メキシコ旅行記

 

3月28日(火)

三文化広場にて。手前の溝のような部分がアステカの遺跡。

今日は昨日ホテルで申し込んだ観光ツアーに参加する日。9:30にツアーの案内の人がホテルのロビーまで迎えに来てくれる。サングラスをして口ひげを生やした陽気そうなおやじである。しかし名前は風貌に似つかずエンジェルという。マイクロバスに乗り、別の場所で別の一行と合流、自分を含めて5人のツアーになる。ツアー客は他にサンディエゴ在住の南米系アメリカ人の母と娘、それにスイス人大学生の二人である。アメリカ人の親子はスペイン語も話せるが、スイス人は話さず、ガイドを含めた6人の共通語は英語だったので助かった。

ツアーはまず、三文化広場(Plaza de las Tres Culturas)という場所にいく。ここはアステカ時代の遺跡の上にキリスト教の教会が建ち、さらにそのそばに外務省か何かの近代的なビルが建っているというもの。3つの時代の建築があるので、「三文化」なのだそうだ。教会のシンプルな内装と青色のステンドグラスが印象的だった。

近代的なグアダルーペ寺院

ポンチョを見上げる人たち

移動してグアダルーペ寺院へ。メキシコ人にとっては聖地とされるところだが、古い寺院の建物は傾いて危険とのことで、新しい、議事堂のような寺院が横に立っていた。建物の内部には、寺院の建立にゆかりのある「聖なるポンチョ」(もっとちゃんとした名前があるのだが忘れた)が中央部に飾られており、その足元には穴があいていて、階下に回るとそのポンチョ(額に入っている)を間近に仰ぎ見ることができる構造になっている。面白いのは、そこの床が4列の「動く歩道」になっていて、じっと立ち止まって見ることができないしくみになっていること。信者たちが4列の動く歩道に乗って、ナナメ上の一点をじっと見つめたまま横に移動してゆくさまは、見ていてなかなかこっけいである。

グアダルーペ寺院のあとは、いよいよテオティワカン遺跡へ。郊外へ出るハイウェイをひた走り、20分ほどで到着。しかし、いきなり遺跡には連れていってもらえず、まずは土産物店参りから。土産物店では、これまた英語の流暢なおばさんが、サボテンのいろいろな使い方(紙、糸、針、テキーラなど)を教えてくれる。それから、ありとあらゆる土産物の陳列された店内に案内されるのだが、自分は日本人のせいか、さっき説明してくれたおばさんがつきっきりで土産物の解説をしてくれる特別サービス。例によって、こういう場面ではきっぱり断るのに苦労する。

テオティワカン遺跡の一角、ケツアルコアトルのピラミッドの彫刻。この彫刻は復元ではなく本物らしい。

太陽のピラミッド

やはり登るはめになった月のピラミッド。

土産物屋参りもなんとかこなし、ようやく遺跡に向かう。入場門をくぐって遺跡の一角に出てみると、想像はしていたけど相当な大きさ。はるか彼方に月のピラミッドと太陽のピラミッドがかすんで見える。テオティワカンは、紀元前2世紀頃建造された、ラテンアメリカ最大の宗教都市国家だったが、この巨大ピラミッド群を建造したといわれるテオティワカン人の由来と滅亡は今もって解明されていないという。その謎の滅亡後、放置されていたこの都市を訪れたアステカ人たちは、荘厳なピラミッド群を見て、ここを神々が建てた都市と信じ、彼らの宇宙観である「太陽と月の神話」の舞台として祭り上げたのだそうだ。

まず、ガイドとともにケツアルコアトルのピラミッドというところへ行き、遺跡全体の説明を聞く。そこで聞いた説明で初めて知ったのだが、このテオティワカン遺跡の建築物は、80%〜85%が復元されたもので、オリジナルな部分は20%足らずしかないとのこと。なんでも、1905年からメキシコ独立100周年を祝う一環として復元されたものらしい。20%しか本物が混ざっていない遺跡を遺跡と呼んでもエエンカイ、としばし憤慨したが、まあ100年前に作られたものなら、遺跡とはいえなくともせいぜい史跡ではあるなと思って気を取り直した。

