更新日記 (67)
3月 3日(水) 桃の節句/短編2編/NetHack
3月 7日(日) その後のNetHack/武者小路実篤「友情」
1999年3月 3日 (水)
3月です。桃の節句です。
我が家には、家のキャパシティに似合わず、結構立派な雛壇飾りがあるので
すが、ここ数年来まったく出したことがありません。雛壇を終い遅れると、結
婚が遠のくという話を聞いたことがあります。出しもしなかった場合はどうな
るのでしょうか。虫やらねずみやら食われていないことを祈るばかりです。ち
なみに3月3日は上の妹の誕生日でもあります。
***
以前、某所への投稿用に書いた短編を二編、アップしておきます。
MY ARTICLEの中に、収めておきましたが、なんとこのコーナー一年ぶりの更
新。考えてみるとまとまな小説というのはそれだけ長いこと書いたことが無か
ったことになります。
どうしてもネット上では、パロディものの方が需要があるので、そっちを書
いてしまいますが、本心で言えばオリジナルで勝負したいところ。しかし、パ
ロディに一度手を染めると厳しいことがこの上無い。
もし、単純に何かものを書いて、他人が喜んで自分も楽しめるものを書くな
ら確かにパロディはお勧めです。どんなに陳腐な内容であっても、それは読ん
でくれる読者がいます。それもかなり好意的に。
けれども、オリジナルのものは世界観やら何やらすべて自前。合う合わない
は人によってかなりはっきりします。それをごり押しで、自分の世界に持って
ゆける人のみが「読める」作家になるということです。
私の場合、これが弱い。はっきりいって地味。うっかりするとすぐに手垢の
ついたありきたりのものになる。以下にあげる二編もその例外では無いかもし
れません。
「高等時代」
「男の生き様(いきざま)」
前者は、ちょっと陰気なシリアスSFもの。後者はややコミカル&シニカル
なテンポの早い作品。書いたのは1月なのですが、今日は幾つか修正した上で
HTML化しました。
自分の書いたものというのは不思議だ。何回も読み返して、「これでよい」
と力いっぱい思える時もあれば、まったく心に何も感じなくって、ひどい駄作
に見えてしまうこともある。それでも、目に触れられないよりかは触れられた
方がよい、と思い公開します。一言でも感想ございましたら幸いです。
***
NetHackをちょっとやってみている。
知る人ぞ知る、フリーウェアのRPGである。「トルネコの冒険」や「風来
のシレン」の元ネタとなったゲームと言ったほうが通りがよいかもしれない。
ゲームを始める度に新しいマップが、作成され、セーブは一度きりのみ。そ
れも一時中断して、再び時を経て再開するための機能で、基本的にはキャラが
死んだらそれでおしまい。その癖、キャラはさまざまな原因で実にあっさりと
死にまくる。
元々は、アメリカは大学のUNIXで開発されたゲームという。したがって歴史
も古く、オリジナルのバージョンはマップもキャラクターも全て文字。これは
これで、極度にストイックであり、ファンも多いという。
各種バージョンが存在するらしいが、私がダウンロードしたのは、それをや
やドラクエ風にタイル表示した、日本語訳版。無論これも有志による、フリー
ウェアになっている。通称JNetHack。
操作は慣れるまでが大変だ。
テンキーがあり、NumLockがかかっているキーボードならば、そのテンキー
でキャラを移動できる。ペットが一匹、ついて回るが、それを主人公が直接支
配することはできない。
行うことができる動作は多岐に渡り、覚えなければいけないコマンドは山ほ
どある。とりあえず今覚えたのは、
テンキーで移動。戦闘は体当たりすれば自動的に判定。
@を押すことで「触ったもの全てを所持品にする」かどうかを、切り替えら
れる。これをOFFにした時は、「,」キーで所持品を拾う。
アイテムを全て表示したい時は小文字の i(item)。
物を捨てる時は d(drop)。
分からない時はとにかく ? をつけてゆく。
ドアを開けるなら o(open)。武器をつけるならw(wear)、鎧ならW。武器を
投げるならばt(throw)、鎧を脱ぐならT(Takoff)ということになる。
鍵がかかっているドアや宝箱はk(kick)、もしくは「コントロールキー+d」
(destroy ?)。
行き止まりにぶつかったらs(search)をひたすら押す。体力を回復するには
時間が経つのを待つしかない。動き回るか、「.(ドット)」を押す。もっと
もその間に、敵が来て1秒で死亡ということも何度もあるが・・・。
巻き物や呪文の書はr(read)、呪文の書を読んで覚えた魔法は、z(zap)で使
用可能。ちなみに飛び道具は上のt(take)でなげたり射撃できる。
