[俊也の秘密とあたしのひみつ]


 俊也の秘密とあたしのひみつ

横森 健一

 

 俊也の部屋でそれを見つけた瞬間、あたしは思わず『げっ!!』と叫んだ。

 

 俊也はあたしの弟だ。現在、中学二年生。十四歳。野々原家の長男。色白の細面の童顔で、姉のあたしから見てもなかなかレベルの高い美少年である。
 ひいき目、なしに。
 実際、声変わりだってまだしてないし、栗色っぽい髪(もちろん天然!!)もふんわりさらさらキューティクル。背もまだあたしよりちょっと低いし、そのくせ最近、生意気にも結構ワルぶった口調でしゃべっちゃったりしてる。そのトンがった口調と美少年顔とのギャップが、ホントにもう、思わずほおずりしたくなっちゃうくらいかあいいのだ。
 ……もっとも、ほおずり『したくなっちゃう』とか書いときながら、実はこないだの日曜の昼下がり、もうとっくに襲っちゃったりしてるんだけれどね。あは。

 

 前の日の晩、ついつい夜更かししすぎちゃって(何してたかって? お勉強してたに決まってるでしょっ!? なんてね)、お昼過ぎに起きて下に降りてきたら、とっくにみんな、お昼ご飯を済ましちゃったみたいで、テーブルはきれいさっぱり片付いていた。
 おかーさんは多分買い物、おとーさんは多分ゴルフで、あたしを起こしに来なかったことからすると、お留守番役はどうやら俊也が仰せつかったようだった。ま、あたしの寝起きに近づかないってのは、正しい選択だと思うけどね。あはは。
 それはともかく、食べるもん食べなきゃ始まんないんで、とりあえず大鍋に水を入れて火にかける……と、それからパスタだけ戸棚から出しといて、キッチンから居間の方へと行ってみた。居間ではどーやら、俊也がうつぶせに寝っ転がって、何やらマンガ雑誌を読みふけってる様子。あたしが起きてきたのにも気づいてないみたい。
 で、何をそんなに真剣に読んでんのかと思って、ちらりと遠目に見てみたところ、どーやら少年誌のちょっとえっちっぽいマンガらしい。あたし、忍び足で俊也の背後まで忍び寄ってって、それが事実であることを確認する。そして。
「しゅーんやっ!!」
 あたしは、にぱっと笑うと、おもむろに俊也の背中へと覆い被さっていった。
「うわっぷ!!」
 一瞬、何が起こったのか分からなくって焦りまくる俊也。もっとも、分かったってからといって、焦りまくることには変わりないんないだろーけどね。うぷぷ。
 なるべく抵抗されない今の内に、俊也の結構広い背中に頬をすりすりする。
 ほおずりずり。
「なな何すんだよっ!? 咲姉、やめろよっ!!」
 よーやく少しずつ事態を把握し始めた俊也が、ぢたばたと暴れる。
 もちろんあたしは俊也のセリフをあっさり無視。逆に背中をずり上がってって、俊也の耳元でささやく。
「ねーねー俊、何見てんのー?」
 端で見ていてはっきりそれと分かるほど、俊也は顔の色を変えた。慌てて手に持ってる雑誌を閉じようとする。
 させまいとするあたし。
 必死に隠そうとする俊也。
「何でもいーだろっ!? るせーなっ、あっち行けよっ!!」
「いーじゃん、うりうり」
 そー言いながら、背中ごしに胸(あるのだ、いちお)を押し付けちゃったりする。俊也の焦りレベルが急上昇してくのが、手に(胸か)に取って分かる。
 と、いきなり。
「やめろってばっ!!」
 がばっ!!、と強引に立ち上がられる。やっぱ、背格好は同じくらいとは言え、さすがにパワーは俊也の方が上。振りほどかれる。
「いったあい」
 あたし、振りほどかれた格好のまま、女の子座りで俊也を見上げ、ぶーたれる。
「もぉ、無邪気な姉弟のスキンシップなのにぃ」
「どっこが無邪気なスキンシップなんだよっ!!」
 すとん、と俊也、背中向けて座り込む。あぐら、かいて。立ってるとき、何となく中腰っぽかったのは気のせい?
「ったく、高校生にもなってガキみてぇな真似すんなよなっ!!」
 ははっ。照れてるてれてる。真っ赤な顔してそっぽ向いてる。
 その、わざとらしくぶすっとした顔がまたかあいかったんで、もっかい背中からうりうりってしよっかなっ? とも思ったんだけど、俊也にジト目で睨まれたんで、さすがにやめとく。二度とさせてもらえなくなったら困るし。
 で、そのまましばらく、何とはなしに俊也の背中を見てたら。
「姉貴ぃ?」
 まだ怒ってんのか、ぶすっとした声で俊也が言った。
「何よぉ」
 あたしもつられて、つい無愛想な口調で答える。
 俊也が言った。
「お湯、沸かしてたんじゃねーのか? 台所、湯気だらけだぜ?」
 へっ!?
 あたし、そう言われて初めてキッチンの惨状に気付いた。あああこれってすごい状態ってゆーか状況ってゆーか。湯気だらけとゆーより、湯気のナイアガラ大瀑布って感じ(大げさ)。
 なあんて、冷静に状況判断してる場合ぢゃないっ!! 走るっ!!
「いっけない!! パスタ茹でようと思ってたんだ。俊也、あんたお昼ご飯は?」
「とっくに喰った」
 早く換気扇回さなきゃまわさなきゃって、スイッチを入れたあたしの背中に、打てば返す的に聞こえてくる、実に無愛想な俊也の返事。
 そのドライアイス(ってのは言い過ぎかも)より冷たい俊也の返事にもメゲず、台所じゅうを覆い尽くした湯気が吸い出されてくのをよーやく確認して一息、あたしは言った。
「あんた、若いんだから一食くらいどーにでもなるでしょ? 付き合いなさいよ、作ったげるから」
 あ、これって命令した、とも言うな。
 振り返ってみると、俊也がざーとらしく肩をすくめていた。
「やだ。……なんて、どーせ言わせねぇんだろ?」
「よっく分かってんじゃん」
 期待通りの返事にあたし、にんまり笑った。さっそく、一・六ミリ径のパスタを目分量で二人ぶん量って(あたしが〇・七人前で、俊也が一・三人前。俊也ってば、あの細っちい身体で結構たくさん食べるのだ)、沸き立った大鍋の中に放り込む。もちろん、一パーセント量のお塩も忘れずに。
 そして、タマゴさん型クッキングタイマーの頭をぽん。タマゴさんがカウントを刻み出す。
「……ったく強引なんだからよぉ」
 って、お鍋を菜ばしでかき混ぜてると、後ろから俊也がぶつくさ文句を言ってるのが聞こえてきた。まったく、我が弟ながら往生際が悪い。
 ここはあたし、姉としての威厳をきっちりと示すため、あえて俊也にダメ押しをした。
「(傍点付きで)何か言った?」
 あたしがこーゆう言い方をしたときに、どーゆう返事をしなければいけないかは、俊也が一番よく分かっている。はず。
「何でもっ!!」
 半ばヤケっぽく怒鳴り返す俊也。その声を耳に心地よく感じながら、たまには俊也の好きなのでも作ってやるかと、あたし、冷蔵庫からベーコンとパスタソースを取り出した。念のため、俊也にも確認する。
「ならいーけど。俊也、カルボでいーよね?」
「ああ」
 背中越しにセンチメンタル……じゃなくって、帰ってくる返事を聞きながら、あたし、ベーコンを細切りにしていった。フライパンにオリーブオイルと刻んだベーコンを放り込んで、強火でよっく油を出して、表面がかりかりの状態になるまでベーコンを炒める。ちりちり音をたてながら、ベーコンが跳ねる。それがほどよく炒まった頃合に、ちょうどタマゴさん型タイマーが割れ、ぴよぴよひよこが騒ぎだす。
 さっすが絶妙のタイミングよねって、自画自賛するあたし。あは。
 よっこらせっと大鍋を一気に流しのザルに空けて、ちゃっちゃっちゃっとお湯きりをする。フライパンにパスタを戻し入れて、ベーコンとオイルとを軽くなじませておく。後は余熱で、カルボナーラソースを全体にまんべんなく絡ませてくだけ。隠し味に、ちょっとだけピザ用のとろけるチーズを加えるとこが咲風カルボナーラのポイントかな。
 で、フライパンをあおりながら菜ばしでパスタをかき混ぜてると、背中から俊也が何か言ってきた。
「姉貴っ!!」
「何?」
 忙しいんだから、振り向きもせずに聞き返す。
「俺、大盛りな」
「おっけい!!」
 あたりまえじゃない。
 心優しきお姉さまとしては、それくらいのことは最初っから計算ずみよん。
 手早くパスタをお皿に取り分けて、仕上げに黒胡椒を粗挽きミルで振り掛ける。アクセントにちょっと窓辺に生えてたカイワレさんをあしらって、咲風カルボナーラの完成っ!!
 まったく、テーマソングが響かないのが残念なくらい。これで星ひとつとか言ったらぜったい許さないんだからね。
「おまたせっ」
 あたし、出来立てを俊也のところに持ってって一緒に食べた。もちろん、俊也には文句ひとつ言わせなかったわよ。
 あたしはあたしで、俊也がさっき読んでたマンガをネタに、俊也をからかいながら、おいしくいただけたしね。あはは。
 でま、それっくらい、猫っかわいがりに可愛がっている(ほとんどオモチャにしてる、って言うかもしんない)俊也なんだけれど……。

