ私の白い精がそそぎ込まれていった。
 そして螢はそれをむせもせず、そそぎ込まれた物すべてを飲み込んでいったのだった。それどころか螢は、まだ足りないとでもいいたげに、吸い続けるのを止めてはくれない。
 私は、脱力しながらも、やっとの思いで螢を私から引き離した。
 私の先端と螢の唇との間に、一筋の光る橋が架かった。
 螢は、あの時の眼で、私を見ていた。
 この頃は、まだ私も若かった。今出したばっかりなのに、私のそれはしっかりと固く屹立していた。
 私には、今の強烈な感触が忘れられなかった。忘れられようはずもなかった。
 私は、螢の瞳を見つめた。
 螢が軽くうなずいたような気がした。
 その瞬間、私の心に鬼が宿った。
 そして私は――。
 私は、今度は自らの意志で、私を螢に咥えさせたのだった。
「……」
 螢が再び貪欲に私の先端を吸った。先端の割れ目をちろちろと舐める。
 鋭い快感が、再び私の先端を襲った。
 その時、私は狂っていたのかもしれない。
 私はもっと深い快感を得ようと、亀頭をすべて、螢の口内へと押し込んだのだった。
 ぬるり、と塊が螢の唇を割って入った。螢が小さい口いっぱいに頬張る。
 思った通りだった。螢の歯茎が、カリの部分を締めたり緩めたりするのだ。
 同時に螢は吸うのも忘れていなかった。
 二度目の破裂も、時間の問題だった。
「あぅ……螢……ほたる……」
 赤ん坊に、しかも、仮にも自分の娘として育てている子供にこんな事をさせている背徳感が、より強い快感となって私の脳裏を犯しつつあった。
 私は螢を、すでに一人の成熟した大人とさえ、錯覚しかけていた。
 螢……愛しい螢、お前に、出す――。
「おぅっ!!」
 私は発射の瞬間、私の物を引き抜いて、螢の顔面にまんべんなく精液を浴びせかけていった。
 螢は一瞬、キョトン、とした表情で降り注がれるそれを眺めていた。それから何と螢は、可愛らしい舌先をちろりとひらめかすと、口の回りについたそれを、ゆっくりと舐めとっていったのだった。
 そして満面の笑顔で、私に笑いかけてくれた。
 例えようがないほど愛しさが、私の心臓を締め上げていった。
 私は螢を抱き上げて、長い長い口づけを交わした。
 苦い蜜と、甘いミルクの香りがした。
 これが、螢との初めての行為だった。
 そして私は、この、神をも恐れぬ計画を決心したのだった。
 螢を、私好みの、私のための女として育てようと……。

 

 最初は、フェラチオばかりだった。と言っても、一歳にも満たない乳幼児に、他の事が出来ようはずがなかった。
 この頃の螢は、何と言っても、歯茎がよかった。歯が生え始めてからは、歯を立てないと言う事を覚えさせるのに苦労したが、そのことをちゃんと理解するようになってからは、時々歯を立てるのもいいアクセントになった。
 この時に私が特に気を付けたのは、螢に、無理矢理、と言う概念を植え付けないようにする事だった。螢が嫌がるならば、このような事をしても、まったく意味はなかった。
 私は、螢を使って快感を得たい訳ではなく、螢に私を愛してもらいたいのだから。
 もっとも、螢がするのを嫌がると言う事など、ほとんど無かった。積極的に――というほど能動的に物事が出来る訳ではもちろんなかったのだが――私が行為を求めると、いつも螢は嫌な顔ひとつせずにそれをしてくれていた。
 それほど自然に、事は進んでいったのだった。

 

