[未沙ちゃんの初めての夜]


 未沙ちゃんの初めての夜

横森 健一

 

 あたし、はじめてのことだった。
 あこがれの一条先輩に、こんな事言われたのだ。
「未沙ちゃん、今晩、一緒に食事でもどう?」
 信じらんなかった。あんまり嬉しくって、すぐに、『はいっ!』って、大声で返事してしまった。
 先輩の方が、鳩が豆デッポ食らったような顔してた。
 回りの人たちからは、何か変な目で見られたけど、そんな事、ちっとも気にならなかった。だって、やっと、先輩の方から、誘ってくれたんだもん。
 先輩は、あたしがこの課に入ったときからの、あたしの指導係だった。とっても親切で、あたしがちょっと失敗しても優しくて……。
 そのころから、あたし、ずっと先輩の事が好きだったんだけど、先輩ったら、その事に、ぜんぜん気が付いてくれないみたいだった。
 いつも先輩は、仕事に夢中で、あたしにも優しいんだけど、何か、んーと、そう、あたしを女として見てないんじゃないか、って思ってしまうようなフシがあった。年の離れた『女の子』を扱ってる、っていうか……。実際は、四つしか違ってないのに……。冷めてるようなところがあった。これが、大人なのかなー、なんて、思ったりもしたけど。
 とにかく、そのあとは、ぜんぜん仕事が手につかなかった。いちいち数えてらんないような、細かいミスもたくさんしちゃったけど。そんな事、気にもならなかった。
 ほんとに、終業時間が待ちどおしくて……。

 

「それじゃ、ま、とにかく、乾杯」
「はい」
 ちゃりん。
 薄桃色の液体が満たされたグラスのなる音。
 ちゃりん。
 何度も、心の中でくりかえしたくなる。ん、いい響き。グラスの中で、さざ波が立って。音と波が共鳴してる。
 ワインを一口含む。久しぶりのお酒。おいし。あたしはお酒、あんまり強く無いんだけど、ワインは比較的好きな方。先輩はかなりいける口だって聞いたけど。
 しばらくの間は、二人とも黙って、運ばれてくる料理を食べていた。
 スペイン料理のフルコース。こぢんまりとした、落ち着いた雰囲気の、お店。結構、いいお値段しそうな気がする。なんて考えてしまうのは、やっぱ、悲しい女の性なんだろうか。
 一段落付いたところで、あたしは先輩に訊ねた。
「ところで、先輩」
「ん?」
 先輩は、お肉をフォークに突き刺しながら、顔を挙げて、あたしの瞳を見た。目が合う。優しい瞳。吸い込まれそう。
「どうしたの?」
 先輩が言った。
 はっと我に帰る
 あたしは自分の頬が、熱く、火照っているのを感じる。
 きっと、久しぶりのお酒のせいに違いない。うん、そうよ。
 あたしは、胸の鼓動を高く感じながら、三番目に聞きたかった事を聞いた。
「どうして、あたしなんか、誘ってくれたんですか?」
 先輩は、一瞬、意外そうな顔をした後、思わず苦笑して、言った。
「えっと、会社の同僚を誘うのって、そんなに意外だったかな? なに、ね、どうせアパート帰っても一人だし、御飯食べるんなら、かわいい女の子と一緒の方が楽しいと思ってね」
「どこに、そのかわいい女の子っているんですかぁ?」
 先輩は、ちょっぴり怒ったような口調で言った。
「かわいい女の子ってのはね、そんな事聞かないもんだよ」
「はぁい」
 あたしは、半分拗ねたような口調で返事した。
 一瞬の間。
 そして、先輩とあたしは、弾かれたように、同時に吹きだしていた。先輩も、笑っている。あたしが、最初に好きになった、先輩の微苦笑。
 やっぱ、好き。
 だけど、あたしって、やっぱり、先輩にとっては、ただの『女の子』なんだろうか。ちゃんと、成人式だって済ませたのに。確かに、あんまり発育のいい身体つきじゃないけどさ。大人としての魅力に、欠けてるのかなあ。
 あたしは、こみ上げてくる笑いをこらえながら、言った。
「でも先輩。あたし嬉しかったな」
「何が?」
「だって、かわいいなんて形容詞、面と向かって言われたのは、もう十数年ぶりなんですもん」
 ちょっと眉をひそめて先輩が言う。
「嬉しかった? 過去形かい?」
 こだわるなあ。でも。
「はい、嬉しい、です。現在進行形」
「よろしい」
 仰々しく、先輩がうなずく。そして、ちょっとまじめな顔になって。
「それにね、十数年ぶりだなんて事はね」
 ワイングラスをとって、あさっての方向を向く。
「回りの奴らに見る目がなかったのか、照れ屋だったのか、どっちかさ」
 それって、なんか、ものすごいほめ言葉のように聞こえる。まさか、でも、ううん、今、お酒入ってるし、けど。
 胸が熱い。頭ん中が、めちゃくちゃに混乱してる。何を言ってるのか分からない。思わず、二番目に聞きたかった事を口に出してしまう。
「先輩、彼女、いるんですか?」
 自分の顔の表情が消えたのが、鏡を見なくても分かった。それなのに、先輩は、顔色一つ変えない。
「今んとこいないよ。彼女にしたい子はいるけどね」
 それじゃあ。それじゃあ。誰?
 先輩が、ワインを飲み干した。
「そろそろ出ようか。酔いを醒まさなきゃいけないし」
 ……一番聞きたかった事が聞けなかった。

