[GE・N・JI II]


 GE・N・JI II - oneday -

横森 健一

 

 「いってきまあすっ!!」
 今はもう誰もいない部屋に向かって大声でそう言うと、螢はバタンと勢いよくドアを閉めた。
 パパはもう、三十分も前に家を出ていった。
 土曜日なのに、今日も朝早くからの出勤なのだった。
 一人っきりの朝が、何となく、螢の心に淋しかった。
 螢は、無意識の内にそっと唇を尖らせていた。
「……ほんっと忙しいんだから」
 思わずそんな一人言が、つい口をついて出てしまう。
 パパも、もうちょっとゆっくり朝ご飯を食べてけばいいのに――。せっかく、このあたしが作ったげたんだしさ。
 そうひとりごちながら、螢はドアの斜め上をちらりと見上げた。
 そこには、プラスチック製の、ちょっと古びた表札が掛かっていた。
 『桂木 敬吾  螢』。
 そこにはそう、書かれていた。
 んふっ。
 それを見て、ようやく螢の顔に、思わず、意味ありげな笑いが浮かんだ。
 この笑いの本当の意味が分かるのは、この世にたった二人だけだった。
 そう、二人だけ。
 ここは、二人だけの大切なお城なのだった。秘密のたっぷり詰まったお城。
 螢は、しっかりと鍵を掛けた。
 キーホルダーには、丸っこい字で『あたしの』と書かれていた。
 ご丁寧に、自分で描いたうさぎっぽい似顔絵まで付いている。
「お出かけは、一声かけて鍵かけてってね」
 なんて、独り言を言いながら、螢はポケットに鍵を入れた。
 ちゃりん、と鍵が澄んだ音を響かせる。
 螢の、さっきまでのちょっとばかしブルーな気持ちは、もうとっくに消えていた。
 パパもお仕事だもん。しょうがないよね。
 心からあたしを愛してくれる人がいる。螢にはそれだけで良かった。
 そう自分で思って、自分で照れていたけど。
 それに、あたしもがっこ行かなきゃなんないし。
 と、いつもの癖で時計を見る。
 ちら。
 一瞬、動きが止まった。
 螢の左手首に巻いてあるアナログ時計の長針は、真下から約三十度左にずれていた。
 すかさず螢の頭の中に、いつもの時刻チャートが浮かんできた。
 駅まで十分。
 駅で五分。
 急行電車で三十分。
 駅から学校まで歩いて五分。
 授業開始が八時半。
 いつもなら七時半に出て、ちょうど十分前に校門にたどり着く計算になる。
 ただし。
 乗り損ねたら、次の急行が二十分後。
 予想通りの答えが出た。
 のんびり歩いてったら、もろ遅刻しちゃうじゃない!!
 しかも、今日の一限は何かと目を付けられてる化学の山岡だった。
 現実的な恐怖の予感が、ゴチック体で螢の後ろにおどろってきた。
 遅れっと、やばい!!
 螢が階段を三段跳びで駆けていったのも、状況を考えれば、ま、当然と言えば当然と言えなくもないことだった。
 合掌。

 

「はぁ……ひぃ……ふぅ、ん……」
 何とか、目的の電車には間に合う事ができた。
 後半は、もう完全に駆け足だった。螢も、目の前で踏み切りが降り始めた時には、まぢに遅刻を覚悟したけれど、駅員さんに心の中で手を合わせながら、禁断の遮断機くぐり――良い子は絶対にマネしちゃだめだよっ――とゆー荒業を使って、何とかその場は難を逃れる事に成功した。
 胸の鼓動が速い。
 春の陽気の中を走ってきたせいか、身体中にうっすらと汗が滲んでいた。
 ホームの階段を降りきったところで、電車が来た。
 汗を拭う間もなく、人の流れに押されて電車の中に詰め込まれる。
 土曜日だというのに、車内はスシ詰め状態だった。
 ったく、何で日本人ってこんなに仕事が好きなのよぉ。世の中、絶対間違ってるよっ!!
 もっとも螢がぶーたれても、世の中は何も言ってくれなかった。
 と、いきなり電車ががたん、と動き始める。
 足元がまだ定まってない螢が、慌てて手すりを捜し始めた。
 とはいえ、とにかくムリヤリにでも押し込まれた車内には、どっちを見回しても人の背中ばっかりで、掴まるところなどありはしない。螢は手を伸ばす事もままならないまま、人と人との間に挟まれて立ち尽くしていた。
 そしてようやく二駅が過ぎて、人の出入りの間に螢がドア付近に場所を確保できた頃には、螢の身体は、車内の熱気で汗でべとべとになってしまっていたのだった。
 下着が肌に張り付いて、ちょっとばかし感触が悪かった。
 今すぐにでもシャワーを浴びたい気分だった。もちろん、それがムリなのは分かっていても。
 とにかく螢は一息だけでも吐くと、心の中で、敬吾に向かってぶちぶちと文句を言い始めたのだった。
 もう、パパがいけないんだよ。あたしの方が先に起きて、ご飯つくんなきゃいけないの分かっててさ……。まぁた今日も寝不足だよ。……ったく、しつこいんだからぁ。
 自分の事を棚に上げて、螢は一方的に敬吾の事ばかり責めていた。
 しかし、これはちょっと不公平には、過ぎた。
 最初はともかく、客観的に見ればしつこかったのはむしろ、螢の方だったのだから。
 螢はいつしか、昨晩の事を思い起こしていた。
 でも、昨日のパパ、激しかったな。あたし、自分の部屋でうつらうつら寝てたら、いきなり後ろから抱きついてきてさ――ムリヤリ四つん這いにして、お尻の穴なめ始めるんだもん。
 あたし、お風呂入ってないからやだって言ったんだけど、それがいいって。恥ずかしくって、いつもよりよけいに感じちゃったじゃない。
 パパの手が、お尻を這って――。
 いつしか螢は、少しづつ、じわりじわりと電車の中で感じ始めていた。
 螢のお尻を、柔らかい手のひらがやわやわと撫で回していた。
 最初は軽く双丘を押しているだけだったその指先は、だんだんとお尻の丸みに沿って、指を上下しはじめていった。
 そのうち、抵抗してこないのをいい事に、スカート越しに螢の太腿の内側までくすぐり始める。
 やん、パパ……。
 今までぴくりとも動かなかった螢が、キュッと腰をひねった。
 男の指は一瞬、びっくりしたかのように固くなったが、しばらく後、いったい何をどう勘違いしたのか、男はもう一方の手で螢のスカートをたくし上げてきた。
 スカート越しにお尻をいじっていたはずの指が、中の方へと侵入してきた。
 指も最初は、おずおずと生の太腿を撫でているだけだったのだが、次第にそれは大胆になり、股の付け根の方をいじるようにさえなっていった。
 まるで節足動物のように、指がうねうねと蠢き回る。
 肌触りのいいパンティと螢の股ぐりとの間を、執拗に何度も何度も往復する。
 螢はそれでも、目を閉じて空想の世界で吐息を吐いているだけだった。
 そしてついに男の指先が、下着の布ごしに螢の大事なところを触り始めた。
 螢の身体が、現実の快感にピクッと震えた。
 ようやく、螢の頭が少しづつ現実を認識し始めた。
 最初は、想像半ばの夢うつつ状態だった。
 ……気持ちいい……パパ。でも……何で? え? ……えぇーっ!?
 分かると同時に、顔がカーッと赤く染まった。
 車内に立ちこめる汗の臭いが、急に鼻に付くように感じられた。
 やだぁ……チカン……されてる……。
 螢は、今までにも何度かチカンされかかった事はあったが、ここまで侵入されたのは、もちろん初めての事だった。
 後ろを振り向こうにも、ドアに身体を押しつけられていては身じろぎ一つ出来そうにもなかった。
 それに今さら、ここまでされて、大声を上げられるような状況ではなかった。
 螢には、なすすべもなく立ちすくむ事しかできなかった。
 そうこうしている間にも、チカンの動きはますますエスカレートしていった。
 何本もの指が、秘肉を挟み込むようにして、割れ目の上を、何度も、何度も繰り返し往復している。
 時々、キュッと摘んだりもする。
 そのたびに、螢は身体を震わせていた。
 そればかりか、いつしか螢のお尻に、布ごしに熱い欲棒が擦りつけられてさえいた。
 やっ、パパ以外の人に触られてる。パパじゃないのに。……でも。でも、身体がいう事を聞いてくれない……。
 男はその内、指先を螢のいちばん敏感なところに押しつけてきた。
 しばらくそのまま、動きを止める。
 電車がガタンッて揺れるたびに、あそこから身体中に電撃が走った。
 それで無くとも、細かい振動が絶えず切ないバイブレーションを送り込んでくるのだった。
 まるで、天国の責め苦だった。
 いつしか螢は、この卑劣な指から、確実に快感を感じとっていたのだった。
 螢には、あそこから最初の蜜が溢れ出すのを止める事が出来なかった。
 あん、あそこが、濡れてる。やだぁ、パンティから、染みでちゃうよぉ。
 そんな螢の想いを知ってか知らずか、男はしつこくそこばかりを責め続けていた。
 確かな弱電流が、あそこから脊髄を擦り上げていった。
 螢が、微かな呻き声を漏らす。
 そしてついに。
 ――じゅくっ。
 ねっとりと溶ろけた蜜が、螢の意思とは無関係に、熱く火照った泉から湧き出してきたのだった。
 やあぁ……。
 パンティが徐々に張り付いていく感触が、ひんやりと感じられた。
 それでも螢の僅かに残った理性が、それを少しでも男に覚られまいと、懸命に腰をずらそうと努力していた。
 しかしそれは、あまりにも無謀な賭けに過ぎた。
 むしろ逆に、蜜の滲み込んできたパンティの布が、しとどに濡らした刷毛のように、螢の芽を、ぬるるっ、と撫でさすっていったのだから。
 あぁ……。
 螢は、たぷっ、といった擬音付きで、より一層の蜜がこぼれ出してくるのを感じた。
 文字どおり、螢は感じていた。
 あそこが、ヒクヒクと収縮しているのが分かった。
 分かっていても、もうどうにも止めようがなかった。
 自分の蜜がだんだんとパンティに浸透していくのを黙って感じている――それより他に、螢には何も出来なかったのだった。
 と、その時。
 男の動きが、急に変わった。
 男は突然、今までの指の動きを止めると、螢のあそこの上で、まるで指先にある『何か』の存在を確かめるかのように、ゆっくりと、指と指とを擦り合わせてみたのだった。
 ねちょり、とした感触。
 螢の顔から、血の気がすっと引いた。
 螢の頭の中には、見えるはずのない、男の指と指との間に半透明の糸が掛かっているビジョンが、鮮明に浮かび上がってきていた。
 頭の上から、含み笑いが聞こえてきたような気がした。
 ばれ……ちゃった。
 一度は血の気の引いたはずの螢の顔が、前以上に真っ赤に火照っていた。
 確かに男の指は、今の螢の状態を、正確に把握していた。
 男が、指先で、螢のあそこをこねた。
 聞こえるはずのない、くちゅっ、といった湿った音が、螢には車内中に響きわたったかのように感じられた。
 あぁん……。
 あまりの恥ずかしさに、螢はうつむくのが精いっぱいだった。
 しかし螢のその仕草すら、結局は男の獣欲を刺激する事にしかならなかった。
 男が、今までの多少なりとも遠慮していた様子をかなぐり捨てて、乱暴な手付きで螢のパンティの布を横にずらした。
 指を、パンティの脇から螢のあそこへと侵入させる。
 ぬめっている割れ目に、男の指先が直接触れた。
 男は、固い指先を強引に押しつけるかのように、割れ目をぐりぐりと往復させていった。
 嫌でも、螢の蜜が、男の指に絡まっていった。
 嫌なくせに、螢は、気持ちいいという感情を押さえきれないでいた。
 しばらくは、男の強引とも言える愛撫が続いた。
 螢のあそこは、じきに、たっぷりの蜂蜜をこぼしたような状態になった。
 男が指を動かすたびに、にちゃり、と蜜がまとわりついていく。
 羞恥心が、さらに多量の蜜を湧き出させてさえいた。
 男の動きも、エスカレートしてとどまるところを知らなかった。
 螢には、一瞬とも永遠ともいえる時間が過ぎていった。
 いつしか、男の動きは強引さを潜めていた。何かを探るように、そろそろと指先を動かしている。
 うつつ半分になっている螢は、まだ男の意図を理解していない。
 蜜をまとわりつかせながら、何かを探して、男の指が二本、彷徨っていた。
 途端、男の指が止まった。
 一瞬の間を置いて、ようやく螢は、男が何をしようとしているのかを覚った。
 螢の背筋に、快感とは別の冷たい物が、ツッ、と駆け降りていった。
 いくら何でも、それだけは絶対に許せない事だった。
 螢は男の企みから逃れようと、必死でもがいた。
 無駄、だった。
 いくら腰を浮かせようとしても、螢の腰は、男の空いている手で、しっかりと固定されてしまっていたのだった。
 どうしようもなかった。
 螢にはもはや、たった一つの選択肢さえ残されていなかったのだった。
 そして、それはいきなり始められた。
 男が、少しずつ指先に力を込めてきたのだ。
 いくら螢が力を入れて拒もうとしても、螢のあそこは、男の侵入を抵抗しきれないほどに、とろとろにほぐれていた。
 実にゆっくりと、螢にとっては永劫にも思える時間をかけて、男の指が二本、螢へと挿入されていった。
 第一関節が入った。第二関節が入った。そして。
 いやあっ!!
 抵抗すら許さず、男の指は、根元までしっかり螢を貫いていた。
 身体中に、嫌悪感とも快感ともつかぬ何かが、瞬時に走り抜けていった。
 嫌なのに、反射的にあそこが指を締め付けていた。
 それを感じとって、男の指が中でモゴモゴと動き始める。
 電車の振動が、奥にそのまま伝わってきた。
 じんじんと、子宮が痺れていた。
 気持ちよかった。
 哀しいほどに、気持ちよかった。
 感じている自分が、哀しかった。
 パパを、裏切ってる……。知らない人の手で……。どうして?
 螢は、半分、パニックしていた。
 あそこが、全然、自分の言う事を聞いてくれなかった。
 あそこだけが、まるで別の生き物のように、貪欲に快感だけを求めていた。
 すでに、小さな快感の高まりは、いくつか越えてしまっていた。
 螢は無意識の内に、押し寄せてくる快感に堪えようと、男を押し退けるかのように、自分の手を後ろの方へと押しやっていた。
 その手が、男の腰に当たった。
 正確には、手のひらで、男のモノを包み込んでいた。
 その瞬間、螢の脳裏に、とんでもない考えが閃いていた。
 マトモな考えではなかった。
 しかし、螢の混乱した頭では、それが唯一の解決策のように思われた。
 後の事なんか、分からなかった。
 とにかく、この状態が何とかなれば、それで良かった。
 螢は、心を決めた。
 いやっ!! パパだけだったのに、パパだけだったのに、こんな人、許せない、こうしてやるっ!!
 頭の上から、男の息を飲む声が聞こえた。
 男の指の動きが、ピタリと止まっていた。
 予想もし得なかった事だろう。
 いきなり螢が、ズボンの上から男のモノをしごき始めたのだから。
 螢の指が、ピアノソロ顔負けの速さでくねっていた。
 螢は、いっさい遠慮しなかった。
 自分の持っているテクニックを、すべてそこに注ぎ込んでいた。
 ……一分、もたなかった。
 螢の中で、挿入されていた指が、ピクッと硬直した。
 頭の上から、くぐもったタメ息が聞こえるのとほぼ同時に、男のモノが蠕動し始めた。
 螢は、すかさず手を放した。
 あそこに入れられていた指が、力無く抜け落ちていった。
 と、その時、ちょうど電車が、星岡高校のある駅にたどりついた。
 螢はさっと身を翻すと、急いで電車を降りた。
 ちら、と後ろを振り向いてみる。
 電車の中では、結構背が高くてハンサムな若い会社員が、腰を引いて、放心状態のまま、あんぐりと口を開いていた。
 ズボンの前には、まだ大きなテントを張っていた。
 よく見ると、頂上に出来たてのシミが付いているかも知れなかった。
 まったく、せっかくの二枚目が台無しだった。
 螢は、軽く首を振ってため息を吐くと、改札に向かってゆっくりと歩いていった。
 指が抜け落ちるときの、ぬるっとした感触を思い起こしたりもした。
 ちょっぴり、惜しかったかな、とも思った。
 ゴメンね★パパ。