 初めて螢自身に快感を覚えさせたのは、確か、螢が四歳くらいの頃だった。その頃の螢は、『行為』がどのような意味のものだという事については完全には理解していなかったようだが、行為をするという事、そのものについてはしっかりと理解していた。
 そして、それをすると、私が非常に喜ぶという事も。
 私は決して、螢に無理強いはしなかった。いや、それどころかむしろ最近は、逆に螢の方から私におねだりするという事さえ、あった。
 その日、私はいつものように、仕事の帰りに螢を迎えに保育所に寄った。何故だかいつも妙に愛想のよい若い保母さんが出迎えてくれて、螢を私に引き渡してくれる。私は、こっちに向かってとてとてと駆けてくる螢を両腕で抱きとめてから、背中におぶさってやり、帰り道につくのだった。
 螢がしかけてくるのは、たいていその時だった。
 螢の方が、催促するようにじんわりと私を攻めてくるのだ。私が手を使えない事をいい事に、後ろからうなじにキスしたり、耳たぶを軽く咬んだり舐め上げたり、ほとんど、遊びの感覚でいたずらしてくる。
 ――もっとも、それらはすべて、私が教え込んだ物ではあったが。
 自業自得と言われれば、それまでだ。
 それでも何とか我慢して家までは辿り着くのだが、靴を脱いで玄関に上がるなり、螢は私の耳元で甘えた声でこう囁くのだった。
「ねえ、パパ。して、いい?」
 小悪魔のような笑顔を浮かべて、私にそう言う。
 もちろん私に、否応のあるはずはなかった。
 許しを得た螢は、ぴょこんと私の背中から飛び降りると、いそいそと私の前に回る。
 私は、螢がやりやすいようにと、両膝を着いた。
 私は今では特に螢にこうしろとは言わない。全て螢の自主性に任せている。
 螢は手際よく私のベルトとジッパーを外すと、ブリーフの前空きから私自身をつかみ出していった。
 さすがに螢も、今ではいきなり咥え出すようなまねはしない。まず、じらすように、まだ柔らかいままの私自身を両手で弄ぶ。私の物は、螢にとっては、お気に入りのおもちゃのような物だった。
 突ついたり、頬擦りしたり、撫でさすったりして、私のがだんだん固く屹立していく様子を観察している。螢にしてみれば、どうもその動きが奇妙で面白いらしい。
 そして、ある程度咥えやすくなってからおもむろに喰いつく。
 今の螢と比べたら、まだ技巧は稚拙だったが、それはそれなりに、意外な快感を生み出していた。
 そしていつもは我慢しきれなくなると、螢の顔にかけるか、螢の口に出して螢がそれを飲むのだったが――。
 その日は違った。
 私は目線を下にやった。
 私のものを愛してくれている螢。ほつれ毛がおでこにひと房かかって、その一所懸命な表情がとてつもなくかわいらしい。
 そんな螢を見ていると、そろそろ螢にも喜びを教えてやってもいい頃だと思ったのだ。
 私はまだ自分に余裕のあるうちに、乱暴にしないように気をつけながら、私自身を螢の口から離した。
 螢が意外そうな、不満そうな顔で、私を見上げた。
「どしたのパパ、まだおわってないよ……?」
 何か悪い事でもしたのかと不安げな表情で、可愛らしく小首を傾げている。
 私は首を軽く左右に振り、螢にひとつ笑いかけると、私の小さな螢を抱えあげた。そして、螢の唾液と私の粘液で濡れている唇に、軽くキスをする。螢の耳元で囁く。
「今日は螢に、もっといい事、教えたげるよ」
 私の声がくすぐったかったのか、螢は身をよじらせてぴくんと震えた。見ると、螢はきょとんとした瞳で、私の顔を見つめている。
 私はそのまま螢を両手で抱きかかえて、二人のベッドルームへと移動した。螢をそっとベッドの中心へと下ろすと、もう一度くちづけを交わしてから、螢の服を脱がせにかかる。
 螢は力を抜いて、じっとされるがままになっていた。
 ジャンパースカート風の服を脱がせ、シャツのボタンを外して前をはだけると、じきにまだ微かにも膨らんでいない胸が露わになった。下着もすべて外し、螢を完全に裸にする。
 一糸まとわぬ姿となった螢を、私はしげしげと見つめた。
 お風呂等で見慣れている姿ではあったが、やはり螢は美しかった。ただ、春先とは言えまだ肌寒いのか、螢は少し震えているようであった。
 早く暖めてやらないと、螢がかわいそうだ。私は、急いで自分の服を脱ぎにかかった。
 螢は、少し緊張したような目付きで私を見ていた。
「ねえ、もっといいこと?」
 私は、螢を胸に抱きかかえて、言った。
「そうだよ。螢にも、パパと同じ事してあげる」
 そして私は、螢の両膝を広げると、螢のあそこにゆっくりと顔を近づけていった。
「あン、パパぁ……」
 まだ触れてもいないのに、なぜか螢が声を出した。
 螢のあそこは、当然ながら割れ目が一筋あるだけだった。私はその割れ目を両手で押し広げるようにしながら、舌先でほじくるように、何度も何度も割れ目に舌を往復させていった。
 螢のあそこは蒸れたような、酸味がかったおしっこのような匂いがしていた。とは言えもちろん、私が螢の体臭に嫌悪感を示そうはずがなかった。むしろその芳しい香りは、私の脳髄を直接刺激していった。
 一方、螢の方はというと、最初はなんともないようであったが、数回舐めているうちに、生意気にも少しづつ感じ始めてきたようだった。
 割れ目の上端にある、ほんとに小さな塊に触れるたびに、ピクッと身体を震わせて、切なそうな声を上げる。
 あそこ全体も、髭でぞりぞりと刺激する。
「なんかへんだよォ……あそこに、おひげが、ちくちくするぅ……」
 私は手を伸ばして、まだほんの米粒ほどの乳首をつまんだ。螢が身をよじる。
 指先でこねると、それは、小さいながらもしっかりと固くなっていった。
 下の粒の方も、とうに固くなっている。
「やめてよぉ、パパ……へんなのぉ……」
 そう言いながらも、螢は両足でしっかりと私の頭を挟んでいた。
 息づかいも、だいぶ荒くなっている。
「ねぇ……パパ? パパもいつも、こんなのなのぉ?」
「そうだよ。いつも、螢が、気持ちよくしてくれてるんだよ。螢、どんな感じ? 言ってごらん」
「やん……おしっこ、もれそ……う」
 やはり、まだ気持ちいいという感覚がよく分からないらしかった。それでも私は、しつこく、ピンク色の突起を舐め続けた。
 螢は上半身を激しく左右にくねらせた。
 小さな握りこぶしをぎゅっと握り締めて、全身にはうっすらと汗が滲んでいる。
 そろそろ、限界らしかった。
 私は思いきり、螢のあそこを吸い上げていった。
「……あん、やっ……んっ!!」
 ひときわ大きい声をあげて、螢がのけぞった。螢の両足が、固く私の頭を締めつけた。
 私は、螢が生まれて初めていったのを、知った。
 螢はいった後も、余震のように、二、三度身体を震わせていた。
 私は顔を上げると、ぐったりと力の抜けている螢を抱きかかえた。
「どうだった、螢?」
「……」
 まだ息が荒かった。目もトロンとしていて、力なく身体を私に預けている。
 初めての経験にびっくりしているようだった。
 ひょっとしたら、びっくりする余裕すら、無かったのかもしれない。
 ようやくの事で、螢が口を開いた。
「……わかんない。でも、おしっこがまんしてるみたいだった……」
 螢は、感じたままを、素直にそう表現した。
 知らないままに、必死にいくのを我慢していた螢が、愛しかった。
 私は軽くうなずくと、笑いながら螢の頭を撫でてやった。
 螢がくすぐったそうな表情をして、私を見た。
 私は言った。
「我慢しなくていいんだよ。螢が感じるままに、身をまかせればいいんだ」
 螢は私が言った事を、分かったような分からなかったような表情をして聞いていた。
 その表情を見ると、私は螢にもっと喜びを教えたくなった。
 私は今度はベッドの上にあぐらをかくと、螢を背中から抱きかかえるようにして、私の股の上に座らせていった。
 そして言った。
「さぁ、今度は螢が自分でやる番だよ」
「……えっ? でもぉ、ほたる、やりかた、しらないもん……」
 螢が、戸惑うように私を見上げた。
 私は勇気づけるように微笑みながら、螢に言った。
「大丈夫。パパが全部教えてあげるから」

 

 私は螢の手を取って、指先を私の唾液でしとらせてから、螢の股間へと導いていった。指先を螢の小さな突起に触らせる。そして、そっと擦るように螢の手首を動かす。
「ここが、螢の一番感じるとこだよ」
「ここが?」
 不思議そうに、螢が聞いた。
 さっきまで実際に感じていたのに、どこがどう感じていたのか、よく分かっていなかったようだった。
「そう、パパのこれと同じなんだ。自分で擦ってごらん」
 螢は最初、戸惑ったように私を見上げていたが、私が一つうなずくと、意を決したかのようにそっと指を動かし始めた。
 螢の指が、おずおずと、自分の芽を擦り始める。
 最初は、ごくゆっくりとだったが、すでに赤く尖っている物だ、指のスピードが早くなるのに、そう時間は要さなかった。
 それとともに、少しづつため息も漏れ始めてきた。
「パパぁ、こぅお?」
 螢の中指が、あそこでくりくりと動いている。
「そうだよ、螢。胸の方も忘れないで……」
 私がそう言うと、螢は自発的にもう一方の手で、自分の小さな胸を愛撫し始めた。右手であそこを、左手で左胸をいじくっている。
 私は左手で螢を支えると、空いている右胸に手を伸ばした。そこは、すでに固くしこっていた。
「はん、また、さっきみたいになってきちゃったよお……」
 螢が、身をよじらせてよがる。
「螢、それが気持ちいいって事なんだよ」
「……これが、きもちいい、なのぉ。ねぇ、パパも、きもちいいの?」
 上目づかいに私を見る、螢の眼に意思はなかった。
「うん、いつも、螢にしてもらうと、気持ちいいよ」
「そう……じゃあ、パパ……」
 そう言うと螢は、いきなり左手を胸からはずすと、股の下で螢を支えている私自身に手を伸ばしてきた。それは螢の体重を受け止めて、すでに固く屹立していた。
 螢はその先端をくすぐるようにいじくりだした。裏側を、ミゾに沿って小さな指が這っていく。
 私自身、高まりが来るのを感じながら、螢の両胸を責め苛んでいった。
「はぁ、螢、気持ちいいよ。螢は?」
「パパ……ほたるも、きもちいいの」
 螢が、私の上で、腰を回しだした。
 その振動が、私自身に直接伝わった。
 私も思わず腰を揺り動かした。
 私の上で、螢が揺れた。
「……やん、パパ……へんだよ、あそこが、あそこが……あんっ!!」
 螢が全身の筋肉をぴんと突っ張らせた。
 螢が、先に、墜ちた。
 墜ちるときに、螢の股間で私自身がぐいっ、としごかれていった。
「うっ……」
 いってしまった。
 私は、ベッドの上にたっぷりと白い飛沫を飛び散らせていった。
 螢は、焦点の合わない眼でそれを見つめていた。

 

 六歳になって、螢も小学校へと入学した。
 小学校に入学しても、私達の関係は続いていた。
 螢にとっては、昼の学校と、夜の学校が出来た訳だった。
 私は、螢には夜の事は誰にも言わないようにとは、一応釘を刺しておいた。
 が、その一方で、もはやしゃべられてもいい、とさえも思っていた。
 世間に知られようと、どうしようと、私が螢を愛する事に変わりはなかった。
 私と螢との間は、そんな事で壊されるような物ではなかったし、また、壊されるならそれまでの物だ、とも思っていた。
 私は、全世界を敵に回してでも、命に代えても螢を守る。その上でどうするかは、螢自身が決める事だ。
 私は螢にしてきた今までの事を、一切、後悔しない。
 もっとも螢は、私を恨むだろうが……。

