天守の変遷
 
天守は、日本の近世城郭でもっとも特徴的な建築物といっていいでしょう。天守について知ってること、感じていることを書き並べようとしたら結構な量になりそうだったので、まずは第一段として私説天守の変遷です。
 
天守の起こり
天守建築の正確な起源は定かでないそうだが、天守(天主)という記述が用いられたのは織田信長が天正九(1579)年に築いた安土城が最初だとどこかで読んだ。それ以前にも望楼(物見台)としての建築物は存在したようで、それを天守と呼んだとか呼ばないとかいう話も聞いたことがある。安土以前に信長が築いた二条城(現在のものとは位置も規模も異なる城)にも天守が存在したとかしないとかいう説もある。

戦国末期の諸国武将の動向が全て史料に残っているわけでない。また史料に残っていても実物は残っていないため、現在呼称しているものと同一のものか検証は容易でない。以上のことを考えると、何が最初かというのは専門家でなければあまり建設的な議題ではないような気がする。個人的には、天下統一の起点を作った人物である織田信長にその起源を求める説を採用したい。

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天守建築の発展
信長没後、豊臣秀吉は大坂城をはじめとして大規模天守が各地で建てられ、天守建築技術が一気に進歩する。慶長年間(1596〜1615年)は建築ブームだった。戦国の群雄割拠した状態が終焉を迎えつつあったという歴史的背景に裏づけられたものだろう。各地域での権力集中が進み大規模な天守を持つ城郭を構えられる力を持った武将が出現したこと、徳川幕府が誕生した(1603年)とはいえ豊臣勢力も根強く残っていた時代で城郭の必要性が高かったこと等が理由として考えられる。熊本城には天下を狙う気持ちがよく現れている。

初期の天守は母屋の上に物見台をのっけた望楼式という形式をしていた。建物の上に建物を建てる形式なので、構造上弱く大型建築には向かなかった。構造上の弱さを克服するために、下層と上層が完全に分離した形ではなく通し柱により補強を計るようになる。現存する姫路城には最下階から最上階まで達する大通し柱があって見応えがある。この通し柱の有無によって前期望楼型と後期望楼型に分類するらしいが詳しくは知りません。

次第に通し柱を計画的に配置するようした層塔式天守が出現する。外観上は同じ形でサイズが少しづつ小さくなる箱を積み重ねた様な形式。各層が通し柱によって相互につながっていて構造的に強化され、より大型の天守建築が可能になった。層塔式の欠点はなんといってもかっこわるいことだ。寄棟屋根が一般的なため、飾りの破風でも付けなければただの塔のようになってしまう。島原城などが典型的な例でしょう。層塔式は設計が楽だったらしく、今のユニット建築みたいなものだったんでしょう。

建築技術の限界への挑戦という要素が多々あったと思われる初期の天守建築から30年程の間に効率性を考慮に入れる余裕を見せるまで技術が進歩したと思うと恐れ入る。軍事物の発展が速いのは今も昔も同じということでしょうか。

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天守の形式化
元和元(1615)年に一国一城令が出され、天守建築は下火になる。技術的には寛永十五(1638)年建築の寛永期江戸城天守で完成したといえると思う。姫路城裏手の歴史博物館内にある天守模型を見てもらいたい。同一縮尺の他の天守に比べて、いかにでかい天守だったかがわかる。

徳川政権の安定期に入ると、城の必要性が薄れたことと、幕府への遠慮というか猫かぶりという政治的理由や、経済的な理由から天守建築が難しくなった。実際、天守を最初から築かない城や、火事などで失われても天守を再建しない城が数多くあったようだ。江戸城でさえ明暦の大火で天守を焼失すると、経済的な理由から再建は行わなかった。木造の巨大建築物の維持は大変な出費だったと思う。

この頃になると、天守は軍事的な意味をほとんど失い城下町のシンボルと化す。シンボルを維持するために涙ぐましい努力をして天守としての体裁を整えようとしている城がいくつか散見される。表だけ飾りつけて、裏は素のまま等という情けない天守も多い。天守を三重櫓と称して建てる場合もあった。弘前城天守なんて表はかっこいいのに、裏面はやる気を感じられません。

江戸時代の中後期で天守を再建する場合には、構造的には層塔式のものを使っていても外観はあえて古い望楼式とすることがよくあった。これらの天守は復古式といわれ、幕府へ新規に城を築いたのではないことのアピールだとされている。個人的には90年代に70年代の音楽が流行るのと同じ様な感じで、単に層塔式の外観がかっこわるくて嫌いだからではないかと思っている。 元のままの方に愛着もあっただろう

天守建築は嘉永年間(1848〜54年)に築かれた松前城(北海道)の三重櫓を最後にその歴史の幕を閉じる。

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