 

 螢は、いつもだったら駆け足で走っていく通学路を、今日だけはゆっくりと内股で歩いていった。
 そう、歩かざるを得ない状況だった。
 何しろ、いくら嫌だったとはいえ、途中で止められた倦怠感が、螢の下半身をずっと支配し続けていたのだったから……。
 あそこが、ジンジンと重く痺れていた。
 つい、手を持っていきたくなるのを、螢は必死に理性で抑えていた。
 濡れたパンティの感触も、あまり気持ちのいいものとはいえなかった。
 もぉ、朝からこんなになっちゃったりして……、あたし、やっぱりちょっと変なのかな……?
 そんな事も思ったりした。
 と。
 螢はいきなり、後ろから肩を叩かれたのを感じた。
 思わず身体が、ビクッと過剰に反応する。
 同時に、よく通るソプラノの声が聞こえた。
「おっはよ、螢っ!!」
 ……何の事はなかった。
 振り向くと、そこに立っていたのは、友達の神崎明子だった。
 明子とは去年からのクラスメートで、クラブも同じ合唱部に入っていた。
 ヘアバンドをはめたショートカットと、くるくる回る活動的な瞳が印象的な娘だった。
 明るくいつも元気印で、どちらかと言えば引っ込み思案の螢とは、いつも好対照の凸凹コンビを構成していた。
 そういえば、明子の方は背丈もちょっと高めである。
 何にせよ、わざわざ悲鳴上げて驚くような相手ではない。
 螢はほっと一息吐くと、さっそく明子に向かってぶーたれ始めた。
「もー、あーちゃん。びっくりしたじゃないぃ」
「ふっふっふ、風下に立ったがうぬの不運よ」
 明子には、ときどき訳のわからない事を言うクセがあった。
「なにバカな事言ってんの」
 螢はすげなく返事を返すと、軽く明子の後頭部をはたいた。
 さすがに今日は、少し反応が鈍い。
 いつもだったら、「おのれ影丸、一生の不覚」くらいは言い返すところだったのだが。
 ま、それも今日の螢の状態からは無理からぬ事ではあった。
 明子が、わざとらしく頭を抱えた。
「ったいなー、螢ぅ。今日はノリが悪いぞぉ★」
「悪くもなるわよ。今日、一限、山岡でしょー」
 螢は、あわてて化学教師に責任転化したりした。
 まさか、チカンで感じちゃったから、なんて言えるわけがない。
 また、山岡も山岡で、それなりにやっかいな存在では、あった。
 三十代半ばを過ぎてもまだ独身なのはその性格に負う所が大である、というのは、全校生徒のほぼ一致した見解だった。
 性格を箇条書きに挙げていけば、すけべ、変態、根暗、神経質、卑怯、姑息、ロリコン、人間のカス、各種おたく、等々、それこそ列挙に暇がなかった。
 授業中でも、何かと女子の身体に触ってくるなど、歩くセクハラマシーンとの異名さえ取っていた。
 それに、これこそ事実かどうか分からなかったが、校内で数人『やられた』子がいる、という噂すらあった。
 ヤクザと関係しているという話もある。
 とにかく、あまりお近づきになりたくない相手では、あった。
 その山岡が、近頃、何かと螢にちょっかいをかけてくるのだ。
「あれ、ぜえったい螢狙ってるよぉ。気ぃつけないと、ヤバイぞぉ」
 明子が、笑いながら螢を脅かした。
「ヤダ、じょーだん」
 螢は、心底嫌そうな顔をした。
 冗談に聞こえそうにないところが、さらに恐かった。
 螢は、いわれもなく寒気を感じた。
 と、そこで。
 きぃんこぉん、かぁんこぉんっ!!
 予鈴のチャイムが響き渡った。授業開始まで、後、十分しかない。
 ここで遅刻したら、山岡に何をされるか分からなかった。
 呼び出しでも喰らおうもんなら、それこそ、本気でヤバイ。
「あーちゃん、いそごっ!!」
 二人は、急いで校門を駆け抜けようとした。
 その拍子に、螢は自分の花びらが、ねちっ、と擦れあったのを、しっかりと感じとっていた。
 まだあそこが火照ってる……。
 螢は思った。

 

 授業はそれ自体、授業以外の何物でもなかった。
 螢と明子も、何とか一限目の授業には、滑り込みセーフで間に合っていた。
 それも、螢達が班ごとに分けられた机に着いたのと、山岡が化学準備室から出てくるのがほぼ同時だった、という程度のギリギリさではあったが。
 今日の一限目は実験で、教室が生徒昇降口すぐそばの化学室だった事も幸いした。
 それはともかく。
 間に合ってしまえば、もう難癖付けられる筋合いはない。
 螢と明子は、へたっ、とへたり込みながら、思わず実験用の机を挟んで、お互いに苦笑いを交換し合ったのだった……。
 ほどなく授業が始まった。
 授業中の山岡の様子も、今日は特にいつもと変わりなかった。
 もっとも、『いつもと変わりなかった』ということは、実験の様子を見回る振りをして、何喰わぬ顔でブラのラインなどを触ってくるなどということだったが……。
 しかし螢は、今日はそんな事にいちいち文句を言ってられないほど、授業に対する集中心を欠いていたのだった。
 一限目だけではなかった。
 二限目の基礎解析も(これはいつもだったが)、三限目の英IIBも、そして好きなはずの四限目の世界史に至るまで――平たく言えば午前中ずっと――どことなく、ほけらっ、としていたのだった。
 『あの日』にはよくあることなので、クラスメートは誰も変には思わなかったようだったが、もちろん『あの日』なのだからではなかった。
 実は。
 朝、刺激を受けたところが、授業中もずっと、疼いていたのだった。
 嫌だ、嫌だと思っていたとしても、思いがけないシチュエーションと羞恥感とで、かなり感じていたのは、まぎれもない事実だった。
 しかも、かなり高まりかけたところで止められたため、あそこがどうしようもなく熱くじれていたのだった。
 花びらが赤く充血しているのが、見なくても感じられた。
 そこは、授業中であるにもかかわらず、お願い、いじって……、と、ずっと懇願し続けていた。
 固くなっちゃってるこれを、指でそっと擦って。そして、ぬるっとしたのを指に付けて、あそこの中に、入れるの。指を、入れたり、……。
 さすがに螢も、その願いだけは聞くわけにはいかなかった。
 螢は、クラス中の視線を被害妄想的に感じながら、いじりたい、という誘惑を、スカートの上からあそこを押さえることで、じっと一人、耐え忍んでいたのだった。

 