 

 事の発端、ってゆーか、何であたしがこんなに動揺してるかってゆー、そもそもの話の始まりは、昨晩、あたしの部屋からだった。
 十時ごろ、だったように思う。お風呂に入ってスウェットに着替えて、勉強前のちょっとした息抜き(ほんのちょっとだからね)って感じでベッドに寝っ転がって、俊也から奪ってきたマンガ雑誌を読んでたあたし。ちょうど半分くらい読み進めてたあたりで、いきなしこんこんってノックの音がした。
 あわてて雑誌を枕の下に隠して、ノートが広げっぱなしになってる勉強机の前に座ったとたん。
「咲姉、いる?」
 ドアごしに、いつものぶっきらぼうな声が聞こえてきた。
 何だ、俊か。
「入っていーわよ、俊。何か用?」
 おとーさんじゃなかった事にほっとして、ちょっとばかし突っけんどんな言い方になってたかもしんない。ま、俊也に文句を言わせるつもりはないけど。
「ったく、用があるから来てんじゃないかよ」
 小声でぶつぶつ呟きながら、俊也がドアを開けて入ってくる。ふふっ、心優しいお姉さまとしては、今のセリフくらいは聞かなかったことにしてあげましょ。
 そー言えば、中学に上がってから俊也は、めったにあたしの部屋には入って来なくなった。何か今も、部屋に入ってきたはいいけど、ぬぼっとドアの前に立って、所在なげに視線をうろちょろさせてる。落着かないのかな。
 あたしはくるっとイスを回して、俊也の方に向き直ると、言った。
「んで、何?」
 俊也はようやく、はっとしたように視線を上げて、あたしの方を見た。ちらちらと、机の上に広げてあるあたしのノートや教科書に目をやる。
「ん……あ、ああ。今、英語やってるとこ?」
 ぐーぜん机の上に出てたのは、英IIB の教科書だった。もちろん、てきとーな所を開いてあるだけで、やってた訳では全然ない。あたしはちょっとだけ苦笑すると、ノートと教科書をまとめて、机の上でとんとんってしまう準備をする。
 俊也の方を向いて、肩をすくめて言う。
「終わったことにしとく」
「んじゃ、空いてんなら英語の辞書、貸してくれよ」
 む。
 相変わらずぶっきらぼうな口調の、俊也。
 でも、こーゆー態度を取られた日には、つい、いぢめてみたくなったとしても責められるいわれはないわよねー、と、誰にともなく言い訳をする、あたし。
 あたしはニヤリと唇の端だけで笑い、俊也に言った。
「貸してください、お姉さま、じゃないの?」
「……」
 さすがに俊也も、憮然とした表情で黙っている。
 五秒待っても返事をする様子がないので、あたしは、ちょっとばかし意地の悪そーな笑みを浮かべて付け加えた。
「いーのよ。英語の勉強、終わったことにしなくても」
「……貸してください」
 ようやく絞り出すような声で、返事をする俊也。ううう、そのふてくされた表情がとってもかあいい。
 あたしはさらに悪ノリして、肝心な一言を強要する。
「お姉さま、は?」
「貸してください、お姉さまっ!!」
 半ば、ヤケっぽく絶叫する俊也。唇を尖らせ、ぷいっと向こうを向いたりして。それを見てあたし、思わずにんまりとしてしまう。
 うん、満足まんぞく。やっぱ、こーゆーのがあるから姉ってーのは中々やめられないのよねー。って、やめる気ないけどさ。
 あたしは一人、うんうんとうなずいて俊也に言った。
「そうそ、最初っから素直にそー言えばいーのよ。英和だけでいい?」
「ああ」
 ここんとこ、机のコヤシになりかけている英和中辞典を渡す。
「はい、って、でも大体、あんた自分の辞書はどーしたのよ? ったく、どーせ学校に置きっぱなしにしてるんでしょ?」
「だあって、持ち歩くの重ぇんだもん」
「ちゃあんと予習してったら、授業中に辞書引く事もないと思うけどな」
「るっさいなー。だから今からやるっつってんじゃんかよ」
 辞書を確保したせいか、俊也の言動に生意気さが戻ってきてる。まっ、こーゆー俊也も悪くないけどね。
「んじゃ、借りてっから!!」
 そして捨てぜりふ一つ残して、俊也があたしの部屋から出ていったのが昨日。で、昨日は結局、そのまま勉強しないで寝ちゃったもんだから、辞書を返してもらってなくて、今、俊也の部屋に取り戻しにきたところなんだけど……。
 そこであたし、冒頭のセリフを発してしまったとゆー訳なのだ。
 もう一度、リピート。

 

