大人の男の基礎講座 : トンチンカン物語

あの3人組みが帰ってきた
マイナー王への道をまっしぐらに突き進め!!


登場人物
学院「言葉の杜」 教授--------->この物語の主人公。トンチキでスットコドッコイ。天の邪鬼にして意固地
憂子------------------->利発で美人。傲慢で我侭。「ゆう」ちゃんとか「ゆう」君とか呼ばれる
鬱男------------------->聡明で臆病。軟弱にして日和見。「うっ」君


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この物語は、正しい大人の男になるための悪戦苦闘の物語である
些細なことに生きがいを感じるマイナーな人々の奮闘録である
個人名、団体名等の名称は全て実在するもの架空のものであり、一切の非難・中傷とは無縁であることをここに誓う

目次

第一話 「帰ってきた」

第二話 「何をどうする」

第三話 「ロマンとロマンスについて」

第四話 「愛と風について」

第五話 「面子と自由の関係」

第六話 「自分らしさについて」

第七話 「奢りとたかりの関係」


第一話「帰ってきた」

教授 うっ君、どうかね?今日の調子は?
鬱男 さあ、どうでしょうか?先発ピッチャー次第じゃないですか
教授 誰が野球の話をしろといった。授業の話だ
鬱男 はぁ でも、僕に取っては野球の方が大事なんだけどなぁ
教授 君にとってはそうかもしれないが、私にとっては野球と同じくらいに授業も大切なのだ
鬱男 そうですか
教授 そうだ。それで、どうなんだ?
鬱男 なんともなりません
教授 はっ?
鬱男 だから、なんともなりません
教授 何が、なんともならないんだ。わかるようにいいなさい
憂子 教授、授業の調子は最悪ってことです
教授 成る程、わかりやすい。わかりやすいがもう少し言い方があるだろう
憂子 そうですか
教授 そうだ。それでどんな具合なんだ?
憂子 どうもこうもありません。言い方を変えれば「トンチキのスットコドッコイ」って感じです
教授 成る程、よくわかった。そんなに悪いのかね
鬱男 そうですね、出席数は三十人ぐらいかなぁ。ゆうちゃん、四十人はいってないよね?
憂子 どっちでもいいんじゃない。目くそ鼻くそよ
鬱男 そりゃ、そうだけど。そういっちゃ、、、それに三十人ってのはそんなに悪くないと思うよ
教授 わかった。もういい。頭が痛くなってきた
鬱男 教授、風邪ですか?
教授 ああ、たった今香港欠席型にかかったみたいだ
憂子 今時子供でも笑わないですね。そんなセンスだから出席数も伸びないんじゃないんですか
教授 ええい、だまりなさい。これでもファンレターをもらったこともあるんだ
鬱男 そうですよ、教授。自信を持ってください
教授 自信は持っている。自信を無くすようにしてるのは君たちじゃないか
憂子 ファンレターって、最初にもらった一通のことですか?
教授 そうだ。それ以上いうな。もう、いわんでくれ。その、たった一通のことだ
憂子 あれって、いわゆる「ビギナーズ・ラック」ってやつじゃないのかしら?
教授 わかった。もういい。熱がでてきた
鬱男 教授、風邪ですか?
教授 君と漫才をやってる暇はないんだ。それで、何か手を打ったのかね?
鬱男 いえ、まだです。もう少し事態を静観してみようかと思って
教授 そうか。それでどのぐらい静観してるんだね
鬱男 ええっ、どのぐらいかなぁ。ねえ、ゆうちゃん
教授 いわんでよろしい。ゆう君はいわんでよろしい。要するにかなりの間、静観をしてるわけだね
鬱男 はぁ、かなりといえばかなりですが、、、主観の問題だと思います
教授 君と議論する気もない。即刻に、速やかに、かつ迅速に対処したまえ
鬱男 何をどう対処すればいいんですか?わかるように言ってください
教授 何って、わしに聞いてどうする!わかってたら君にはたのまん
鬱男 そう、いわれてもなぁ
憂子 わかりました。生徒募集の張り紙をしてみます。
鬱男 募集って、学校の中で? 自分の生徒に?
憂子 細かい事は言わないの
ところで教授、ここまでって「不倒、不屈の闘争記」の丸っきりのぱくりですけど、いいんですか?
鬱男 あっ、本当だ。教授、いくらなんでもパクリはまずいですよ
教授 何がパクリだ。著作権はワシにあるからいいのだ
憂子 えー、そういう問題ですか。それって、ちょっと違うって感じ
鬱男 ひでーえ! 完全なパクリだ。一言一句違わないぞ
教授 何をいってるか。シチュエーションが違うのだからまるっきり同じわけがない。現にワシは社長から教授に出世しているじゃないか
憂子 これって出世なんですか。でも性格は変わっていませんね
鬱男 作者が同じだからね
教授 余計なことは考えない。考える前に手を動かす
鬱男 はぁ、、、でも教授の授業の人気が無いのはぁ、、
憂子 分かりました。とにかく生徒を連れてくればいいんですね
教授 そうだ。手段はまかす、犯罪を犯さない限り目をつぶろう
鬱男 目をつぶろうって言われても
憂子 分かりました。目的の為には手段を選ばずですね
教授 そうだ、手段を選ばずだ
鬱男 手段を選ばずって言っても、、、
第一なんで生徒の我々がそんなことまでしなければいけないのですか?
教授 単位がほしいんだろう
憂子 そうよ、世の中は持ちつ持たれつなの
教授 いやっ、それとはちょっと違うと思うが
とにかく「ひとつよしなに」
憂子 「よしなに」って言われても
鬱男 そうですよ。教授、いくらなんでも、、、
あれ、教授!!
憂子 逃げたわ。都合が悪くなるとすぐ逃げるんだから
今週はきっと休講ね
鬱男 うーん、多分そうだね。でも君ちょっと性格変わった?
憂子 やーね、変わるわけないじゃないの。作者が同じなんだから
世の片隅にひっそりとある、とある学院の春の日の昼下がりのことである