 気が付いたら、机が教室の後ろに下げられていた。
 それも、螢ごと。
 ほけらっ★、としていたら、お掃除の時間に突入してしまったらしい。
 いつのまに、ホームルーム終わっちゃったのぉ……?
 それが、螢、今日午後初めての感想だった。
 螢の天然ボケにもほどがあるが、それはさておき。
 ようやく目を覚ましたらしい螢が辺りを見回すと、すでに明子の姿はないようであった。
 いつもだったら一緒に部活に行くのであったが、今日はどうやら先に行ってしまったようであった。さすがに明子も、今日の螢の状態を見かねて、見捨てていったのかもしれない。
 たくもう、あーちゃんったら友達がいがないんだからぁ。
 螢は自分の事を思いっきり棚に上げて明子にぶーをたれると、一人、鞄を抱えて音楽室へと歩いていった。
 部室兼の音楽室には、すでに三々五々と部員が集まっていた。
 螢はきょろきょろと辺りを見回してみたが、あまり見知った顔はいないようであった。
 どうやら今日は、新入生である一年生が大半を占めているらしい。さすがにまだこの時期だと、一年生もまぢめに部活に顔を出しているようだった。夏を過ぎると、けっこうみんな兼部の方に行っていて、発表会前しかこなくなる部員も多くなるのだ。
 それにしても、いつもだったらそろそろ練習が始まってもよさそうな頃なのに、まだ音楽室の中はざわめいていた。
 みんなを統率するはずの、部長の姿も見えない。
 螢は、手近にいた一年生に、部長の行方を聞いてみた。
「ねー、部長さんはぁ?」
「ええと、さっきから見てないですけどぉ。ねぇ、知ってる?」
「ううん、知らない」
「さっきまで、そこにいたけどぉ」
「あれ? いたっけ? 多佳子、知ってる?」
「そんなの、あたしに振らないでよーっ。あたしが知ってる訳ないじゃん」
「そりゃー、多佳子ってば、いっつも練習ぎりぎり前にしか来ないもんねー」
「あー、ひっどおい。そんなの美香だって一緒でしょ?」
「あんたと一緒にしないでよねぇ。あはは」
 螢の回りで、口々にいい加減な情報が飛び交っていった。
 一年生達は、螢そっちのけできゃいきゃいと盛り上がっている。
 まったく、きょーびの一年生どもはぁっ!!
 螢は、思わず怒りでぐっと両の拳を握りしめ、ぐももぉっ、とバックに炎しょって盛り上がりそうにもなった。
 が、そんな中で、アルトパートの、普段はどっちかといったら螢と同じくトロい部類に入る、アタラクシアで眠りたい……が口癖の、二年四組、中橋美由紀だけが、珍しく比較的まともな情報を流してくれた。
 いつものつぶやくような口調で、とつとつと言った。
「あたし、ここに来るとき、高林先輩、屋上の方に行ったの、見たよ」
 たちまち音楽室内に、詮索のざわめきが駆け抜けていった。
「屋上に?」
「何しに行ったんだろ?」
「ふーん」
「さぼれっから、いっかぁ」
「多佳子、あんたいつもさぼってんじゃん」
「あー、ひっどぉい。ねぇみんな、美香に何とか言ってやってよ」
「美香も多佳子も、たいして変わんないよねぇ」
「それ、フォローになってないよぉ」
 再び、きゃらきゃらといった笑い声が、文字どおり音楽室に響きわたった。
 螢は今更怒る気にもなれず、ほ、と軽いため息を吐いた。
 螢の感情のボルテージは、すでに普通以下に戻っていた。
 そして、また騒がしくなりかけた音楽室を後にして、螢はなぜかふらりと、屋上の方に向かって歩いていったのだった。
 部長、何しに屋上なんか行ったんだろ。大体、屋上に出るドアって鍵掛かってんじゃなかったっけ?
 螢はそんな事をぼんやりと考えながら、夢遊病者のような足どりで、屋上に行く階段を、一段一段昇っていった。
 むろん、螢の方こそ、自分が何をしに屋上に向かってるのか何て事は、ちらりとも考えてはいなかったのであったが。
 ほどなく、最上階の踊り場に着いた。
 案の定、外に出るドアは閉まっていた。
 螢は何となく気勢をそがれたような感じで、軽く首をかしげると、何の気なしにドアのノブを回してみた。
 ノブの感触は、予想に反して軽かった。
 あれ……開いてる。
 螢は、ゆっくりとドアを開けた。
 建てられて二年しか経っていない新校舎のドアは、きしみ音一つたてずに開いていった。
 開いたドアの隙間から、部長の後ろ姿が見えた。
 何だ、部長、いるじゃないの。
 螢は何気なく、部長に声をかけようとした。
「せんぱ……」
 えぇーっ!?
 口の中まで出かかった言葉を、螢は必死に飲み込んだ。
 慌ててドアをギリギリまで閉じる。
 薄ぼんやりとしていた螢の頭が、いっぺんに目覚めていた。
 どきどきと、心臓が波を打っていた。
 見てはいけないものを見たとゆーか、思いがけないものを見たとゆーか、とにかく今見た光景が、螢の脳裏に焼き付いていた。
 部長は、一人ではなかった――誰か、女の子と一緒にいたのだった。
 しかも、二人は抱き合っていた。
 さすがに、急いで目線を外したので、『誰』と一緒なのかまでは、分からなかったが。
 思わず螢は、自分の眉根を揉んでいた。
 ぶちょー、屋上で何してるのかと思ってたら……ったくぅ。……でも。
 螢は、自己弁護するかのようにくすっと笑った。
 やっぱ、知りたいって思うのが人情よねー。
 さすがに螢も女の子。この手のゴシップの誘惑には耐えきれなかった。
 見つかる部長も悪いんだよねー。
 誰が聞いてる訳ではないが、そんな言い訳も、してみたりした。
 ともかく螢は、再び、ごくゆっくりと、屋上のドアを開いていった。
 こんな時ほど、新校舎のドアがありがたかった事はなかった。
 きしみ音をたてないように、ゆっくりと、ゆっくりと……。
 ようやく、覗けるほどの隙間が出来た。
 心臓を打つ鼓動のリズムが、やけに速く大きく感じられた。
 部長に聞こえちゃうんじゃないか、って気さえ、した。
 目を瞑って、大きく深呼吸を一回。
 よし。
 覚悟は決まった。
 ドアの隙間から、螢の顔が、そおっとそっちの方を覗いていく。
 まず、部長の後ろ姿が見えた。
 そして、相手の女の子が……。
 今度こそはっきりと、螢の目に、相手の女の子の顔が映った。
 螢の胸の鼓動が、ピクッと一回、大きめに打った。
 その娘の顔には、見覚えがあったりした。
 思わず螢は呟いた。
「……あ……ちゃん」
 部長と一緒にいたのは、他の誰でもない、明子だった。
 二人は、屋上で抱き合っていた。
 『抱き』合っていた。

 

 明子は身体を給水塔の壁にもたれかからせながら、片足を部長に抱えられていた。
 両手が、力なく部長の背中に回されている。
 結合部こそ、スカートに隠れて見えなかったが、その格好からして間違いなく『入って』いるという事は、経験上、螢にはすぐ分かった。
 いつもは快活な明子の瞳が、すべてを受け入れるかのような、濡れた光を放っていた。
 明子は、螢に見られているとも知らずに、喘いでいた。
 か細い声をあげながら、部長と一緒に、身体を揺らしていた。
「あ、やぁ……先輩……発声練習、いかなきゃ……」
 明子は、こみ上げてくる高まりに耐えるかのように、かすれた声で呟いていた。
 部長はそれでも、腰の動き一つ緩めない。
 明子の耳元に、よく通るバリトンの声でそっと囁く。
「今……してるじゃないか……。個人指導だよ……もっと声、出して……」
 そう言うと部長は、抱えていた足を持ち直して、さらにぐっと深く腰を入れた。
 突き上げるように腰を動かす。
 明子は、恥ずかしそうに首を振った。
「いやあぁ……そんなぁ……」
 口から漏れた言葉とは裏腹に、明子の声はさらに高まっていった。
 明子のソプラノの喘ぎ声は、すごく美しかった。
 その声には、好きな人に身体を任せているという、絶対の安心感がこもっていた。
 螢は気付いていなかったが、その声は、いつも螢があげている声と極めて酷似していた。
 女の子の生涯であげる、いちばん美しい、声。
 螢は、明子が部長のことを好きだってことは知っていたが、まさか、ここまで関係が進んでいるとは、思ってもみなかった。
 まだそんなに噂が広まっていないという事から、二人が付き合い出してさほど長い訳ではないと思われた。
 それでも二人の様子からは、二人の間にお互いを尊重する信頼感のような物が確固として存在している、そういう事が、端から見ている螢にもはっきりと分かった。
 それが、二人を輝かせていた。
 螢には最近、明子の付き合いが悪かった訳が、ようやく分かったような気がした。
 あーちゃん、よかったね。好きな人とできて。あたしも、パパ――。
 いつの間にか螢の手が、自分のあそこに伸ばされていた。
 螢は一度はおさまりかけた炎が、再び燃え上がってくるのを感じた。
 パンティの上から、そっと指先で撫でてみる。
「くあぁ……」
 思わず螢は、細いため息を吐いた。
 指先に、ぬるぬるしたものが感じられた。
 せっかく乾いてきたのに、また濡れちゃってる……。染みが着いちゃうよぉ。
 そんな事を思いながらも、螢はパンティの裾から、指先を中へと差し込んでいった。
 秘貝のとばくちにある真珠を、指の腹で転がし始める。
 部長の腰の動きを眺めながら、同じリズムでくにゅくにゅする。
 何度目かのくにゅくにゅが、真珠を覆っていた包皮を、ぺろんとめくり上がらせた。
 剥けた真珠を直接いじる。
 ああん、気持ちいいよぉ。周りのお肉もくにゅくにゅしてぇ。
 螢はぐっと割れ目を広げると、親指と人差し指、薬指と小指とで、周りのひだひだを挟みつけると、そこも同じようにくにゅくにゅしだした。
 指が動くたびに、螢の奥の泉から、熱い蜜が湧き出てきた。
 もう一方の手は、すでに胸を揉み始めている。
 パパぁ……もっとぉ……。
 螢が、一歩づつ山を登り始めていた。
 その途端、向こうで部長が苦しそうに息を飲んだ。
 急に、部長の動きが激しくなる。
「あ、あああっ!! あうっ、先輩いっ!!」
 部長のあまりの動きの激しさに、明子の声がさらに一オクターブ上がった。
 苦しそうに激しく首を左右に振る。
 部長が、抱えていた足を放した。
 明子の腰を掴んで、思いっきり腰を突き上げる。
「明子……俺、もう……ごめんっ!!」
「やあんっ!!」
 そう言って部長はいきなり腰を引くと、片手で自分の赤黒く膨らんだ物を掴んだ。
 数回しごくかしごかないかの内に、部長の先端から、白い奔流がビクッビクッと放たれていった。
 それは、凄い勢いで明子のもたれ掛かっていた壁へとぶつかっていった。
 その間部長は、苦痛に耐えているかのように、ぎゅっと目を瞑っていた。
 美少年のそんな顔は、とってもセクシーに見えた。
 幾度目かの蠕動の後、最後の粘液が、ぴちゃっと力なく流れ落ちた。
 部長が、ほっ、と、満足のため息を吐いた。
 よっぽど、気持ち良かったのだろう。
 肩を落として、息を荒げていた。
 だが、ここに、満足していない女が、二人ばかり、いた。
 螢は、登り始めたばっかりで、まだ頂上には達していなかった。
 明子は、途中で抜かれたあそこの痺れを、必死に我慢していた。
 足に力が入らなかった。
 ぷるぷると、腿が震える。
 耐えきれずに、明子は膝を突いた。
 まだ物が挟まっているような感覚が、突いてくれないその感覚が、明子のセーラー服に包まれた身体を恋い焦がしていた。
 そんな明子のちょうど目の前に、萎えかかった部長のモノがあった。
 赤黒く光ったそれは、先端に白いぬるぬるをまとわりつかせたまま、だらん、と萎びかかっていた。
 これが、また、大きくなったら、先輩、続き、してくれる……。
 明子は、痺れた頭でそう思うと、目の前にあるものを、白い指で無意識に掴んでいた。
「いじわる……先輩だけで先にいっちゃって……」
 部長を見上げる明子のしなは、同性の螢ですら、ぞくっとするほど色っぽかった。
「馬鹿ぁ……」
 そう言うと、明子は柔らかくなりかけたそれを、無造作に桜色の唇に含んでいった。
「ううっ……」
 思わず部長が、甘やかなうめき声を上げた。
 部長の顔には、まさか明子が……、といった困惑の表情が隠しきれていなかった。
 だがそれも、すぐに、苦しげな喜悦の表情へと換わっていく。
 明子は、そういう事にも気付かずに、ただ目の前にある物を、一心不乱に愛そうとしていた。
 ちゅばっ、ちゃぽっ、と音をたてて頭部をしゃぶった。
 次は、ロリーポップをなめるように、可愛らしい舌を出してぺちょぺちょする。
 舌先の色は、なめている部分と同じ、苺色をしていた。
 明子は、愛しそうに部長のそれを舐め続けていた。
 知らなかった。あーちゃんがこんなことするなんて……。
 自分の事を棚に上げて、螢は思った。
 だが、そんな螢も、自分の舌が唇の上を這い回っていることには気が付いていなかったのだった。
 螢のそれは、空想上のパパの物を求めて、彷徨っていた。
 パパの熱いの……くちゅくちゅって、するの。裏側のたくまったとこを、くちゅくちゅって――。
 あん、パパぁ。
 いつしか部長の手は、明子の耳の辺りをまさぐっていた。
 それにも構わずに、明子の頭は、前後にゆっくりと往復していた。
 ぬめぬめと赤黒く光る部長のそれが、明子の小さな口の中へと押し込まれていく――そして、にゅぽんという擬音と共に引き抜かれる。
 部長の顔は、すでに快感で歪みきっていた。
「ああ……明子、もう……いいよ……」
 確かにそれは、再び充分な硬度を取り戻していた。
 それに、このまま最後までいってしまったら、元も子もなかった。
 さすがにこんな状態の明子でも、そのくらいの事は分かるようだった。
 ようやく明子はそれを口から外すと、すがるような目で部長を見上げた。
 濡れた唇が、物憂げに開いた。
「先輩……いっしょに、きて……」
 部長はゆっくりうなずくと、座り込んでいた明子を抱え上げた。
 今度は、軽く前かがみにさせると、明子の両手を壁に突かせる。
 スカートをまくり上げて、明子の腰を掴んだ。
 明子のぬめったあそこが露になる。
 螢は思った。
 すっごい。立ちバック。刺激的すぎるよ。こんなの見せつけられると……。
 螢は胸をまさぐっていた指を、口に含ませた。
 遠い目をしながら、含んだ指をじっくりとなめる。
 指にたっぷりと唾液をまとわりつかせてから、螢は、その手も、パンティの中へと差し込んでいった。
 あそこは、すでに指で大きく広げられていた。
 螢はその入り口に、今入れた手の、人差し指と中指とを添えた。
 いいよね……二本くらい……。
 螢は自問自答しながら、部長の動きを待った。
 部長も、明子の唾液で光っているモノを、明子の中へ、ゆるく先端だけ差し込んでいた。
 準備は整った。
 部長は言った。
「明子、いくよっ!!」
 その言葉と同時に、部長の腰と螢の指が、明子と螢のあそこに向かって、ぐいっと押し込まれた。
「ああっ!!」
「おぅっ」
 はん。
 三者三様の『声』が、それぞれの口から漏れだしていった。
 明子のあそこも螢のあそこも、しっかりと中まで潤っていた。
 抵抗らしい抵抗もなく、ずぶずぶと根元まで埋まっていった。
 部長が腰を使い出すと、明子はすぐに断続的な喘ぎ声を出し始めた。
 もともと、明子は途中までいっていたので、さっきまでの快感を取り戻すのに、そう時間はかからなかったようだった。
 むしろ、後ろからされているという恥ずかしさが、より深い快感を生み出していた。
「いやっ、いい、そこ、あ、そ、あん」
 明子は、すでに意味のある言葉を発する事が出来る状態ではなかった。
 一方、螢の方も、さっきから少しづつ溜めてきた快感が、もはや溢れそうになっていた。
 挿入した指が、それに拍車を掛けていた。
 螢は、中の指先で、奥の前面のざらざらを擦り始めたいた。
 オシッコを漏らしそうなほどの快感が、波になって押し寄せてくる。
 やだ、感じてる……。声が、声が出ちゃうよぉ。
 螢は、あげかけた声を押さえようと、あそこを広げていた手を抜き出して、自分の体液でびしょ濡れのそれを、口の中へと無理矢理突っ込んでいった。
 あ……しょっ……ぱい……。
 螢は急速に高まりを感じた。
 明子も、頂上まであと僅かだった。
 部長が、手を前に回して、明子の蕾を直接苛み始めたのだ。
「もう、やっ、先輩っ、中にぃっ」
「そんな……明子……」
「いいの、いいから、一緒に、中に、ああ、いく、いくうっ!!」
 いきなり明子のお尻が、バネに弾かれたように後ろに突き出された。
「明子おっ!!」
「んむむっ!!」
 一瞬遅れて、部長と螢が、同時に達した。
 螢には、何かが落ちるような音が聞こえた気がした。
 部長は続けて二発目だったが、それでもかなりの量の精液を、明子の体内へと注ぎ込んでいった。
 明子は、中で熱い物がジワーッと広がっていくのを身体中で感じとっていた。
 それを受け入れている明子は、まるで菩薩のような表情をしていた。
 螢も、自分一人でここまで感じたのは、久しぶりだった。
 小六の頃、パパとしばらくしなかった時以来だった。
 それに、初めて自分の蜜をなめた興奮が、螢にはあった。
 痺れている頭の中で、パパのあれとはずいぶん違うな、って思った。
 螢が膝をついた。
 とにかく、あそこの嫌な疼きは解消されたが、今度は代わりに、別の気倦い疼きがあそこを支配していた。
 あーちゃんのしてたの見て、一人えっちしちゃった……。ばれなきゃいいけど。でも……すごかったぁ。
 螢は、余韻を楽しむ間もなく、二人に見つかる前に、重い腰を引きずって、階段を降りていった。
 何となく、含み笑いをした。
 あの二人、見られてたなんて、知らないんだろうなぁ……。
 しかし螢も、自分が見られていたかもしれないという可能性については、まったく考えていなかったのだった。