***
覚えようとしても覚えられそうも無いので、とにかく体当たり的にどんどん
再ゲームをくりえすも、結果は死体の山ばかり。しかし操作性はいいのでつい
「一回だけ」とやってしまう。まずい。
レビューにするとまた大変そうなので、今日はこれで。非常に軽いソフトな
ので興味ある方は実際にダウンロードして遊んで見てください。
■The WitHack Project - What's New
実際のプログラムが入手できます。完全テキストのオリジナル版よりも、や
はりある程度はグラフィカルな方が望ましい。このページも参考にみておくと
よいかもしれません。攻略のためのヒントやリンク集があります。
(6:08)
1999年3月 7日 (日)
密かにこのファイルから、スタイルシートを利用して、行間を少し空けてあ
ります。指定幅は現在135%。あまり空けすぎるとスカスカなイメージになって
しまうし、このあたりのバランスは難しい所です。
***
上記のNetHack、さすがに中毒性が高そうなので、自主的に挫折することに
しました。とにかくすぐ死んでしまうので、EXPLORERモードというのも試して
みました。これは、死んでも、すぐに全ての値が最高値になって生き返るとい
うモードで、どんなに無茶をやっても大丈夫。
の、はずなのだが、めちゃくちゃに強い怪物数匹に囲まれて死ぬと、レベル
が低いものだから、生き返った所でなかなか相手は倒せやしません。そして、
すぐ死ぬ。生き返る。でも倒せない。それでもありったけの攻撃、武器も、巻
き物も使いまくり、数十回もの死と再生を繰り返してやっと逃れることができ
るようになる。
これは地獄である。
生きてゆくことの辛さをしみじみ感じてしまう。
ドラクエ日記の方で、さんざんそんなことを感じたせいもある。
ということで、辛い気持ちになって、止めることにした、ということです。
考えてみると「風来のシレン」や「チョコボのダンジョン」で、そんな無常
感を味わったという話は聞きません。ゲームバランスがよろしいのでしょう。
今更ならにHackの言葉の意味を考えてしまいます。
クリアした時には喜びはあるのでしょうか。大学のサーバーにそのNethack
を入れて、クリアした時の記録などをホームページで公開している所もありま
す。それを見る限り、インチキモード無しでクリアした方は確かにいるような
のです。恐ろしいです。どんな風にやっていくのでしょうか。きっと、必勝パ
ターンのようなものが幾つかあるのでしょう。でなかればやってられません。
***
武者小路実篤の書いた「友情」を読む。
高校3年の妹が借りてきた本である。受験期に何を、とも思うが、彼女曰く
それも試験対策なのだという。
しかし、数日前には夏目漱石の「こころ」を私の本棚から借り受けていた。
その解説に武者小路実篤の友情について軽く触れてあった。おそらく、ここで
名前を知って、図書館に行った時に借りてしまったのであろう。
「友情」とはどういうストーリーか。
以下、ネタバレになるので、読みたく無い方は、ページの上に方に戻って、
次の日付の所へリンクで飛んでください。
・・・よろしいですか?
***
一言で言うと、好きな女性にふられ、その上尊敬する主人公の友人と彼女が
くっついてしまう、という話である。
よくある話、と言えばそれまで。
しかし、なんとも読んでいて叫びたくなるのは、後半、主人公の元に雑誌が
送られてくるあたりだ。主人公も友人も作家なのである。友人の方は既にそれ
なりに名が売れており、主人公もまた少しずつ認められつつあるという状況
だ。
雑誌には、主人公が好きだった女性(といっても16、7らしい)と、友人
との往復書簡が掲載されている。それは、彼女の友人に対する猛烈なアタック
ぶりと、友情との狭間でゆれる友人の返事をつづったものだ。
彼女は言う。
「あの人の気持ちが私にはまったく響かないのです」
「はっきり申し上げてありがた迷惑なのです」
「私のあなたを思う気持ちをどうして分かってくださらないの」
「あなたが申すように、たしかにあの人(主人公)が尊敬すべき人であるこ
とは分かります。しかし、どうしてもそういう(結婚または恋愛)相手には考
えられないのです。あの人と結婚するぐらいならば**さん(主人公と友人が
めちゃくちゃにけなしていた、彼女に言い寄っていた男)と結婚します」
「私はあなたと結婚して、あなたの子どもを産みたいのです(恥ずかし
い)」※カッコの中は原文ママ。
好き好きだーい好き。ラブラブなの〜・・・・・・。
雑誌は、友人の手紙と共に送られて来る。
真実を知ることによって、かえって君の文学は成長するだろう、うんぬん。
まあ、いい。
好きだった女性が友人のことが好きで、結局、その女性と友人ができてしま
った。そういうこともあるだろう。
しかし、なぜに雑誌に掲載するのだ??