 

 肩を並べて、二人、坂道を降りていた。店を出てから、一言も、口を聞いていない。黙って、黙々と、道を歩いている。
 あたしは、ずっとうつむいていた。そうすれば、顔を見られずにすむ。先輩の顔は、あたしの頭の上。髪の毛しか見えないはず。今夜は新月。道が暗いのがありがたかった。
 先輩、今、どんな顔してるんだろうか。やっぱり、怒ってるのかな。見たい。
 けど、どんな顔して見ればいいの?
 道が、小さな公園にさしかかった。公園の中を歩いていく。
 昼間は、ちっちゃい子供達が、遊んでる公園。今は、ブランコ一つ、揺れていない。新月に照らされた、夜の顔。
 突然、先輩が、街灯の下で立ち止まった。あたしもつられて止まる。
 しばらくの間、奇妙な間があった。あたしはじっと下を向いていた。
 地面の上では、先輩の影とあたしの影とが、一つに重なっていた。先輩の靴の、つま先も見える。それは、せわしなげに細かく震えていた。
 突然、先輩の靴が、あたしの横から前へと移動した。
 先輩の、息を呑む声。
 あたしの肩に、先輩の手が置かれる。
 ぴくっ、と震えるあたし。
 そして、先輩は言った。
「……ごめん、未沙ちゃん」
 一瞬、あっけにとられた。
 どうして?どうして先輩が謝るの?怒られるような事したのは、あたしの方なのに。
 先輩は、そんなあたしに気付かずに、まだ科白を言い続けている。
「気付かなかった訳じゃないんだ。ただ……、俺……、自分に自信が持ちきれなくて……。でも……、もう、我慢できないんだ。もう、自分の気持ちに、嘘がつけないんだ」
 え? 何? 何の事言ってるの? あたし、あたし……。
「好きなんだ、未沙。お前に惚れてんだよ!」
 最後の方は、絶叫に近かった。あたしには、音だけしか聞こえなかった。
 スキナンダミサオマエニホレテンダヨ。
 今のあたしの頭脳は、単なるトンネルだった。まだ、何を言われたのか理解できなかった。
 いきなり、先輩があたしを抱きしめた。骨がきしむほど、強く。何で、あたし、先輩に抱かれてるんだろう……。
 数瞬後、身体と頭が、やっと現実を理解した。
 あたしは、先輩を抱く腕に力を込めた。頭を胸に押しつけて、何度も何度もうなずいた。先輩の胸元を、あたしが濡らした……。

 

