メキシコ旅行記
3月29日(水)
さて、ようやく博物館に入る。入場料は25ペソ。博物館の建築は、有名なメキシコの建築家の手によるものらしく、中央が吹きさらしになっていて、その周りを取り囲むようにコの字型に展示棟が、残りの一方に入口のある建物が建っている。その内庭に入ってすぐの屋根のあるところに、古代文明風のレリーフで飾られた巨大な柱が立っており、周りを滝のように水が滴り落ちている。よく見ると、この柱は笠の役割も果たしていて、内庭の手前半分くらいを覆う巨大な屋根をこの柱一本で支えているのである。屋根は相当大きなもので、50メートル四方くらいはあろうか。よく一本の柱で支えられるものだ。
これは、もちろん先住民の文明の熟度の違いもあるのだろうが、混血が進んでいるのも理由の一つであるようだ。昨日ツアーで三文化広場を回っているときに、ガイドに対して、「こんな歴史(アステカの神殿を破壊して、その石材を使って教会を建てた)に対して憤りを感じるメキシコ人の階層はいないのか」と、少しいじわるな質問をしたところ、ガイドいわく、そいういう歴史にみな悲しみは覚えるが、混血が進み、征服した者も、征服された者も、今や自分たちの体の一部であるとみんな感じているので、そういう対立は起きないのだという。もっとも、今でもメキシコの各地には先住民の言葉しか話さない国民がいるというし、メキシコでもっとも国民に尊敬されている大統領であるベニート・フアレスは、メキシコ史上唯一の先住民出身の大統領であるという。ガイドはああ言うが、(アメリカほどではないにせよ)少なからず民族や文化の対立の歴史があったのではないか思う。南米諸国を含め、ヨーロッパ人と先住民の融和と対立の歴史を比較してみるのは面白いだろう。
トルテカ室はあまり印象がないが、後で「歩き方」を読み直してみると、腹這いになっておなかに皿を抱えるポーズの奇妙な石像があったが、あれが「チャックモール像」だったのではないかという気がする。古代メキシコ文明に共通の慣習である、いけにえの人間から生きたまま心臓を取り出すという儀式で、その心臓を置いたといわれるところらしい。
アステカ(メヒコ)室はこの博物館のメインの展示室のようで、コの字型の建物のちょうど中央に当たっている。メキシコシティがかつて湖だったころ、その湖の上の小島にあったアステカ帝国の都テノチティトランの神殿の、これまた巨大な復元模型がある。そして博物館のちょうど中央には、博物館の入り口を見据える形で、有名な「太陽の石」が展示されている。照明の具合とその前の空間の広さのせいか、微細な彫刻がびっしりと施されたこの巨大な石には、何か魔力のようなものを感じてつい目が引き寄せられてしまう。
その後は、土産物を買おうと思って、ガイドブックに載っていたサンファン市場というのに行ってみる。駅を間違えて迷ったあげく、なんとかたどり着いたサンファン市場は、ごちゃごちゃとした金物や部品を売る商店街の中に突然現れる巨大な土産物センターだった。3階建てのビル全てが小さな土産物屋のテナントで埋まっていて、これは便利だと思って順に見て回ったのだが、なぜか驚くほど客がいない。ぐるっと回って見かけた客は4〜5人ほどだ。客の少ない土産物屋をのぞき見していると、当然入れ食い状態になる訳で、うっとおしくなってすぐ退散することにした。 ホテルにもどり、やることもないので、ホテルのフロントのチラシにあった近所のインターネット屋に行ってみることにする。インターネット屋というのは、要するにインターネットカフェのようなもので、オアハカでもメキシコシティでも、いたるところで見かけた。番地で見るとホテルのすぐ近く。はて、そんなのあったかな、と思いながら歩いて探すと、確かにその番地の前にはそれらしき看板がある。しかし、目の前の建物はどう見ても廃屋かスクラップ工場である。どうしようかと思ったが、意を決して入ってみると、事実1階はスクラップ工場か修理工場であった。インターネット屋があるのはその上の階で、薄暗い階段を恐る恐る上り、廊下を曲がってみると、そこには、まばゆいばかりの照明に照らされたピカピカの部屋に、15台ばかりのデスクトップPCがズラリと並ぶ、場違いなまでに見事なパソコン教室が現れたのである。どうやら、このパソコン教室のPCを、授業時間外にインターネットカフェとして貸しているというものらしい。1時間使用で30ペソ。ボストンや日本の友人にメールを書く。 夕食はホテルの近くの小さな食堂で取る。Alambreという料理を頼んだら、牛肉、ピーマン、タマネギを炒めたものが出てきた。トルティーリャにはさんでソースをかけて食べるのだが、こいつはなかなかうまかった。ライムを絞るとなおうまい。このところ食事で外してばかりいたので、これは久しぶりのヒットである。食っている最中に、ギター弾き語りのお兄さんがやってきたが、これまた歌声が素晴らしく、チップを10ペソあげる。すっかり良い気分で9:30頃ホテルに戻る。
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