 

 螢がこのような関係が異常だと気付き始めたのは、小学校六年生になってからであった。ちょうど、学校で性について習い始める頃だ。
 友達と、興味本意で性について話す事もあっただろう。
 雑誌等で、性に関する記事を目にする事もあっただろう。
 その頃から螢は、何となく私との関係を避けるようになっていった。
 私は、ついに来るべき時が来たのだと思った。
 良識のある人間から見れば、私は、娘を性のおもちゃにしているとしか取られようのない事をしているのだ。
 私にはもちろん、そのようなつもりはなかった。
 私は本気だった。本気で螢を愛していた。
 物心も付いていなかった螢には、他に選択肢が無かったという批判であれば、私は甘んじてそれを受けよう。
 しかし、その他には私は世間に向かって、なんら恥じるような事はなかった。
 愛し合っている者の間には、変態はないと信じていた。
 愛し合っている者の間には、だが――。
 そう、確かに問題は螢だった。
 私は、何度も言うが、螢を愛している。
 これは、天地神明、何に誓ってもよい事だった。
 しかし螢は――?
 今まで私が螢にしてきた事、それら全てを理解した上で、私を愛してくれるだろうか?
 螢の、愛の自由を奪った私を。
 私は卑怯者かもしれなかった。
 それでも私は、最後の判断を、螢に任せようと思ったのだ。
 螢が嫌がるならば、そして、それでも私を許してくれるならば、出来る限り普通の親子の関係に戻ろうと――。娘として愛してもいいと。
 我ながら、虫のいい話しだとは思う。
 しかし今の私には、螢がいない生活など考えられなかったのだ。

 

 確か夏休みで、螢の登校日だった日の夜の事だったように思う。あの日も私達は、それぞれのベッドで、ごく普通の親子のように眠っていた。
 螢には、この頃にはもう自分の部屋を与えていた。
 螢は最近は、家に帰っても自分の部屋にいる事の方が多かった。
 長い間、私と螢との間で関係はなかった。
 蒸し暑く、寝苦しい夜だった。
 私は、かなり遅くなるまで寝つけなかった。
 もう寝てしまったのか、螢の部屋からは物音ひとつ聞こえなかった。
 私は何度も寝返りを打った。
 寝付きかけてからも、なかなか深くは眠れず、ずっと、ウトウトしていた。
 夢ごこちに、遠いところで何かが擦れたような音が聞こえてきた。
 何か暖かい物が、そばにあるような気がした。
 それは、しばらくじっとしていた。
 この頃まで、私は夢だと思っていた。
 それがいきなり、私の上に覆いかぶさってくるまでは。
 私は目を覚ました。
 私の寝ぼけかかった頭でも、それが何であるかは、一瞬で分かった。
 その重み、その形、その匂い。忘れようはずがない。

 螢。

 私が目を開けると、目の前には、真摯な眼差しをした螢の顔があった。
 螢は全裸だった。全裸で、私の身体にまたがるような格好で、私に覆い被さっていた。
 固く口を結んで、私の顔を見つめていた。
 何をしにきたのかは、その思いつめた表情を見ればすぐに分かった。
 それでも私は――。
「どうした、螢?」
 それでも私には、そう聞く事しかできなかった。
 しばらく、沈黙の時が流れた。
 螢は、さっきからピクリとも動かなかった。
 それでも、肩の上に置かれている手から感じる微妙な震えが、螢が幼いながらも内心で葛藤しているという事実を、痛いほどに私に伝えてきた。
 そのまま手を横に滑らされて、螢に頚を絞められて死んでも構わない――。いつしか、そんな心の痛みと哀しみが、私の左胸の奥を支配していた。
「螢?」
 私は、もう一度言った。
 螢の瞳が、強い光で私の目を貫いた。
 ようやく決心がついたようだった。
 螢が、何度も何度も心の中で繰り返したセリフを読むように、棒調子で、言った。
「……パパ。あたしは、パパの、何なの?」
 来た、と思った。
 私の中ではもちろん答えは固まっている問いであった。しかし、螢にどう答えればいいのか、それだけが、どれだけ考えても、どうしても私には分からなかった問いであった。
 そして、その時点においてさえも、私は卑怯者だった。
「そりゃあ、螢は、パパの娘さ」
 最後の言葉を聞いたとたん、螢が暴発した。
 いきなり感情をむき出しにして、大声で叫びだした。
「そうじゃなくてっ!! あたし、そんな事聞きたいんじゃない!! あたし、パパがあたしの事どう思ってるのかって聞いてんのよっ!!
 娘なの? ただの娘なの? じゃなんで、いままであんな事してたのよ? あたし、小さいときから、ずっとパパの事好きだったんだよ? パパの事、信じてきて――。
 なのになによ!! ただの父親です、なんて。そういうつもりなの? 今さら? 馬鹿じゃないの? 馬鹿っ!! なに考えてんのよ、パパっ!! 馬鹿!! 馬鹿ぁっ!!」
 螢が、私の胸で泣き崩れた。
 私は泣きじゃくる螢を抱きかかえたまま、しばらく、ぼおっとしていた。
 ――私は、螢をここまで苦しめていたのだ。
 それなのに、私は――。螢に任せるなどと体のいい事を言っておきながら、結局は無責任に問題を棚上げにしていただけだ。ただの意気地なしだ。螢に愛される資格すらない、唾棄すべき卑怯者だ。
 けれども。
 そんな卑怯者である私だけれども。
 それでも私は、卑怯者である私は、螢が愛しくて愛しくてしょうがないのだった。
 初めて会ったときの螢。
 こっちへ駆けてくる螢。
 妖しげな瞳の螢。
 笑っている螢。
 拗ねている螢。
 感じている螢。
 泣いている螢。
 今、泣いている螢。
 いろんな螢が、螢にオーバーラップして浮かんできた。
 俺は馬鹿だ。
 今度こそ、本当に、螢が自分にとって不可欠な人であるのが分かった。
 螢を放したくなかった。
 螢、お前を愛している。一人の男として。だから。螢――。
「パパ……、痛いよ……」
 いつの間にか、螢は泣きやんでいた。
 抱きしめる腕に、力がこもりすぎていたらしい。
 私は力を緩めると、改めて螢を抱え直した。
 そして、正面から螢を見つめて、言った。
「悪かった。螢。本当に」
 私は何か口を挟もうとする螢を制した。
「頼むから、少しだけ黙って俺の言う事を聞いていてくれ。
 俺は、お前を、いままでこんな風に育ててきた。一般社会の常識から考えると、とうてい許されない事だろう。自分の娘を、性の対象にするなんてな。俺は、誰から非難されてもいい。もちろん、お前からも。
 ――でもな、螢。いくら許されない事とはいえ、俺は本気なんだ。初めて、赤ん坊のお前を見た時から、お前をこの腕に抱きしめた時から、ずっと。
 本気でお前を愛しいと思い、お前を愛している。あの時からこの気持ちに変わりはない。これからもずっと、ずっとだ。
 軽蔑したかったらしろ。恨むなら恨め!! 殺すなら殺すでそれでも構わない!!
 それでも、俺はお前を愛してるんだ。ずっと、一人の男として。螢っ……!! 好きだっ!! 愛してるっ……!!」
 最初はとつとつと喋っていたが、最後の方は、半分、螢の胸に顔を埋めて絶叫していた。
 螢がどの程度理解したか分からなかったが、私は、螢への思いのたけをすべて吐き出していた。もうこれでどうなっても構わない。この瞬間、天地が裂けようとも、私に悔いはなかった。螢を愛する気持ちに、嘘偽りはない――!!
 私は、顔を上げて、螢の顔を見た。
 螢は、涙でグシャグシャの顔を、さらに歪めさせていた。
「馬鹿ぁ……。誰が恨むって言ったのよ……」
 そう言うと、螢はいきなり、私に口づけしてきた。
 思いのままに、激しく貪り吸った。
 唇が唇を求め合い、舌が舌と絡み合った。
 螢の目から、涙が一筋こぼれ落ちた。
 螢が、私の胸に顔を埋めて泣きじゃくった。
「馬鹿……、パパの、馬鹿……」
 私は螢を抱き寄せながら、螢の背中を、黙ってさすり続けていた。