 しばらく、そうやって、あたし達は、街灯の下で抱き合っていた。先輩の体温が、暖かかった。死んでもいいほどの幸福感が、あたしの身体を包んでいた。
 つと、先輩が力をゆるめた。あたしも抱きしめていた手を放す。目の前に、固い表情の先輩がいた。先輩が、あたしの瞳を見つめた。あたしの顎に手を掛ける。あたしはそっと目を閉じた……。
 柔らかく、暖かい感触が、あたしを包み込んでいた。それは、あたしの上で、微妙に蠢いていた。だんだんと、身体の力が抜けていった。あたしは、先輩に体重をあずけた。おびえるあたしを解きほぐすかのように、ゆっくりと舌先が唇を割って入ってきた。先輩の舌先が、あたしの舌の上で溶ろける。あたしも、先輩の口の中へと入っていった。
 先輩が、顔を離した。空中で、絡み合っていた舌先が分かれた。けど、まだ、唾液によって、その絆はつながっていた。
「未沙……」
 そう言って、先輩は再びあたしを抱きしめた。今度こそ、あたしにも、その意味が分かっていた。
 あたしのお腹に、何か固いものが当たった。すごく熱かった。一瞬、それが何かは分からなかった。けど、分かると、急に先輩がいとおしくなって、あたしは、それを押しつけるかのように、先輩を力強く抱きしめていった。
 先輩も、そこがどうなっているのか、気付いた様子だった。急に慌てて、あたしから離れようとする。あたしは離れなかった。
 顔を胸につけたまま、あたしは言った。
「先輩……」
「な、何だ?」
 まだ慌てている。
「まだ、返事言ってませんよね」
「あ、ああ、返事か」
 上の空ね。でも。
「好きです、先輩が。全部ひっくるめて。だから、いいんです」
「え? 未沙? けど……」
 とまどっている。
 あたしは言った。
「いいの。あたし、女の子、じゃないんだから」

 

 熱いシャワーが気持ちいい。火照った身体を、もっと熱くしてくれる。今日、会社で声掛けられたときは、こんな事になるなんて、夢にも思わなかったけど。
 でも、いいの。ずっと、好きだったんだし。ずっと、先輩にあげるって決めてたんだし。
 そう、あげる、の。
 あたし、まだ、なの。
 友達の中には、結婚して、子供まで造っちゃった子もいるけど。あたしは、今日が初めて。遅いかな、とも思うけど、早けりゃいいってもんでもないと思うし。いいの、やっと好きな人が見つかったんだから。し・あ・わ・せ、なの。
 し・あ・わ・せ、なんだけど。
 あたしは、自分の胸をつかむ。ため息。どうして、こう、胸って大きくなんないんだろう。発育よろしく無いのよね。ったく。先輩に嫌われなきゃいいんだけど。
 あたしは、ゆっくりと揉みほぐしてみた。手のひらにちょうど収まるくらい。桜色の皮膚が、もっと赤くなっていく。親指と人差し指とで、乳首をつまむ。最初柔らかかったそれが、だんだん固くなっていく。
 左ばっかりじゃ不公平だわ、右も……。
 しだいに、息が荒くなってくる。ここは、自分ちのベッドじゃないのに。
 だけど、左手も、いつのまにか下に降りていた。茂みを越えて、中指の先が、敏感な芽に触れた。
 !!
 身体に電流が走る。思わずあたしは、膝をついた。いけない、と思いながらも、左手の動きは止まらない。
 だめ、先輩が。先輩が、まだ。お願い。先輩にしてもらいたいの。
 ……。
 ようやく、やめられた。まだ、息が、荒い。先輩に、気付かれるかしら。
 まったく、我ながら、何考えてんのよ。
 あたしは、指先と身体を、丁寧に、洗った。

 

 入れ替わりに、先輩がシャワーを使った。あたしは、バスタオルを巻いて、ベッドの中に入っている。電気を消して。
 真っ暗な中に、シャワーの水音が聞こえてくる。さっき、あたしが、あんな事をした所で、先輩がシャワーを使っている。水音が、心地よい。
 水音が……。

 

 気がつくと、もう、ベッドの中に、先輩がいた。腕枕をしてもらっていた。どうやら、うつらうつらしてしまったらしい。
「おはよう」
 微苦笑しながら、先輩が言った。
「せん……ぱい……?」
 言葉が出なかった。怒鳴りつけられてもいいシチュエーションなのに、それどころか、腕枕までしてもらっていた。
「あの……先……」
「いいんだ」
 嫌みでも、投げやりにでもなく、ごく平常に、先輩が言った。
「俺は、確かに、お前の身体が欲しい。けど、それは、身体が欲しいから好きなんじゃなくて、好きだから身体が欲しいって事なんだ。だから、気持ち良く寝てるとこを起こしてするなんてことは、俺にはできない。……しっかし」
 と言って、先輩は笑った。
「良く寝てたな」
「ごめん……なさい」
 あたしは、それだけしか言えなかった。胸が詰まった。感動した。自分が情けなくなった。あたしは、先輩の胸に飛び込んで、泣きだした。
 それが、さらに、迷惑をかけるって分かっていても。
「いいって、もう、泣くな」
 先輩が、あたしの背中をさすってくれた。

