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本格的蹴球観戦記その1



この週末、生徒がサン・パウロで日本語の試験を受けることになりました。サン・パウロには何度も足を運び、試験会場もよく知っているので送迎の役を仰せつかりましたが、それだけではあまりにつまらないのでサッカーの試合でも見ることにしました。

すると都合のいいことにサン・パウロ州選手権の「コリンチャンス×パウメイラス」の試合がモルンビー・スタジアムでこの日にあることが分かり、さっそく見ることにしました。今までサッカーの試合をいくつか見ましたが、この試合はちょっと違います。コリンチャンス、パウメイラスともにサン・パウロ市内に拠点を持つ人気チームですが、お互いに犬猿の仲と言われています。ファンのことはそれぞれコリンチアーノ、パウメレンセと呼ばれていますが、身の回りもたくさんのコリンチアーノ、パウメレンセがいて、普段は仲良くしていても、いざ話がサッカーになるとお互いをさんざんにけなしまくり、ことによっては喧嘩になることがあります。だから両者の対決はサン・パウロの町の大きな話題の一つです。日本でたとえて言うならば、巨人と阪神を同じ町に置いたようなものでしょう。

サッカー業界ではこういった同じ町のチーム同士の対決をイギリスの地名にちなんで「ダービー」と言います。日本ではエスパルス、ジュビロの「静岡ダービー」、ガンバ、セレッソの「大阪ダービー」、今はなくなってしまいましたがマリノスとフリューゲルスの「横浜ダービー」等が有名ですよね。もちろんブラジルでもたくさんのダービーがありますが、ブラジルではなぜか大都市には二つ以上の強豪チームがあって、いつもどこかでダービーが行われています。日本でも名前が知られている有名チームに絞っても

などたくさんあります。中でもカンピーナスのグァラニとポンチ・プレッタはお互いの競技場が800mしか離れていないということで、メジャーリーグのNYメッツとNYヤンキースの対決が「地下鉄マッチ」と言われるなら、こちらは「お散歩ダービー」とでも言いたくなるような近さです。

前置きは長くなりましたが、コリンチャンス×パウメイラスの試合はこういう訳もあって、いつも一触即発の戦いとなっています。こんな試合ではスタジアムの行き方から注意しなければなりません。まずは自分はどこを応援するのか試合に行く前からよく考えましょう。今まで書いていませんでしたが、僕はコリンチアーノみたいです。いつの間にかコリンチャンスを応援していました。コリンチアーノがモルンビーまでバスで行くときには地下鉄アニャンガバウ駅近くのバンデイラ・バスターミナルが出発点です。試合当日のモルンビーには市内のいくつかのバスターミナルから直通バスが運行されるんですが応援するチームによってバスターミナルまで違うんです。試合前ということで血気盛んなファンどうしがバス停でかち合おうものなら、さっそく場外乱闘が始まっちゃうからでしょう。ちなみにパウメレンセがどこのバスターミナルから来るかは知りません。知る必要なんかありませんから。

そんなバンデイラ・バスターミナルに行くと、探さなくてもどこからスタジアム行きのバスが出るか分かります。コリンチャンスのユニフォームを着たたくさんの人達と警備の警察官やパトカーが並んでいるところです。もうこのあたりから警官による警備が始まっているのが驚きです。しばらく待って、やっとバスに乗り込みましたが、車内はコリンチアーノ、コリンチアーナで一杯。すでにもうかなりの興奮状態。バスの天井や壁をガンガンと叩いては応援歌をがなり立てています。そして窓の外に緑色のユニフォームを来たパウメレンセを発見しようものならものすごい罵声を浴びせかけます。通りを歩いている人達も「ああ、また例のバカがたくさん乗ったバスか」といった感じで聞き流しているところがさすがブラジルです。

やがて警察署の前に来るとバスは強制的にとめられます。そしてバスのまわりには自動小銃やショットガン、ピストルに防弾チョッキで完全武装した人達がたくさん待っています。もちろん警官から「全員降りろ!」の指令。車内ではブツブツ文句を言っているコリンチアーノですが、バスから降りるとバスの壁や警察の建物の壁におとなしく両手をついて、みんなずらりと並びます。なんか日常茶飯事といった感じで慣れたものです。僕もしょうがないから同じように壁に向かって両手を高くついて並ぶことにしました。ちぇっ、とか思いながら立っていましたが、警官を見たときには背中を冷や汗が流れました。四方八方に立っている警官達がみんな僕たちに銃口を向けています。しかも人差し指は引き金にかかってたりします。その冷酷な金属のマシンを見ているとホンモノに見えなくて冗談じゃないかな?とか思いましたが、自動小銃の半透明プラスチックでできた弾倉を見ると、暴徒鎮圧用のゴム弾ではないちゃんとした金属弾が装填されていて、冷たい光を放っていました。

今までノホホンとした人生を送っていて、銃口の前に立つ経験の無かった僕はこれを見ただけでちょっと怖くなっちゃいました。確かに今まで銃を持った警官や、自警団がうろちょろする町に行ったことはありますが、その時は明らかに「あんたは外国人観光客だから関係ないね」と彼らの警戒意識の外に置かれていましたが、今では僕も「ならず者のコリンチアーノの一人」ということで冷酷な銃口ににらまれながら立ってます。「ちょっとでも変な真似したらあんたを殺すからね」という強烈な意識の前に立たされるということがこんなに緊張するもんだとは初めて知りました。まだ、僕の目の前にいるのは警官だから、法律に従っていればむやみに発砲されることはありません。でもこれが犯罪者だったらと思うとゾッとするとともに、ペルーのリマやエジプトのルクソールでテロリストの銃口の前に立たされた人達がどれほど恐ろしい気持ちになったのかが、ホンの少しだけ理解できるようになった気がします。