 俊也の机の上に辞書が見当たんなかったんで、多分学校に持ってったんだろうって見当をつけて、勝手に俊也のかばんを漁る。で、予想通り、教科書の間に見覚えのある背表紙があったんで、つい何気なく、隣に入ってた本も一緒に二、三冊まとめて引き抜く。
 ふと、右手に持った、辞書と一緒に引き出してきた本が目に入った。
 瞬間、あたしは思わず『げっ!!』と叫んだ。
 思わず辞書ごとその本を落っことす。落とした拍子に、見開きのグラビアが目に飛び込んでくる。
 えっ、えええっ!?
 俊也のかばんに入っていた雑誌、それっていわゆる、ウラ本とかゆー奴だったのである。

 

 数秒、だったと思う。あたし最初、訳分かんなくなって、本落としたのも気づかないまましばらく固まってたらしい。
 どっどっどっどっ。
 まず最初に意識したのは心臓の速さだった。ってゆっか、熱さとか痛さとかって方が正確かもしんない。胸の上が締め付けられるような感じで、こめかみが痛くって、脈拍なんかもう、数えきれないくらいのスピードで流れてる。目が離せない。
 紙質が悪くて、インク臭くて、ド派手な英文が踊っている写真。そこに写っている、化粧っ気の濃い金髪の女の人と、男の人。そして、見慣れてるはずのものと、見た事もないような大っきな、もの……。
 信じるとか信じないとか、とにかく、そういうものを超越した圧倒的な迫力だった。あたしだって曲がりなりにも十七年間、ふつー程度に生きてきたつもりはあるから、雑誌にだって載ってるし、女の子同士でも話はするし、もちろん本物は見た事がなくっても、知識としてそーゆーことは知っているつもりだった。
 けど、何かそーゆーものとは根本的に違う。そう思わせるだけの力が『それ』にはあった。
 思わず、二、三ページめくって見る。見てしまう。
 さらにちょーえつ的な衝撃を受けると分かっていても。
 ……ずがん。
 分かっていても、強烈だった。
 フランクフルトソーセージより何倍も大きい『それ』を、女の人が口に咥えている。ふぇ何とかっていう単語は知っていても、もちろんあたしは見るのは初めてだ。そんなもの、初めてに決まっている。
 彼女はそれを両手で握って、なお余って、先っぽだけを唇に含んでいた。舌と唇と先っぽとで、三色の赤黒さが交じり合っていて、今にも舌先が蠢きそうなリアリティすら感じられる。そして、抜けるような肌の白さ。
 同じページにある別の写真では、彼女はあそこを人ではない、別の『物』で貫かれていた。とても自分のものと同じとは思えないほど複雑な形状をしたそこは、物によっていっぱいに広げられ、それでもなお貪欲にその物を咥え込もうとしているかに見えた。
 こんなことが現実に起こってることだなんて、とても信じられなかった。それでもあたし、写真から目が離せなかった。いつのまにか四つんばいになって、食い入るようにそれを見つめていた。唇が乾いている。舌先が踊る。頭と視線が麻痺してるのを半ば自覚しながら、震える手で次のページをめくる……。
 その時。
「咲ーっ、ご飯よおっ」
「……ッ!!」
 叫び出さなかったのは、奇跡かもしれない。それでもあたし、十分にパニくっていた。
 慌てて俊也のかばんを閉じて、辞書と一緒にその本をつかんで俊也の部屋を出る。急いで自分の部屋に戻って、辞書とその本を枕の下に押しこむ。そこに。
「咲ーっ!?」
 追い討ちを掛けるようなおかーさんの声!!
「いっ、今いくーっ!!」
 声、裏返ってたかもしんない。

 

 台所に下りてったあたしを待っていた、今日の晩ご飯のおかずは、マカロニグラタンとミモザサラダ、それになめこのおみそ汁だった。こんな時に限って、よりにもよってあたしの大好物ばっかりだ。
 なのに。
 つんつくつん。
 ちっとも食欲がわかなくて、フォークの先っぽでグラタンを突っついているだけの、あたし。
 もちろん、原因なんて言うまでもない。俊也のかばんの中に入ってた、『あの』雑誌のせいだ(って、言ってるけどさ)。しょーげき的って言うには、あまりにも衝撃的すぎた『あの』写真。何だかまだ、頭の端がぼおっとしびれてるような気がしてる。
 と。
 さっきから全然箸を付けてないあたしのグラタンを狙って、いきなり俊也が横からフォークを伸ばしてきた。
「どーしたんだよ、姉貴。食わねえんなら取っちまうぞ?」
 びくっ。
「うううるさいわねっ!! 食べるに決まってんで……つっ!!」
 俊也の言葉に過敏に反応して、慌ててグラタン皿を抱え込もうとするあたし。グラタン皿の端で、指をちょっと焼いてしまう。
「ったく、何やってんだか」
 あたしのやったどぢを見て、呆れて肩をすくめる俊也。ったく、誰のせいだと思ってんのよぅ。すん。
 あたし、べそをかきながら指をくわえて、上目づかいに俊也を見た。いつもどおり、細っこい身体のくせに、どこに入るのかバリバリとご飯を流し込んでいる。特に、いつもと変わってるようには見えない。昨日も、一昨日も、それより前からずっと変わらなく見えるのに……。
 何て、俊也を見ながら物思いにふけってると。
「何ジロジロ見てんだよ?」
 俊也があたしの視線に気づいて、いきなり顔をこっちに向けた。
 俊也と目が合うっ!! そう思ったその瞬間。
 ぷいっ。
 あたし思わず、あからさまに不自然に俊也から目をそらしてしまった。
 どきどきどき。頬が火照ってるのが分かる。髪の毛にちくちく刺さってる、俊也の不審の視線が痛い。きっと、俊也に変だって思われてる。
 そうやってじっとうつむいてると、俊也、急に優しい口調に変わって。
「ホントにどーしたんだよ、姉貴。顔、赤いぜ? 熱でもあるんじゃねーのか?」
 いきなり、おでこに手を当ててきた。びくっとあたし、思わず身をすくませる。
 火照ったおでこに感じる、俊也の大きくて冷たい手。反射的に払いのけてしまう。
 そんなつもりはないのに、つい邪険に払いのけてしまったことに、ちくりと胸に痛みを感じてしまう、あたし。
「なっなっ何すんのよ……」
 頬にかあっと血が上るのを物理的に感じながらあたし、俊也に力無く文句を言った。
 心臓の鼓動が本気で痛い。まともに俊也の顔が見られない。
「やっぱ熱いぜ、姉貴。寝てた方がいーんじゃねーの?」
 手を払われたことなど気にも留めていないのか、やけに落ちついた口調で俊也が言う。
 そして、にやりと頬をゆがめて言った。
「姉貴の分なら、俺が責任持って喰っといてやるからよ」
「うん……」
 あたし、もはや何か文句を言い返す気力もなく、ただつんつんとグラタンをフォークで突っつくだけだった。とっくに、食欲などはどっかに失せている。
 今、身体にあるのは心臓の痛み。そして、他の誰に分からなくても、自分には嘘を付けない……分かってしまう、身体の奥にじくん、と疼き。
 そして。
「そっしよっかな……」
 普段のあたしからは想像もつかないセリフを吐く。
 お箸を置いてあたし、一人テーブルを立った。
「ごちそうさま。俊、これ食べていいよ」
「マジかよ!? へへっ、もーらいっ!!」
 思いがけないあたしの行動に、気が変わらないうちにと、急いで俊也があたしのグラタン皿を引き寄せた。そして、子供みたいな笑顔で、嬉しそうにあたしの分をぱくつく。
 ほんと、こーゆーときの俊也ったら、ホント子供にしか見えないってのに。
 なのに。
 なのに、あーゆー本、見てるんだ……。
「ちょっと、咲。あんたほんとに大丈夫なの?」
 ぼおっと突っ立ってるあたしに、おかーさんが心配そうに声を掛ける。
「うん、大した事ないから寝てたら落ち着くと思う……」
「そおぉ……?」
 それでも心配そうなおかーさん。
 このとき、あたしとおかーさんのやり取りを見てた俊也が、ははぁんと何かに気づいたよーな顔をした。
「なぁるほろ、そーゆー事情だった訳ねん」
 口にフォークを咥えながら、訳知り顔でうんうんとうなずく俊也。
 ばか。
 余計なこと言って、案の定おかーさんにひじで小突かれてる。ま、自業自得だけど。
 おかーさん、ごめんなさい。
 ほんとはアレぢゃないんだけど、訂正するのもメンドくさいし、それにどー言って説明すればいいかも分からなかったんで、そーゆー事にしてもらって、あたし、下半身に重いものを引きずりながら、自分の部屋へと向かった。

