ご存じの通り、ここブラジルには日本語の日刊紙がふたつあります。サンパウロ新聞とニッケイ新聞。以前はもうひとつあったんですが、だんだんと日本語が読める日系人が減ってきているので廃刊になりました。とはいえまだまだ一万部以上の発行数を誇ると言うことで日本語文化健在なりというところでしょうか。
リンスにはサンパウロ新聞の読者が多いので、日頃サンパウロ新聞はよく読みます。他の町に行ったときにはニッケイ新聞も読みますが。そのサンパウロ新聞ですが、まず一面は日本関係のトップニュースです。情報化社会の今となっては日本発のニュースがほぼ同時にここまでとどきます。そして二面がブラジル関係のニュース。よく汚職がらみのニュースなどが掲載されます。三面以降は日によって変わり、読者投稿があったり文化欄だったりします。また、各地のコロニア発の情報などがあり、リンスにも通信員をしている人がいるので僕が着任したときの歓迎会なども一月遅れででかでかと載ったりしました。
その後、二面ほどポルトガル語でコロニアのニュースなどを扱っていますが、これは最近日本語離れが進む三世・四世の読者を獲得しようと言う窮余の策ですが、日本語面にくらべて写真などが多く、日本人読者からしても「これじゃあ新しい読者は獲得できないんじゃないのかな?」と思います。それにくらべて雑誌「Made in Japan」などは全編ポルトガル語で、日本を知らない日系人にターゲットを絞っているので日本人の僕が見ても面白いです。
後ろから二番目、日本でいうと社会面にあたるところはこちらでも社会面になっていて、サン・パウロでの強盗の話などが載っています。
最終面は日本のスポーツを伝える面。プロ野球や大相撲の事などが載っています。面白いのが折り方。こちらでも新聞は日本と同じように折りたたんで配られるのですが、折ったときに一番上に見えるのが裏一面、つまりスポーツ欄です。日本だったら一応新聞社の顔ってことで一面が表に来るように折りますが、こっちでは一番読者が読みたいところが表に来るようになっているんですね。
さて、時代遅れと言われる日本語新聞ですが、それを必要とする人達がいます。コロニアなどのわりと閉鎖的な社会では自分たちのことばかりに目がいって、ブラジルのニュースなどあまり見ない人が多いです。とくにポルトガル語の苦手な一世や一部二世達の間ではブラジルのニュースを知るためにこの新聞を取っている人達もいます。とはいえ、日本語の需要は徐々に減っており、今は二紙ある新聞もやがて一紙になり、そのうちなくなってしまうのかもしれません。
という長い前置きは終わりで、実際に毎日新聞を読んでいると日系人が日本に向けている心がよく分かります。もしかしたら決していくことがないかもしれない国のことについてこうまで詳しく知りたいという気持ちはすごいです。きっと日系人の人達も新聞の中に遠い日本を見いだし、「自分はやっぱり日本人なんだ。」と再確認するのかもしれません。
しかし、そんな日系人の夢というか郷愁をあざ笑うかのような記事も載っています。この前の新聞には愛知県豊田市の保見団地の件が載っていました。ここは団地の十人のうち三割が在日ブラジル人という有名な団地です。他のブラジル人集団居住地と同じで生活習慣の違いや言葉の違いなどで地元住民などとトラブルがよく起こっており、そのたびにそのニュースが紙面を飾ります。また、日系人の少年達と暴走族との抗争についても書かれています。
日本語新聞は日系人の「俺たちはブラジルにいるけど、心の中にはまだまだ日本人の魂が残っているんだ」という主張を凝縮したような存在ですが、その人達に「でも日本に行けばブラジル人として扱われちゃうんだよ。」という冷や水を浴びせかけるような記事です。これを読んで、日本魂を誇りにする人達はどう思うんでしょう。自分が愛している日本からは愛されていないという現実を受け入れるのは難しそうです。この問題は「日本人は冷たい。もっと外国人を受け入れないといけない!!」という単純な問題ではなく、日本とブラジルという二つのアイデンティティーのなかにいる日系ブラジル人そのものの問題でもあるようです。