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第二話「何をどうする」

鬱男 教授、お待たせしました。
教授 おおっ、待っていたのだ
鬱男 これが彼女がまとめた汚名挽回策です
憂子 名誉挽回でしょ。汚名は払拭
教授 いや、いや。さすが才媛。あやかりたい蚊帳(かや)つりたい
鬱男 その駄洒落、古くて誰も分からないんじゃないですか
教授 成る程、君の言うことももっともだ。一体何が面白いかを説明すればだな
憂子 無駄なことは止めましょう。みんな迷惑なだけだと思います
教授 君の言う事にはいちいち刺があるねえ
鬱男 奇麗なバラには刺があるってやつですよ
教授 針ネズミにだって刺はあるぞ
鬱男 そんなことより、どこから始めましょうか
憂子 そうね、まずポスターを作るのはどうかしら
鬱男 生徒募集のやつだね
憂子 ええ、あなたが考えてくれたキャッチコピーをメインにしようと思うんだけど
鬱男 そりゃ、いい。それでどれを使うの?
一応みんな自信作なんだけど
憂子 そうね、これなんかなかなかいいんじゃない
教授 何、何。「年に半分休めます」なんじゃこれは?
鬱男 ええ、教授の気まぐれで授業の半分は休講になる点を強調してみたんですが
教授 休講目当てに来るような学生ならいらん! ワシが欲しいのはまじめな学生だ
鬱男 まじめですか? 今時どうかなあ
教授 どうかなって君。むろんまじめなだけでは駄目だぞ。優秀じゃなくちゃ
鬱男 まじめで優秀ですか?
憂子 今時そんな学生いないと思いますけど
教授 いいや、駄目だ。まじめで優秀な学生だ
鬱男 そんな贅沢いったら誰も来てくれませんよ、教授
憂子 そうですよ。まじめで優秀な学生がこんな小手先の、、、
教授 もっと違うのはないのかね、違うコピーは
憂子 じゃぁ「助けてください、困ってます」ってのはどうですか
教授 却下
鬱男 「そして誰もいなくなった」
教授 却下
憂子 「クーリングオフも可能です」
教授 みんな却下だ。もっとましなやつを考えたまえ
憂子 「頭を休めに来ませんか」は駄目ですよね ^^;
鬱男 「きっといい子に巡り合えます」
憂子 なんかテレクラみたいね。却下
鬱男 うーん、みんな駄目?
教授 当たり前だ。募金活動でも、推理小説の題名でも、キャッチセールスでも、心理カウンセラーの広告でもない。まじめな学生を求めているのだ
鬱男 でもそれなら、やっぱり「助けてください、困ってます」が一番じゃないかな
教授 駄目だ。私のプライドが許さない
鬱男 「困ってます、助けてください」にしても駄目ですか
教授 当たり前だ、駄目に決まってる
憂子 じゃあ、コピーは後にして絵の方を先に決めましょうよ
教授 うん、そうしよう。先にイメージを決めてそれからコピーを考えよう
憂子 なるべく悲惨な雰囲気が出た方がいいんじゃない
教授 どうしてそうなるんだ。なんで悲惨なんだ
憂子 お気に召しませんか
教授 召すわけがないだろう
憂子 それじゃ、バカバカシイ程明るくします?
教授 普通の明るさでいい、普通の
憂子 わかりました、普通の明るさですね
鬱男 季節は春がいいかな
教授 おお、そうだ春の感じがいいじゃないか
鬱男 桜の季節ですかね
教授 おお、いいな桜の季節にしよう
鬱男 ええっ、しぶいっすよ。七分咲きぐらいにして
教授 おお、七分咲きにしてこれからの可能性を訴えかけるんだな
鬱男 そのとおりです。さすが教授鋭いですね
憂子 何部咲きでもいいけど、簡単なのが助かるわ
教授 そんな、なげやりじゃいかん。もっと積極的に意見を言いなさい
憂子 言っていいんですか?
教授 もちろんだとも、どんどん言いなさい
鬱男 あっ、でも程々にね
教授 何を言ってるんだ。教授と言えば、親も同然、生徒と言えば子も同然じゃないか。遠慮しないで言いなさい
憂子 じゃ、お言葉に甘えて。そもそも教授の講義内容ってどんなものなんですか
教授 何?なにを今さら言っているんだ。去年一年間、授業を受けただろう
憂子 いいえ、最初の講義を聞いただけです
教授 最初だけ? しかし君は殆ど出席になっていたぞ
憂子 代返です
鬱男 すみません。僕が頼まれたんです
教授 しかし、少なくとも一回は聞いたんだろう
憂子 はい。でも一回では何の講義か良く分かりませんでした
鬱男 「外国語で講義するとは思わなかった」っていってたよね、君
憂子 君は黙ってて
鬱男 ハイ
憂子 とても難しそうだということは理解できました
教授 それだけかね
憂子 はい、それだけです
教授 はぁ、それだけですか。君はどうなのかな? 少なくとも代返していたんだから出席はしていたんだろう
鬱男 ええ、出席はしていたんですが。何しろ代返が目的でしたので、、、講義の内容はちょっと
教授 どうりで二人とも試験に落ちたわけだ。結局、二人ともワシの講義の内容については何も理解していないのだな
憂子 その分今年は教えがいがあると思います
教授 まあ、そういう風に考えよう。ワシの講義は大人の男に成るための基礎講座だ
憂子 それじゃ、私には必要ないじゃないですか
鬱男 なんだ知らなかった。もっと早く教えてくれればいいのに
教授 そんなもんは授業を聞けば分かる。それに憂子君、男性に求められるものを知っておくのは女性にとってもとても重要なことだと思うぞ。いい男を捕まえるためにも
憂子 確かにおっしゃるとおりですね
教授 やっと意見の一致をみたわけだ
憂子 それじゃ、こんなのはどうですか。「男のための必修講座」
教授 おおっ
憂子 「大人の為の基礎講座」
鬱男 いいんじゃない、それ。
教授 おおっ、確かにいいぞ
鬱男 いいですよ。さっきより全然いいですよ
教授 確かにいいが、女性がぬけてるぞ
鬱男 そうですね、これじゃ男性しか集まらないよ
教授 そりゃ、こまる。せめて半分は女生徒にしたい。なんとかしてくれ
鬱男 そうですね、男だけじゃ。長続きしませんよ。なんとかしてよ、ゆうちゃん
憂子 ちゃんと考えて有ります「男を磨く女性になろう、輝く女性の応用講座」
教授 いい、すごくいい。君はいい。才能がある
憂子 はい、よく言われます。才色兼備とも言われます
教授 おおっ、言われるか。自分でも言うか。でも、良く見ればそんなに悪くないじゃないか
憂子 はい、教授に言われてもあまりうれしくありませんがとりあえず、ありがとうございます。自分でも相当いけてると思います
鬱男 うん、文字数もちょうどいいし、いいコピーだと思うよ
憂子 どうかしら、こんな感じにコピーを並べて、、、
教授 ゆうくん、君にまかす。好きにやってちょうだい
鬱男 後は僕たちでやりますので、教授は休んでてください
教授 じゃ、後は君たちに任せて私は野球中継でも見るとするか
大人の男になる為の基礎講座の始まり始まり。なかば脅されて出席する憂子と鬱男が教授と繰り広げるドタバタ劇。お代は見てのおかえり、おかえりー

