はじめに言っておきますが、私はごみ屋敷の専門家ではありません。
医学とごみ屋敷は無関係に思われるでしょう。しかし、これを研究した論文は存在するのです。
医学新聞でも見たことがありますし、最近も目にしました。
マスコミは、皮相な正義感からごみ屋敷の主人に突撃取材をかけ、責任追及をしばしば報道します。
しかし、医学の立場から見れば、あまりにも愚かなことです。
吐き気をもよおす様な汚い画像を昼食時に見せ付けて、正義感を振り回し、怒ってみても解決は無いのです。
脳梗塞で足が不自由な人に、歩き方が下手だと非難する人はまずありません。責任追及をする人もいません。
同じことなのです。
不用品を集めてきて、うず高く積み上げるのは老人が多いのです。 これらの老人の脳を調べた論文は存在するのです。最近は解剖せずに、脳の変化が詳しく解るようになったのです。MRIの成果です。
たとえば、アイオワ大学のSteven W. Anderson博士らは,異常な収集行為と局所脳損傷との関連を研究し発表しています。
ごみ屋敷の定義もなされており、(1)過度の収集(2)無用なものの収集(3)通常の活動の妨げになる収集(4)脳損傷後の収集開始(5)異常な収集行為を改めることへの抵抗です。
そして、他の脳障害と比較して、特定の部位に障害があるとごみ屋敷が出現すると発表しています。それは前頭前皮質の変化です。
全体が均一に広く傷害されるとかえってごみ屋敷は起こりません。
他にもドイツで同様の発表があったと記憶しているのですが、探しても文献が見つかりませんでした・・・。
特定の脳の判断力の消失がごみ屋敷の原因である。これが「医学から見たごみ屋敷」です。
脳損傷後が研究しやすいためであり、はっきりした脳損傷・エピソードが無く、はじめからそれのみが発症することは多くあります。たいていのごみ屋敷はそうでしょう。きわめて小さな脳梗塞等が考えられます。
つまり、突撃取材で押しかけ、本人をつるし上げても何も解決しない。これが、私の判断です。マスコミと医師はこのようにまったくの別世界に生息しており、ほとんど正反対の判断をしているのが、ここからも理解できます。
ごみマンションは若い人にもよくみられます。片付けられない脳です。これはまた別の問題で、ごみ屋敷と同一には論じられません。不要だと判断する能力の欠陥かと思います。怠惰な性格・生育環境も影響しているでしょう。未来に不要だから捨てるというのは、確かに高度な判断には属します。動物では困難でしょう。動物は本来貯めこむ本能のみが発達していると考えられます。何でも捨てていては、生存できません。とりあえず、貯めておこうと考えます。
マスコミは責任追及が大好きです。正義を振りかざして、責任追及です。
マスコミのように、ごみ屋敷の住人を責任追及して、つるし上げても効果はありません。
そして、軽度の脳の障害だと考えるなら、責任追及などという無駄な行動は行わないでしょう。
病気の人にとって危険なところに近づきにくいように、周囲のものが工夫する。
合法的に定期回収が可能なように、法整備を行うなどの行動に向かうでしょう。
正義を振りかざし、ごみ屋敷の住人を説得や非難してもまったく無駄でしょう。怒りの感情など湧きようもありません。
ごみ屋敷のワイドショウなど見ているのは時間の無駄です。
患者さんで、私もこの手の人で薬を紛失するので困っています。治療に差し支えています。家族などに働きかけていますが、効果は少ないです。
薬の一包化、薬カレンダーを壁に貼るなどで対処しています。
保険証の紛失には、引き出しに大きな紙を貼り、「保険証」と記載します。片付けられないときの対策です。場所を決めるのが重要です。
念を押しますが、私にごみ屋敷の解決策を求めても、一切無駄です。
科学的に判断できても、学問的には解決法がないこともあるのです。
法的・制度的・社会的解決はもちろん重要です。強調したいのは、地域での取り込みです。(取り組みの間違いではありません。)
これはごみ屋敷ではありません。参考までに。
私も福祉事務所からとんでもない患者さんを依頼されることがあります。「私の金を盗んだろう。」と隣家へ包丁を持って押し入った老婆も依頼されました。もちろん認知症の物盗られ妄想です。若いころからの性格もあり、息子もまったく寄り付きません。近所で聞いても、それももっともだろうとの反応です。
対策は困難です。いつもうまくいくともかぎりません。最初から勝算があったわけでもありません。しかし、仕事なのでいやいや往診を行います。
マスコミのように押しかけて、「こんなことをしては迷惑でしょう。犯罪でしょう。」と突撃などしません。、突撃取材をかけて、責任追及し老婆を脅迫罪で罰して解決するでしょうか?
絶対に行ってはならない、医学的態度です。不安感や引きこもりがひどくなり事態が悪化するのです。
吐き気をもよおす様な汚い画像を昼食時に見せ付けて、怒ってみても解決は無いのです。
科学的に対処するものと、ヒステリックに責任追及するものとの差は大きいのです。
老婆に拒否されても、とっつきにくくても、話すことや処置が無くてもできるだけ頻回に訪問します。時間より回数です。社会的に対処する方法として、もちろんヘルパーさんやケアマネの力を借ります。デイサービス等に引き出せれば成功間近です。もちろん、抗不安薬や抗鬱剤も併用しました。
老婆に「頻回に(=常時)見守られている。」「善意の人が周りにいる。」という安心感が生まれてくると、問題行動はまったくなくなりました。
たまたまの成功例にしか過ぎません。いつもうまくいくとは限りません。繰り返しますが、法的整備、行政対応、保護サービス・地域の力・人間関係も重要です。
不安だけが原因ではありません。不安は悪化要因に過ぎません。もちろん、どうしても施設入所で対処しなければならなくなる場合もあります。この方も、長期在宅後に施設入所となりました。
年金や将来への不安が増大する小泉政権では、これらの症状は悪化します。将来が不安だから貯めこむ側面もあるでしょう。
マスコミは、倫理観・社会正義を振り回し、責任追及をしていただけます。しかし、私の行動はマスコミの突撃取材とは正反対の対応です。地道なものです。
わたしの言いたいことは理解できるでしょう。
本当にワイドショ―など見るのは人生の無駄遣いです。(見たからかけたのだろう・・・???)
他のマスコミの安物の責任追及の例
それによる巨大な被害
詐欺療法とテレビの関係 TBS
2006.8.1.
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