 

 いつしか、先輩のは、背中への愛撫に変わっていた。背骨に沿って、軽く、触れるか触れないかの所で、上下している。先輩の手が動くたびに、あたしの意志とは関係なく、身体がピクッと痙攣する。息づかいが荒くなる。
「……せんぱい」
 あたしは身体を起こすと、先輩に唇を求めた。
「……ん」
 執拗にキスをする。先輩の舌とあたしの舌とを、絡め合わせる。舌先で突々き合い、なめ合い、唾液を吸い合う。
「あ、ふぅ……」
 ため息が出る。先輩が、あたしを押し倒した。
 先輩の舌が、首筋を刺激する。顎の方から耳の方へ、ツッ、となめる。薄皮を、一枚一枚剥されているような感じ。一回ごとに、じん、と熱くなる。右手では耳を、左手ではわき腹を責められている。
「いやゃぁ……」
 感じてるのが分かる。普段、自分ではしないところばかりが責められている。
耳、わき腹、首筋、うなじ。容赦無く責めたててくる。くすぐったい。ほんと?未沙、くすぐったいだけなの?
「未沙、きれいだよ」
 そんな事を言いながら、先輩、耳をねぶる。舌先で、耳の襞を、穴を、なめる。どうして、こんなとこが感じるの? ってほど、感じる。右手が、いつのまにか、太ももを責めている。そこ、いい。ゆっくりとさすってる。
 先輩の左手が、胸にかかる。いやっ。そこは。嫌われちゃう。
「だめ……そこ……胸ないもん」
「どうして? 未沙のここ、かわいいよ。好きだよ」
 いやあっ。
 先輩が、左の乳首にキスをする。そのまま、舌先で転がす。右の方は、手でいじくって。あん、そこ、すごく。
「いぃ、いやぁ、感じるぅ」
 総動員で胸を責めたててる。揉んで、吸って、なめて、弾いて、軽く咬んで。乳首が、熱いの、なんで、こんなに。
「あたし、あたし、変になっちゃぅ、やめてぇ」
 あん。
 先輩が急に、愛撫をやめる。
「やめて、いいの?」
 さっきまで、先輩に愛撫されてた胸が、赤く、火照っている。目に見えないほどの細かい針が、ちくちくと突き刺さっている。むず痒くて。微風に晒されて……。
 すすり泣く。哀願してしまう。
「お願い、して……、先輩、お願い……」
「何して欲しいの?」
 お願い、だから……。
「ちゃんと口で言って」
 そんな、いじめないで、でも、我慢できない。
「……未沙のおっぱいをなめて」
「おっぱいだけでいいの?」
 分かってる癖に、どうして、そんな、意地悪するの?
「未沙のあそこも、みんな、して」
「あそこってどこ?」
 やめてょ、もうがまんが……。
「………」
「何? 聞こえないよ」
 もう、いや、こんな先輩嫌い。だから、だから……もう……。
「未沙のおま♀こも、おっぱいも、みんな、お願い、してぇ」
 ん。
 やっと先輩はキスしてくれた。
「ごめんよ、未沙、お前があんまりかわいすぎるもんだから」
 ゆっくり、愛撫を始めてくれた。
 後ろから、抱きかかえるようにして、両手で胸を揉んでくれる。うなじにも、キスして……。
「未沙、誰も見てないよ。感じるだけ感じていいよ」
「ん……」
 そうしよう。先輩が愛してくれてるんだもん。
「未沙、四つん這いになって」
 あたしは、もう、先輩に言われるままにした。先輩は、あたしの胸をいじりながら、背骨のあたりを、スーッ、と舌先でなめあげてくれる。
「かはぁ」
 身体にもう一度、さっきより、強い火が燠る。確かな火。愛されてる証。
 先輩の手が、お尻にかかって。ああん、いや。一番恥ずかしいとこなめられてる。後ろの穴、突っついてる。
「あん、汚いよぉ」
「未沙の身体の中で、汚いとこなんてあるもんか」
 先輩、止めてくれない。お尻の、穴の、襞が、あん、だんだん、柔らかく、なって……。くちゅ、くちゅ、って、いやらしい音たてて啜ってる。前の方も、しとってきてる。
「先輩……、前も……」
「………」
 先輩が、あたしを仰向けにした。両手で、膝をつかんで、ぐっ、と開く。大事なところが、先輩に、見られてる。恥ずか、しい。先輩の顔が、見れない。でも、身体が。
「お願い、そこ、なめて……」
 先輩の顔が、近づく。
 !!
 さっき、自分でしたときよりも、すごく、すごく。あそこの神経が、むき出しになってるぅ。敏感なところを、転がされてる。
「あぁ、いい、そこ、先輩、もっと強く……」
 先輩の顔を、押しつけてる。
 訳わかんない。身体が、震える。熱いのが、一回、二回……。だから、はん、変、すっごく、変、もう、もう。
「先輩いっ!」
 感、電、する。力、が、抜ける。のけぞったのにも気付かない。
 夢……。