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第三話 「ロマンとロマンスについて」

教授 どうかね、調子は?出席者は増えたかね
鬱男 はい、順調です。少なくとも減ってはいません
教授 何を言ってるのだ、減ってどうなる
鬱男 でも去年の今頃は半分ぐらいにまで減ってましたよ
教授 そんなに減っていたか?
鬱男 はい、とにかく社民党か教授の授業かと言われるぐらいのじり貧状態でした
教授 そんなにひどかったのか
鬱男 そんなにって、ご存知なかったんですか
憂子 嫌なことは見ないように出来るのよ、人間は。ねえ教授
教授 相変わらず刺があるな、この才色兼備のオカチメンコ嬢は
憂子 何か言いました
教授 いや、何も
鬱男 とにかく彼女と僕が前の席に陣取ってますから、何かあったら
教授 おおっ、何かあったら助け船を出してくれ
鬱男 はい、分かってます。持ちつ持たれつですから
教授 おっほん。授業を始める。本日は「男のロマン」について考えみよう
憂子 やだー、男のロマンだって
教授 本来ロマンとはRomanのことでありRomantic(ロマンチック)なことを考えるのが男の特性だと考えられていたわけだ。まあ、いわゆるRomanticist(ロマンチスト)と言われる人たちのことだね。
空想家、夢想家なんて言われるのでそれ自体はいい意味で使われないこともある
憂子 やだー、偉そう
教授 ところがこれがRomance(ロマンス)となるといきなり女性の大好きな話のことになってしまうわけだ
憂子 あら、本当
教授 ミステリーロマンなんてのは女性が大好きじゃないか。ハーレなんとかロマンスなんてわけの分からないものがベストセラーになってるようだし
鬱男 ロマンス・カーはどうなんでしょうか?
教授 あれは男と女の二人が掛けられる座席のことだな。別に男同士でかけてもいいのだが
鬱男 ロマンス・グレーはどうなります
教授 あれは、女性の心を虜にする渋い中年の白髪(はくはつ)のことだな。ちなみにあれは和製英語だ
鬱男 ええっ、そうなんですか。ちっとも知らなかった
教授 ついでに言えば女性の心に嫌悪感がある場合は「ごま塩頭」とか単なる「白髪(しらが)」と呼ばれるわけだ
鬱男 そうですね、面白いです
憂子 ところでRomanceとRomanってどういう関係なんですか
教授 いや、ワシも良く知らないが似てるから親戚なんじゃないだろうかと思っているのだが
鬱男 ええっ、思うだけですか
教授 そうだ、思うだけだ。いけないかね?
日本では信仰の自由は保証されているはずだ。もちろん言論の自由も、まして思索の自由を君にうんぬんされるいわれは無い
鬱男 はい。すみません、軽率な物言いでした。授業を続けてください
憂子 Roma(ローマ)と何か関係があるんでしょうか
教授 知らん
憂子 知らないんですか
教授 そうだ。知らん。何か問題があるかね
鬱男 いいえ問題ありません
教授 エヘン、つまり古来より男とゆうものは、現実逃避の性癖があると考えられていたのだな。同時に男性中心の世界観では女性は現実的な考えしか出来ず、夢を持ち得ないと断じてきたわけだ
鬱男 なんか、随分格調高いね。去年ってこんなだったっけ?
憂子 随分勉強したらしいわよ。こんなに勉強したのは生まれて初めてだって言ってたわ
教授 まあ、ぶっちゃけた話。バクと男は夢を食って生きていると信じられて来たのだ
憂子 バクも男も夢なんかじゃ生きていけないと思いますけど
教授 甘い。君は甘すぎる。いいかね、生きていけないからこそ、そう信じてきたのだ。ここが大切な所なのだ
鬱男 ふーん、成る程ねぇ
教授 みんなが夢で生きていければ、誰もそれを信じる必要はない。生きていけないからこそ信じる必要があるのだ。信じることによって、夢の為に家庭や家族を犠牲にする口実が出来るのだ。これが世の中の現実なのだ。そうなのだ、ワシの家庭も大変なことになっているのだ
鬱男 教授の家庭のことはどうでもいいんですが
教授 そんな、どうでもいいとはどういうことだ。自分一人がよければいいのか
鬱男 いや、直接授業とは関係ないという意味です
教授 わかった。この件については後でじっくり話し合おう
鬱男 いや、話し合う必要はないと思うのですが
教授 とにかく後でだ。
男が夢を、なら女性は何だろう
憂子 愛じゃないかしら
鬱男 愛ねえ
憂子 そうよ、愛よ。愛があれば後はお金だけでいいわ
鬱男 愛とお金ねぇ
教授 愛というのはロマンスに憧れる女性の核心をついている。誰しも手に入らないものを求めるものだからね
憂子 それって愛は手に入らないってことですか
教授 ああ、殆どの女性は愛を手に入れることが出来ない
鬱男 お金はどういうことですか?
教授 女性がより現実的だという証左だね。より具体的で所有できるものに執着するのが女性なのだ
鬱男 具体的で所有出来るものですか
教授 ああ、そうだ。愛は何故手に入らないかと言えば、愛は抽象的で所有できないからだ
鬱男 確かに、そんな気もしますね
教授 そうだろ、君も少し分かってきたじゃないか
鬱男 はぁ ^^;
憂子 どうして愛は抽象的で所有できないんですか?
みんな愛し合って結婚するじゃないですか?
教授 甘い、君は本当に甘い。私の家庭なんか、、
憂子 どう甘いんでしょうか。返答によっては私にも考えが有ります
教授 考えがあるって、君。そんなに目を吊り上げなくても、いいじゃないか。なあうっ君
鬱男 じゃ、僕は、今日は、これで
教授 そうか。そうだね。時間が来たので今日の授業はここまでにして、次回は来週
憂子 納得できません、ちゃんと分かるように説明してください。教授、逃げるな!