 

 ようやくの思いで部屋に辿り着いた(大げさだけどそんな感じ)あたしは、後ろ手にドアを閉めると、重力にそのまま身をゆだねるかのように、ぱたんとベッドの上へと倒れ込んでいった。
 しばらく、そのまま布団に顔をうずめる。心臓の鼓動が収まるのを待つ。
 とくんとくん。
 布団越しに、心臓の音があたしの耳に届いてくる。しばらく目をつむってその音だけを聞いていると、何か、子供の頃にでも戻ったような気がしてくる。そして、ようやく一定のリズムになってきたそれは、でも確実にいつもよりアップテンポに時を刻んでいた。
 あたし、べたっと布団にへばり付いたまま、顔だけを上げた。
 目の前にはいつもの、ピンクのチェック柄の枕。下手なクッション並の大きさで、小学校の時から使っている、ふかふかのお気に入りの奴だ。その大きさが幸いして、今まで、多くの見られたら困るものをその下に隠してきている。
 少しだけ、思考が冷静になってくる。
 そう、さっき、急におかーさんに呼ばれて慌てて、持ってきちゃったあの本、ついいつもの癖でこの下に隠しちゃったんだ……。
 あの本。
 『あの』本。
 俊也が持っていた、『あの』本。
 また少しだけ、動悸が早くなるのを感じる。
 さっき俊也の部屋で見た映像が、生々しく脳裏に甦ってくる。
 金髪の女の人の裸と、男の人の裸。そして、二人が繋がっている、ところ。
 正直言ってあたし、この歳まで生きてきて、そーゆーシーンを見たのはこれが初めてだった。ましてや、ノーカットだなんて。
 友達の間で、女の子だけ集めてえっちビデオの鑑賞会でもやろうかなんて話も、前に冗談で出たことがあったんだけど、そのときも誰がビデオを借りてくるかって問題があって、結局お流れになっちゃったし、雑誌のハウツー記事とかレディコミとかは、肝心なところがぼやかしてあったりする。実のところ、あんましこーゆーのを見る機会って、なかなかなかったりするのだった。
 そして今、目の前(の枕の下)に、またとない『資料』があったりする。
 えと。
 別に誰に言い訳するわけじゃないけど、この場合、好奇心が罪悪感に打ち勝つのって、時間の問題だったような気がする……。

 