ケツアルコアトルのピラミッドをぐるっと見回って、ガイドはそこでバスに戻り、我々は1時間30分の自由行動。しばらくは5人で一緒に歩き、そのうちバラバラになって、自分は一人で太陽のピラミッドに登る。このピラミッドは、エジプトのものに次いで世界で3番目に高いピラミッドとのこと(もっtも80%〜85%はコンクリ製なんだが)。下から見上げると恐ろしく高く見えるが、実は65mしかない。しかし、標高がすでに2200mあって気圧が低いせいか、一昨日の疲労がまだ残っているのか、はてまた歳のせいか、半分登っただけで息が切れた。頂上になんとかたどりつくと、しばらく息が戻るまで景色も目に入らないほどだった。

落ち着いて、改めて景色を眺めると、確かに素晴らしい。特に月のピラミッドのシルエットは実に美しい。しかし、山の上と違って木陰もなにもなく、日射病になりそうだったのですぐ降りる。下山途中、日本人のおじさん&おばさんの一行に会うが、みんなはいつくばって死にそうな顔をして登っていた。ピラミッドの入り口に救急医療のブースがあったが、お世話になる人も多いのだろう。

太陽のピラミッドでヘトヘトになったので、月のピラミッドに登るのはやめようと思ったが、一休みしながら読んだ「歩き方」の説明には、「テオティワカンで最高の眺め。キツいけど、ぜひ登ってみて」などとおせっかいなことが書いてあり、仕方ないので登ることにする。しかし、こちらは太陽のピラミッドより低く、割とあっさり上れた。眺望は確かに良い。時間も迫っていたので、すぐ降りる。


月のピラミッド頂上からテオティワカン遺跡の全容を望む。左手に見えるのが太陽のピラミッド。

まんまとレストランの出し物に乗せられてしまった自分。

月のピラミッド近くの駐車場に14:30集合。ミネラルウォーターでのどを潤す。もう、これでツアーの見所は終わりなのだが、このまま帰してはくれず、すぐ近く(月のピラミッドの裏)のレストランに連れていかれる。5人で会話しながらの食事。スイス人の二人はこれからアカプルコやユカタン半島へ行くそうだ。サンディエゴの娘さんは、大学を出たばかりで、9月にはスペインに留学するらしい。このレストランは、スイス人がスパゲティを頼むと、コンロと材料がワゴンに乗って運ばれてきて、無理矢理シェフ帽をかぶらされて自分でソースを作らされるし、食後は各自ソンブレロをかぶらされてテキーラ一気飲みに挑戦させられるなど、良く言えばイベント盛りだくさんの、悪く言えば押しつけがましいレストランだった。ツアーの一環なので、料理は当然高い。

店を後にし、ようやく帰路に就く。もう16:00過ぎだったが、幸いハイウェイは混雑しておらず、あっさりダウンタウンまで戻れた。解散後、いったんホテルで休んでから、特に目的もなく街に出てみる。ブラブラ歩いていると、西へ向かう大通りに出くわし、つられて西へ西へとひたすら歩いてしまった。しまいには、同じ道を引き返すのが面倒になり、勇気をふるって帰路は地下鉄に乗ることにする。結局、ソナ・ロッサという高級繁華街まで歩き、そこで夕食を取って、地下鉄に乗る。

地下鉄のホームにて。この写真はこの翌日乗ったとき撮ったもの。当初は怖くてカメラなんか出せなかった。

さて、悪名高いメキシコシティの地下鉄である。話によると、リュックやズボンのポケットをナイフで切られ、中身を抜き取られるのはもちろん、悪質なケースでは、3人組くらいの男に車内のドアに押しつけられ、財布を取り上げられたりするそうだ。こないだのタクシーは何とかなったが、こんどこそ駄目だと思って、決死の覚悟で乗ったのだが、全然大したことなかった。車内では、ポケットに手を突っ込んで財布をガードしながらドアを背にしてへばりつくようにして立ち、乗り換えの時も、後をつけられていないか何度も振り返って確認しながら歩いたりしたが、はたから見ると自分の行動のほうがよほど怪しい人だったかもしれない。地下鉄の料金はたったの1.5ペソで、全区間均一。ホームは明るくてアメリカの地下鉄より安全そうだし、列車もずっと近代的でスマート。あえて言えば、車内はなんとなく狭く、ラッシュ時はスリや痴漢が出てもおかしくないだろう、というくらい。

全般的に、メキシコの治安について誤解していたようだ。


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