 

 いつしか螢のすすり泣きは、微かなあえぎ声へと変わっていった。
 私の指先が螢の背中を這うたびに、細かな震えとともに、蚊の鳴くようなため息が私の耳に伝わってきた。
 螢のため息が、私の胸をくすぐっていた。
 久しぶりの刺激を、螢が過敏に感じているようだった。
 もちろん私にとっても、久しぶりの螢の体は新鮮だった。
 何よりも、螢に受け入れられているという安心感が、私自身を大胆にしていた。
 私はそっと体を入れ換えると、逆に螢を押し倒していった。
 そして今度は、ゆっくりと口づけを交わす。
 螢のぷりぷりとした唇を、そっとついばむ。
 なま暖かい感触が、私の舌先に感じられる。
 私はたっぷりとその感触を楽しんだ後、多少強引に螢の唇を割って、私の尖らせた舌を、深く、螢の中に差し込んでいった。
 螢の舌の上に、私の唾液を流し込む。
 口の中で、唾液と唾液が混じり合った。
 お互いの舌先でそれをこね合わせてから、啜る。
 螢はそれを恍惚とした表情で飲み込んで、言った。
「おいしい……パパの……」
 半眼に開いた瞳が、とても小六とは思えないほど色っぽかった。
 螢は顔に僅かに笑みを浮かばせると、両腕を私の首に絡めてきた。
「お返し……」
 その言葉と共に、螢の舌が、唾液を伴って送り込まれてきた。
 私も、舌をストローの様にして、それを音をたてて啜った。
 ずずずっ、という湿った音が、はっきりと二人の耳に響いていった。
 私は、甘くて暖かいそれを、ごくり、と飲み下した。
 とろりとした液体が喉の裏側を滑り落ちていく感触が、とてつもなく心地よかった。螢が私の中にいる――そう思った。
「……螢」
 私はため息を一つ付くと、唇をはずして、螢の胸を責めたて始めた。
 螢の胸は、ちょうど、子供と大人との中間の、未完成な膨らみを保っていた。
 それは、未完成故にきわめて不完全だったが、それが逆に、今しかない、今という一瞬の輝きを、余すところ無く封じ込めていた。
 螢の胸は、美しかった。
 白くなだらかな丘の上には、ピンク色の蕾が初々しく震えていた。
 それは、今から与えられるはずの快感を待ちかねて、すでに固くしこっていた。
 私はそれを見て、ふと、ある考えを思いついた。
 ニヤリ、と一つ笑うと、わざと充血した蕾を外すように、螢の小さな胸を揉み上げ始める。
 螢の胸が、醜くゆがんだ。
 ピンク色の蕾が、もっと濃い紅色に染まった。
 触ってもいないのに、そこはひくひくと蠢いていた。
 螢は、私の手の動きをしっかり感じていながらも、何か違う――とでもいいたげな目付きで、私の顔を見つめていた。
 もちろん私はそれに気づかないふりをして、螢の乳房や乳暈の辺りばかりを責めつづける。
 ついに、螢の口から声が漏れた。
「や、そこじゃないの……」
 案の定、螢がじれてきた。
 あえぎ声に混じって、つい、おねだりの言葉が出てきてしまっている。
 それでも私は、螢の乳首を攻めようとはしなかった。
 ぎりぎりにまで唇を近づけて、熱い息を、ほわっとかける。乳首に触れないように気を付けながら、回りの乳暈のつぷつぷを、舐める。
 螢が、いやいやをするように首を振った。
 もちろん私は、螢が自分でいじれないように、螢の手を押さえておく事を忘れてはいなかった。
 螢は半分泣きながら、哀願していた。
「お願い、パパ、意地悪しないで……」
 私は、内心のサド的な喜びをひた隠しながら、押し殺した声で、言った。
「螢、どうして欲しいの? 言ってごらん」
 私は、そう言ったとたん、すべての愛撫を一時的に止めた。
 螢の体を押さえつけたまま、じっと螢の顔を見つめる。
 螢は眉をしかめて、身体の表面をちりちりと灼くむず痒さに、必死で耐えようとしていた。
 身体をよじって、むず痒さから逃れようとしていたが、とても成功したようには見えなかった。
 螢の唇が、波に揺れるいそぎんちゃくのように、ゆらゆらと揺れ動いていた。
 半開きの口から、よだれが一すじ、ツッと垂れた。
 もはや時間の問題だった。
 螢の身体が、ぷるるっと震えた。
 螢の口から、意味をなさない言葉が漏れた。
 限界だった。
 ついに螢が、もう一度持ち得ようとした、恥ずかしい、という感情を捨てた。
「……欲しいの……螢の乳首、なめて……」
 私は、今度こそ本当に、螢が自分の意思でわが身を投げ出したのを悟った。
 歓喜の表情を内に秘めて、私は、おもむろに螢の乳首にかぶりついた。
「やんっ!」
 螢が急激にのけぞった。
 じらされていた分、待っていた快感を過敏に受けとめていた。
 私は、痕が残るほどきつく、螢の胸を吸った。
「やあぁぁぁぁぁっ!!」
 螢が私の背中に爪を立てた。
 私も螢も、すでに痛みすら快感に転化していた。
 しゃぶっていない方の乳首を、乱暴に指先で弄んだ。
 舌と指とで、同時に転がす。
 螢は、今までに見たことがないほど、乱れていた。
「あぅん、螢、ほたる、変になっちゃうよぉ……」
 螢はもう、陶酔の世界に入り込んでいるようだった。
 私が何かするごとに、螢の身体は新たな反応を示していた。
 普段思ってもみない所まで、感じていた。
 私は頃合もよしと、空いている手を螢の股間へと伸ばしていった。
 まだ若草すら生えていない丘を通り抜けて、中指の先が、敏感な肉の芽へと到達した。
「ひっ!!」
 螢が、触られた事をいち早く感じとった。
 指先を、そっと割れ目に這わせてみた。
 濡れていた。
 螢のあそこは、完全に濡れそぼっていた。
 私は、指先で蜜をすくい取って、それを芽に擦り付けようとした。
 ぬぷ、と割れ目に第一関節まで挿入して、たっぷりと蜜をまとわりつかせた。
 それを潤滑剤代わりにして、螢の芽を、くにくにとこね回した。
 こねてはすくい、すくってはこねた。
 すくってもすくっても、泉からは新しい蜜が溢れだしてきた。
 それでも螢は、もっと感じようと、自分から腰をくねらせていた。
「なめて……あそこ、なめて……」
 今度は私もじらさずに、螢の言うとおりにしてやった。
 というよりも、私の方も興奮してきて、そろそろ我慢が効かなくなったのだった。
 私は螢の腰を抱え上げると、ちょうど、オムツを当てるときのような格好をさせた。
 螢のあそこが丸見えになった。
 濡れて桜色に光っている割れ目が、幼いながらもひくひくと蠢いていた。
 私は、情感を込めて、下唇にフレンチキスをした。
「あぅ、そこ、もっと強く……」
 下唇に舌を差し込んで、ぷるぷると震わせる。
 螢のあそこで、唾液と蜜とが混ざり合った。
 私はわざとそれを、じゅるるるっと音をたてて啜った。
 螢が、泣き笑いのような、なんとも言えない表情を見せた。
 いやらしい、と思う事によって、より強く感じているようだった。
 もっと感じさせてやりたくなった。
 私は、割れ目を指で開いて、開いたひだひだを舐めながら、螢に言った。
「ほら、螢のここ舐めてるよ。見て」
「やぁん、恥ずかしい……」
 螢は顔を背けた。
 ように見えた。
 しかし、螢は顔を背けながらも、薄目で、舐められてる所を見てるのを、私は見逃さなかった。
「いやらしいな。やだって言いながら見てるじゃないか。お仕置きだ」
「だって……パパが見ろって……やだ、なにこれっ? ……あんっ!!」
 私は、螢の見てる前で、螢の後ろの穴をこね始めたのだった。
 前の方から蜜をすくってきて、しとらせながらこねた。
 そこは、だんだんと柔らかくなっていった。
 菊の花が、少しづつ受け入れを許していった。
 後ろは初めてのはずなのに、螢はしっかり感じだしていた。
「こ……こんなの初めて……螢、もう……もう……!!」
 あと一息だった。
 私は、螢の芽を舐めている舌先に力を込めた。
 螢の息が不規則になった。
 いく寸前だ。
 私は、すばやく螢のお尻の穴に小指の先を差し込ませた。
 ぬぷぷっと一気に第一関節までが潜り込んだ。
「いやあああっ!!」
 それがとどめになった。
 螢は、一瞬にして頂点まで昇りつめた。
 お尻の穴が、きゅっ、と指先を締め付けた。
 自らの意思とは無関係に、螢の身体が勝手に波打っていた。
 螢は、何度も何度も身体を打ち震わせた後、急に身体を硬直させて、力を抜いた。
 硬直した身体が、快感を思い出すかのように、ひくひくと痙攣していた。
 螢の目は虚ろだった。
 どうやら、気を失ったようだった。
 気絶した後も、あそこだけが、まるで別の生き物のように蠢いていた。