 

 淡い刺激が、あたしを現実に引き戻す。いつのまにか、先輩が、反対になって、あたしの上に、覆いかぶさっている。まだ、あたしの蕾を、口と手で、いじくっている。草の生えてる丘も、もう一つの手で弄んでる……。
 また、反応し始めてる。自分が、こんなに、貪欲だなんて、知らなかった。唇で、摘んでる。あたしの蕾を……。回りのお肉を、手で、こね回してる。あそこが、心地よく、痺れてくる。
 気がつくと、目の前に、先輩自身があった。こんなに間近で見るのは、初めて。想像してたのより、ずっと大きい。男の人って、いつも、こんなものをぶら下げてるのかしら。ピン、と尖ってて、ほんとに矢印みたい。
 さっきから、あたし、してもらってばっかり。お返ししなくっちゃ。
 手を引き抜いて、先輩を、つかむ。ん……ちょっとやりにくい。首をのけぞらせて、先輩を、口に含む。
 先輩が、ぴくり、と蠢く。
「う……、未沙、何するんだ」
 かすれ声で、先輩が言う。そんな声を聞くと、よけい、してあげたくなる。
「いいの、先輩、お返ししたいの。さっきから、未沙、してもらってばっかりだもん。だから、先輩も、して」
 先輩、聞こえてないみたい。動きが止まってる。でも、あたしは……。
 唇を閉じて、ゆっくりと出し入れをする。両手で、根元をつかむ。初めてなのに、何かにせかされるように、やっている。子供の頃、棒アイスをしゃぶってるみたい。でも、先輩のって、熱いの。
「ふぅ、未沙、いいよ。溝の辺りも、なめて」
 あたしは、言うとおりにしてあげる。溝に沿って、舌先で、なめてあげる。ついでに、根元の袋も、柔らかく、揉んであげる。した事無いのに、身体が勝手に動いてくれる。
「ああ、未沙、上手だよ。もっと、早く」
 空いている手で、先輩をしごく。
 先輩の息が荒い。
「うまいよ、上手だ、あぁ、俺、もう、我慢……」
「あん」
 あたしは、不満の声をあげる。先輩が、無理矢理ひっこぬいたのだ。
「ごめん、未沙、でも、俺、最初は、お前自身とで、出したいんだ」
 先輩……。そこまで……。あたし……。
「いいよ、抱いて……」
 向き直って、熱いキス。

 