授業は順調に? 波乱を含んでスタートした。少なくとも活気だけは十分にある

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第四話 「愛と風について」

鬱男 あれ、今日はやけに人数が多いね
憂子 そりゃ、そうよ。何しろ先週の教授の問題発言はほってはおけないでしょ
鬱男 ほってはおけないって、まさか君がみんなをあおって?
憂子 そうよ、友達に声を掛けたから
鬱男 ちょっと気分が悪くなってきた
教授 おおー今日は女生徒が随分多いじゃないか
鬱男 多すぎると思うんですが
教授 なに、多すぎる。馬鹿を言っちゃいけない。多くて困るのは苦情に、要望だけだ
憂子 教授、その苦情と要望です
教授 なに、苦情と要望。 遠慮する
憂子 いいえ、ちゃんと聞いてもらいます
鬱男 そんな、いきなり、喧嘩ごしにならなくても
教授 そうだとも、そんなに眉をつり上げたんじゃお嫁のもらいてもなくなるぞ
鬱男 教授、問題発言です
教授 なんだ、何が問題発言なのだ
憂子 「愛というのはロマンスに憧れる女性の核心をついている。誰しも手に入らないものを求めるものだからね」とおっしゃいましたね?
鬱男 おっしゃいましたね、って
教授 言ったかなあ
憂子 おっしゃいました
教授 そうか、おっしゃったか
鬱男 早く謝った方がいいですよ、教授
憂子 君は黙ってて。どうして女性は愛を手に入れることが出来ないのか納得いく説明をお願いします。これは今日ここに集まった、女性56人を代表しての質問です
教授 何、今日は56人の女生徒がいるのか。それはいい。これ? 記録じゃないか、うっ君
鬱男 はぁ
教授 はぁって、君は記録を取ってるんだろう
鬱男 取ってますが、、、まずいんじゃないですか。質問に答えないと
教授 そうだな。わかった。私に分かる範囲で答えよう
憂子 教授、女性には愛はどうして手に入らないのですか
教授 見たことがない
鬱男 はっ
教授 いや、手にいれた者に会ったことがない
憂子 それは、教授の経験でそれを一般論に拡張されても、困ります
教授 もちろん、個人的体験だけをもとに論をなすつもりはない
鬱男 そうですよね、ちゃんと根拠はあるんですよね
教授 当たり前だ、それなりに根拠らしきものはある
鬱男 らしきものですか
教授 なんだ、その疑わしいものを見るような目つきは
鬱男 いや、別に疑っているわけではないですが
憂子 時間の無駄ですから、早くその根拠 ら・し・き ものを説明してください
教授 何故、浪慢主義は男性に帰属すると考えられているか?
何故、女性は夢に一生を掛けることが出来ないか?
と考える前に本当にこの質問は正しいか、と考えてみよう
憂子 おかしいと思います。夢に一生を掛けている女性はたくさん居るし、夢を持たない男性はその何倍もいるんじゃないでしょうか
鬱男 そのとおりである。つまり、この質問は男性が作り上げた固定観念を前提になされているわけだ。その前提とは、
憂子 男性優位の考え方だと思います。男性は女性より勝っているという
鬱男 そんなこと今の男の子は考えていないと思うけどなあ
憂子 もちろん、表面上はそうね。でも実際はどうかしら。
それに社会を動かしているのはもっと上の人たちだもの
鬱男 そりゃ、そうかもしれないけど
教授 では、愛を手に入れるとはどういうことだろう
憂子 お互いを信頼し、許しあい、認めあうことだと思います
鬱男 へえ、そうなんだ
教授 では、私が言った愛とは抽象的なものだということに異論はないね
憂子 抽象的かも知れませんが、実際には具体的な行動を伴う自己表現だと思います
教授 自己表現か。いいことを言うね。今度授業で使っていいかな
鬱男 どうぞ使ってください。そんなことより説明を続けてください
教授 では結婚とはなんだろう
憂子 形式です
教授 さすが、ゆうこ君。そう結婚とは形式なのだ。言うなれば自己表現を他人に分かるように紙に書き写しただけのものなのだ
鬱男 単なる形式なんですか
憂子 うるさいわねえ、君は
鬱男 でも、それだったら女性の人は単なる形式を求めてるってこと
憂子 違うわよ、もちろん。求めているのは愛よ。後お金も、あればこしたことはないわ
鬱男 先週の授業で私は「殆どの女性は愛を手に入れることが出来ない」と言った。これは誤解を招く発言だったようだ。それは素直に撤回したいと思う
鬱男 あれ、謝っちゃうんですか
教授 誰も謝ってはおらん、誤解を解いただけだ。この程度で謝っていたのでは女子大の教授はやってられない。ついでに言えば政治家も大蔵官僚もやっていられない
鬱男 まあ、なれればですが
憂子 話がずれていってます
教授 エヘン。私の言った真意は、女性が幸福になれない、幸福を手に入れることが出来ないといったわけではない。殆どという言葉を使ったように愛を手に入れている女性もいるのである
憂子 ヘリクツに聞こえます
鬱男 そうだよなぁ
教授 ではどういう人が幸福を手に入れているのか。問題はそこだ。愛は確かめることが出来ないものである。なぜならば実体のない、空気のようなものだからだ
鬱男 でも空気がないと死んじゃいますが
教授 あー、エヘン。空気ではなく、、、そう!風のようなものだ。それは感じることも、見ることも出来る。但し、風そのものを見ることは出来ず、あくまでも風に揺らぐ梢であり、はためく旗を見ているわけだ。頬に風を感じた時にはもうそこには風はいないのだ
憂子 でも風は現実です
教授 そう、実在するものだ。ただ、それは単なる大気の流れであり、また逆説的ではあるが単なる大気の流れ以上のものでもあるのだよ。
愛も実在するものである。感じるし、見ることも出来る。ただ、愛そのものを感じているわけでも、見ているわけでもないというのがワシの主張だ。それは風と同じように捕まえておくことが出来ないものであり、結婚という形式で縛れるものでもないのである
鬱男 愛は風のように、ですか
教授 そうだ。これも今度使わせてもらおう。「結婚で愛を手に入れようとする女性は、結婚の為に愛を失うだろう」と、有名な哲学者が語ったように、愛は手に入れるものではなく、受け入れ、信じ、与えるものなのだ。それを理解した時、心で納得した時、初めて女性は幸福を手にすることが出来る。これが私の結論である
憂子 …なんか納得できません、なんか誤魔化されているみたいな気が
教授 私の講義は、幸福を手に入れるために何を身につけるべきか。男性も女性も考えてみようとしているのだ。決して空理空論で時間を費やしているわけでは無いことを理解して欲しい。
時間が来たようだから、今日はこれで。みなさんの静聴に感謝したい
憂子
鬱男 いやぁ、さすがですね。でも教授、あれですか。男性も頑張れば愛を手に入れられますかね
教授 何を言ってるのかね、君は。男は愛なんて怪しいものを信じちゃいかん。そんなことでは将来大怪我をするぞ
口八丁手八丁。何とかかんとか誤魔化せた。これが大人の男になるための第一章なのである。とにかく「愛は風のように」なのである