 

 私は抱えていた足を下ろすと、螢の顔に口づけをした。
 螢の横に寝そべって、螢の頬を優しく撫でさすっていく。
 それでようやく、螢が目を覚ましたようだった。
 螢はしばらくの間身体を丸めて、上り詰めた後の気倦げな余韻に浸っていたが、こっちを向いたときにはもう、完全に目に光を取り戻していた。
 螢は、あの時の瞳をしていた。
 螢が、私の目を正面から見つめて、言った。
「ねえ、パパ……」
「ん?」
 螢が言った。
「お願い。螢と、ちゃんと、して」
 螢の方から、私を、求めてきたのだった。
 恐らく信じられないだろうが、私はまだ、螢のバージンを奪ってはいなかった。
 もちろん、螢が小さすぎたというのもあったが、それよりも、訳も分からない子供に、無理矢理それをしたくなかったというのが本音だった。
 今、螢の方が、それを欲していた。
 私の脳裏に一瞬、いっそのこと――という考えが、浮かんで、消えた。
 螢がしたがっているとはいえ、やはり螢にはまだ早すぎた。
 第二次性徴すら、済んでないのだ。
 螢に、セックスに対する恐怖感を与えたくなかった。
 我慢しなければならなかった。
 私は言った。
「まだ、だめだ」
 案の定、螢が反発した。
「どうして? 螢の事好きだって言ったじゃない。なのに何で?」
「螢が大人になってからだよ」
「あたし、もう大人だよ。ちゃんとできるもん。あたし、パパとしたいの」
 確かに、物理的に挿入する事は可能かも知れなかった。
 しかし、実際にそうしたら、完全に悪い結果に終わるのは火を見るよりも明らかだった。
 螢のあそこは、まだ青い蕾だった。
 蕾を手折る訳にはいかなかった。
 私は、螢を諭すように言った。
「螢。分かってくれ。まだ螢には早すぎるんだ。螢の事が好きだからこそ、きちんと、してやりたいんだ」
 すると螢は、べそをかいたような顔で、上目遣いに私を見て言った。
「それじゃ、いつになったらしてくれるの?」
 私は言った。
「約束しよう。十六になったら、螢が十六歳になったら、パパが本当の大人にしてあげるよ」
 螢が、パッと破顔した。
 その顔は、真夏に咲くひまわりの花を思わせた。
「本当!? 約束だよ。螢、がんばっていい女になるから。絶対、ぜったい約束だよ!!」
「ああ、楽しみにしてるよ」
「パパっ!!」
 螢が私に飛びついてきた。
 私は、両腕でしっかりと螢を抱きしめた。
 螢の温かい身体が、私の手の中にあった。
 その後、私達はもう一度愛し合った。今日のこの日まで、幾度となく――。
 そして今日、待ちに待ったその日が、ついにやってきたのだった。

 

