アマゾンの河イルカ乗合タクシー

1ヶ月の長旅を終えて、対岸の町の空港につきました。あとは我が町行きの
船に乗るだけ。ここまでくると気持ちも入れ代わります。
毎回のことなのに、サンパウロから飛行機で来てベレーンに降りると
おっ、と思います。空港を埋める人達の顔が全然違うんですよね。
そして、ベレーンからこの町までくると、また少し違う。でも私はそれがほっと
するようになりました。サテ、靴は暑苦しいからゴムぞうりに履き替えようかナ、
という気分です。
空港から船着場まではタクシーに乗ります。きょろきょろとタクシーを
探していたら、どこかのおばちゃんに声をかけられました。どうやら相乗りの
交渉みたいです。はじめてのことで面白そうだし、そんなに急ぐこともなかった
ので乗ってみました。
そのおばちゃんは、7月の冬休みに息子を親戚のところへやっていて、
私と同じ飛行機で帰ってきたのを迎えにきたところでした。9歳か10歳くらいか
な、くるくるした目で一生懸命、この冬どれだけ楽しかったかを話しています。
「スゴイんだよ!田舎のほうにおっきな別荘が2つもあってね!」
まだまだ興奮状態。
今回は連れていってもらえなかったらしい弟は、となりでお兄ちゃんが
お土産にもらっってきた機内食の紙のバックをにぎりしめています。
お母さんに「夜は一人で眠れたの?寂しくて泣きべそかいてたんじゃない?」
とからかわれて、むくれてそっぽをむいてしまいました。
初めての一人旅。
私も小さいとき、車でほんの1時間しか離れていない親戚の家に
泊まりに行くのが大冒険だったのを思い出しました。行くときはどっきどき
なのに、帰って来るときはなんだかちょっと得意げになってるのはどうしてだろう。
あの子もそんな表情だった。もう、少年、という顔だった。
親の知らないところで大きくなっていくのかな。

もうひとりの相乗り客は、やたら大きなスーツケースを抱えた、見かけ16〜7歳の女の子。
私が日本から持ってきたものよりはるかに大きくて、相当長い旅をしてきたのかもしれない。
その女の子、顔立ちがどこか懐かしいかんじがして思わず見つめてしまったんだけれど、
そう感じたのはどうやら鼻がアジア系(敢えて特定するならベトナム。根拠はないけど)
のためらしい。
聞くと、お父さんがブラジル人でこの町に一緒に住んでいるんだけれど、お母さんが
スリナムの人だといいます。なるほど。
それで、今回初めてお母さんに会いに行ってきたのだと彼女はいいました。
スリナムはどんなところ?と訪ねると、ちょっと面倒臭そうに、でもついさっき
までのことを思い出すように語り始めました。
「緑がたくさんあって…ちょっと多すぎるわね。緑のほかに何もないのよ。
暑くてね、むしむしするの。大変だったわ…。」
そして、
「ここの方がずっといいわよ。」
そういってタクシーを降りていきました。初めて会ったお母さんとはどんなことを
話したんだろう。それについては全く触れませんでした。

ほんの30分ほどでした。
いろんなところにいろんな人生があるんだなぁと思いました。


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