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第5話 「面子と自由の関係

鬱男 今日は「男の面子(めんつ)」について考えてみよう
憂子 面子ですか
鬱男 なんでこんな字なんだろう?
教授 それは中国から来た言葉だからだ
鬱男 中国からですか
教授 そうだ、萬子とか麻雀でもいうだろう
鬱男 ええ、索子とか筒子とか
教授 まあ日本語では面目とか体面だな
鬱男 ああ、それでメンツが足りないって言うんだ
教授 きみきみ、もう話は先に進んで居るんだがね
鬱男 すみません
教授 分かればいいが、話をちゃんと聞いてもらえないとワシの面子が立たない
鬱男 面子は立つものなんですか
教授 そういう言い方をするな。面目も同じような使い方をするぞ。他には面目が潰れるとか面目が一新するとか言うな
鬱男 成る程、ところで教授「めんもく」が正しいんですか「めんぼく」が正しいんですか
憂子 めんぼくじゃない。ずーとそう使ってきたけど
教授 試しにそのワープロで「めんもく」を漢字に直してみると
鬱男 面目と出ました
教授 「めんぼく」ではどうかな
鬱男 あっ、こっちも面目と出ました
憂子 どっちでもいいってこと?。どっちかは誤用じゃないの
教授 この場合はどちらでもいい。「めんぼく」のほうがやや改まった言い方になると言われているようだね
鬱男 はぁ
教授 ところが「めんもく」の丁寧な言い方で「面目(めんもく)次第」があるがこちらはめんもくと呼ぶ。まっ時代劇でしか使われんな
鬱男 へええ、難しいんですね
教授 針灸の医学では「面目、合谷に収む」と言われているぞ。面目とは顔面と目、合谷は親指と人指し指との付けねにあるツボのことらしい
憂子 それが男の面子とどう関係があるんですか
教授 特にはない
鬱男 はっ
教授 知っていることは言っておきたかっただけだ
憂子 問題は男の面子だと思うんですが
教授 もちろん、そのとおりだ。面子とは面目。面目とは顔面と目のこと
鬱男 はい、分かりました
教授 よく顔がたつとかたたないとか言うだろう
鬱男 言いますね
教授 つまり面子がたつとは顔がたつということだ
鬱男 成る程
憂子 何故男の人はそんなことにこだわるんでしょう
教授 いい質問だね。男にとってこの「顔がたつ」ということはとても重要なことだと考えられてきた。つまり男は見栄をはる生き物だという事だね
憂子 見栄をはるですか?
教授 そうだ。これも本来は「見え」で「見える」から来ているわけだ。「見栄」や歌舞伎などで使われる「見得」はどちらも借字だね
鬱男 それも言っておきたかったんですか
教授 そうだ、言っておきたかった
憂子 他人から良く見られたいってことですよね
鬱男 でもそれなら女の子でも同じじゃない
憂子 そうね、そんなに違わないけど男の人ほど世間体とかは気にしないんじゃないかしら
鬱男 そりゃ、そうかもしれないけど
教授 他人からどう見えるかが重要だということは、極論すれば中味はどうでもいいということと考えて差し支えない
憂子 差し支えないんでしょうか
鬱男 ちょっと乱暴なんじゃないかなあ
教授 気にしなくていい、言論の自由じゃ
憂子 ちょっと違うような気が、、、
教授 つまり中味の無さを身の回りを飾りたてたりして、実力以上によく見せたい。それは男女そう変わらないわけなのだが、男の場合はそれが例えば学歴や会社の格、職位などという権威付けと結びつくところに問題があるわけだ
鬱男 やっぱり権威ですか
教授 やっぱり権威だ。権力はごく一部の人間しか手に入れることは出来ない。したがって大部分の男は権威に憧れるのだな
憂子 形式です
教授 さすが、ゆうこ君。そう権威とは形式なのだ。しかし誰でも偉そうにしていたいのだな。かくゆうワシでさえ、もっと有名な女子大の教授になりたいと常々思っているのだ
鬱男 はあ、よくおっしゃってますよね
憂子 そうそう、ワシはもっと高く評価されていいはずだって
鬱男 そうそう、飲むと必ず最後は家庭のごたごたと、評価の低さだもんなあ
憂子 評価の低さにはこだわってるわね。ほんと俗物なんだから
鬱男 エヘン。何故、男はかくも権威にこだわるのか。それは由(よ)ってたつべき基軸が自分に備わっていないからだ。そういう教育を受けてきていないことの影響も大きい
鬱男 由って立つですか
教授 そうだ、自らを由(よし)とする。または自らに由って立つ。これを自由という
鬱男 自由ですか
憂子 話がずれていってません?
教授 いーや、ずれてはいないぞ。諸君は自由は束縛のない、制約のない状態と漠然と考えているようだが、そうではないのだ。自らを律し(自律)自らに責を負う(自責)覚悟がなければ結果としての自由は得られないのだ
憂子 それと面子とどう関係するんですか
鬱男 そうだよなぁ
教授 今までの男に何故面子が必要だったか。それは男が自律、自責の義務を負わず結果として自由を持ち得なかったからなのだ。その覚悟を社会規範の名の下に捨て去ってしまったことが男の堕落の始まりだった、というのがワシの持論だ。つまり男も真に自由を手に入れさえすれば面子にこだわる必要は無くなるわけだね
鬱男 でも自由は女性の方が少なかったんじゃないですか
教授 あー、エヘン。社会的にはそうかもしれない。しかし逆に言えば、女性は限られた自由しか与えられなかったことで自由そのものを認識する機会に恵まれたとも言えるんじゃないだろうか。だからこそ権威のもつ陳腐さに無意識のうちに気がついていたんじゃないだろうか
憂子 無意識にですか
教授 そう、無意識にだ。ところが、昨今の状況を見てみると分かるように男と同じように学歴、会社の格といったものを重要視するようになっている
憂子 だってその方が将来安心じゃないですか
教授 問題はそこだ。これを単に女性が男性化したと短絡的に考えてはいけない。これは規制の極端に少ない社会が真の自由を奪ってしまうことの一つの証左であるわけだ
憂子 規制は反対です。規制しないと自由になれないなんて矛盾しています
教授 するどい、さすがゆうこ君。規制しないと自由が得られないなんて矛盾もはなはだしい。それこそ「見え見え」だ。ワッハッハ
憂子 意味が分かりませんし、おかしくもありません
教授 この問題は奥が深い、深すぎるので日を改めて講義してみたい。じゃないとワシの面子が立たない。ワッハッハ
鬱男 面子か? やっぱり男は立たなくちゃいけませんかね、教授
教授 当たり前だ。立たなくなったら男は終わりじゃ
憂子 意味が分かりませんし、わかりたくもありません
立つ鳥後を汚さず。立たぬなら立つまで待とうホトトギス。何やら分かったような分からないような、この講義。一切の抗議は遠慮させていただきます