 

 螢は音楽室に戻る前に、一旦トイレに行って、今の一人えっちの後始末を済ませる事にした。
 個室に入って、パンティを足首までずり下ろす。
 ティッシュペーパーを何枚も重ねて、濡れたあそこを、丁寧に拭き取っていく。
 あそこに触れると、まだ、鈍い感覚がそこを捉えていた。
 紅く、ぽってりと充血した肉襞の中から、また少し、熱い蜜がじわりと滲み出してきていた。
 じゅ、と、あそこに切なさが灯る。
 螢は思わず、ほっ、と小さなため息を吐いた。
 ほんとにもう……いやらしいんだから……あたしの身体。
 螢は一人、顔を赤らめながら、なるべくあそこを刺激しないようにして、襞の奥までこびり付いているゼリー状の白い塊を、丁寧に拭っていった。
 乾いたところに、パンティをきちんと着け直す。
 濡れたパンティの感触が、冷んやりとして気持ち悪かったが、替えを持っていない以上、穿いているより他にしょうがなかった。
 まさか、ノーパンでいる訳にもいかない。今日は、パンストすら穿いてないのだ。螢にはノーパンで学校をうろつくような、そんな趣味はなかった。
 とりあえず、準備は終わった。着衣の乱れも、気にならない程度に整えてある。
 あと、螢の手の中に残ったのは、自分の蜜の滲み込んだ、使用済みのティッシュペーパーだけだった。
 それは、拭き取った螢の蜜で、じゅくじゅくに湿っていた。
 螢はつい、自分の頬を染めた。
 誰も見ているはずのない個室の中で、きょろきょろと辺りを見回したりする。
 んー、と、あらぬ空を、見つめちゃったりもする。
 苦笑い一つ。
 そして螢は。
 目を瞑って、そのティッシュペーパーを、口の中に含み入れたのだった……。
 口腔に、さっきと同じ味が広がっていった。味のないような、ちょっとしょっぱいようなすっぱいような、味。いつもパパが、感じてくれてる味だった。
 パパ……。
 螢は、思わず舌先を丸めて、滲みている蜜を吸おうとする。
 螢のあそこが、じゅん、と鳴った。
 その途端、螢の思考力が、元に戻った。
 螢は慌てて口の中からティッシュペーパーを引っ張り出すと、照れ笑いをしながら、それを便器の中にちぎり落としていった。
 レバーを引く。
 水音と共に、勢いよく紙が流れていくのを確認しながら、螢は、つい今しがたの自分の行動について、考えたりしていた。
 やだぁ……あたしってやっぱ――変態――なのかなぁ。うん、あんな事しちゃうなんて、普通じゃないよねー。そんなぁ。いつからこんなになっちゃったんだろ? くすん。
 心の中で半ベソをかきながら、螢は、音楽室へと戻っていったのだった。

 

 音楽室の中はまだ、さっきまでのざわめきが、大手を振って歩いていた。
 螢がトイレに行っている間に、いつの間にか部長と明子は、音楽室へと戻ってきたようだった。
 音楽室に入ってくる螢に気づいて、明子が手を振ってきた。
「おーい、螢ぅ。こっちこっちぃ」
 螢は招かれるままに明子のそばに寄っていった。
 明子の横の、音楽室の机の上に腰掛ける。
 しばしの間、沈黙があった。
「どしたの、螢。顔になんか付いてる?」
 しれっ、とした表情で、明子が言った。無意識の内に、螢は、じーっ、と、明子の顔を見つめていたのだった。
 慌てて螢は、勢いよくぶんぶんと左右に首を振ったりした。
「何でもないない。ちょっと遅かったなーって、思ってただけ」
「何言ってんのよぅ。遅かったのは螢の方じゃない」
「そー言えばそーだね。あはははは」
 螢がめいっぱいあせりまくって、乾いた笑い声を上げた。
 明子はいわゆるアルカイックな笑みで、それに答えていた。
 その時、ようやく部長の澄んだ声が、音楽室中に響きわたった。
「はい、みんな。早くパート別に並んで。練習するよー」
 ようやくざわめきが収まって、合唱部の練習が始まった。
 練習はいつも通り、三時前に終わった。そもそも、部員の大半が兼部者なので、大会とかの直前以外は、いつも練習時間は短いのだった。
 やはり、放送部や演劇部とか何かとの兼部が多かったが、なぜか、軟庭部なんてのも、かなり、いた。テニスコートが音楽室のすぐ前だというのが、関係してるのかどうかはよく分からなかったのだが。
 珍しいとこでは、科学部、なんてとこの兼部者も、いた。
 そんな中で螢と明子は、珍しく純正専業部員だった。
 確か、部長もそうのはずだったっけ。
 螢はそんな事をふと頭の隅によぎらせながら、わざと明子に、こんな事を言ってみたりした。
「ねー、あーちゃん。帰りに、なんか甘いもんでも食べてこーよぉ」
 案の定、明子の答えはこうだった。
「悪いっ!! 螢、今日はゴメンしてっ!! ちーとあたし、用事あんの」
 予想通り、もしくはそれ以上の返事だった。
 顔を、へっへーっ、と苦笑いさせながら、両手を、パン、と合わせて拝み倒している。
 目が笑っていた。
 螢は、驚くより先に、呆れかえっていた。
 えーん、ここまでご機嫌じゃあ、イジメ甲斐がないじゃない。ぶぅ。
 それでも螢は気を取り直して、第二波を放ってみたりした。
「えー、あーちゃんこそ、付き合い悪いじゃなーい。お昼ん時もいなかったしさー。……ひょっとして、誰かさんとデートぉ?」
 カマを、掛けてみる。
「さっあねっ」
 しっかり、とぼけられた。女の友情、かくの如しだった。
 とは言え、螢の方だって自分の事は全然言ってないのだから、おあいこと言えばおあいこなのだったが。――もっとも、螢の方の関係は言えるはずもない事ではあるが。
 だからこそ逆に、いつでも世間に公表できる立場の明子が、少し、羨ましかった。
 螢は、わざと仰々しく拗ねてみせた。
「ふーんだ。いーもん。一人寝る夜の明くる間は、かぁ。くすん」
「ごねんねー。また今度おごるからさー」
 明子が済まなそうな、それでいて全然済まなそうじゃない口調で謝った。
 螢は唇を尖らせて、この際とばかり、過大な要求を突きつけてみた。
「二回分、すっぽかし、『邯鄲』のクリームあんみつくらい覚悟しなさいよねー」
 明子は笑ってそれに答えた。よっぽどご機嫌らしい。
「へーへー、分かったっつーの。んじゃま、そーゆーことで」
 ばいばーいっ、なんて、手も振っている。ひねくれた見方をすれば、お邪魔虫はあっちけっ、なんて風にも取れかねない。
 大体、用事あるってんなら、何でまだ音楽室に残ってんのよねー。
 螢は軽く首をすくめると、座っていた机から、ぽん、と飛び降りて、明子に向かって言った。
「しょーがないっ、か。じゃね。ばい」
 明子を残して、螢は一人淋しく音楽室から出ていった。
 当然、部長もまだ中に残っている事なんかは、言うまでもなかった。
 正直、いいなー、と螢は思った。
 パパ、きっとまだ帰ってきてないんだろうなぁ。つまんないよぉ。
 螢はぼんやりとそんな事を考えながら、帰宅の途に就いていた。
 帰りの電車は、ちっとも混んではいなかった。

 