 先輩が、三たびあたし自身を刺激する。そこは、その必要もないほど、潤っていて。でも、まだ、あふれ出してくるの。
「未沙、すごいよ、ここ、ぐちょぐちょだよ」
 先輩が、わざと音をたてて、そんな事を言う。いやらしい音が、はっきり聞こえてくる。
 くちゅっくちゅっ。
 恥ずかしい。
「や、そんなこと言わないで」
 でも、言われると、また、あふれ出してくるの。
 先輩、早く……。
「きて……、お願い、早く、きて……」
 先輩が、無言で、あたしの足を抱える。先輩自身が、あたし自身に触れる。あたしの潤いで濡れる。やっとこれで、女の子、から、女、になれる。先輩が、してくれる。
「先輩……、嫌わないでね。あたし、あたし、初めてなの、先輩が……」
 先輩、ちょっと驚いたようだったけど、すぐに、優しい笑顔で包んでくれる。
「……そうか。痛いかもしれないぞ」
「いいの、先輩に抱かれるのなら」
 あたし、覚悟は決めてるの。だから、先輩。
「未沙、いくよ」
 先輩が、腰を沈めた。
「ああん!!」
 あそこに、激痛が走った。先輩が入ってる。でも、痛い。凄く痛い。痛みしか、感じられない。
「や、先輩、痛い!」
 でも、先輩、抜いてくれない。腰をつかんで。あたし、痛いのに。どうして?いやなの、先輩。
「お願い、抜いて、早く」
 先輩の方を向いて言った。
 先輩と目が合った。
 いつもは優しい瞳が、真剣な眼差しになっていた。
 一瞬、痛みを忘れた。
 先輩……本気なんだ……。
 痛みが、急速に和らいでいくような気がした。気がしただけで、実際はまだ痛かったけど、あたしは、感じようと、努力してみた。
 少しづつ、ほんとに少しづつだけど、今度こそ、本当に痛みが引いていった。
その分、快感が増していった。それは、加速度的に、倍増していった。
「先輩……先輩……」
 キス。激しく。もっと。
 感じている。だんだん、感じてきている。痛みが溶ろけて、快感に変わる。あたし、先輩、好きだもん。だから。
「未沙、感じるんだ」
 うん。だから。もっと。愛して。好きだから。
「先輩、そこ、いいよ、強くして」
 先輩の動きが、激しくなる。激しくなれば、激しくなるほど、感じる。もう、痛みなんて無い。あとに残るのは快感だけ。先輩に抱かれてる、快感だけ。
「ん、はぁ……。感じてるぅ。凄く、感じちゃってる」
 あそこが熱い。感じすぎちゃって、もう何も感じられない。先輩。いいよ。あたし。凄くよくなっちゃってる。先輩も、いいの?
「先輩ぃ………」
「はぁ、未沙、自分で、腰、動かしてみて。俺のために」
 先輩のために。気持ちいい? 腰を回す。先輩が突いてくるのと、周期が合ったり、離れたり……。予想もしないような所を突かれるたびに、新しい快感が生まれる。あたしが、よくなってる。先輩に、こね回されてる。
「いいよぉ、あん、先輩ぃ、凄く、凄く……もう……」
「未沙、俺もいいよ。未沙のここ、凄く気持ちがいいよ」
 そんな事言われたら、もっと感じちゃう。自分でするのなんか、もう、全然比べものになんない。こんなとこまできたの、初めて。狂っちゃう。
「あたし、あたし、もう、変になっちゃう。我慢できない」
 すべての神経が、あそこに集まってる。むき出しの神経が、擦られてる。あん、先輩、あたし、もう、だから、一緒に。
「未沙、凄くいいよ、俺も、もう」
 おもいっきり突いてくる。先輩の先っちょが、奥に、奥に。当たってる。当たってる。初めてよ、こんなの。あたし、限界。だめなの。もう。
「先輩、いっしょに、いっしょにぃ」
「いくよ、未沙、いくよ」
「ああんっ!!」
 あそこが、破裂した。一気に何メートルか降下した。お腹の上に、熱いものが、こぼれ落ちた。あたしは、闇に、墜ちた。

 

 次の日、あたしは、早めに出勤して、片付けだの、お掃除だのという、雑用をすませた。特に、先輩の机は、念入りに。
 先輩は、毎度ながら、来るのが遅かった。あたしは、ちょっといらいらした。
 就業三分前になって、やっと先輩が現れた。
 先輩は、あたしが近づいていくと、にこやかに笑ってくれた。
「先輩」
 あたしは言った。
「今晩も一緒に、御飯食べませんか?」

おしまい


感想はメール掲示板

←『未沙ちゃんの初めての夜』解説に戻る
←えっち小説メインに戻る
←トップに戻る

1