日本でちょうど盆休みの真っ最中。8月14日15日で釣りに行って来ました。出発は14日朝五時。用の東西を問わず、アウトドアおじさんたちの朝は早いです。最低限の荷物だけ積んで集合場所に行きます。そこにはすでに荷物で満載になった車がちゃんと待っています。荷物で一番大きいのがボートの船外機。こちらではモトールって言うんですが、さすが釣りおじさん達、一人一台はモトールを持っているようで、全部で三台のモトールがあります。その次に大きいのが食料。これまたさすがブラジル、夜のシュラスコ用の肉のかたまりやビールのケースがドンとならんでいます。さらに驚いたのは集合したガソリンスタンドで、氷の塊を売っていてます。これはビールや肉を冷やすのに最適。何事も豪快に遊ぶブラジルって感じです。
とにかく僕の周辺のブラジル人は釣りが大好き。仕事をリタイヤしたおじさん達は週に三回も釣りに出かけています。また、週末になると橋の上には釣り竿を持ったおじさん達がならんでのんびりとお話ししながら糸を垂れています。一緒にいったおじさん達ももちろん大好き。最近こそ仕事とか家庭のことでそれほど頻繁に行かなかったようですが、若い頃は会社を休んでぶっ続けで行ったそうです。もちろん天敵は奥さん。なかには奥さんも釣りをする人もいますが、たいてい「あんたまた釣りに行くの!仕事は!ちょっとは子供と遊んでやろうって気がないの!」という罵声と冷たい視線を浴びて家を出たそうです。
さてさて、そんなおじさん達で満載の車はまだ夜も明けぬ道を北へ北へと進みます。今回の目的地は日系移住地では有名なアリアンサ農場の近くにあるファゼンダ・ホテル。ファゼンダってのはこっちの農場のことで、川で釣りをしたり馬に乗ったりそういった遊びのためのホテルです。おじさん二人に運転してもらい、僕は熟睡。起きたときはもうホテルの目の前でした。
さてホテルに着いたんですが寒い!前日まで30度も越えるかというような猛暑で、一転して急激に冷え込みました。後で分かったことですがその日のサン・パウロ北西部の最高気温は15度ぐらいで、日頃の暖かい気候になれた体にはちょっと寒いです。なんといっても暑いと思っていて防寒着を持ってきていない僕にはこたえます。それにくわえて強い風。「う〜ん、釣りすんのかなぁ」という軟弱な僕の思いとは裏腹におじさんたちは喜々と準備をします。基本的にホテルで貸してくれるのはボートのみ。モトールや食料、釣り竿なんかは全部持参です。
バタバタと準備も終わり、ボートでこぎ出します。今回の釣り場は川ですが、日本の川と違って川幅も広くちょっとした湖みたいな感じです。そして風が強いため波も高く、上下にはげしく揺れながらボートは飛ばしていきます。今回のポイントは本流から少し入ったところにある入り江みたいな所。そこには水没した林があり、ちょうど魚が住むのに最適な場所になっています。ポイントにつくと着れるだけのものを着てさっそく釣りの開始。ねらいはトゥクナレです。トゥクナレは日本でいうところのブラックバスにあたるようなゲームフィッシュです。ブラックバスと同じように付近の小さい魚を食べて生息しておりこのあたりの食物連鎖の頂点にいる魚です。ただ、食べると言ってもピラニアのように鋭い歯でかみちぎるのではなく、大きな口で丸ごと豪快に飲み込んでしまいます。この性質を利用してルアーでの釣りも盛んです。でも今回はランバリという小さな魚を使って捕らえます。
隣のおじさん達はさっそく釣りはじめてます。そして最初のヒット。う〜んうらやましい。僕の方は仕掛けを作るのに手間取りなかなか糸を垂れることができません。まあなんとか仕掛けを作って「ここだ!」とねらっていたところに飛ばします。適度に沈んだところでちょっと引いてみると、トゥクナレが気づいたようで軽いあたりがあります。よ〜し逃がさんぞ〜っとちょっとゆっくり引くと来ました!!ガツンというあたりです。こっちも負けないようにグ〜ンと引っ張って針を引っかけます。後はこっちのもの。とはいうものの、トゥクナレはどう猛な魚だけあってすごい力で竿を引っ張って楽しませてくれます。右や左にグングン引っ張る中を豪快に巻いていくと来ました来ました元気の良さそうなトゥクナレです。つり上げてみると25センチぐらいの中ぐらいのやつですが、大きさの割に引っ張る力が強く、さすがゲームフィッシュという感じです。こちらのどう猛な魚ではもちろんピラニアが有名ですが、トゥクナレはピラニアと違ってほとんど歯がないので針を取るときも安心です。
今日はポイント選びがよかったらしく、結構かかります。さすがに入れ食いと言うほどではありませんが、緊張感を失わない程度にはかかってくれます。天気の方は一日中曇り模様で寒いんですがそれなりにかかるとそんなことも忘れてしまいますね。結局体に補給したのはビールだけで、何も食べることなく夕方までつりましたが、この日の五人の釣果はトゥクナレ20匹。寒い一日にしてはまずまずの成績です。そのうち僕がつり上げたのが6匹で、まあ熟練のおじさん達の中で大健闘と言うところでしょう。