 マンションのドアは、まだ明るい半分夕日に照らされていた。
 鍵はもちろん掛かったままだった。
 螢は無意識の内に、ふっと視線を斜め下に逸らせると、鍵を開けて、誰も待っていない室内へと入っていった。
 とりあえずチェーンロックをして、靴を脱ぐ。
 ソファーの上に鞄を放り投げると、次いで螢は、キッチンの方へと歩いていった。
 冷蔵庫のドアを開ける。
 疲れている頭でも、習慣的に主婦の目が、何が入っているかを素早くチェックしていた。
 牛乳の一リットルパックを手に取る。
 片手で、封を開ける。
 そして螢は、それをそのまま、自分の口へと近付けていった……。
 直接、呑み口が唇に触れる。
 白く濁った液体が、勢いよく唇を割って、螢の口腔一杯に広がっていった。
 生臭い臭いが、ぷんと鼻につく。
 螢はそれを、おいしそうに、こくんこくんと喉を鳴らして飲み干していった。
 両目を瞑っていて、まるで陶酔しているかのような表情の、螢。
 飲み終えると螢は、それを口から離して、ほ、と一つ、ため息を吐いた。
 唇の端から、白い滴が、ツ、と垂れる。
 螢は真っ赤な舌先で、それをゆっくりと掬い取っていった。
 愛おしそうにそれを、口の中へと納める。
 螢はようやく、満足そうな笑みを浮かべていた。
 ……ん、おいし。これくらいで機嫌が直るなんて、我ながら、単純すぎるとは思うけど。
 ま、とにかく喉の渇きを潤した螢は、居間に戻って、留守中にあった留守番電話の録音を聞こうとしたのだった。
 電話機は、プッシュボタンの2の数字の所が光っていた。
 螢は、再生のボタンを押した。
 脳天気な電子音に続いて、録音内容が流れ出してきた。
 一件目は、聞いた事もない女の人の声だった。
 学習塾の勧誘の電話だった。留守だと思って、一方的に言いたい事を吹き込んでいる。
 螢は今更、怒る気にもなれず、上の空でそれを聞いていた。
 まったく、ほんっと懲りずに掛けてくるんだから。いったい、どこから電話番号とか調べてくるんだろ? もう。
 まるで、プライバシーの侵害を受けているようで、嫌な感じだった。
 なにしろ、他人には言えない秘密も、持っているのだから……。
 ようやく、くどくどしい説明が終わった。ピーッ、という電子音が鳴って、二件目の伝言が流れ始める――そしてそれは。
 螢の顔色がぱっと輝いた。
 二件目の伝言は、パパからのものだった。
 螢は急に胸の鼓動が高く鳴ったように感じた。
 スピーカーから聞き慣れた、いつも身体を包み込んでくれる声が流れる。
 伝言の内容は、こうだった。
「螢? パパだ。どうやら、今日は仕事が早く終わりそうなんで、たまには一緒に、外でご飯でも食べないか? 明日は日曜日だし。で、待ち合わせは、水都駅の西口前の、いつもの地下に下りるところの階段の降り口。六時半。行けるようだったら、それまでに俺の携帯に返事を入れといてくれ。じゃ」
 電子音が鳴った。微かな機械のノイズが流れる。螢はしばらく、ほけっ、とそれを聞き続けていた。
 ふっと弾かれたように立って、テープを巻き戻して、もう一回聞いた。
 さらに巻き戻して、もう一回聞いた。
 しつこく巻き戻して、もう一回聞いた。
 一瞬の間。
 螢は電話機の前で、ぎゅっと自分を抱きしめていた。
 パパとあたしって、やっぱり何かで繋がってんだ。テレパシーで、あたしの事、ピピピッて分かっちゃうんだ。好き、パパ……。
 愛されてる、って感じがした。もう、明子の事なんか、別に羨ましくも何ともなかった。
 世界が、自分の為だけにあるかのような気さえ、した。
 螢は、勢い良く短縮の一番を押すと、パパの携帯へと電話をかけた。
 あいにくと電源を切っているのか、パパの携帯は留守番電話モードになっていたが、螢は案内音が終わるのももどかしく、パパへの返事を吹き込み始めた。
「パパ!! 螢、目一杯キメていくから!! 楽しみに待っててねっ!! パパ、大好き!! 螢のKISS!!」
 録音の最後に、螢は最上のキスを入れておいた。
 さすがに、電話を切ってから今のセリフを思いなおしてみたら、ちょっとばかり気恥ずかしかったけど。
 ま、いっか。
 そんな事より、時計を見上げると、もう四時を少し回っていた。服を選んだり、着替えたりする時間を考えると、もうそんなにゆっくりもしていられない。
 螢はソファーの上の鞄をひっ掴むと、急いで自分の部屋へと駆け込んでいった。
 とりあえず、セーラー服の上下を脱いで下着姿になる。今朝のまんまの、まだ半分シーツが乱れているベッドに腰掛けて、ソックスを脱ぐ。
 螢が今、身に付けているのは、青地に白の水玉のストレップレスブラと、同じ柄のパンティと、それだけだった。パンティはまだ、だいぶ湿っていた。螢は手早くパンティを脱ぎ捨てると、そのままの格好で、新しい下着を選び始めた。
 白のノーマル。あまりにも安直。
 ピンクのフリル付き。んー、今二つ。
 白のレース。ちょっと恥ずかしい。
 紫のサテン地。あんまり趣味じゃない。
 黒のスケスケ。やっぱ、早すぎる。
 ノーブラノーパン。……論外。
 結局螢は、下は黄色ベースのカバさんプリントの、上は同色のフリル付きフロントホックの奴にした。最近の螢のお気に入りの一つだ。螢はそれを手に持つと、何気なく、横に置いてある鏡の方に目をやった。
 そこには、ブラジャーだけで膝立ちになって、胸元で下着を掴んでいるという、考えようによっては、オールヌードよりいやらしい格好をした螢が、ものの見事に全体、映っていた。
 螢は、誰も見ていないのに瞬間的に顔を赤らめると、慌てて新しい下着にと、着け替え始めたのだった。
 今度は、上に着ていく服の方を選ぶ番だった。
 迷った。
 ベッドの上に服を並べて、あーでもないこーでもないと、だいぶ、悩む。
 キメてく、と言った手前、あんまり手抜きの格好でゴマかす訳にもいかない。
 時間だけが、刻一刻と進んでいった。
 ……十数分後。
 さんざっぱら考えた末、螢はようやく、何とか納得できるセンにまでたどり着いていた。
 鏡の中には、ベージュのブラウスにフラワープリントのギャザースカートを着けて、上に同色系の薄いジャケットを羽織っている、螢の姿があった。たまにはちょっと髪を下ろして、お嬢様風にしてみる。
 軽く、ポーズを付けてみる。
 ん。
 まあまあ、だった。今日は、淡い色調で、ソフトにまとめてみた。
 ちょっと、子供っぽいかも知れなかったが、そこは元が十六歳、仕方がなかった。も少し大人の色気があったらなー、なんて事も、螢は思ったりした。
 後は軽くお化粧をすれば、戦闘準備完了だった。螢はベッドの上に散らかっている服をワードローブにしまって、脱いだ下着を洗濯篭の中に放り込むと、鏡の前で、出かける前に最後の最終チェックをした。
 これで落ちなきゃ、男の方に見る目がないのよねー。
 ……自画自賛、したりもした。

 

 水都駅には、待ち合わせの時間の大体二十分ほど前に着いた。パパは、まだ来てないようだった。
 螢は階段の壁に軽く体重を預けると、そのままの格好で、ずっと、パパが来るのを待っていた。
 ちょっと早く来すぎちゃったかな、とも思ったが、実のところ、螢はこんな風に人が来るのを待ってるのが、そんなに嫌いでもなかった。待っている間に、その人の事や、これから始まるひとときの事を空想するのが、楽しかった。
 実際、夕食を食べ終わってからの事を考えると、螢の身体の奥で、じん、と熱く疼く物があった。
 螢は、人知れず苦笑いした。
 もぉ、今日は二回もいじってるのに、まだ物足りないなんて……。あれ? そういえば、何かするの、忘れてるような……?
 何かが、頭の隅に引っかかっているような気がした。
 と、その時。
 頭の上の方から、螢の事を呼んでるような声が聞こえた。はっと現実に戻って、見上げる。
 もちろんそこに立っていたのは、敬吾、パパだった。
「あ、パパ……」
 惚けたような声で、螢が言う。
 敬吾は、軽いしかめっ面で、それに応答した。
「あ、パパ、じゃないよ。どうした、螢、ボケッとして」
「ん、何でもないよ。ちょっと、考え事してただけ」
 まだ半分、心ここにあらず、というような声だった
 それを聞いて、わざと大仰に驚いた顔を作って、敬吾が言った。
「考え事ぉ? お前が?」
「何よぉ、その言い方」
 大方の予想通り、螢がプンむくれた。すっかり、敬吾が来たのに気付かなかった事なんか、忘れてしまっている。
 敬吾は、心の中で一人ほくそえむと、真面目な顔になって、螢に言った。
「……螢、すっごくきれいだよ」
「何よ……いきなり」
 螢は、敬吾の急激な態度の変化に対応できず、思わずドギマギとしてしまった。心臓の鼓動の変化が、自分でもはっきりと感じられる。
 この辺の敬吾の性格は、長年付き合ってきた螢でも、まだよく正確には把握しきれていなかった。
 もちろん、その突拍子のない性格も、好きなんだけれど……。
 そんな螢に追い打ちをかけるように、優しい声で、敬吾が言った。
「お腹空いたろ。とりあえず歩こう。店には、もう、予約入れてあるから」
「……うん」
 何となく釈然としない物を感じながらも、螢は、目の前の敬吾に両腕を絡めて歩きだした。
 ほほえましい親子に見えるかと言われれば、そう見えない事もなかったが、やはり、色眼鏡ごしの人の目には、ロリコン中年と、その男に騙されているいたいけな女子高生――もしくは中学生――とに、見られる危険性が、なくもなかった。
 もっとも、事実はと言えば、どっちもどっちなのではあるが。
 それはともかく、少しばかり歩いてから二人は、一軒の瀟洒なスペイン料理の店に着いた。二十人も入ったらもう一杯になってしまいそうな、こぢんまりとした、いい感じの店だった。
 敬吾は、仕事がらこういう店をよく知っているようだった。貿易商、という事らしいのだったが、螢はあまり詳しくは知らなかった。
 中に入ると二人は、奥まった方にある、静かなテーブルへと案内された。店内には、落ち着いた音楽が流れていて、他人を気にしないでいい程度には、ほどよく混んでいた。薄暗い照明が、テーブルに着いている人達の顔を隠していた。
 とりあえず二人は料理を注文すると、敬吾はワインを持ってこさせて、手前と奥と、二つのグラスにそれを注いだ。
「お前は、一杯だけだぞ」
「ん」
 ちりん。
 乾いた音が、小さく鳴り響いた。螢の口の中に、唇と同じ色をした液体が、ゆっくりと広がっていった。
 しばらくの間、二人は他愛のない話をしながら、次々と運ばれてくる料理を平らげていった。螢には、今食べている物がいわゆる『美味しい』物なのかどうかはよく分からなかったけれど、そんな難しい事を考えなくても、出された料理は、すっごく、美味しかった。
 特に、最初に出てきたムール貝の何とかは、もう、最っ高に感動モンの味だった。他のもどことなく家庭的な雰囲気を持ち合わせていながら、それでいて、螢には絶対に真似できそうにない味だった。
 それでも螢は、パパに家でもこんなのを食べさせてあげたいな、と、心の片隅で味を覚えておく事を忘れなかった。
 二人は、人間の三大欲の一つを、ゆっくりと満たしつつあった。
 静かに時は流れていった。
 もし、僅かに波乱があったとすれば、それは食事も終わりかけの頃に起こった事だっただろうか……。
「ねぇ、パパ」
 平鍋からパエリヤを掬い取りながら、本当に何気ない口調で、螢が言った。
「もし、もしだけれど……螢が誰かと浮気したら、どうする?」
 話の流れから出た言葉で、螢自身も、特に意味があって言ったセリフではなかった。
 敬吾のパエリヤを食べる手に、変化はない。
 ゆっくりと掬っては、口元に運んでいる。
 敬吾はさほど驚いた様子も見せずに、平坦な口調で答えた。
「誰か、好きな人でも出来たのか?」
 螢は、かぶりを振って言った。
「ううん、そうじゃなくって、もし、したら、って事よ」
 螢の頭の中にはいつしか、今朝の電車の中での出来事が思い起こされていた。あの時、いくら、不可抗力だったとは言え、他人の手で感じてしまった事は、やっぱり、どことなく、パパに対して後ろめたい物が、あった。
 明子の事も、頭に浮かんだ。その時の事と、その後の事も。
 とにかく今日は、いろんな事がいっぱい、ありすぎた。
 思わず敬吾を前にして考えに耽ってしまった螢の耳に、チャリン、と、何か金属がぶつかったような音が聞こえた。螢がはっと、目線を上に上げる。
 敬吾と視線が合った。
「そうだな、もし、螢が浮気してたって分かったら……」
 敬吾のスプーンの動きが止まっていた。
 目が、すっと細まった。
「その原因になった奴は、まず、無事には済まないだろうな」
 敬吾の顔は笑ってはいたが、その瞳には、笑いの影は微塵も映ってはいなかった。螢は、敬吾のそんな顔を見るのは、初めてだった。
 そう、思った。
「ま、パパは、螢の事を信じてるけどね」
 それを確かめる間もなく、一瞬にして、敬吾の顔は元の笑顔へと戻っていた。
 それでも螢は、背中に氷の塊を突っ込まれたような感覚を、完全に拭いきれはしなかった。
「やだぁ、だっ、だからぁ、『もしも』の話だってばぁ」
 慌てて、今の話を冗談に紛らそうとする。
 乾いた笑いの後ろで螢は、今朝の事なんか、もう、絶対に言えないな、と思っていた。
 はぁ。
 ため息を伴って、笑いが途切れた。
 しばらく、沈黙の時が流れた。お互いが、お互いの考えに浸っていた。
 敬吾が、ちらりと腕の時計を見て、言った。
「螢、そろそろ出るか?」
「……ん」
 頃合だった。
 螢は飲みさしのグラスをぐっと干すと、敬吾の後に続いて、席を立った。

 

