『ポンコツ』自動車

多分、『ポンコツ』という言葉が死語となって久しい、日本の車事情が特殊なのだろうが、アメリカに来て、あまりに『ポンコツ』の車が平気で走っているので驚いた。それはもう、ちょっと車体がへこんでいるとか、錆びやキズが付いているとかの次元ではない。車窓にガラスが入っていなくて替わりにビニールがガムテープで留めてあるとか、車のドアが一つだけ全く別の色とか、車の前とか後ろがグシャっと潰れているとか、『ポンコツ』という言葉がぴったりのボロさなのだ。そういった今にも壊れそうな車が走っているのだから、中には本当に壊れてしまう車もある。

例えば、 車が急にボンネットから煙を出して止まってしまったのを、こちらに来てから二回も見た。一回は白い煙、もう一回は黒い煙だった。運転はするがメカニックの知識はゼロの私には、煙が白か黒かで違いがあるのかすら分からないが、それにしても、こんな喜劇映画のワンシーンみたいなことが、目の前で起こる事もあるのだなあ、と感動してしまった。(煙が出て止まってしまった車の人は、深刻なんだけれど。)

しかし、私の見た、「極め付け」は、もっと凄かった。二年前のことである。 その夏、私は BU (Boston University) のレクリエーション・コースでセイリングのクラスをとっていた。BU のボート・ハウスは、チャールズ・リバーの川岸にあり、構内からは、ストロウ・ドライブという川沿いに走る車専用の道で隔てられている。そこを渡るのには歩道橋を使うのだが、この歩道橋は、見晴らし台のように眺めがいい。晴天のその日、私はクラスに遅れそうで慌てながらも、束の間の絶景を堪能していた。と、その時、突然ガシャンッという大きな音が下の方でした。事故?と思って見ると、コロコロコロと、タイヤが一つ、ストロウ・ドライブをゆっくりと転がって行く。「えっ?」と、タイヤの転がって来た元を目で辿ってゆくと、歩道橋の下に、左の前輪が外れて傾いで止まった車が一台。ただ、単に、走っていたらタイヤが外れたということらしい。運転席からドライバーが顔を出して、コロコロと我が道を走り出したタイヤを手を額に当てて呆然と眺めていた。いやー、すごい。すごすぎる。すごすぎて、やらせかと思ってしまう程のこの事故は、夏の平日の日中で他に車の通りもなく、シリアスな事故というより、殆どコメディーの世界だった。もうちょっと、文字通りの「高見の見物」をしていたかったが、ヨットに乗り遅れるといけないので、残念ながら行かなければならなかった。そばに人がいたら、「ねえねえ、見て見て!」と、この感動(?)を分かち合えたのに、一人で見るのには勿体ないショウであった。

もちろん、アメリカにも車検のようなものがあり、毎年それに合格しなければならない。ああいう、『ポンコツ』の車が、どうして合格するのか謎だが、そういう車でも合格するらしい車検を、一年目だけでなく二年目も初回rejectされたうちの愛車の話は、また今度。

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