 すぽっ。
 いつのまにかあたし、枕の下からその本を引き抜いていた。
 改めて、しげしげとその雑誌を眺める。
 表紙には派手な書体で、何とか(知らない単語)ガールズってでかでかと書いてある。号数らしきものが書いてないんで、月刊誌なのか週刊誌なのかよく分からない。
 値段はというと、多分この数字だと思うんだけど、これで十九ドル九十五セントもするらしい。ざっと日本円に直しても二千円以上。あたしはこーゆーのの相場ってよく分からないけど、日本の雑誌とかと比べてみてもちょっとばかし高いよーな気がする。でも、こんな値段でも買う人がいるって事は、世の中って結構スケベな男性が多いのかもしれない。
 まったく、俊也ってばいったいどこからどーやってこんなものを手に入れてきたんだろーか。多分、海外旅行に行ってきた友達からでも、お土産にってことで貰ったんだろうけど、何もそんなの、素直に受け取ることないじゃあない。
 何て、勝手に俊也にぶりぶりと文句を言いながら、表紙のグラビアを見た。
 そのグラビアを飾っていたのは、木製の椅子に座って大股開きをしている、すっごく胸の大きい女の人だった。薄い色をした金髪がカールしてて、ちょっとだけマリリン・モンローに似てる気がしないでもない。真っ赤に彩られた唇に指を咥えて、何かをねだるような、物欲しそうな顔をしている。確かに、女のあたしから見ても何とも悩ましげな表情だった。その女の人の周りには、とげとげの原色のフキダシがいくつも爆発していて、その中では『Oh!!』とか『Umm..』とかの派手な擬音語(?)が腰をそろえて踊っている。
 そして。
 女の人の股間を隠すかのように、あそこに顔をうずめている男の、人。
 こっちは何となく、馬鹿っぽい感じがレオナルド・デュカプリオに似てなくもない。
 表紙だからなのだろうか、この写真では男の人も顔をこっちに向けてるけど、あれってやっぱり、その、あそこ、舐めてるシーンなんじゃないかって、思う。確か、クンニ……リングスとかゆーんだっけ? あたしには、男の人の舌であそこを舐められる感触ってどーゆーものなのかよく分からないけれど、きっと、指より柔らかくって、指よりぬめぬめっとしたものが、ゆっくりとあそこの上を這い回っている……そんな感じなんじゃないかって、想像してしまう。
 中の方のグラビアには、本当に舐めてるシーンもあるんだろうか。
 その時、この女の人はいったいどんな表情をしてるんだろうか。
 ……やっぱり指より、気持ちいいんだろうか。
 あたし、腰に何か少しむず痒いものを感じながら、ページをめくった。
 期待(?)に反して、最初の数ページは特に何というほどのこともない(とは言っても、女の人の裸は出てるんだけど)広告のページだった。多分、日本で言うダイヤルQ2とかにあたるものなんだろうけど、何かやたらと電話番号が並べてあって『Call me!!』とか『Free!!』とか書いてある。
 こーゆーツーショットとか、その、テレホンえっちとかって、日本でも女の子向けの雑誌とかに電話番号が載ってたりしてるけど、あたしは何となく怖くって掛けてみた事がない。友達の中には、どーせタダだし、変な人が出たらバーカとか言って切っちゃうわよ、なんてゆーツワ者もいるけど、それでも実際にどんな人が電話に出るか分からないし、とてもじゃないけど、そんな知らない人とえっちな話をする気になんてあたしはなれない。
 まさか、俊也はそんなのしてないよね?
 俊也の部屋には、コードレスの子機って置いてないし(あたしは自分用に確保してる)、こーゆーのの男の側って、けっこう高い料金設定になってるって聞いてる。さすがに電話料金を払ってるのはおかーさんだから、もし俊也がそーゆーところに掛けてたりしたら気づかない訳はないと思うんだけど。
 思うんだけれど。
 そんな事はないって思いたくても、何か、俊也の部屋でこの本を見つけてからあたし、俊也のことが信じられなくなってきてる。裏切られた、とまでは言わないけれど、俊也のことが分からなくなってきてる。だって、こーゆー本を見ながら男の人がする事っていったら、アレしかないじゃない。一つしかないんでしょ?
 俊也も、してるの?
 自分で?
 あたし思わず、俊也がそれをしてるところを想像しようとした。けど、どうしても頭の中に全然イメージが湧いてこない。あの俊也がそんな事してるなんて想像できない。ひょっとしたら、無意識のうちに頭が考えるのを拒否してるのかもしれないけど。
 だって、俊也だよ!? 俊也がそんな事するなんて、考えられないよ。
 大体、どうやってするんだろう。擦る、って話は聞いたことあるけど。
 最後に俊也『の』を見たのはいつだっただろうか、多分、三、四年ほど前に一緒にお風呂に入った時が最後じゃなかったかって思うんだけど、あの時の俊也のって、親指くらいの柔らかいぷにぷにが、ちょこんとあそこに付いてただけ、そんなだった気がする。あの時の印象だと、単純に可愛いっていうか、変なのって感じで見てたんだけど。
 あれを、指先でなぞってったら、だんだん固く大きくなっていくんだろうか。
 それとも。
 グラビアのページをめくった。
 この写真の人みたいに、最初っから、こんな大きなのになってるんだろうか。
 ちょうど今開いているグラビアでは、表紙の人とは違うオジサンっぽい人が、女の人の前で素っ裸になって、自分の腰に手を当てていた。女の人はひざまずいていて、ちょうど顔の前に男の人のアレがある格好になっている。それはまだ、何かだらんって感じでぶら下がっていて、それでいてそれって、あたしの記憶にあるものとは全然似ても似つかない形をしていた。
 俊也のって確か、継ぎ目も何もない柔らかそうなお肉の固まりだったような気がするけど、この人のって何か、まさしく『♂』のシンボルマークみたく、先っぽの何センチかが矢印みたいにくびれている。色もそこだけ赤黒くって、普通の皮膚じゃない、生肉って感じの表面をしている。
 そして、一番記憶と違うのがその大きさ。男の人のそれって、興奮すると固い棒みたいに大きくなって、ピンって上向きに、えーと、つまり『ボッキ』するって聞いてるけど、この人のはまだ力なさそうに垂れ下がってるくせに、すでに極太のマジックくらいの大きさを保っている。別の例え方をするなら、バナナ、ってゆーよりは一回り小さ目くらいの大きさだろうか。これって、この人が大人だから? それとも外人だから?
 それとも、俊也のもあんなのになってるんだろうか。
 あんなのを、擦ってるんだろうか。
 あたし、グラビアの次のページを見た。
 そこには、連続写真風に、今のオジサンっぽい人のモノがだんだんと固く尖っていく様子が写し出されていた。それも女の人の口で。
 最初の写真では、女の人はまだ垂れ下がっているそれを手で包み込んで、先っぽの生々しく色づいたところを尖らせた舌先で突ついていた。男の人の先端にも、何か小さな割れ目みたいなところがあって、舌先はそこに沿うような感じで這わされている。女の人は目をつむりながら舐めているけど、けっして嫌そうな表情は浮かべていない。
 二枚目ではもう、男の人のは角度的には水平より上を向いていた。女の人も、棒を指先でつまむように持ち替えて、挑発的な視線をこっちの方に向けながら先っぽだけを口に咥えている。先っぽの赤黒い部分が唾液でてらてらと光ってるのが、いやでも目につく。表面の張りも増してる感じだ。
 そして三枚目に至っては、男の人のは完全に固く屹立していた。棒の表面には青黒い筋が何本も浮かんでいて、大きさもよく分からないけれど、さっきの一・五倍増しくらいにはなってるような気がする。そして女の人は、固くなった棒の裏側を、今にもつつつって擬音が聞こそうな感じで、下から上へと舐め上げていた。男の人の表情は見えてないけど、こんな風になってるって事は、きっとすごく気持ちいいんじゃないかって思う。
 だとしたら、舐めてる方はいったいどんな感じなんだろう。男の人のそれを舐めるって、どんな感じなんだろうか。
 気持ち、いいのかな。
 あたし、ぼうっとしびれた頭で自分の右手を見つめた。何か、中指だけだと全然太さが足りないような気がする。二本でも、中指と人差し指だと厚みが少し足りない感じ。さらに親指を添えてみる。
 あたし、その三本の指を重ねて、写真のと大きさと比べてみたりした。
 そして。
 目を閉じてあたし、ゆっくりと三本の指を口の中へと含んでいった。

 