 春だというのに、外の空気はだいぶ、冷たかった。螢は温もりを求めるかのように、敬吾にそっと寄り添っていった。
 敬吾の体温が身体に、そして、アルコールに火照った頬が夜風に、心地よく感じられた。
 街の明かりが、やんわりと二人の身体を包んでいた。
 二人は、ゆっくりと、幻想的な夜の小道をそぞろ歩きしていった……。
 と、その時、いきなり敬吾が言った。
「螢、どこにする?」
 あた。
 これには思わず、精神的に、螢がコケた。これでは、せっかくのロマンチックな気倦さというものが、台無しだった。
 螢は、必死に体勢を立て直そうと努力しながら、敬吾に向かって、言った。
 ちょっとばかし、キツい口調になる。
「……あのね、パパ」
「何だ?」
 どうして螢の声のトーンが変わったのか、まだ気が付いていないらしかった。
 そもそも、トーンが変わった事にすら気が付いていない可能性が、大だった。
 螢はどっと迫ってくる疲れをため息で消しながら、噛んで含めるように、敬吾に言った。
「同じ言うにしても、もーちょっと言い方ってもんがあるでしょお? これじゃあ、ムードもへったくれもないじゃないぃ。ぶぅ」
 螢はへったくれが聞いたら気を悪くするような事を、平気で言った。
 もっとも敬吾は、それを聞いてもまだしれっとした顔で、こう言った。
「今更、そんな事、気にするか?」
 ぶんっ。
 さすがにこのセリフは、螢のオトメゴコロという物を思いっきり逆なでしていた。
 螢がいきなり、ぱっと敬吾の腕を離した。ぷいっと敬吾に背中を向ける。
 振り向きざまにジト目で敬吾を睨みつけて、めいっぱい冷たい口調で言った。
「やーよ、あたし。そんなデリカシーのない人となんか、したくないもん」
 有無を言わせぬ口調だった。
「ほたるぅ」
「フン」
 慌てて敬吾がなだめようとしたが、螢は取り付くしまもなかった。
 敬吾に思いっきりそっぽを向いて、目を閉じて唇を尖らせている。
 敬吾はあれこれと手を尽くして螢の機嫌を取ろうとしたが、いくら言葉を尽くしても、拗ねた螢には余り効果は無いようであった。
 ついに敬吾は、大仰なため息を吐いて、螢に降参せざるを得なかった。
「……そうか、分かった」
 そう言うと敬吾は、わざとらしく手で、顔をまじめに整え始めた。
 螢はそれを薄目を開けて横から見ていたが、どうもまだふざけてるようにしか見えなかった。
 ほどなくして、ようやく準備が整ったのか、敬吾が螢の正面に回ってきた。顔を逸らしている螢の頤を掴んで、そっとこっちの方に引き寄せる。
 目が合う。
 まだ螢の目は、つんつんに尖っていた。
 それを見て、穏やかに笑っていた敬吾の表情が真顔へと変わった。
 その変化に驚く間もなく、いきなり敬吾が螢を抱きしめていた。
 螢は大きく目を見開いたが、出来た事はそれだけだった。抱きしめられただけで指先まで痺れが走って、敬吾のなすがままになっている。
 耳元に、敬吾の唇の温度を感じた。そこから奏でられるバリトンの振動が、螢の鼓膜を柔らかな指先のように撫で上げていく。
「螢……。お前を抱きたい、今すぐ……」
 それだけで螢の背筋に、熱い塊がずんと駆け下りていった。腰にじぅんと響いていく。
 そして、敬吾が決めの一言を言った。
「螢……愛してる」
 螢は、ぎゅっと目を閉じた。
 螢にはただ、敬吾の背中をぎぅと抱きしめる事しかできなかった。

 

 敬吾はいろいろな部屋がある中で、モノトーンの比較的シンプルな部屋を選んだようであった。今の二人は、派手派手しい虚構の飾り付けなど、必要としてはいなかった。
 螢は黙って、敬吾の腕に抱かれていた。
 部屋のキーを受け取ると、敬吾は、螢の身体を包み込むように螢の肩を抱いて、エレベータの中に入っていった。エレベータの中でも、敬吾は強く、螢を抱きしめていた。
 オレンジ色の光で間接的に照らされた廊下を通って、二人は部屋へと入っていった。
 背後で、オートロックのドアが閉まった。
 突然。
 敬吾はいきなり、螢をベッドの上に押し倒していた。
 驚いた螢が何も抵抗できないでいる内に、有無を言わせず、スカートの中に頭を突っ込んでいく。螢の腰の下に手を回して、すかさずパンストをずり下げていく。
 螢の身体が、反射的にあらがおうとしたが、敬吾はそれにはお構いなしに、するするとパンストを剥がしていった。
 そこまでいって、螢はようやく『抵抗』という言葉の意味を思い起こしていた。
「やだーっ!! パパ、いきなりーっ?」
 あらん限りの声で、螢が叫ぶ。
 しかし、その叫び声をもってしても、敬吾の動きには何ら影響を及ぼさなかった。
 螢のスカート越しに、真面目な顔をして、敬吾が答えた。
「すぐしたいって、言ったじゃないか……」
 そんな事を言われても、まだ心の準備という物ができていない。
「まだシャワーも浴びてないのにぃ!! やん!!」
 螢が、いやいやをするように腰をくねらせた。
 だが、その螢の必死の抵抗にも拘らず、ストッキングもパンティも、すでに片足から抜き取られてしまっていた。螢の目に、敬吾に抱え上げられている足に、それらがだらんと力無くぶら下がっているのが、映っていた。
 靴ですら、まだ片一方しか、脱がされてないのだ。
 螢の両足は、今や敬吾によってムリヤリ大開きにさせられていた。
 敬吾の顔が、螢の股間に近づいていく。
「やだってば、お風呂入ってからぁ!! やめてよぉ!!」
 そして突然、螢は頭の中に何か引っかかっていた事を思い出した。
 そう、昼間の一人えっちの後、後始末はあそこを拭いただけだった事を。そして、出かける前に、シャワーを浴び忘れていたのも。
 やだぁ、あそこ、まだキタナいままじゃないぃ。一人えっちしたの、バレちゃうよぉ……。やっ、恥ずかしい!!
 螢は何とかして腰を振って逃げようとしたが、男の力で固定された身体は、どうにも動こうとはしてくれなかった。
 敬吾の息が、螢のあそこを熱く焦がしていた。
 視線が、直接触覚をちくちくと苛み続ける。
 そしておもむろに、敬吾の舌先が螢の下唇を這っていったのだった。
「やだーっ!! やだーっ!! 汚いよおっ!!」
 螢は声を限りに叫んでいた。恥ずかしくって、もうどうにも身体がじっとしていなかった。叫ぶ事で、少しでも恥ずかしさを忘れようとしていた。
 しかし、それでも敬吾は舐める事を止めなかった。
 ぴちゃぴちゃと、わざと唾液をまとわりつかせて、赤いヒダヒダを、ねぶる。
 唇をツンと尖らせて、乙女の真珠を、吸う。
 実際、さほどたたない内に螢は、入り口の肉壁を割って入れると、中から舌先にとろとろの液体を滴り落とすほどにまでなっていた。
 螢は確かに、この強引とも言える愛撫を、感じ取っていた。
 やだ、きっと臭ってる。いじってたのが、いじられたのが、バレちゃう。パパに、嫌われるよぉ……。
 螢のそんな気持ちを知ってか知らずか、いきなり敬吾が、こんな事を言った。
「螢のここの匂い、凄く、興奮するよ。好きだよ」
「やあぁん……」
 螢はその敬吾の言葉に、反射的に顔をそむけていた。あまりの恥ずかしさに、この場から消え去ってしまいたかった。なのに、いつもより遥かに感じてるのが、不思議でたまらなかった。
 螢のあそこは、もはや抵抗する意思を、失っていた。
 螢の身体には、もはや抵抗する力など、残ってはいなかった。
「……やん、やっ……あうっ……やぁん……」
 拒否の言葉も、すでにその意味は、とろけるような喘ぎ声へと、変化してしまっていた。
 螢の手が、力無く、敬吾の頭を支える。
 敬吾はそれを確認すると、押さえ込んでいた足を放して、その手で、螢の入り口を、揉み広げ始めていった。
 ひだをつまんで引っ張って広げ、奥の透明なピンク色を、舐める。
 その瞬間、螢の腰が大きく一回、痙攣した。
「パパ……」
 かすれた声で、螢が何やら言った。なぜか螢の声には、いつもの感じている甘い響きは伴ってはいなかった。
 まだ、いったのでも、なさそうだった。
 敬吾はその微妙な声の変化を感じ取ると、螢のあそこから顔を上げて、ベッドの上をずりずりとずり上がっていった。
 もちろん、指で愛撫を続ける事は忘れていない。顔を、螢の顔に近付ける。
 見ると、螢の顔は真っ赤に染まっていた。
「……ん?」
 指を動かし続けながら、螢を促す。
「どうした? 螢」
 螢が恥ずかしげにぼそりとつぶやいた。
「パパ……しっ……そぅ……」
 まだ、よく聞こえなかった。
 敬吾は首をひねると、耳を螢の口元へと近付けていった。
 螢が、小さな声で、ぼそぼそと言った。
 ようやく敬吾にも、螢がさっきから何を言おうとしていたかが、分かった。
「オシッコ漏れそぅ……」
 螢は、そう言っていたのだった。
 ようやく螢の言葉を理解した敬吾が、改めて螢の顔を見ると、確かに螢の顔には、快感を堪えているのとはまた少し違った、ある種の苦悶の表情が、浮かんでいた。
 敬吾の激しい愛撫が、快感を呼び起こすだけではなく、また、螢の利尿感をも刺激したのだった。
「あぁん……出ちゃうよおぉ……」
 螢が、荒い息でそう言った。腰を、きゅんきゅん捻る。
 だがそれを見ても敬吾の指は、まだその動きを止めようとはしていなかった。
 むしろその動きは、螢の草叢の辺りに重点的に移動したかのようにすら思えた。
 細かい振動が、まだ螢の身体の表面を、走り続けている。
 螢は眉をぎゅっと引き締めて、あそこへの刺激に耐えようとしていた。
「お願い、おトイレ、行かせて……」
 螢が、もう保ちそうはないという表情で、懇願した。
 しかし敬吾は。
「だめだ」
 意外なほどきっぱり、敬吾が言った。
 信じられないといった顔をして、螢が敬吾の顔を見た。
 敬吾はそんな螢の視線を悠然と見返すと、急にニタリと表情を崩して、こう、螢に言ったのだった。
「パパの、目の前でしなさい」
 螢は最初、何を言われたのか、まったく理解できなかった。
 少しずつ、意味が頭の中に滲み込んでいくに従って、逆に視界がどんどん暗くなっていった。
 いくら何でも、パパの目の前で、そんな恥ずかしい事は出来なかった。
 オシッコするところを、パパに見られるなんて……。
「いやっ、パパのへんたいっ!!」
 首を振って、螢が叫んだ。
 螢には、何で今日に限って、パパがこんなに意地悪をするのか、分からなかった。
 いや、本当は分かっているのに、それを認めるのが嫌だったのかもしれなかった。
 朝、あんな男の人の手で、感じちゃったから、いけないんだ。パパを裏切ったから、罰が当たったんだ……。
 そんな事も、思ってみたりした。
 そうこうしている間にも、敬吾の責めは、だんだんと螢の下腹部への圧迫を強めていった。敬吾の腰が、螢のお腹の上で円を描くように動いたりする。
 絶え間のない振動が、螢の膀胱の抵抗力をじわじわと奪っていくのが、分かった。
 このままでは、本当にベッドの上で漏らしてしまいそうだった。
 螢の脳裏に、お漏らしをしてしまう自分と、シーツとマット、そしてせっかく決めてきたお気に入りの服が、自分のおしっこでぐちゃぐちゃになっていくシーンが浮かんできた。
 それをパパに見られるかと思うと、耐えようがないほど恥ずかしかった。
 どうせ見られるにしても、そんなのだけは避けたかった。
 そんな気持ちが、螢の羞恥心に、すこしづつ言い訳のベールを被せていった。
 螢はほとんど何も考えずに言った。
「お願い……する、するから……ここじゃ、やあぁ」
 もちろん、螢のこんなセリフを見逃す敬吾ではなかった。
「それじゃ、螢。あそこでならパパに見せてくれるか?」
 敬吾の視線は、透明なガラス板で仕切られただけのバスルームの方を向いていた。
 もちろん螢には、ただうなずくだけしか、選択肢は残されていなかったのだった。

 