つまり、それは友人の作品ということだ。彼女はそれを承諾したのだろう
か。
したのだろう。
だが、それは一体どういう意図で。
もし、友人が、自分と彼女の間のことについて変に思い悩むよりも、事実を
知った方がよいと考えたとして。事実、小説の中でもそう言われているのだ
が。
それならば、その手紙を直接友人に送ればよいのでは無いか。
複数の人の目にふれさせる必要性はどこにあるのだろうか。
もし、自分の好きな女性が、その間をとりもっていた友人とできてしまった
としよう。元々その女性は自分のことなど眼中無かったとしよう。女性は、猛
烈なアタックで、友人は陥落されたとしよう。女性がその時自分のことをけち
ょんけちょんに言っていたとしよう。OKだ。事実なのだから。
でも、その二人がやりとりしたメールが、実名入りで、ホームページ上で公
開されていて、しかも結構カウンターなんかが回っていて、友人から「真実を
知ってもらいたい」とURLを書いたメールが送られてきたら。
刺す。
そんな殺意が一瞬でも生じない、などとは絶対言えない。
友人のメールの中に「それでも君とは友情を交わしたい。今は無理で
も・・・」と書かれてとしても。なぜにホームページを一般に公開して、なお
かつYahooとJOYにまで登録したのだ、などと疑問符の嵐に埋もれてしまうだろ
う。
文学者、であるならば、体験を昇華(消化?)させ、それをフィクションの
中で描くべきでは無いか、とも思うのだ。事実を、本当の意味で事実のままに
書くことは不可能に近い。同じ文章であっても、それは提示の仕方一つで意味
が変わる。私は、一般公開した友人の中に、それを作品にすれば「受ける」だ
ろうという暗い闇な考えを感じて仕方がない。それだけでは無いにせよ、その
ことについて触れていない友人のメール(手紙)に、恐いものを感じる。事実
の文章をそのまま載せることはかえって真実の何かを隠すため、もしくは避け
るまてでは無いか、とうがって見てしまうのである。
解説の文章があった。
どうして、主人公は、女性に嫌われたのか、という分析がある。
いわく「彼は、対象をあまりに理想化しすぎ、自分を彼女に尊敬される人間
になろうと思うばかりで、彼女のありのままを見ようとはしていなかった。ま
た結婚の対象とばかりに思い、女性とのつきあいをその範囲でしか考えていな
かった」
しごくもっとも。その通りだ。私も、主人公の性格に嫌悪するものがあった
し、それは武者小路氏もあえて意図して描いたところなのだと思う。ちなみ
に、年表によると武者小路氏は失恋をしたことによって文学を志すようになっ
たのだという。自分を対象としてつきはなして見ている部分もあっての「自伝
的小説」なのだろう。
それでも、このことで「何くそ」と立ち上がろうとする主人公に、素直に感
情移入することに私はためらう。
物語の登場人物を一つの要素、と考え、物語はその要素と要素のぶつかりあ
いの姿を描くものだという見方がある。
主人公は、猛烈な恋愛熱におかされている。独善的この上ない状態だ。友人
はそんな主人公を見て「僕にはそういう感覚が分からない。だから苦しまない
のだが、君がうらやましいよ」と言う。
そんな友人は、主人公のさらに上を行く、恋愛熱にうなされた女性と結ばれ
てしまう。友人は、そういう意味では、主人公の持つ熱烈恋愛の要素を受け入
れることになる。「あなたは嘘を言っています。あなたは私のことを愛してい
るのです」などとメール(手紙)に書いてくるような女性と結婚してしまうの
である。
友人=理想、女性=理想、主人公=現実という要素で見た場合。
女性は、実は主人公の現実という要素を持つことが明らかになり、理想(友
人)と結ばれる。その時、もう一方の現実である主人公は痛みを感じている。
この上もなく。
だが、その理想。
その理想の人は、雑誌に自らのプライバシーを売ってしまうのである。
それが悪いとは言わない。私小説、大いに結構。自分を投影することもでき
ない作品はまずつまらない。
けれども、そこに作家として認められたいという、理想というよりいやらし
い感じの欲望もあるのである。なぜいやらしいかと言えば、理想の人は、その
ことを語らないからである。理想の人(友人)が、自分の、売れたいという欲
望(認められたいという欲望)について自覚的であり、そのことも最後の手紙
に告白していたら、いやらしさは消え、ストレートな何かが残ったと思う。
そんなわけで、文学史で見た武者小路先生がどういうものかを知ってしま
い、ふうとため息をついている次第である。
***
が、同時にこうも思った。
「もしかしてこれってエヴァ?」
そう、何か嫌悪を感じるのだけれども心動いてしまうという感じ。
自虐的なように見えて、こっそり自己肯定をどこかに入れてしまい、しかも
それがちょっといやらしかったりするあたり。
ということは、読めばそれなりの面白さもあるということ。
好きではないけど、人には読ませたい。暗い欲望は私にもある、ということ
であったりする。
みなさん、読んでください。
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