ブラジルが膨大な対外債務を抱えているのは周知の通り。手元に資料では現在のカルドーゾ大統領の就任当時は2333億R$だった対外債務が、今では4460億R$に膨れ上がっています。 これをドルに換算すると2480億ドルになります。膨大な利子の支払いのために、国の基本的な機能が麻痺しています。同じ資料には、世界の191ヶ国の衛生状態ランキングが載っていて、
39位 | キューバ |
47位 | タイ |
59位 | セネガル |
71位 | ニカラグア |
76位 | スリランカ |
78位 | グァテマラ |
112位 | インド |
122位 | パキスタン |
125位 | ブラジル |
ここで話はそれますが、ブラジルにとって特に「パキスタンよりも低い」というのは屈辱的なことのようです。ブラジルにとってパキスタンと言ったら貧しく衛生状態の悪い国の代名詞で、ブラジル人と話していると「でもパキスタンよりはましだ!」などという言いまわしを聞くことがあります。だから、このデータを見たブラジル人は「なんと我が国はパキスタンよりも悪いのか」と頭を抱えるわけです。ただ、以前パキスタンに行ったことがあるんですが、衛生状態はブラジルよりもはるかに悪いと思うんですが…
その他、このランキングに抜粋されてる国の選び方にもブラジル人の考え方が表れていますね。多分キューバが39位と上位にランクされていることについての驚きもあるでしょう。
さて、パンフレットには
『膨大な債務の支払いを停止したら、
利子を支払うばかりでいっこうに元金が減らない現在の対外債務支払いを停止して、浮いたお金をこういった国民福祉の増進のために使おうというのがこのパンフレットの主旨です。そして、この意見を国政の場に伝えるための手段として国民投票が行われることになったのです。国民投票といっても国が提案して国の管理の元の行う投票ではなく、民間の団体が中心となって行う、本当の意味での「国民投票」で、ブラジル史上初の試みだそうです。投票日は9月の第一週でただいま開催中。
さて、まず内容を見て多くの人は「対外債務と言ったらいわゆる外国への借金じゃないか!借金を支払わないなんてブラジルはなんておろか国だ!」と思うかも知れません。でもこの意見もただ単に「金なら返せん!」と言っているだけではないんです。
このところ、欧米等の主要債権国の中では「借金帳消し」という新たな援助形式が広がりつつあります。債務国では債務支払いのために国の機能が麻痺し、国自体の存続が危うくなってるところもあります。ブラジルもその国のひとつです。債権国としても相手の国が死んでしまうまでお金を徴収するんではなく、借金を帳消しにして、その分浮いたお金を保健衛生とか教育とかの国民のために使わせるという考えです。もちろんその際には監視団などを派遣して、お金が有効に使われているかどうかチェックします。債権国が直接的に援助をするわけでありませんが、債務国の自助努力が進むので最近では新しい援助として脚光を浴びています。
(★債権放棄運動についてはジュビリー2000、ジュビリー2000ジャパンあたりをご覧ください。)
債権国にとっても、放棄する債権は事実上焦げ付いている「返ってくるあてのない債権」で、それを放棄することにより、イメージアップがはかられるわけです。
ブラジルの団体もこの動きの連動していて、ブラジルの借金を帳消しにして、国民のためにお金を使おうとしているんです。
ただ、こんなニュースはテレビでは一言も言っていません。というのも政府が大反対だから。対外債務の帳消しに政府が反対するなんて不思議に思うかもしれませんが、債務国の常として政治家や役人の腐敗は激しく、外国からの投資や援助の多くは彼らのポケットに消えていきます。もし対外債務帳消しの引き替えに外国からの援助がなくなり、諸外国からの監視が厳しくなれば、以前のような甘い汁を吸うわけにはいきません。そんなわけで政治家は大反対。やっと今週になって国民投票についての報道がぼちぼち出てきたぐらいです。
だから国民投票実行委員会も世間の逆風のなか、宣伝に懸命。僕にこのパンフレットをくれた夜学の生徒も、実行団体の人で教室の他の生徒に注目してもらいたくて持って来てくれました。また、選挙そのものは民間主体の選挙なので投票のためのハガキなどはなく、身分証明書をもって投票所に行けばいいそうです。
さて、国民の声は政府に届くのでしょうか。