 螢は今、キッチンの流し台で、きれいに中身が平らげられた食器類を洗っていた。
 水音に混じって、螢の楽しげな鼻歌が聞こえてきた。
 私は、居間であぐらをかきながら、所在なげに螢の後ろ姿をながめていた。
 テレビも一応付いてはいたが、映像も音も、一切私には届いてこなかった。
 螢の腰の後ろで結ばれたエプロンの白い紐が、セーラー服の紺色の地に映えていた。
 そのすぐ下では、リズムに合わせて、お尻がぷりぷりと動いていた。
 本人がそれに気付いていないのが、一番始末に悪かった。
 私の中では、食欲が満たされた代わりに、今度は別の欲情が頭をもたげてきた。
 私は確かに、四年前にはああ言ったが、近頃ではじれているのはむしろ私の方だった。
 螢の胸も年相応にふくらみ、前にはなかった茂みも、薄く、生えてきていた。
 外見的には完全な大人までにはもう一歩、といったところだったが、生物学的な身体の方は、ほぼ完璧に整っていた。
 そんな姿を見ながら最後の一線を我慢するのは、私にとっては、もはや半分拷問に近かった。親としてのプライドと、螢の事を思う気持ちがなければ、とっくに襲っていたかもしれない。
 だが、今日からはもう、そんな我慢はしなくてもいいのだ。
 そんな事を思うと、さらに熱い欲望が身体に渦巻いてきた。
 今すぐ、螢と、やりたい。
 そんな思いが、身体の中心から沸き上がってきた。
 その気持ちを抑えるのは、事実上、不可能だった。
 理性の最後のかけらも、今までの我慢で、すでに疲弊しきっていた。
 私の身体が、理性の監視の隙をついて、勝手に行動し始めた。
 私は、できるだけ静かに立ち上がった。
 足音を忍ばせて、キッチンの中に入る。
 床を鳴らさないように注意しながら、螢の後ろに歩き寄った。
 すぐ後ろに立っていても、螢が気付いたようには見えなかった。
 螢は、無防備に、私の前に立っていた。
 鼻歌が、まだ聞こえてきた。
 お尻が、ぷりぷりと動いていた。
 螢の髪から、シャンプーの香りが漂ってきた。
 もう、我慢できなかった。
 私は、おもむろに後ろから螢を抱きしめると、螢の髪の毛に顔を埋めた。
「……!!」
 螢が思わず、息を飲んだ。
 私はそれに構わずに、うなじに繰り返しキスをした。
 衣服の上から、胸とあそこをまさぐった。
 手の中に、柔らかい膨らみが感じられた。
 手のひらで、それをぐりぐりと揉みしだいた。
 張りのある弾力が、心地よかった。
 驚いて、螢が身をよじった。
 紐がゆるんで、エプロンがキッチンの床に落ちた。
「やん、パパ、どうしたのよ?」
 私は、口を螢の耳元に寄せて、かすれた声で言った。
「……やりたい。我慢できない。今すぐ螢とやりたい……」
「やだぁ、こんな所じゃやだってばぁ」
 私は螢の声を無視して、より強く胸を揉み始めた。
 もう一方の手は、螢のスカートをたくし上げていた。
 パンティの上から、指先であそこに円を描くようになぞる。
 螢の息が、だんだんと荒くなっていった。
 口で嫌だと言っていても、身体の方がそうは言ってなかった。
 螢の身体も、今日のこの日をずっと心待ちにしていたのだろう。
 何度か擦っただけで、パンティの内側から熱い物がじっとりと浸みだしてくるのが、指先からでもすぐに分かった。
 私は一気にパンティの中に指先を侵入させて、一番敏感な部分で、くちゅっといやらしい音をたてた。
 螢の腰が、ピクッと蠢いた。
「馬鹿ぁ、感じちゃうじゃない」
 螢が、聞き分けのない幼子をあやすような口調で言った。
 私は、螢の耳たぶを咬みながら言った。
「螢ももう大人だろ? 感じるだけ感じていいよ……」
 立派な大人の詭弁という奴だ。
「ばぁーか……」
 螢がため息混じりにそう言った。
 そう言ってる間にも私の手は、セーラー服の裾から、螢の胸へと到達していった。
 片手で器用にフロントホックをはずして、解放された螢の乳房を受けとめる。
 少し小さめだが、私の手にすっぽり収まる、螢の胸。
 私は、親指と人差し指で乳首を摘んで、乳房全体をゆっくりといじった。
 螢の胸が、しっとりと手のひらに吸いついてきた。
「やあっ、はん……もぉ、ホントにやめてよぉ……」
 螢はもう、立っているのももどかしいらしく、膝をがくがくと震わせている。
 私が支えていなければ、今すぐにでも崩れ落ちそうだった。
 それでも私は、責めるのをやめなかった。
 きれいに剥けたクリトリスをこねる。
 固くしこった乳首をつねる。
 卑猥な言葉を呟きながら、耳に熱い吐息をかける。
 一つ一つの動作に、螢はしっかり反応していた。
 身体が、自分の意思とは無関係に、反応しすぎていたのだった。
 今日抱かれるという意識が、身体を過剰に敏感にしていたのだった。
 しかも、キッチンで、後ろから、半ば無理矢理に、というシチュエーションが、それに拍車を掛けていた。
 螢の身体は、早くも一回目の飽和状態に近づこうとしていた。
「だめぇ、螢、いっ、いっちゃうよおっ!!」
 私は、螢の反応に多少驚きながらも、このままいかせてしまおうと、螢のあそこに、痛みを感じるかもしれないほど強い刺激を加えた。
「いっていいよ。螢、いって」
「やなの、螢、ちゃんと……でも、でも、や、ああんっ!!」
 ついに、螢は耐えきれなくなって両膝をついた。
 背中を反らして、身体中を駆けめぐる快感に耐えている。
 身体を、取れたての海老のようにぴくぴくと跳ねさせていた。
 私は、螢が倒れるときに、あそこから引き抜いた指先を見た。
 そこには、透明な液が、ぬっとりと粘りついていた。
 指を広げても、粘った糸はなかなか切れようとはしなかった。
 螢のあそこがどうなっているかは、容易に想像することができた。
 次に、螢がどうするかも――。
 予想通り、螢は座り込んだままで、私の方に振り返った。
 そして、上目遣いに私を見上げて、言った。
「パパ、お願い」
「ん?」
 私は、次のセリフが分かっていながら、わざと螢に聞き返した。
「お願い、続きはベッドで……」
 もちろん、私に異論があろうはずがなかった。

 

 私は、螢を横抱えに抱き上げると、私の寝室の方へ向かった。
 螢はうっとりとした表情で、私の胸に頭を預けている。まるで、新婚初夜を迎えるお姫さまのようだった。もっとも実際に、そのようなものではあるが。
 私も、今日が螢との結婚式のようなものだと思っていた。
 私は、両腕で螢を支えながら、寝室のドアを開けた。
 そこには、すでにきちんとメイクを済ませたベッドがあった。
 私は、着衣が乱れたままの螢を、ベッドへと横たえた。
 まだ身体に力が入らないらしく、螢はベッドの上でぐったりとしたままだった。
 胸元までたくし上げられたセーラー服が、妙にエロティックだった。
 薄暗い部屋の中で、螢の顔とおへその辺りだけが白く浮き上がっているように見えた。
 その中で、螢の瞳が、黒猫のように濡れて光っていた。
 私はしばらく螢の瞳を見つめてから、枕元のスタンドをつけて、自分の服を脱ぎ始めた。
 そこら辺に、いままで着てた物を脱ぎ散らかす。
 最後に紺のビキニブリーフ一枚になって、螢の上にのしかかった。
 今度は、螢を脱がせる番だった。
 私は、螢のわき腹を軽くつかんで、何度も何度も螢のおへそにキスをした。
 長く伸ばした舌先を、おへそからお腹、お腹から胸の谷間へと、ゆっくりと這わせる。
 螢が細いため息をついた。
 私の舌先に、螢の産毛がさわさわと感じられた。
 螢はもう、私のされるがままになっていた。
 それを確認した私は、いろんな所にキスをしながら、螢のセーラー服とアンダーシャツとを脱がせていった。
 今では、螢の上半身は、僅かにブラジャーだけに覆われていた。
 それは前で割れて、二つの膨らみにかろうじて引っかかっていた。
 私は、許しを請うかのような表情で、螢の顔を見た。
 螢が、軽くうなずいて、言った。
「見て……」
 螢の許可を得て、私はそれを両手でめくった。
 めくった物と同じ、ピンク色をした乳首が露わになった。
 私は、両方のそれに軽くくちづけしてから、身体をずり下げて、螢のスカートの中に頭をつっこんでいった。
 特有の匂いが鼻についた。
 螢のパンティは、汗と愛液とで、じゅくじゅくに湿っていた。
 さほど薄いパンティではなかったが、そのものが透けて見えるほど、ピタリとあそこに張り付いているようであった。
「螢……」
 私はそう言って、螢を一旦、四つん這いにさせた。
 スカートを着けさせたままで、パンティをお尻の方から丸めるように剥き取っていく。螢の湿り気で棒状になってしまったそれを、ベッドのすみへと置いておく。
 螢のあそこが丸見えになった。
 あそこばかりではなく、太腿にも汗の玉が浮きだしていた。
 そして私は、螢の片足を抱え上げると、股の付け根から足のつま先まで、ゆっくりと舐め上げ始めていったのだった――。
「やだぁ、そんなとこ……くすぐったいってば」
 螢が敏感にそれに反応して、身をよじっていく。
 それでも私はやめようとはせずに、特に指先を念入りにねぶっていった。
 つま先を口に含んで、関節の裏を舌で舐める。
 螢も最初はくすぐったがっていたが、舐め続けるに従って、だんだんと静かになっていった。
 ときどき、指先を突っ張らせたりもした。
 いつもながら、感じやすい身体だった。
「……ねぇ、パパも、早く……」
 ついに、螢が私を欲しがってきた。
 私のものも、今までの螢の反応で、独りでにこわばっていた。
 私は螢の足を舐めながら、螢と上下逆になるようにして、ずりずりとずり下がっていった。
 再び、スカートの中に頭が入った。
 私のものは、ちょうど螢の顔の前に位置していた。
 螢が、私のブリーフを下ろしたようだった。
 私の目の前には、螢の草むらが、薄く縦長に生えていた。
 その茂みの先にある泉には、すでに熱い液体があふれていた。生命の、泉だ。
 私がそこに口をつけると同時に、螢も私の先端を含んでいった。
「はあっ」
「あんっ」
 二人の口から、同時に声が漏れた。
 私が螢のクリトリスを舐めると、螢も私のものを舐め返してくれる。
 私達はお互いに快感を与え、快感を与えられていた。
 そしていつしか私達の間に、相手に与えられた快感よりも、さらに強い快感を与えようという妙な対抗心が、暗黙の内に芽生えていた。
 寝室の中に、じゅるるっ、ちゅばっ、という、お互いをしゃぶり合う音が響きわたった。
 私の与えた快感が、純度を増して螢から返されてくる。それを返すと、さらに高度の高まりが私のものに跳ねかえってくる。
 私はそれに対抗するために、螢のクリトリスを口に含むと、前歯で軽く咬んでやった。
「うぐっ」
 私を咥えているためか、螢は声にならない声を上げた。
 それでも、確かに螢はそれで感じていた。
 その証拠に、螢のあそこから、また熱い粘液がこぼれだしてきたのだ。
 それを舌ですくい取っていると、私の先端に、一瞬鈍い痛みが走った。
 お返しに、螢が咬んだのだ。
 しかしその痛みも、時間とともに快感の一つへと置換されていった。
 また螢は、私から口を外すと、今度は袋の方を含み始めた。
 口の中で玉を転がし、棒の方を手でしごいてくれる。
 ぬめった手のひらの感覚と、適度に与えられた玉への刺激が、恐ろしいほどの快楽の渦となって、私の中を駆け上がっていった。
 私は、たちまち激しい射精感に襲われた。
 漏れてしまいそうだった。
「ちょ、ちょっと待った」
 私は、慌てて螢から私自身を引き剥した。
 まったく危ないところだった。自分でもそんなに早くない方だとは思うが、最近の螢のテクニックはまったく群を抜いている。
 ふと見ると、螢が両ひじをついてうつぶせになって、にやにや笑いながらこっちの方を見つめていた。
 そして言った。
「あたしの勝ち★」