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第六話 「自分らしさについて」

鬱男 教授、この間の授業は感激しました
教授 おおっ、感動したか
鬱男 はい、感心しました
教授 おおつ、感謝したか
憂子 ふたりともわざとやってます?
鬱男 一応お約束だから
教授 さて授業も今日で4回目だ。今日は自分らしさについて考えてみたい
憂子 男らしさじゃないんですか
教授 男は男らしさ、女は女らしさと考えてもいいし、あくまで自分らしさについて考えてもらってもいい。つまり諸君にとっての「らしさ」を問題提起したいわけだ
鬱男 ええー、らしさですか。結構難しいですね
教授 「ペンまわし いくらやってもわからない数学理科と「私」という人」
鬱男 なんです、それ
憂子 これは第11回「現代学生百人一首」入選100首のうちのひとつだ
鬱男 あの学生の短歌なんかを集めたやつですか
憂子 へえ、女の子かしら、男の子かしら
鬱男 数学理科だから男じゃないのかな
憂子 でも「私」という人って感じはかわいい女の子って気がするけど
教授 実際は13歳の女子中学生なんだな
鬱男 へえー、13歳。女子中学生
教授 そうだ、ここには自分が何者なのか分からなくて不安になる気持ちがよく現れているだろう。君たちも今ではすっかり擦れてしまったがかつてはこのように瑞々しい感性があったはずだ
憂子 調子に乗り過ぎです、教授
教授 いや、失敬。いいたかったのは、みんな自分というものを探しているってことだ
鬱男 自分探しですか
憂子 確かにそうだと思いますが、でもどうやって探せばいいんですか
教授 そうだね、大変難しい問題だ。ここでは話を整理して単純化してみよう。つまり一般論として男らしさはどういったものと考えられているのだろう
鬱男 結局は男らしさですか
憂子 雄々しいとか強いとか、それに潔い感じのする人かしら
教授 まあそんなところだね。多分辞書を引いてもそんなものだろう
憂子 弱きを助け強きをくじくって感じなのかしら
教授 「弱きもの、汝の名は女なり」かな
鬱男 まさかぁ、今時
教授 おっ、うっ君。口は災いのもとだぞ
憂子 まさか筋肉モリモリなんて思っている人はいないと思いますけど、やっぱり強さを求めているんじゃないかしら
教授 単純に肉体的な強さではなく精神的な強さも含めて男性に頼りたいという心が女性にあるんだろうね
憂子 最後は頼ってしまう女性のほうも良くないと思いますが
鬱男 でも頼ってもらえばうれしいんじゃないかな
憂子 でも今の男の人は頼り甲斐はないわね
鬱男 うーん、駄目かな?
教授 こらこら、君の話をしてるんじゃない。まあ簡単にいえばオスの強さが「男らしさ」の基本なんだろう。でも「一姫二太郎」って言葉を知っているかな
鬱男 聞いたことはあります
教授 そうか、でもこの言葉は最初の子供は女の子で次が男の子の方が育てるにはいいって事なんだぞ
鬱男 ええっ、そうなんですか。ずっと女一人に男二人のことだと思ってました
教授 この言葉は、まだ育児の経験のない親にとっては丈夫で多少のことでは病気にならない女の子で育児を経験しておいてそれから病弱で育てにくい男の子を産んだ方が楽なことからきてるのだ
憂子 男の子は病弱なんですか
教授 うん、そうだ。男の子はすぐ熱を出すし、病気にもかかりやすい。実際昔は良く死んだものなんだ。
憂子 どうして女の子のほうが丈夫なんでしょうか
教授 それはやはり女性が「子を産む性」だからではないかとワシは考えている。実際お産の時の痛みは男では我慢できないと言われているように、女性の方が痛みに対しても強く出来ていると思えるね
憂子 忍耐強いかもしれませんね
教授 ストレスで入院したり、仕事を苦にして自殺したりするのも大体男の方だね。精神的な面でもはるかに女性の方が強いと言えるだろう
憂子 でもそうすると「男らしさ」ってなんですか
教授 勘違いだな
憂子 はっ!