 まず口の中に広がったのは、もわっとした体温と塩気の香りだった。異物が口の中に挿入される感覚に、喉の奥がちょっと開いたような気がする。
 あたし、舌先で指先の間の割れ目をちろちろと舐めてみた。弾力のある、ちょっと金臭い感覚が舌先に広がる。舐められてる指先もちょっとくすぐったい。実際に本物を舐めてる時も、こんな感じなんだろうか。
 本物の事を考えたとたん、身体が一回、ぴくんと跳ねた。
 しばらくそうやって指先を舐めた後、指全体を唇でしごくようにして口の中へと含んだ。口の中全体が何か圧迫されるような感じで、生暖かい固まりが喉の奥まで入っていく。えずくような感じはあんまりないが、それでもちょっぴり舌の奥がキツい。
 そのまま、何度か指の出し入れを繰り返してみる。何度かそれを繰り返しているうち、口を単純に開けっぱなしにしているだけよりも、入ってくる指に合わせて舌を全体に絡ませた方が、喉の奥が楽になることに気がついた。口内に押し入ってくる指をねぶるように、舌全体を蠢かしていく。唾液が指にまとわりついて、ぬるぬるとぬめりがよくなって気持ちがいい。自分でしていてこんなんだから、やっぱり男の人も気持ちいいのかなって、そう思ってしまう。あたしも、だんだんと息が荒くなっていくのを感じる。
 無意識の内に、空いている左手が胸の先に触れる。
 瞬間、びくっと背筋に電流が走る。
 やだ、乳首、固くなってる。四角くなってるのが服の上からでも分かってしまうくらいに。先っぽが、尖っている。
 思わず指先で左の乳首をつまんでいた。もう一度、身体が跳ねる。
 痺れがくるほど、気持ちよかった。
 今まで何度も自分でしたことあるけど、それとは比べものにならないほどの感覚が身体中を駆け巡っていった。まるで、左の乳首を中心に、頭のてっぺんから足の小指の先っぽまで、身体中の神経が透けて見えるような感じ。身体中の神経がびんびん鳴っている。
 あたし、指先でそのまま乳首を転がしながら、唾液にまみれた右手で雑誌のページをめくっていった。
 次のページでは、見開きのグラビアで、重なり合った男女の姿が写し出されていた。男の人が下で、女の人が上で、女の人が逆になってて、互いに相手の人のを舐めあっている。ちょうど女の人のお尻がこっちを向いてるアングルになっていて、お尻の下では男の人が両手であそこを広げて見せている。赤くてくしゃくしゃにたくまったヒダヒダが、はっきりと写っている。そしてそこに、男の人が懸命に舌先を伸ばしている。
 あ、クンニリングス、されてる。
 それを見た瞬間、あたし、頭の後ろで何かが弾けたような気がした。
 気がつくとあたし、身体を丸めて右手をあそこに伸ばしていた。上半身を支えていた腕がなくなって、顔が布団の上に落ちてしまっている。目はもうとっくに閉じられていて、視界は空想の世界へと翔んでいっちゃっている。
 あたしの身体が、誰かに抱きしめられている。
 誰かの指で、あたしの身体が気持ちよくなっている。
 あそこを這ってる指、すっごく気持ちいい……。
 最初指は、スウェットの上からあそこを撫でていたんだけど、すぐに我慢できなくなってあたし、ズボンの中へと指先を侵入させていった。手のひら全体がもわっとした湿気で包まれる。指先があったかい。まだ表面まで滲み通ってきてはいないけれど、下着がじっとりと湿ってきてるのが分かる。
 あたし、いつもしてるみたいに、下着の上から中指の爪先で、一番敏感なところを少し、掻いた。ひくん、って体が揺れる。さっきよりも確実に大きな痺れが、腰から背骨にかけてダイレクトに広がっていく。
 やっぱり、いつもより気持ちがいい。そのまま二本の指で押し付けるようにぐにぐにとこね回す。それにリズムに合わせるかのように、腰が勝手に円運動を始め出す。
 服が邪魔に感じるまで、そんなに時間はかからなかった。
 腰を動かしながらあたし、ズボンを膝までずり下げていった。上の方もいつの間にか、胸の上くらいまでたくし上げられている。制服から着替えた時にブラは外してたんで、左手はとっくに生の胸をいじり出している。手のひらが汗ばんだ胸にしっとりと吸い付いていて、二本の指がその先端を摘み上げている。指紋のざらざらまで、粟立った胸の先が感じているのが分かる。あそこをこねている指先も、もうそろそろ下着のフィルタがいらなくなってきてる頃合だ。
 あたし、指先をずらせて下着の脇から中の方へと侵入させてみた。
 まず最初に感じたのは、あそこの毛のざらざら感と、熱く火照った生肉の感触だった。ゆっくりと、撫でまわしてみる。あそこの回りのお肉がぽってりと充血しているのが、指先からでも感じられる。ここですでにこんな風になってるだなんて、いったい中の方はどうなってるか、想像もつかない。
 ……うそ。中がどうなってるかなんて、自分の事だもの、自分の身体が一番よく知ってる。ただ、実際に触ってみるまでそれを認めたくない、だけ。
 あたし、さらに指先を進めていった。剥き出しのびらびらが指先に触れる。それを思いっきりこね回したいのを我慢しながら、あたし、指先を割れ目の中へと沈み込ませていった。
 とぷん、って幻聴が聞こえた。
 指先を一センチも沈めてないのに、そこはとろとろなんて言葉じゃ表しきれないほど、ぐちゃぐちゃにぬかるんでいた。ぬめぬめっとした粘液が指先を包み込んで、まるでそこだけ温泉にでも入ってるかのように温かかった。
 ほんの少し、指で割れ目を掻き分けてみる。
 たったそれだけの事で、息が止まるほどの快感が身体中に駆け巡っていった。
 あたし、下着を下ろすのももどかしく、そのまま指を走らせていた。
 人差し指と薬指でちょっとだけ割れ目を広げて、中指でその間を掻いていく。いつもしてる事なのに、いつもとは別次元の快感が次々とあそこから湧き出してくる。ぬるぬるの指先があそこのお肉を擦るたびに、絶え間ない感覚が脳髄まで響いてくる。
 あたし、ちらっとグラビアを見た。
 男の人が舐めてる写真。男の人に舐められてるって、こんな感じなの? だからこんなに気持ちがいいの!?
 目をつむって、誰かに舐められてるところを想像してみる。きれいな細い指をした手が、荒々しくあたしの股を開いている。あそこに顔を近づけて、一心不乱に舐め上げている。下から上に、割れ目に沿って、ぬめぬめとした舌が何度も何度も今みたいに這い回っている。そのたびに、神経をそのまま擦られるような快感が、あそこに直接じんじんと響いてくる。
 お願い、そこだけじゃなくって、上の方も、クリちゃんも、舐めて。
 あたし、彼がクリトリスを舐めやすいように、パンティも膝まで下ろした。
