熱帯の朝は早い。
日が高くなって暑くなる前にひと仕事。
これは、熱帯に生きる人々が自然に身につけた生活のリズムでしょう。
11時にもなると気温は30度を超えてきて、赤道からわずかに南に
ずれたこの地の太陽は、すべての形あるものに濃い影を落とします。
12時になると人々は家に帰り、一日のメインともいえる昼食を家族と
一緒にとります。都会のように外でランチを、ということはこの町では
滅多にありません。12時から2時の間は店はすべてシャッターをおろし、
町は人っ子ひとりいない状態になります。
そして大事なのが昼寝。ハンモックにゆられて木陰で休むのはとても
贅沢な幸せです。幸せよりも前に、この暑さの中を活動するためには栄養
と休息、ということを身をもって知りましたが。でもこちらの人がやるように
コクっと短時間で深い眠りに落ち、すっきり目覚めるという技をまだ
習得できない私は、はっと目覚めたらもう空が赤く染まっていることも
度々あります。
さて、夕暮れ。4時ごろから人々は夕暮れの準備をします。(というふうに
私には見えるのですが。)あれほど照りつけていた太陽はあっさりと西に傾き、
空のおおきな青をおおきな赤に変えていきます。アスファルトで覆われた土地が
ほとんどないためか、空気もすっと熱を失って随分すごし易い夕方になります。
1日の仕事を終えた人々は家のまえに椅子を出し、ぼんやりと座ってこの時間
を過ごします。
遊び足りない子供達はまだ凧の糸を引いて裸足で走り回っています。
足をぶらぶらさせて話に花をさかせるモレーナ(小麦色の少女)たち。
いつもの仲間で集まってビールを飲むおじさんたち。
何を話すでもなくなくただ腰掛けてすごすおじいさんとおばあさん。
空に星が輝き始め、家々に白熱灯のあかりが灯るまでの時間。
この人達は、この時を過ごすために一日を生きているんじゃないだろうか、
そんなことを思わずひらめいてしまうほどに、この光景は
私を和ませ、幸せにしてくれるのです。
また、この夕暮れの町の絵に欠かせないのが、「タカカ」やさんです。
「タカカ」とは、アマゾン地方独特の料理(スープ)です。
ジャンブーという、舌がびりびりとしびれる香草(日本で例えるなら
山椒かな)と小さな川えびを、トゥクピー(マンジョカ芋からつくるアマゾンの
調味料)で煮て、タピオカの粉でとろみをつけます。
これを、「クウヤ」という、椰子の実のような丸い実を半分に割ってくりぬき、
ニスを塗って作ったおわんに入れて、えびをつまむ楊枝をつけて出してくれます。
味は、えびの塩気とジャンブーのしびれをタピオカが優しく包むかんじで
微妙なバランスを保っています。好みでトウガラシをくわえますが、私は入れず
に飲むのが好きです。初めて飲んだときからこの不思議な味のとりこになりました。
夕方にはあちこちにこんな配給のテーブルみたいな店が並びますが、店によって
味も微妙に違います。あそこのおばさんのが一番おいしい、と生徒
に連れていってもらって飲んだタカカは、塩気ととろみの関係が絶妙で、まさに絶品
でした。
それらのテーブルのまわりにはやはり椅子が並べられて、タカカをすすりながら夕暮
れを楽しむ人々で静かに賑わいます。
日がすっかり沈むともう1日は終わり。
かと思いますが、フェスタ好きのブラジル人、「明日は明日の風が吹く」調子で
週中だろうとなんだろうとかまわず、夜遅くまで飲んだり踊ったりして楽しんで
いるようです。
結局のところ、1日のすべての瞬間を楽しんでいるということでしょうか。