鬱男 勘違い、、ですか
教授 おお、そうだ。じゃなければ無理強いだな
鬱男 無理強い、、ですか
教授 本来は弱い生き物であるところの男に強くあらねばならないと教え、求めるのだから間違った考え方だと言わざるを得ない
鬱男 強くなくてもいいんですか
教授 もちろんだ。強くなる必要なんかこれっぽっちもないんだ
鬱男 でも、それじゃ女の子に嫌われちゃうんじゃないんですか
憂子 まあ好かれはしないでしょうね
教授 ちがーう、そうではない。大切なのは「自分らしさ」なのだ。他人から強要された価値観で自分を縛っていては本当の「らしさ」は永遠に手に入らないことを知るべきなのだ
憂子 自分らしければ女性にもてなくていいって言うんですか
教授 そうだ。いやっ、そうではない。もてないのはワシも困る。
そうではなく、弱さを認めたことで人はもっと強くなれるとは思わないかね。無知なるを知る、これを知という。分かるかな
鬱男 自分は何も知らないってことから始めるわけですね。ということは自分は何者か分からないってことから始めればいいわけですね
教授 うーん、ちょっと違うが、まあいい。少なくとも自分はそんなに強くないと分かったなら、強くなる可能性も見えてくるだろうし、自分がちょっとは見えたってことじゃないのかな
憂子 なんだか、当たり前すぎて教授の授業じゃないみたい
教授 何?なにを今さら言っているんだ。読んで楽しい、見て可笑しい。ついでにちょっと得した気になる。これがワシの授業のポリシーなのだ
憂子 はい、はい。分かりました。それで結局自分らしさを見つけるにはどうすればいいんでしょうか
教授 考える
憂子 はっ?
鬱男 何をどう考えるんですか
教授 答えがでるまで考える
憂子 だからどう考えるんですか
鬱男 まさか、答えが分からないわけじゃないですよね
憂子 まさかねぇ。あれだけ偉そうなこといってたんだから
鬱男 君たちは、君たち自身に与えられた問いに対して他人から答え探しの地図を得たいのかね
憂子 別にそういうわけじゃないですけど
教授 いーや、そうだ。結局他人から与えられた答えで満足したいんだ
憂子 そうじゃないですけど、なにかヒントがあってもいいと思います
教授 ほーらみろ。やっぱり、答えを教えてもらいたいんだ。
そうではない。答えはもしかしたら無いのかもしれない
鬱男 ええっ、無いんですか
教授 大袈裟に驚かない。こっちが驚く。
無いかもしれないと言っただけだ。もちろんある事も十分考えられる。
しかし、見つからないかもしれない
鬱男 ええっ、見つからないんですか
憂子 見つからないなら無いのと同じです
教授 いや、そうではなく
憂子 いいえ、そうです。見つからないなら授業料返してください
鬱男 授業料は返さなくていいですから、答えを見つけてください
教授 そんなもんは自分で見つけなさい。授業料も返さなければ、答えも見つけない。答えがあると確約もしないのだ
憂子 開き直りですか
教授 そうではない
憂子 じゃ、詐欺です。ペテンです。インチキです
教授 しかし、相変わらず君はキツイなー
憂子 はい、よく言われます。これが「あたしらしさ」です
教授 確かに君らしい。たいしたもんだ、その若さで自我を確立している。自分をしっかり持っている。我が強いのはいかにも君らしい
憂子 ということは、私は既に自分を見つけているってことですか
鬱男 ほんとだ。ゆうちゃん、凄いよ
教授 確かに見つけているのかもしれないなあ。しかし、それに満足してはいけないよ。自分の弱さが分かった時に初めて人は強くなれるのだから
鬱男 ええっ、ゆうちゃんにはこれ以上強くならないでほしいなぁ
教授 ま、そういう意見もあるな
鬱男 そうですよ、これ以上強くなったら
教授 確かに今より強くなったら、、嫁のもらいてが
憂子 二人とも調子に乗り過ぎです
答えは一体どこにあるのか? それとも無いのか? 分かった人がいたら教えてください、と教授が言ったとか言わないとか