 敬吾は手早く、螢の服を脱がせていった。
 螢はほとんど敬吾にされるがままになっていた。
 螢はまるで抵抗という言葉を忘れたかのように、ただ、敬吾の動かす通りに手を上げ、腰を浮かせていった。
 やがて螢を全裸にした敬吾は、手早く自分も服を脱ぎ始めていった。螢は手足を丸めてベッドにうずくまりながら、敬吾のその様子を、半分、拗ねたような目で眺めていた。
 もう、パパの事、よく分かんないよ。あたしが本気で恥ずかしがってるの、分かんないはずないと思うのに。何でこんな事、させるんだろう。
 ――それとも、ホントに今朝の罰なんだろうか。
 敬吾がそれを知っている訳がないと思いつつも、その事を考えると、螢は胸がきゅんと痛くなった。確かにあれは、間違いなくパパに対する裏切りなのだから。
 と、螢がそんな事を考えている内に、敬吾は自分の服を脱ぎ終わったようだった。
 敬吾はいちおう三十代ではあるが――どちらかというと四十の方が近い年齢のはずなのに、その身体は年齢に似合わぬ引き締まりぶりを見せていた。敬吾は実は、毎週のようにスポーツジムとかにも通っている、かなりの運動マニアなのだった。螢はせいぜい、お付き合いでプールに泳ぎに行くくらいなのだけれど。
 敬吾はベッドに丸まっている螢に優しく微笑みかけると、おでこに一つキスをして、螢を横抱えに抱き上げていった。
 そのまま、まるでお姫様を扱うかのように、バスルームへと連れていく。
 螢は目を閉じたまま、敬吾の胸に頭を預けていた。
 バスルームは、この手のホテルの割には広くて清潔であった。まだお湯が張っていないからだろうか、少しばかり肌寒いようではあったが。
 敬吾もそれを感じたのか、螢をそっとイスの上に下ろすと、まずはバスタブにお湯を張り始めた。
 もうもうとした湯煙が、バスタブから立ち込める。
 螢は膝を抱えて俯きながら、それを視界の端でぼんやりと捉えていた。
 おもむろに敬吾がこちらを向いて、バスタブのふちに腰掛けた。
 そして言った。
「さぁ、螢」
 敬吾は、何を、どう、とは言わなかったが、その口ぶりから、螢に排尿行為を促している事は、まず明白だった。
 螢がのろのろと顔を上げた。
 敬吾と目が合った。
 その敬吾の顔は、おちゃらけている時のいやらしい笑顔ではなく、螢をいつも包み込んでくれる時のような、優しい笑顔をしていた。
 むしろおちゃらけてくれていた方が、螢としても拒否しやすかったのだが、こんな目で見つめられては、パパの期待をこれ以上裏切る訳にはいかなかった。
「うん……」
 螢はゆっくりと腰を上げて、しゃがみこむような格好になった。つま先で立っているため、少しばかりバランスが悪い。
 不安そうな目で、敬吾の顔を見上げた。
 螢が言った。
「ねぇ、ホントに……するの?」
 敬吾は何も言わず、ただゆっくりとうなずいた。
 螢は一つ、深いふかいため息を吐いた。
 先ほどは、パパに責められていた事もあって、今にもおしっこが漏れそうな緊迫した感じだったのだが、今は少し間をおいてしまったせいか、さほどあそこは緊張感を持ってはいなかった。
 しかしそれはむしろ……今度は逆に、螢に放尿するための明確な意思というものを要求していた。
 自分の意思で、パパの前で、おしっこをする。
 これにはかなりの勇気が必要とされた。
 もう一度、螢が敬吾の顔を見つめた。
 敬吾の真摯な瞳は、先ほどからちっとも変わっていなかった。
 敬吾はバスタブのふちにどっしりと座って、ただ螢をじっと見つめていた。その顔は、まるで螢の事を信頼しきっているような、そんな表情をしていた。
 そっか、と、ふいに螢は思った。
 やっぱりパパ、あたしの事なら何でもよく分かってるんだ。今朝の事も、学校での事も、ぜぇんぶ、みんな。
 だから、これはパパへの償いなんだ。
 パパに赦してもらわなきゃいけないんだ。さっきまでの、あたしを。
 螢の瞳が、ふっと溶けた。
「ん……分かった」
 螢はそう言って、バランスを取るために右手を後ろに突いた。そのためか、ちょっとだけ腰を突き出すような格好になる。
「パパ……見てて」
 そう言って螢は、左手であそこを軽く押し広げると、少しばかりいきむように、あそこに徐々に力を込めていった。
 それに伴って、螢の顔が歪んでいく。少しばかり、赤みも増しているようだ。
 螢は目を閉じて、あそこに意識を集中させようとしていた。
 だがしかし。
 螢の意に反して、股間からは尿が零れ落ちようとはしてくれなかった。
 いくら螢が心の中で放尿する事に納得していたとしても、身体の方がまだそんな格好でする事に納得していない、そんな感じだった。
 それともまだ心の奥底で、恥ずかしい、という意識があるのか……。
 恥ずかしいの、螢? おしっこをしてるところ、パパに見られるのが? それとも、本当のあたしを知られるのが――怖いの?
 螢はその抑制心を振り払うかのように、目を開けて、敬吾の顔を見つめた。
 螢には、パパが軽くうなずいたような気がした。
 螢はもう一度、言った。
「見て、パパ」
 そして螢が指先を閃かせた。螢の中指が、狙い過たず入り口の肉芽を捉える。
 螢の身体が、びくんと一回、大きく跳ねた。
 休まず螢は、指先でクリトリスを刺激しつづけた。
 中指の腹で、くりくりと、転がすように。
 熱と痺れが、確実にあそこから身体全体へと広がっていくようであった。螢があそこを一擦りする度に、まるでオイルを塗ったようにぬめりがよくなっていく。
 螢の唇からも、押し殺したような吐息が漏れ始めてきた。
 螢は、明らかに感じ始めていた。
 ひょっとしたら、明るいところで、パパに見られながらオナニーをするのは、実は始めての事かもしれなかった。
 今日はたまたま学校でしてしまったのだが、オナニー自体、螢はあんまりするような事がなかった。小学校高学年の頃、しばらくパパと夜を共にしない日々が続いた時は、毎晩のようにあそこに手が伸びていたのだが。
 それ以来、自分の手でしなくても、パパがいつも気持ちよくしてくれた。
 だからいつも、気持ちいいのをパパのせいに出来たんだけど――。
「ん……ふん」
 いつしか螢の口から喘ぎ声が出てしまっていた。乾きかけていたあそこは、もはやすでにぬるぬるになってきている。
 胸の方もいじって欲しがっているのに、手が塞がっていてはそれも出来ない。
 螢が潤んだ瞳で敬吾を見つめた。
 パパ、見て。螢、ホントはこんなにいやらしい子なの。パパの指じゃなくっても、パパに見られながらでも、螢、こんなに気持ちよくなっちゃうの。
 パパ、こんな螢を叱って……嫌いにならないで。
 螢の指が、さらに攻撃の度合いを強めていった。
 息がだんだんと荒くなっていく。
 ぷるぷるとクリトリスをいじくると、いじった分だけ腰の奥に重いものが溜まっていくのが分かる。
 少しずつ、身体のガードが緩んでくるのが分かった。
 いつもとは少し違う、別の感覚の塊が螢の下腹部で悶えていた。
 その塊と肉壁が激しいせめぎあいを続ける中、螢の指先がついにクリトリスをぐりぐりとこね回した。
 痺れるような感覚が、一気に腰に襲いかかった。
 脊髄に一本、針金を通されたような感じで、螢の身体が強張った。首がぴんとのけぞる。
 それが引き鉄を引いたかのように、腰から熱い塊がぐいっと押し出された。
 あ……出ちゃう――。
 括約筋が一瞬緩んで、尿が溢れ出していくのが、螢にははっきりと分かった。
「!!」
 最初の一滴が出てしまったら、後はもう歯止めが利かなかった。それに引きずられるように、生暖かい液体が割れ目を押し広げていって、噴流となって走っていく。
「ひ……ぐっ!!」
 まるで堤防が決壊するかのようだった。
 螢の股間から床のタイルまで、見事に金色のアーチが掛かっていた。
 ぴちゃぴちゃとおしっこがタイルで跳ねる音を、螢はまるで遠い空の下での出来事のように感じていた。
 ――感じていた。
 そう、螢は確かに、いつもとは違う感覚をしっかりと感じ取っていた。
 身体を震わせながら、螢の放尿は続いていた。
 ぴちゃ……っ。
 ようやく、最後の一滴が滴り落ちた。
 螢はそのまま、膝を突いて前に崩れ落ちていった。うつぶせの格好のまま、息を荒げる。
 螢は今、自分の身体を襲った感覚に、戸惑っていた。
 パパの言う通りにおしっこする事で、パパに赦してもらわなくちゃならないはずだったのに……なのに。
 なのに螢は、それで確かに感じていたのだった。それも、自分の指の感触だけではなく、明らかに放尿そのものの感覚で。
 尿が割れ目を押し広げて出ていく感覚が、螢にはたまらなく気持ちよかった。それこそ身体中に痺れがくるほどの気持ちよさで。
 螢の胸が、すぅんと痛んだ。
 あたしは、ダメな子だ。本当に、いけない子だ。
 螢は自分を激しく責めた。
 だって、パパに赦してもらわなきゃいけないのに、赦してもらわなきゃいけなかったのに――そんな時に、勝手に自分で気持ちよくなってるんだもの。これじゃ、セックスの事しか考えてない獣と一緒だ。ううん、獣、以下だ。
 あたし、最低だ。
 いつしか螢の目から、涙が一筋、零れ落ちていた。
 そのまま、しゃくり上げるようにすすり泣き始める。
 慌てて敬吾が駆け寄ってくるのにも気づかずに、螢は静かに泣きじゃくっていた。
 螢の心の中は、例えようもないほどの哀しみによって支配されていた。
「ど、どうした、螢?」
 敬吾があせりまくった様子で声をかけてきたが、それも、今の螢にはただ哀しいだけだった。
「すまない、螢。俺が悪かった。だから泣くな、螢」
 螢の肩を揺すって、敬吾が必死に謝っていた。しかし、敬吾のそんな言葉に対しても、螢はぷるぷると首を振る事しかできなかった。それしか、出来なかったのだ。
 違うの、パパが悪いんじゃないの。悪いのはみんなあたしなの……あたし、パパにこんなに優しくされる資格なんか、ないよ。
 言いたい事はいくらでもあったが、込み上げてくるもので胸が詰まって、何一つ言葉にならなかった。言葉が、出ていかなかった。
 嗚咽だけが、ひっくひっくと螢の喉から漏れ出していた。
 と、いきなり、螢の頭部が暖かいもので包まれていた。
 敬吾が、いきなり螢を抱きしめたのだ。
 敬吾の腕が、優しく螢の頭を包んでいた。
 敬吾の手が、優しく螢の背中をさすっていた。
 敬吾の胸が、優しい鼓動をとくんとくんと螢に聞かせていた。
 螢は、まるで小さな子供の頃に戻ったかのような感じで、その音を聞いていた。
 もっとよく聞こえるように、ぎぅと頭を敬吾の胸に押しつける。
 とくん……とくん……とくん……。
 敬吾の規則正しい鼓動が、螢の身体全体を包み込んでいた。
 何も心配しなくていいよ……螢はいい子だよ……何があってもパパは螢の味方だよ……。
 なぜか螢の耳には、敬吾の心臓の音がそういう風に聞こえていた。
 パパの胸、あったかぁい……パパがあたしの事、包んでくれてる。
 螢はふと、何もかもがパパに任せておけば全部いい結果に終わるような、そんな気がした。
 パパに全部してもらおう。全部……ぜぇんぶ。
 螢はまだぐすぐすと目を涙で潤ませながら、腕の中から敬吾を見上げた。
「おねがい……パパ」
 螢が言った。
「何だ? 螢?」
 敬吾は、限りなく優しい声で、螢に答えた。
 螢は、一言々々、つぶやくように、言った。
「おねがい、ほたるを、きれいにして……パパだけの、ほたるにして」
 まるで、がんぜない幼子のような口調だった。
 敬吾は、そんな螢の様子に少し驚いたようであったが、螢のそのすがるような目を見て、今の螢がどういう状態にあるか、察したようであった。
「……分かった」
 敬吾は、けして早すぎもせず、また遅すぎもしない絶妙の間で、螢に答えた。
 螢のほっとした波動が、空気を震わせて、敬吾に伝わってくるかのようであった。
 敬吾はそれを受けて、もう一度ゆっくり、螢の背中を撫でていった。

 