そのうち全員のボディーチェックも終わり、再びバスに乗り込むことが許され、ホッとしたコリンチアーノ達と再びバスで移動しますが、500メートルも行かないうちに次の検問があり、再び降ろされて、銃口の前に立たされました。こっちの検問はさらに厳しくて上にあげた手を下におろして休めようものなら「おいそこ、手をおろすんじゃない!!」と大きな声があがり、まるで捕まった犯罪者みたいな気分です。たしかにコリンチアーノはブラジルにたくさんいるサッカーファンの中でも一番柄が悪く、良心的な市民から嫌われています。まわりの知り合いにも「コリンチャンスはチームそのものよりもコリンチアーノが嫌い!」と言う人が多く、コリンチアーノはあまりいません。一般に日系人のような中上流階層の人達はサン・パウロを応援することが多く、彼らはコリンチアーノをとっても嫌っています。そんなコリンチアーノと一緒に両手を上げて立たされている自分を見ると「世界っていろいろだなぁ」などと妙に冷静になったりもしました。

再び解放された後は検問に引っかかることもなくスタジアムまで移動しますが、二回もボディーチェックをされたことで車内のコリンチアーノのフラストレーションはたまりにたまっています。で、その被害に遭うのが道を歩いている女性。若い女性がいようものなら「△×□××!!」と汚い言葉が浴びせかけられます。ほとんどの女性は無視していますが、中には勇気のある女性もいて、バスに向かって中指をたてながら文句を言っています。こんなことをしているからますます「コリンチアーノは嫌い!!」って言われるんでしょうね。

やがてバスはスタジアムに到着します。スタジアムはちゃんとコリンチャンスサイド、パウメイラスサイドに分けられているようで、僕が降りたあたりにはパウメレンセは一人もいません。コリンチアーノに囲まれながらスタジアムに入りました。でも今回入った座席はカチーバという席で、他の席よりも値段が高いせいか、わりとおとなしそうな客が多そうで安心しました。というのも今回もデジカメを持ってきていたので気の荒い観客達に囲まれたらイヤだなぁとか思っていたからです。そういった気の荒いファン達が入るところはアルキバンカーダと言われる席で、野球で言えば外野席かアルプス席といったところです。このアルキバンカーダはコリンチアーノ、パウメレンセによってちゃんと分けられていて、両者を区切るフェンスのあたりには警備の警官が並んでいて、必要以上にファンがフェンスに近づかないようになっています。でも僕の座ったカチーバは客層がいいのでそういった区別もなく、両者が混ざり合って座っています。

途中の検問で時間がかかったので、腰を落ち着けたときには試合開始の直前でした。今日はサン・パウロ州選手権大会の二次リーグです。各チームの総当たりのリーグ戦ということでそれほど客は入っていません。これが決勝リーグになり、トーナメント戦になると興奮度はもっと上がるんですが。それに今回は客足を遠のかせるもう一つの原因があります。それはコパ・リベルタドーレス。こちらは総当たりのリーグ戦は終わり、負けたら終わりのトーナメント戦が始まりました。コリンチャンスとパウメイラスも予選を勝ち抜いて決勝リーグまで駒を進めましたが、先日行われた第一戦のアウェイ戦をともに落としています。ということでホームの第二戦では負けるわけにはいけません。その第二戦が水曜日(コリンチャンス)と木曜日(パウメイラス)にあるので両方とも主力をそちらのために温存し、控え選手を中心としたスタメンで闘うことが事前に分かっていたからです。

そんなスタジアムですが、選手が入場するとやはり盛り上がります。さっそく発煙筒がたかれ、南米のサッカーらしくなりました。やがて試合が開始しましたが、今日は早いうちに動きます。まずはパウメイラスがアレックスの絶妙なコーナーキックで先制。カチーバにいるパウメレンセが喜びますが、数に勝るコリンチアーノのブーイングの方が大きいです。しかし数分後にはサイドからのクロスをマルセリーニョが決めて同点。我がカチーバを含めてスタンドが大いに盛り上がります。その後も一進一退の攻防が続きますが、コリンチャンスが優勢に攻めています。で見ていて面白いのがファンどうしの態度。数が多いコリンチアーノに囲まれてパウメレンセがいるんですが、パウメイラスがシュートをはずしたりすると、コリンチアーノのオッサンがそれをからかって近くのパウメレンセにいろいろと罵声を浴びせます。ただ、意地の悪いことは言わず、すごくおどけた格好でからかうもんだからまわりの客もかなり喜んでいます。からかわれたパウメレンセもからかい方が面白いので喧嘩になることなく和気あいあい(?)という感じでけなしあってました。その後は再びパウメイラスが点を入れますが、やはり数分後にコリンチャンスが同点に追いつき前半は終了です。

前半は主力を温存した両チームですが、後半になると主力を投入して勝ち越しを狙います。しかし一進一退の良い試合がつづいて結局そのまま引き分け。これでこの一年間の対戦成績は4勝4敗2分とまったく五分と言うことになります。さすがにこのところのブラジルサッカーを引っ張る強豪チームなだけあります。今日はまずまずの試合でしたが、次回両者が対戦する21日はもうちょっと熱の入った試合が見れるかもしれません。初めはおっかなびっくり見に行った試合でしたが、途中の警官以外にこれといって怖い目にもあわず、変な自信をつけちゃったので、またまた21日に日帰りで観戦に行こうかなとか考えたりしています。

ということで「その2」に続くかもしれません。


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