 途端、舌先がクリトリスを捉える。舌先で掘り起こされたそれは、見なくても分かるほどきれいに剥けていて、そして固く尖っていた。いつもだったら直接だと痛いくらいなのに、今は痛みを通り越して、強烈な衝撃だけがそこから生み出されていた。だって、舐められてるんだもの、彼に。
 一瞬だけ、脳裏に彼のイメージが通りすぎていった。よく知っている人だったかもしれないし、そうじゃない人だったかもしれない。でも、誰でもとにかく今は気持ちいい……。
 そのうち彼は、あそこを舐めてるだけじゃ飽き足らなくなってきて、あそこを押し広げるかのように、舌先を奥の方まで差し込んできた。ぐぐっとお肉が押し分けられる。でも今のあたしの身体だと、そんな強い感覚さえも、たちまち快感へと転換されてしまう。
 舌先が、一、二センチの深さで、すばやく出し入れされている。そのたびに入り口のヒダヒダが引っかかって、くねくねと一緒に出たり入ったりしている。その感覚が、身がよじれるほど気持ちいい。これってやっぱり、アレの時も同じ感じなんだろうか。
 したいの?
 そう思った瞬間、まるであたしの声が聞こえたかのように、彼の出し入れの速度が速くなった。腰が跳ねあがる。容赦のない快感があそこから湧きあがってくる。そんなに激しくされると、あたしまでもう我慢できなくなってしまう。
 あたし、空いている手ですばやくグラビアのページをめくった。頭の中で求めているページを探す。この手の雑誌に載っていないはずがない写真。
 ……あった。
 見つけた写真、ちょうどそこに写っていたのは、表紙の彼と彼女だった。彼女は俯伏せになって、これ以上はないほどの喜悦の表情を浮かべていた。そして、それは彼も同様だった。何かに必死に耐えるような顔をしながら、両手で彼女の腰を支えている。
 彼と彼女は一つになっていた。
 彼女は、彼に後ろから貫かれていた。
 それを認めた瞬間、あたしのあそこの内部に、ぞわりとした異物感にも似た期待が走り抜けていった。すかさず、四つん這いの格好へと移行する。片手だけだと身体を支えるのが辛いんで、顔を布団に落として頭と肩とで体重を支える。膝をついてお尻を高く突き上げて、手が届きやすいように少し両足を広げる。ズボンとパンティは邪魔なんで、片足だけ抜いてしまう。
 彼女と、同じ格好になる。
 さっそく彼が、あそこへと手を伸ばしてきた。さっきまでの感覚を思い出すかのように最初はゆっくりと、でもすぐに速度を取り戻してあそこをいじり始める。身体が再び色づきだす。けど、粘液は乾く間もなくあそこにへばりついていて、すぐにねちゃねちゃと粘り気のある音を響かせてくる。むしろ、さっきより少し粘度が増したような感じだ。
 彼はその、ゼリー状の粘液をたっぷりと指先にまとわりつかせると、入れる前に再度、あたしのクリトリスを攻め立てにきた。ぷっくりと肥大したそれは、触られるかもしれないって思っただけでひくひくと喜びに震えていて、そして実際に触られると期待以上のものすごい感度で反応した。
 実のところ、さっきからまだ入れられてないのにもう何度もいっちゃってる。
 いつもだったら一回いったら、しばらくの間、誰にも触ってほしくないような気だるい感じになってしまうのに、今日はいくらいってもまだ先があるような感じがしてる。
 今も軽くいった。
 今のあたし、すっごく貪欲になってる。欲しくなってる。入れられたがってる。入れて欲しい。
 したいの。
 それを感じてか、彼の指がクリトリスから離れた。そしてすぐに、さっきの指よりも太いものが、あそこの入り口へと押し当てられた。
 入ってくる。そう思っただけで、あたしまたもう一回、いきそうになった。
 でも、彼は入れてくれなかった。
 さっきみたいに、先っぽでくちゅくちゅってしてきてるけど、入り口まででその動きは止まってしまっている。じんわりとした熱さがあそこからまわりに広がってきてるけど、彼のものはそれ以上入ってこようとはしてくれない。
 焦らしてるの?
 それとも……怖いの?
 ずくんと一つ、心臓が痛んだ。
 確かに今まで、あたしは中指だけしか最後まで入れたことがない。それより太いものが入ってくるのって、確かに怖い。自分がどうなっちゃうのか分からない恐怖感がある。
 でも、身体は欲しがってる。指じゃない、彼のものを。
 彼の? 誰の?
 びくん、って、突発的に脳裏にイメージが浮かびあがった。
 表紙の彼じゃない。誰? よく知ってる顔。あたしの。
 俊。
 その瞬間、あたし、腰の方から指を迎えにいっていた。ぬむむむって擬音とともに、熱い塊があたしの中に入っていく。灼けるような感覚があたしの身体を貫いていく。先端が中のヒダを捕らえるたびに、耐え難い快楽の波が怒涛のように押し寄せてくる。奥まで、入ってきてる。
 身体中の空気を全部吐き出してもまだ足りなかった。酸素を求めて喉が喘ぐ。きゅきゅってあそこが締まって、中の指がちぎれるくらいに締め付けられる。
 あたし、もう訳が分かんなかった。すごい勢いで二本の指を出し入れしてる。親指がクリトリスに当たっては軽くいって、中指の腹が奥の壁を擦ってはまた次にいった。どれで本当にいってるのか分かんないくらい。限りない快感の渦に呑み込まれちゃってる。
 怖がってた痛みはほとんどなかった。ほんとは痛いのかもしれないけど、今はそれを含めてすっごく中が気持ちいい。とろけて、じんじんしてる。
 セックス、してるんだ。よく分かんないけど、してる。四つん這いになって、後ろから突き上げられてる。彼のものが、あたしの中を掻き回している。後ろからだから顔は見えないけれど、彼の存在はあそこがものすごく感じている。
 そう、誰に抱かれてるかは、あたしが一番よく知っている。
 あたしが一番よく知っている、人。
 考えちゃいけないなんて事も考えちゃいけないなんて考えちゃいけない。もわもわっとした感覚じゃない、確かな存在感があたしを後ろから犯している。
 入っている。
 あたしが望むとおりにあそこを突き回している。彼の一挙一動が快感へと変わっていく。彼がする事も彼の動きも全部すごく気持ちがいい。彼だから。彼がしてくれるから。
 彼が親指と薬指であたしのクリトリスをひねった。
 ひぐっ!!
 最後の快楽の大波が、甘やかな背徳感と共に背筋を這い上がっていった。
 俊也……俊、俊が中に、一緒に、いく、いっちゃううっ!!
 俊也のいろんな表情が、走馬灯のように頭の中を駆け巡っていった。全身におこりみたいな震えがきて、身体中で俊也を感じていた。あそこが俊也で満たされていた。
 あたしは俊也と、達した。