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第七話 「奢りとたかりの関係」

教授 今日は「おごり」と「たかり」について
鬱男 おごり、と、たかりですか
教授 そうだ、まずは「奢(おご)り」について
鬱男 そうですねぇ、やっぱりいつも割り勘というわけにはいきませんね
教授 やっぱりいかんか
鬱男 はい、少なくとも本命の娘(こ)には
教授 しかし、それじゃ本命が複数あったら財布がもたんだろう
鬱男 本命は一人ですよ、教授
憂子 あの、今日は割り勘の話なんですか
教授 いや、もちろん違う。実はかなり前からこの「奢る」「奢られる」の関係は男を考える時に重要なキーワードなのではないかと思っていたんじゃ
憂子 それで
教授 そこで、今日はみんなとじっくり考えてみたいと、こういうわけだ
鬱男 奢るのは男性で奢られるのは女性、なんじゃないですか
教授 おおっ、奢るのは男か
鬱男 はい、少なくとも僕は奢られたことはありません
教授 一回もか?
鬱男 はい、記憶にありません
教授 そうか? でも先輩に飯を奢ってもらったことぐらいあるんじゃないかな
鬱男 ええっ、まあ。そういうことなら、、、でもあれは、ちょっと違うと思うけど
教授 つまり君にとって「奢る」「奢られる」の関係とは、男女間に限定されるわけだ
憂子 やだー、そうなの? もう奢ってもらうのよそうかな
教授 なんだ、君は彼に奢ってもらったことがあるのか
憂子 ええっ、何回か
教授 ということは彼は君と「奢る」「奢られる」の関係になりたいわけだ
鬱男 きょ、教授、変な言い方はよしてください。あくまでも友達としてです
教授 まあ、そういうことにしておこう
鬱男 決して変な意味で奢ってるわけじゃないから。誤解しないようにね
教授 エヘン、授業中は私語を慎むように
上司が部下に奢る。先輩が後輩に奢る。同級生同士だって、金があるやつがないやつに奢る。ほら、ほら、うっ君。幾らでも例はあるぞ
鬱男 ええ、確かに言われればそうです
教授 しかし、何も注釈を付けなければこの中の大部分がうっ君と同じように考えたんじゃないかな
憂子 男と女の関係とは思いませんが、私もまず自分が奢ってもらったことを思い出しました
教授 先ほどの例を見れば分かるが、この逆の立場で、例えば部下が上司に奢るといったことは普通は考えられない。これらの関係は全て上下の関係になるのだ
鬱男 ということは男と女も上下の関係だって言うんですか
教授 そうは言わない。そうは言わないが、いつも割り勘では何故いけないか?
とは思う
鬱男 でも、けちだと思われたくないし、、それに
憂子 それに、何?
教授 付き合ってくれないし、だろ
憂子 ひどい! そんなこと考えてるの
教授 そりゃそうだ。それが、現実・事実だろう。
ここに「奢り」についてのあるアンケートがある。例えばある女性は、「本命にはあまり高いものはねだったりしない。いざっていうときに金欠じゃ大変だもの」と答えた
鬱男 いざって時?
憂子 結婚する時ってことじゃない
教授 まあ、そうだろう。つまりこの娘(こ)の場合はどうでもいい、本命以外からはふんだくれるだけふんだくってやろう、と考えておるわけだ
憂子 それは極端な例だと思います
教授 いや、そんなことはない。事実あの時だって。そうだ、そうに違いない。
だから、あんなに高いものを欲しがったりしたんだ。そう思うとワシは悔しくて夜も眠れない
鬱男 もしもし、教授
教授 甘い声を出すからこっちはすっかり浮かれてしまって
鬱男 もしもし、教授
教授 それなのに腹の中ではこんなことを考えていたのか、チキショー
鬱男 もしもし授業中ですよ、教授
教授 ああ、すまぬ。ちょっと昔のことを思い出してしまった
鬱男 色々辛いことがあったんですね、教授も
教授 エヘン、とにかく授業だ。
「対等でいたいから普段は割り勘でいたい」という答えもある
憂子 そうでしょ。みんなそんなにがめつくないですよ
鬱男 でも、「ここぞって時にはやっぱり奮発して欲しい」って続くよ
憂子 まぁ、ねぇ、たまにはねぇ…ホホホ
鬱男 やっぱり、金だよねぇ…トホホ
教授 まあそうがっかりせず。お互い頑張って、生きていこう
憂子 授業に戻りません
教授 そうだな、そうしよう
鬱男 上下関係で男生と女性を説明するのは無理があると思うのですが
教授 ああ、無理があるだろう。しかし、例えばコンパ一つ取っても女性の会費が安いことに疑問を持つものはおらんだろう
鬱男 最初はそんなもんなのかなあって思いましたが
教授 違和感はあったんだろ?
鬱男 確かに、そんな気もしますね
教授 そうだろ、君も少し分かってきたじゃないか
鬱男 はぁ ^^;
憂子 でも、お酒もそんなに飲まないし食事だって
教授 甘い、君は本当に甘い
憂子 どう甘いんでしょうか。
教授 今時の女性は男性と変わらん。実際、君はワシより酒も強いし食い意地だってはってるじゃないか
憂子 ちょっと待ってください。食い意地がはってるってのは失礼じゃないですか。確かにお酒はそんなに弱くはないけど、、、
鬱男 酒が弱い人は男にもいますよね
教授 まあ、一概には言えないってことだな
憂子 二人とも私の話を聞きなさい。食い意地がはってるってのは、、、
昔から金が絡むと話はややこしい。奢る男と奢られる女。続く

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