釣りも終わってホテルに帰るんですが、これが大変でした。朝方よりも風はいっそう強くなり、波も高くなってます。その中を風上に向かうのでもろに波しぶきをかぶってしまいます。防水の服も着ていないので徐々に体にしみこんできて、そのうち下着まで濡れてきました。でもこんなとき、山に登ったときの経験が役に立ちましたね。全身びしょぬれで気温15度の強い風を受けていたんですが、山ではもっとひどい状態になったことが何度もあるのでわりと気楽でした。どうせホテルに着いたら着替えはあるんだしと思うとなおさらです。ただ、一緒にいるおじさん達はみんなブラジル育ちでそんな寒さをあまり経験していないようでさすがに寒そうでした。
さてやっとホテルにたどり着きました。ホテルといっても自炊のバンガローで、寝室とシャワールームが二つあります。おじさん達は部屋につくとさっそくシャワーに入ります。こちらは寒くはないけどなぜか眠いので濡れた服を着替えるとベッドに入ります。そしてシュラスコのいい匂いとともに起こされます。シュラスコ用の焼き肉台は外にあるんですが、さすがに今日は風も強く寒いので室内です。それでもシュラスコはうまいっす。この四ヶ月何かあるたびにほとんど毎週食べてますがいまだに全然飽きません。おなかいっぱい食べさせてもらった後、夕食の準備をさぼった罪滅ぼしに後かたづけを手伝うと、たくさんのビールやカイピリーニャのせいか、またまた眠くなります。
気がついたら翌朝です。ボーっとした頭でテレビを見ていると、釣りの番組をやってます。う〜ん日曜の爽やかな朝の光景です。舞台はマット・グロッソ。ここはパンタナルや多数の川を抱えるところでブラジルの釣り師に言わせるとアマゾンなんかよりもよっぽど楽しい釣りができるところです。いろいろなところで釣りの話をすると、いつもマット・グロッソのどこどこで○○を釣ったという話になるところを見ると、ブラジルの釣りの聖地とでも言うんでしょうか。テレビの中では釣り師がルアーを使って上手にトゥクナレを引っかけてます。水面上をはねるようにルアーを動かすと、すごい勢いで黒い影が近づいてきてガツンと一発、あっというまに引っかけます。どうも撮影した日は暖かかったようで動きも活発なようです。昨日はわりとそこの方でトゥクナレをとらえましたが、暖かくなると上の方に上がってくるそうです。
今日は昨日よりもさらに冷え込みます。テレビではサン・パウロ市内の最低気温がマイナス5度だったとかでこの冬一番の冷え込みのようです。そして昨日と同じく風も強く空は曇っており太陽も見えません。それでも遊び人達は前進します。他の宿泊客達が続々とボートを引き上げるなか、朝一番で出発。防寒着がないのでとにかく寒いっす。
そして昨日のところに到着。かじかんだ手で仕掛けを作りますが、いつもよりさらに時間がかかります。そして糸を垂れるんですが、今日はまったくあたりが来ません。魚がいる気配がほとんどしません。あちこちをねらってみますが、まったくダメ。誰にもあたりが来ません。そのうち他の人達は別のポイントに移動しはじめます。あんまり釣れないので隣のおじさんは浮きを使った仕掛けに変えてみたところトゥクナレは来ませんが他の魚(名前は忘れました)がすこし釣れます。どうも昨日と同じやり方ではダメみたいです。やっぱりトゥクナレが釣りたい僕はそれとは別の仕掛けで昨日よりもさらに底の方をねらってみます。なんとか釣れたんですが、やはりトゥクナレは釣れませんでした。
そんなわけで、この日は釣るよりもボーっと糸を垂れたり、凍える体でビールを飲むことが多かったです。ただ幸いなことに午後になって雲が晴れ太陽が出てきてからはだいぶん暖かくなり、のんびりとした釣りを楽しむことができましたが、釣果は全くでした。
「今日はダメだ!」とあきらめた僕たちはすごすごとホテルに戻り、最後のシュラスコです。ついでに餌にしていたランバリがあまったのでそれもフライにしてしまいます。まあ世の中そういうもんでしょうがランバリはかわいそうですね。結局釣りには満足しませんでしたがおなかの方は満足して引き上げることになりました。
今回の釣りは一勝一敗みたいな感じでしたが、気の合うおじさん同士が和気あいあいと楽しむ姿を見ていると、日本でおじさん達と山に登っているときのことを思い出しました。女性の方々には失礼ですが、男同士になるとみんな本当に無邪気になりますね。みんな40過ぎで、ちゃんとした仕事をして家庭を持っている人達なんですが、取っ組み合いをしたりいたずらをしたりと本当に楽しい人達です。そして町に帰り、「また今度行こうな!」と約束をして家路につくおじさん達でした。