 

 一息吐いて落ちついてから、私は螢ともう一度深いキスを交わした。
 もう私達は、お互い充分に高まっていた。
 私のものは、限界にまで膨らんでいた。
 螢のあそこも、赤く、開いていた。
 私は、螢のスカートを脱がせて螢を完全に裸にすると、螢の両足を抱えて、充分潤っているあそこに、さらにくちづけをしていった。
 口腔にたっぷりと唾液を溜めて、螢のあそこに舌先でなすり付けていく。
 指で割れ目を広げて、舌を精一杯奥まで潜り込ませる。
「あん……それいい」
 螢のあそこは、私の舌に抵抗なく吸いついてきた。舌先でほじくるように、螢の内壁をゆっくりとほぐしていく。ぷちぷちとした感触が、舌の上に次から次へとまとわりついてくる。入れた時にこれが絡みつくかと思うと、私の期待はいやがうえにも高まった。
 私は言った。
「螢、指、入れるぞ?」
「うん……」
 私は、中指をたっぷりの唾液で濡らすと、螢の中へとゆっくりと挿し込んでいった。
 この日のために、螢には指二本までは慣らせてある。
 見ると螢は、目を閉じて口を半開きにしながら、私の指の侵入を受け入れていた。
 たっぷりの時間をかけて、根元まで中指が埋まった。螢の締め付けは相変わらずきついが、以前ほどではない。
「はふぅ」
 螢が一つ、ため息を吐いた。
 私はゆっくりと中指を引きつ戻りつさせながら、螢に尋ねた。
「どうだ、螢。キツイか?」
 螢はゆっくりと首を左右に振って答えた。
「ううん。でも、何か、あそこの中がいっぱいな感じ……」
「気持ちは?」
 私の問いに、螢は蕩けるような表情で答えてくれた。
「いい……お願い、もっと早く動かして……」
 私はもちろん、螢の望み通りにしてやった。
 指の腹で膣壁を擦り上げるように、すばやく中指を出し入れする。ちょうど螢のそこにはタピオカのようなつぷつぷ状のものがあって、そこを中心的に擦り上げていく。
「ひやっ、はっ……んっ!!」
 開発している時から、螢はそこが好きなようだ。そこを指先でぐりぐりしてやると、面白いほどに螢の表情がくるくる変わる。
「どうだ、螢、いいか?」
「いいっ……きもちいいの。だから早く、パパので……あんっ!!」
 言っている間に、螢が軽くいったようだ。だが、まだまだ昇りつめられそうな感じで、事実、さらなる刺激を貪欲に腰が求めている。
 来るべき時が来た、と私は思った。
 私は一旦、中指を引きぬいた。引きぬいたそれは、白いゼリー状の粘液でしとどに濡れぼそってふやけていた。
 私は顔を上げて、螢の顔を正面から見た。
 螢は息も絶え絶えのようすだったが、その瞳は間違いなく、初めて会った時の、あの瞳をしていた。
 私は、螢に言った。
「螢、やっとしてあげられるよ。いいね?」
 螢は、すがるように私を見て、言った。
「……うん……パパ……だから、早く……して……」
 私はうなずくと、螢を膝の上に抱え直した。
 逃げられないように、腰をしっかりとつかんだ。
 私の物の胴体を、螢のあそこにつけて、たっぷりと濡らす。まだ出してもいないのに、私の物にに白い粘液がねちょねちょと絡みついてくる。
 螢のあそこが、ぴくん、と動いた。
 私は螢の入り口を確かめて、先端を当てがった。
 そして、処女の螢に最後の言葉をかけた。
「螢……大人になるんだ……いくよ」
 そして。