 

 ひくっ……ひくんっ。
 最初に意識に上ってきたのは、不規則な身体の痙攣だった。いっちゃってから、それほど時間は経っていないみたいだ。あたし、自分で自分を抱きしめながら、子猫みたいに丸くうずくまっていた。もちろん、あそこには指が入ったままだ。
 身体中が、綿菓子みたいな幸福感に包まれていた。ちょっとでも触れると、ふわふわって溶けてしまいそうな甘い脱力感。うぶ毛の一本いっぽんが、幸せな空気でいっぱいに膨らんでいた。
 すごく、気持ちよかった。
 今までに感じたことのない感覚だった。今までのって、眠れない夜なんかについ手が伸びちゃって、そのままずるずるとって感じのが多かったんだけど、あたし、好きな人の事を思いながらする一人えっちが、こんなに気持ちいいものだとは知らなかった。まだあそこがじんじんしている。
 身体中が抱きしめられてるような感覚っていうか、抱かれてるって感じがすごくしてた。ほんとに、好きな人とセックスしてるような、そんな気持ちだった。
 ほんとに、好きな人と……。
 好きな……人?
 ぼんやりと痺れた頭に、さっき思い浮かべた顔がもう一度浮かんできた。
 画像にピントが合うまで、ほんの少しだけ、時間がかかった。
 ピントが合った瞬間、思考が一気にクリアになった。
 えっ、えええっ!?
 頭から急激に血の気が引いていって、それがまたすぐ戻ってくるのを、あたし、人事みたいに冷静に捕らえていた。単純に、感受神経が麻痺してただけなのかもしれないけど。
 ほっぺたが、信じらんないほど熱かった。ぽっぽっぽって、まるでハトぽっぽみたいに火照っている。ひょっとしたらあたしの顔も、ハトが豆でっぽ喰らったよーな顔をしてるかもしんない。
 信じられないってゆーんじゃなくって、しちゃったのは事実だし、でも脳裏に浮かんじゃっただけってゆーか、でもでも浮かんじゃったって事はどーゆーことかってゆーと、俊也の事が好きってゆーか、もちろん嫌いな訳ないけど、かといって好きって、でもでも俊也だよ!? 弟だし、そーだよ可愛いおとうと、ほおずりずり、じゃなくってそんな風に考えたことなくって、まだガキだし、けっこう大きな背中してるし、あったかくって、じゃあなくって、だから弟でおもちゃで猫っ可愛がりでとにかく俊也なんだってばっ!!
 あああ思考がぐちゃぐちゃってるうぅ!!
 とにかく思考停止っ!! 考えちゃダメな事は考えちゃダメっ!! あーあーあー、私は何も知らないし何も見てないし何も考えない。終わり終わりおわりっ!!
 とりあえず、そーやって知らない事(何の事? 知らないしらない)を棚に上げてから、あたし、改めて現状を再認識してみた。で、冷静になって観察してみると、あたし、今すっごく恥ずかしいかっこをしてるのに気がついた。
 慌ててあたし、ティッシュを二、三枚引っこ抜くと、一人えっちの後始末をした。右手とあそこにこびり付いてる白いゼリー状のを丁寧にふき取る。いつもはこんなにもなんないんだけど、今日のはなぜか特にすごかった。
 ティッシュは指とあそこを拭くだけじゃ全然足りなくって、お尻も太もももすっごく汗をかいていた。シーツのお尻のところがちょっと濡れて滲みになってるけど、乾いたら分かんないと思うんで、そのままにしとく。そうやって身体を一通り拭き終わってからあたし、ようやく身支度を整え終えた。
 で、ちらり、と『それ』を見た。
 別に今まで、故意に無視してきた訳じゃないんだけど、心と身体が落ちついてから改めてそれを見てみると、何となく気恥ずかしさの方が先に立った。ちょうど今、最後の『して』るシーンのとこが見開かれている。
 あたし、本を手に取ると、ぱらぱらとページをめくりながら、何か汚してないかとか、変な折り癖が付いてないかとかを入念にチェックした。チェック中にも、色々と興味深い写真が目に入ったりしたけど、いちおー今度はあんまししげしげとは眺めないようにした。
 うん、ちょっとページめくるところがふやけてるよーな気がしないでもないけど、俊也が気が付かなけりゃ大丈夫だいじょーぶ(って、何でもそーか)。きっと分かんないって。分かんない事に、しよう。
 後は、これをどーやって元に返しとくかだけど、俊也、もう部屋にいるのかしら? まだかばん、開けてないよね? 返しに行く前に気づかれたらヤバいけど、ま、そん時は姉としての権限で、思いっきしすっとぼけよっと。あはは。
 何て考えてると。
 がちゃ。
 タイミング良く(悪く?)、隣の部屋のドアが空く音が聞こえた。
 俊也だ。
 あたし、慌てて耳を澄ませた。とんとんとんって小気味良い音を響かせて、階段を降りていく様子が伺いしれる。俊也、あたしの知らない間に自分の部屋に上がってきてて、今また下に降りていったに違いない。おトイレか、それともこの時間だったらお風呂かも?
 あたし、そうっとドアを開けると、俊也の部屋の様子を伺ってみた。ラッキーな事にちょうどドアが半開きになっていて、そこから見える室内は薄暗く、電気が消されていた。ってー事は、多分お風呂だ。
 念のためあたし、抜き足差し足で階段のところまで忍び寄って、階下のお風呂の方を覗いてみた。洗面所には電気が付いていて、誰かお風呂に入ってる様子。おとーさんはまだ帰ってきてないはずだし、おかーさんはまだ晩ご飯のお片付けしてるはず。やっぱりお風呂に入ってるのは俊也に間違いない。
 ちゃーんす。
 あたしはにやりと一つ、悪い笑みを浮かべると、完璧に作戦を実行に移した。

 

 こんこん。
 あれから小一時間くらい、ぼんやりと机の前に座って、英語の教科書を見るでもなく眺めてたりしたら、いきなりノックの音が聞こえた。
 どきり、と一つ、心臓が跳ね上がる。
 あたし、努めて平静な声で言った(つもり)。
「なな何ぃ?」
 すぐには、返事は返ってこなかった。瞬く間に、痛いくらいの沈黙が部屋の中に張り詰めてきて、ぴしぴしと音を立て始めるのが分かった。空気がガラスみたいになってきてる。
 心臓に悪い事、この上ない。
 そしてようやく、ピンの上を天使が一周するくらいの時間が経ってから、ドアの向こうから返事が聞こえてきた。
「……咲姉、いる?」
 来た。やっぱり俊也だ。心なしか、いつもより声が小さいような気がする。
 あたし、どきどき感を必死で押さえ込みながら、俊也に言った。
「いるわよ、俊。入っていいわよ」
 がちゃり。
 一瞬の間を置いてドアが開いて、俊也が部屋に入ってきた。お風呂から上がったばかりなのか、俊也はもうパジャマに着替えていて、首にかけたタオルで濡れた頭を拭いていた。ほこほこって赤く上気した頬と、艶やかに濡れた黒髪が、なぜか妙に色っぽい。
 あたし、しばらくの間、そーやってぼーっと俊也に見とれていた。俊也も何か用があって来たんだろうけれども、何も言わないばかりか、視線すら合わせようとはしない。右斜め下を向いて、黙って髪の毛を拭いている。
 最初に沈黙に耐えられなくなったのは、あたしの方だった。
「んで、何?」
 あたしの声にはっと打たれたかのように、俊也が顔を上げた。一瞬だけ視線が交錯したような気がしたけど、即座に俊也の方から目線をそらした。
 これって、あからさまに避けられてる!? 思い当たる節がないはずはないとゆーか、あからさまにありまくるんだけれど、それでも気のせいだと思いたい。
 そしてまたしばらく、沈黙が続いた。
 とはいえ、正確には俊也もじっと口をつぐんでいたという訳ではなかった。ぴくぴくと小刻みに唇が蠢いて、今にも言葉が飛び出てきそうな感じが何度となくあった。何か言いたい事があるのを我慢してるってゆーか、何て言えばいいか分からないってゆーか。
 俊也の唇が開くたびにあたし、身を切られるような思いと、いっそ楽になりたいって思いが交互に身体を突き動かしていた。
 そして数瞬後、ついに沈黙が破れた。
「……咲姉」
 来たっ!!
「い、今、英語、してるとこ?」
「えっ……ええっ?」
 予想外のセリフに、あたし、一瞬、俊也が何を言ったのかよく分からなかった。慌ててあたし、ぶんぶんと頭を左右に振る。
 俊也が続けて言った。
「じゃ、じゃあ、また英語の辞書、貸してくれよ」
 今度はあたし、かくかくと首を縦に振っていた。
 さっき、俊也のかばんから奪い返してきた辞書を差し出す。
「うっうん。えええ英和だけでいーの?」
「ああ」
 俊也がぶっきらぼうに答えた。声に出して吹っ切れたのか、態度がいつもの俊也に戻ってきてる。生意気で、トンがってて、ぶっきらぼうな俊也に。何でだか、ちょっとだけくやしい。理由はよく分かんないけれど。
 もちろん、こっちの俊也の方が好きだから、いいんだけどね。
 俊也、確保した英和辞典を両手でもてあそびながら、まだ何か言い足りないような事があるような感じで、こっちの方をちらちら見てた。さっきとは違った、ちょっといたずらっぽそうな瞳で。
 入り口の方まで歩いていって、ドアを開けて、そこで思い切ったように、俊也が言った。
「俺、この辞書しばらく借りてっから……姉貴、いるとき、部屋から勝手に持ってってくれよなっ!!」
 そして一つ、照れ笑いを残してあたしの部屋のドアを閉めて出ていった。

おしまい


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