 敬吾は螢が落ちついたのを確認すると、螢の願いをかなえるため、ボディソープに手を伸ばそうとした。
 が。
 なぜか敬吾は、そこで自分の身体を動かす事ができなかった。ゆっくりと、自分の胸を見下ろす。
 そこでは、螢が固く目を瞑って、ぎゅっと敬吾を掴んでいたのだった。
 敬吾は、螢をなだめるかのように、こう言った。
「螢、今、パパが身体を洗ってあげるからね。ちょっとだけパパを放して、ここでじっとしていてくれないかな?」
 決して押しつけがましくない口調で、敬吾はそう言った。
 螢はしばらく、不安そうな目で敬吾を見上げていたが、敬吾がとっておきの笑顔で螢にうなずき返すと、ようやく安心したのか、敬吾から手を離した。
「うん……」
 そう言って、螢はちょこんとイスに腰掛けていった。
 敬吾は手早く、流しっぱなしになっていたバスタブの湯を止め、シャワーのノズルとボディーソープ、スポンジを引き寄せると、螢に向かって言った。
「それじゃ螢、まず、シャワーするよ。目をちゃんと閉じてるんだよ」
「うん、パパ」
 そう言って螢は、ぎゅっと目を瞑った。なぜか螢は、両の手も胸のところでぎゅっと握りこぶしに握っている。
 敬吾はそれを少しばかりほほえましく見つめながら、お湯の温度を調節して、螢の身体へと降り注いでいった。
「やあん。パパ、あついよおぉ」
 いきなり螢が、急にかけられたシャワーに驚いたのか、いやいやをするように身体を捻った。
 少しばかり、敬吾の好みの温度にしすぎたかもしれなかった。実際、螢を洗ってやる事など久しぶりの事だったから、ちょっとその辺の感覚を忘れてしまっていたかもしれない。
「ごめんごめん。……これくらいでいいか?」
 敬吾は慌てて少し、お湯の温度を下げた。
「うん……」
 敬吾にしてみればそれは、少しぬる過ぎるほどの温度であったが、螢にはそれくらいがちょうどいいようであった。
 流れ落ちる湯の雫とともに、螢の髪を指で梳いてやる。螢は気持ちよさそうな顔をして、敬吾のされるがままになっていた。
 敬吾はそうやって一通り螢の身体を湿らせると、スポンジにボディソープをたっぷり取って、軽く揉んで泡立てていった。
 準備ができたところで、螢に言った。
「それじゃ螢、洗ってあげるからじっとしてるんだよ」
 螢が可愛らしく、こくんとうなずいた。
 敬吾はまず、スポンジで螢の肩から腕、胸からお腹、足の順へと洗っていった。
 敬吾のその指の動きには、特別、性的なものは含まれていなかったのであるが、それでも螢は、うっとりとしながら敬吾に身体を洗われているようであった。
 足の指先までスポンジで擦ったところで、敬吾が言った。
「螢、背中洗うから、ちょっと反対向いて」
「うん」
 螢は素直に敬吾の言う事を聞いて、立ちあがってちょこちょこを向きを変えた。
 身体は十六のままなのに、なぜかちょこまかとした動きをするのが、敬吾にはちょっとだけおかしかった。
 肩を一通り擦ってから、敬吾が言った。
「螢、手ぇ上げて」
「こおぉ?」
 螢に手を上げさせて、背中から腋、腋から腰にかけて洗う。
 柔らかそうな白い泡が、螢の身体全体を覆っていった。
 そして敬吾は、螢の身体すべてがボディソープの泡で包まれたのを機に、スポンジを外し、自分の手のひらを使って螢の身体を洗い始めていったのだった。
 泡を揉み込むかのように、螢の弾力のある肌をまさぐる。
「やぁん、パパ。くすぐったいよぉ」
 螢が敬吾のそんな動きに敏感に感じ始めたのか、文句を言いながら腰を捻った。
 しかし敬吾は、自分でもわざとらしいかと思うほどの詭弁を弄して、螢の反論をさえぎっていった。
「この方がすみずみまで洗えるんだから、我慢するんだよ、螢」
「やぁん、もおぉ」
 もっとも螢は、それ以上は文句を言ってこないようであった。
 敬吾はそれをいい事に、螢を後ろから抱きしめるかのような格好で、螢の身体に愛撫を加えていった。
 両手で包み込むかのように乳房を揉む。
 その指で尖りかけている乳首を弾く。
 螢のうなじに顔を寄せ、耳たぶを軽く咬む。
 その度に螢は身体を震わせ、敬吾に与えられる一つ一つの刺激を敏感に感じ取っているようであった。
「あん……ふぅん」
 いつしか、喘ぎ声も出始めている。
 その内に敬吾は、螢の股間の方にまで手を伸ばしていった。
 また一つ、詭弁を弄する。
「そうそう、こっちの方もきれいにしなくっちゃな」
「やだ……うんっ」
 いきなりの局部への攻撃に、螢がきゅっと身体をくねらせた。
 しかし敬吾は、わざと最初は肉襞やクリトリスを攻めなかった。股の付け根の鼠蹊部の方だけを何度もさすっていき、じれて螢が腰を捻り始めると、ようやくおもむろに割れ目を掻き分けていくのであった。
「ひゃやっ……んっ、あっあっ」
 直接的な刺激に、螢が首をのけぞらせて感じていた。
 敬吾はそのまま、右手でクリトリス、左手で乳首をいじりながら、のけぞった螢の顔を捕まえキスを交わした。吸い付くように舌を絡める。お互いの唾液が唇から零れる。
 何度かクリトリスを弾いた辺りで、螢の身体が二、三度震えた。このまま刺激を続けると螢が達する――そういったところで、敬吾がおもむろに指の動きを止めた。
 螢の息が荒い。
 急に愛撫を止められた螢が、不思議そうな表情で敬吾を見つめた。
 敬吾は螢の瞳を見つめながら、言った。
「今度は、螢がパパの身体を洗ってくれる番だよ」
 敬吾の指戯に感じてぼおっとしていたからか、螢には敬吾に言われた事がすぐにはぴんとこないようではあったが、しばらくして、言われた意味を正確に把握すると、螢は瞳を蕩けさせながら、敬吾にこう、答えた。
「はい、パパ」
 螢はそう言ってイスから立ちあがると、敬吾の落としたスポンジを手に取って、敬吾の後ろに回った。ゆっくりと、ひざまずく。
 そして螢は、手にしたスポンジを泡立たせて作った泡を、自分の胸に擦り付けると、敬吾の方に向かって、言った。
「パパ、行くよ」
 そう言って螢は、敬吾の腋から自分の腕を回し入れ、胸を押し付けるかのようにして、身体全体を使って敬吾の背中を流していった。
 螢の胸の柔らかい塊と、その先端の尖った突起が、敬吾の背中をぐりぐりと刺激していた。
「ねぇ、パパ、気持ちいい?」
 胸を円を描くように擦りつけながら、螢がそんな事を聞いてきた。
 敬吾は素直に感じたままを答えた。
「ああ、螢の身体、柔らかくってとっても気持ちがいいよ」
「そう、よかった」
 螢がふっと笑ったのを、なぜか敬吾は感じ取る事ができた。
 螢はそのまま、胸を下から上へと擦り上げるような感じにして、敬吾の背中を洗っていく。
 そうしてあらかた背中を洗い終わった辺りで、螢は手を前の方に伸ばしてきた。
 敬吾の耳たぶをかじりながら、敬吾のものを泡で包んでいった。
 螢は手探りだけでそれをやっているようであったが、さすがに扱いなれた代物であるからか、螢の指の動きは、適切に敬吾の官能を高めていった。
 頃やよしと、敬吾が螢に声をかけた。
「螢」
「え、何?」
 手を休めずに、螢が答える。
 敬吾が言った。
「そこだけじゃなくて、前の方も洗ってくれよ」
「うん、分かった」
 敬吾がそう言うと、螢は素直に敬吾の背中から離れていった。
 敬吾は螢が自分の前に回ってきたのを確認すると、おもむろにタイルの上へと寝そべっていった。さすがに少し、タイルの温度がひんやりと感じられたが、じきに敬吾の体温を吸って、それも分からなくなった。
 寝そべった敬吾の身体の中で、あそこだけがピンと上を向いて待っていた。まるでそこだけ別の生き物みたいに自己主張しているそれを、ちょっとだけ可愛らしいと、螢は思った。
「ほら、螢。早く来て」
 じれたように、敬吾が螢を促す。
「うん」
 螢は敬吾に言われるがままに、寝そべっている敬吾の上へと重なっていった。胸と胸とを合わせるようにして、敬吾に泡を塗りたくっていく。
 今度は螢は、胸を擦りつけるだけではなくて、腰の方も敬吾の腰骨の辺りに擦りつけているようだった。
 ピンク色に顔を上気させて、懸命に身体をくねらす螢の姿が、敬吾の目にはとてつもなく色っぽく写った。
 それを見ていた敬吾に、ちょっとだけ、いたずら心が浮かんだ。
「螢、ちょっとじっとしてて」
「え?」
 よく分からず、とにかく螢が動きを止めた。
 その瞬間。
「!?」
 動きを止めた螢のあそこに、いきなり今までと違った感覚が挿入された。
 正確に言うと、それはあそこではなかった。
 螢のお尻の穴に、敬吾の小指の先がぬるっと潜り込んできたのだった。
 それはボディソープでぬめっていたせいか、驚くほどあっさりと、第二関節くらいまで、螢の体内に呑み込まれていった。
「ひっ……うっ」
 螢はそれで、痛みこそまったく感じなかったが、お尻を貫いている異様な感覚に、身体の皮膚全体を粟立たせていた。
 螢自身、アナルを攻められる事は初めてではなかったが、ここまで深く入れられたのは初めての事だった。
 いつもだったら、せいぜいが舌先で舐められるとか、小指の先っぽがちょっと入るかといったところだったのだが。
 混乱している螢を差し置いて、敬吾が言葉を続けた。
「螢、動かすぞ」
「えっ? やはっ……うんっ!!」
 いきなりぬるりとした感覚が、螢の直腸の壁を擦り上げていった。
 けっして遅くはないストロークで、敬吾の指が出し入れされる。
「いやっ……はっ……うん」
 文字通り、直接粘膜を刺激された螢が、いきなり何度か気をやった。
 すさまじいレベルの快感が、一気に脊髄を駆け上がっていった。
 螢には、何が何だかまったく訳が分からなかった。
 とにかく、気持ちいい事だけは間違いなかった。
 だから、敬吾のこの言葉にも深い意味は考えずに、ただうなずいていたのだった。
「螢、入れるぞ」
 腰を片手で支えられて、下からずんっと突き上げられた。
「いぐっ!!」
 螢は思わず悲鳴を上げた。
 その瞬間、また一回、螢がいった。
 何が起こったかを考える間もなく、非同期のストロークが二つ、螢に襲いかかってきた。
「あああああっ!!」
 螢はすでに、まともな言葉を上げる事ができなくなっていた。
 身体に襲いかかってくる快感の奔流に、無我夢中で腰を振りつづけていた。
 振れば振るほど、新しい感覚があそこからお尻から湧きあがってきた。
 螢はむしゃぶりつくように敬吾の唇を吸った。
 そうする事で少しでもこの快感に耐えられそうな気がしたのだったが、もちろんそれは余計に快楽を高めるだけに過ぎなかった。
 身体のあちこちでスパークが弾けた。
 気が狂いそうなほどの快感が、螢のさまざまなところで爆発していた。
 螢の意識も、そう長いこと保ちそうにもなかった。
 その時、二つのストロークが寸分の狂いもなく同時に螢に打ち込まれた。
 圧倒的な量の快楽が、螢の身体中を駆け巡っていった。
「くふっ!!」
 螢が意識を引き絞った。
 ぷつりと何かが途切れた。
「ひやああああああぁっ!!」
 どこかに何かがだくだくと打ちつけられるのを遠い世界に感じながら、螢の意識は白濁の海の中へとホワイトアウトしていったのだった――。

 

「ん……ふぅ……」
 気がつくと、螢はベッドの上に横たわっていた。
 身体をくるんでいたはずの泡はすべて洗い流されていて、身体も拭かれて、敬吾の腕枕に抱かれて布団に包まれていたのであった。
 顔を横に向けると、こっちの方を見ていたパパと目が合った。
「あ、パパ……」
 思わず惚けたような声が出る。
「おう、螢。目が覚めたか」
 落ちついた声で、敬吾が答えた。
 どうやら敬吾は、気を失ってしまった螢をバスルームから引き上げて、起きるまでこうやってじっと腕枕をしていてくれたようであった。
 しばらくじっと、二人して顔を見つめ合っていた。
 そしておもむろに、敬吾が鼻の頭を掻きながら螢に言った。
「すまなかったな、螢」
「え、何が?」
 螢には、敬吾が何の事を言っているのかさっぱり分からなかった。
 敬吾が言葉を続けた。
「ほら、お前がメシ喰ってる時に急に変な事を言い出すもんだからさ、つい俺もムキになって――あんな事させちまったんだ。ごめんな。螢の事、一番信じてなきゃいけないの、パパなのにな」
 なぁんだ、と、螢は思った。
 そんな事、もうどうでもいい事なのに。
 もう、あたしの気持ちは決まっている。
 あたしは全部、パパのものだから。何があっても、どんな事があっても。
 螢は言った。
「ううん、パパ。いいの。螢、何があってもパパの事が好きだから。パパがいれば、他に何もいらないから。螢、パパだけの事が、大好きだから」
 そう言って螢は、敬吾の胸に頭を擦り寄せていった。
 そしてまた、いくばくかの沈黙が流れた。
 そして敬吾が、ちょっとばかり不満そうな声で、螢に言った。
「……螢」
「ん、何?」
 螢が顔を上げた。
 そこには、納得いかないといった顔で唇を尖らせている、敬吾の顔があった。
「今の螢のセリフを聞いてると、パパには、螢に何かあったよーにしか聞こえないんだけどなぁ?」
 螢は一つ、んふっと笑った。
 そしていたずらっぽそうな顔をして、言った。
「なーいしょ」
「ほたるぅ……んぐっ」
 何か文句を言おうとした敬吾の口を、螢はキスで強引にふさいだ。ゆっくりと舌を絡めていく。敬吾の腕に、自分の身体を預けていく。
 何しろ、二人の長い夜は、まだ始まったばかりなのだから。

おしまい


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