 一気に挿入した。

「はうっ!!」
 螢が身体を反らせた。
 最初、入り口の方でちょっと引っかかったようだったが、力を入れると、滑るように私の物は螢の中に押し込まれていった。
 螢の顔は、それほど苦痛に歪んではいなかった。
 私は一旦、根元まで私自身を挿し込んでから、螢の身体全体を包むように抱きしめていった。
 そして、ごくゆっくりと腰を使いながら、螢に訊ねた。
「どうだ? 螢、痛いか?」
 すると、螢はかすれた声で私に言った。
「パパぁ……入ってる? ……ちゃんと入ってる?」
 どうやら、痛みはほとんどなかったらしい。むしろ、入っているという感触がどういう物かよく分からないらしかった。
 私は、螢の手を取って、直接その部分へと導いていった。
 螢に、入ってる根元を触らせた。
「自分で触ってごらん。ちゃんと入ってるだろ?」
 螢の指先が、私の根元を撫でた。それだけで、私も軽くいきそうになる。
「やだ、ホントに入ってる。パパのが、あたしのに……あんっ!!」
 ようやく、頭と身体とが一致して、螢が感じ始めたようだった。
 私も少しづつ、腰の振りを大きくしていった。
 初めての螢の中は、無数の襞が、柔らかく温かく私の物を締め付けてくれた。
 根元が、特に強く締め付けられていた。
 固く尖った螢の芽が、コリコリとそこを刺激した。
「やん、あっ、あっ、あん、ああん」
 芽が擦れるたびに、螢は高い声を上げた。
 初めてとは思えないほど、感じているようだった。
 私は激しく腰を突き上げながら、螢に聞いた。
「螢、どう、どんな感じ?」
「……変なの……ああん、中が……熱いの」
 螢は明らかに、新しい感覚を覚え始めていた。
 クリトリスばかりでなく、あそこの中でも感じだしていた。
 あそこの中がぬめってきて、だんだん一つに溶ろけていくような感じになってきていた。
 それならばいっそ、その感覚だけを味わいたいという欲望が、私の頭の中に持ち上がってきた。
 私は、螢の膝を抱えると、一旦、側位のような格好になった。
 そして入れたままで、ぐるっと螢を半回転させた。
「いやあっ!!」
 私自身が、螢の中で強く擦られた。
 螢も、刺激が強かったのだろう、顔をベッドにつけて、うつ伏せの姿勢になっている。
 私は、螢の上半身を抱え起こした。
 腰をつかんで、後ろから激しく突き始める。
「やあっ、あっ、んあっ」
 獣の格好をして、螢が悶えていた。
 もはや螢には、恥ずかしい、という事を考える余裕など無かった。
 螢は、正常位とはまた違った所への突き上げを、貪欲に感じとっていた。
 螢の許容量には限りはなかった。
 腰を回し始めると、また新しい喜びを感じている。
「あぅ、入り口が、入ってくる……よじれてるぅ」
 螢が、自分を支えきれなくなって、腕を折った。
 顔がもう一度、ベッドに埋まる。
 私は、螢の両胸を揉みながら、より早く腰を動かした。
 身体を動かす事さえ出来ない螢は、くぐもったうめき声を上げるだけで精一杯のようだった。
 螢のあそこが、包み込むように私のものを締め付けてきた。螢のタピオカのつぷつぷが、私の裏側を激しく擦り上げてくる。
 それがたまらなく気持ち良かった。
 このままでは、螢の中で出してしまいそうだった。
 さすがにそれだけは出来なかった。
 私は身体中の自制心を駆使して、どうにかいってしまう前に、自分自身を螢のあそこから引き抜いたのだった。
「やあんっ」
 昇りつめる途中だった螢が、大きな声を上げた。
 抜かれた後も、まだお尻が小刻みに震えていた。
 螢が、信じられないといった顔で、私の方を見ていた。
 私のものが、ぬめぬめと赤黒く光って立っていた。
「どうして? パパ? どうしてなの? ……お願い、頂戴、ちょうだいよぉ……」
 思わず螢がすすり泣きを始めた。
 私はそれを見て、先ほどの自制心が音を立てて崩れ落ちていくのが分かった。
 螢は欲しがっている。そして私も螢を――。
 そう、そうだ。どのような結果になろうとも、私が螢を愛する気持ちに、嘘偽りはない、そう誓ったはずだ。世界中を敵に回しても、私が命に代えても螢を守るのだ。それならば――。
 ついに私は決心した。
 私はゆっくりとベッドに仰向けに寝そべった。
 私自身は、高く、天を突いていた。
 私は螢に言った。
「今度は、螢がパパにしてくれる番だよ」
 泣き顔のまま、螢が言った。
「螢が? パパに?」
「そうさ。螢はもう、大人になったんだろ?」
 私がそう言うと、螢はコクンとうなずいた。
「分かった。螢、もう、大人だもん。パパに、してあげる……」

 

 私は螢に身体をまたがらせると、指で自分のあそこを開かさせた。
 螢は自分で自分を触りながら、ため息を吐いた。
 充血した花びらが、パックリと二つに割れた。
 私は自分自身をつかむと、螢にぎりぎりまで腰を下ろさせた。
 螢が中腰になった所で、先端が入り口に触れた。
 螢が一旦、腰を浮かせた。
 頭の部分だけ、そっと差し込む。
 用意は整った。
「パパ、いくよ」
 そう言って、螢は自分の意思で腰を下ろした。
 ザラザラとした壁を擦るようにして、私自身が中に入っていった。
 じわじわと確実に埋まっていく。
 ついに先端が奥に当たった。
「かはぁ」
 螢が、溜めていた息を一気に吐きだした。
 螢のあそこは、完全に私自身を咥え込んでいた。これで螢がどかない限り、私の物が螢から抜け落ちる心配はない。私の覚悟は決まった。
 私は、螢の胸に手を伸ばしながら、言った。
「いいよ、螢、自分で動いてごらん」
「うーん、うまく動けないよお」
 そう言いながらも、螢はぐりぐりと腰を回してきた。
 クリトリスを擦り付けるようにして、腰を動かす。
 一度途切れた快感にもう一度火がともるのに、さほど時間はかからなかった。
 螢が再び感じだしてくると共に、腰の動きがだんだん早くなってきた。
 螢の体重が、粘膜を通して私自身にかかってきた。
 私も、螢の胸を揉み上げる。
 螢は、胸で感じる事も忘れていなかった。
 ため息混じりに、螢が聞いた。
「ね、パパ、どんな感じ?」
 私は、次第に答えるのが苦痛になりながら、答えた。
「螢のここ、あったかくて、よく締まって、すごく気持ちいいよ……」
 そう言うと、螢は満足そうに微笑んだ。
 螢も、この格好に慣れてきたみたいだった。
「の」の字を描くように、お尻を振っている。
 私はさらに、螢に言った。
「螢、自分であそこ、触ってごらん」
 すると、螢は遊ばせていた手を、自分であそこに伸ばした。
 おずおずと、自分の芽に触れる。
 一瞬、動きが止まった。
「こんなに固いの……すごい……ああん……」
 螢が、自分の手でいじり始めた。
 ウットリとした表情でいじっている。
 私も、螢の攻撃で、もうそんなに保ちそうにもなかった。
 私は、螢の腰をつかんだ。
「螢、いい? 動くよ」
 私はそう言って、鋭く腰を突き上げ始めた。
 私の先端が、コリコリした螢の奥の壁に当たる。
 初めての感覚に、螢があえぐ。
「あん、すごい、もっと、突いて、突いてぇ」
 先端を思いっきり螢の子宮にぶつける。
 突いて突いて突きまくった。
 螢の動きと相乗して、予想も付かない所を突いたりもした。
「奥が、あそこが、いい、いっちゃうぅ」
 螢が頭を激しく左右に振っていた。
 感じすぎていた。
 急に、螢の締め付けが厳しくなった。
「飛ぶ、飛んじゃう、パパ、パパ、あっ、あああっ!!」
 螢の内部が、急速に収束した。
 同時に、私も絶頂に達した。
 出す――螢に――!!
「くうっ!!」
 白い液体が、螢の内部にまき散らされた。
 二度、三度と続けて注ぎ込んだ。
 ついに、螢の中に出してしまった。
 不思議と、後悔はなかった。
 螢と一緒なら、どこまで堕ちてもいい――。
 そう思った。
 螢が、私の胸に倒れ込んできた。
「すっごく熱い……」
 そう言うと、螢はがっくりと身体の力を抜いた。

 

 しばらくそのまま螢を抱いていると、落ちついたのか、螢が顔を上げた。
 私達は、少しの間、お互いの瞳を見つめた。
 螢のあの瞳に、私が映っていた。
 螢は、私と共にあった。
 沈黙は、無限の雄弁だった――。
 その沈黙を、螢が破った。
「ねえ、パパ。螢、もう、大人だよね?」
 私はうなずいて言った。
「立派な大人だよ。いい女になった。螢の中、すっごくよかったよ」
 螢が、はにかむような笑いを見せた。
「あたしも。やっぱりパパが初めてでよかった。あ、でも……」
 と、螢がちょっと考え込む仕草をした。
「螢がいるって事は、パパは初めてじゃないんだよね?」
 螢が、いたずらっぽそうな目付きで、私を睨んだ。
 推論の過程こそ違っていたが、実際、そうであった。
 そこで私がうなずくと、螢はいきなり私の首根っこにしがみついてきた。
 そして、言った。
「今度浮気したら、もうご飯作ってあげないぞ!」

おしまい


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