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道行くものども



世界中で自動車と言えば日本車だと思っていましたが、こっちではあんまし日本車を見かけません。日本車は高いのでお金持ちが乗っていることがありますが、ほとんどの車が欧米の車です。欧米の車と言っても現地生産の車なのでそれほど割高感はないようです。しかしオートマチック車はほとんどみかけません。今まで一度だけ三菱のオートマ車に乗せてもらったことがあるだけです。

そんな話は世界のどこでもある話かもしれませんが、ブラジルの車には大きな特徴があります。それはアルコール車。ブラジルでも石油が取れますが、国内産石油の消費を押さえるためにアルコール車が推奨されているそうです。燃料のアルコール製造方法はサトウキビのお酒・ピンガと同じで、よりアルコール純度を高めたものが燃料用アルコールになります。ピンガは日本の焼酎と同じ蒸留酒なので、焼酎で走っているようなものです。

うちの近くにはアルコール醸造工場がありますが、ここに近づくとほのかなアルコールの香りに包まれます。それだけだったらいいんですが、風向きによってはアルコールが町中までやってきて、町中がアルコール臭くなることもあります。なんか酔っ払っているみたいですけど。

そのアルコール車ですが、起動時はガソリンでエンジンを動かし、ある程度回転したらアルコールに切り替えるそうで、ディーゼル車と同じで少し暖めないといけません。とくに寒い日にはエンジンもかかりにくいそうで、あちこちで押しがけしている光景をよく見かけます。アルコール車の車内はやっぱりアルコール臭く、初めてアルコール車に乗ったときは、「このおっちゃん酔払い運転だよ〜〜」と嘆いたものです。そしてアルコール車が走り去った後にはほのかなアルコールの香りが・・・きっとはじめてブラジルに来た人達はこのにおいを嗅いで「ブラジルは酔っぱらいの町だ。町中でアルコールのにおいがする」というのかもしれません。

次に燃料の値段ですが、ガソリンは1リットルで60円前後、日本とそんなにかわりませんね。ブラジルの方が日本よりも少し物価が安いのでガソリンは高いと言うことになるんでしょう。アルコールも僕が来た頃はガソリンとそんなにかわりませんでしたが、どうも政府が補助金を出したらしく、1リットル30円ちょっとになりました。ちらっとブラジル政府のエネルギー政策が見え隠れします。(その後、燃料の値段は大幅に上がり、2000年末ではガソリン1リットル100円弱、アルコール1リットル60円ちょっとになりました。)

ブラジルといえば、犯罪が多いことで有名ですが、中でも自動車泥棒はものすごい数を誇っています。有名人レベルになると一度は自動車を盗まれるそうですが、こんな話もありました。


「サッカーの神様」は偉大 ペレに強盗が謝って退散

ブラジルの「サッカーの神様」ペレがこの週末にサンパウロで自動車強盗に襲われたが、相手がペレであることが分かると、強盗は謝って何も取らずに逃げた。ペレ自身が18日、マスコミに明らかにした。

地元ラジオなどによると、15日にサンパウロ市内でペレと夫人が乗った車が信号で止まったところに、武器を持った男が近づき「金と腕時計を渡せ」と脅した。その時、後部座席のペレがおもむろに帽子を取って顔を見せると、男は「すみません」と言って、そのまま姿を消したという。

9月には元ブラジル代表の人気選手ロマリオ(フラメンゴ)が同様にリオデジャネイロで自動車強盗に遭ったが、強盗らは相手がロマリオと分かってもひるまず高級車を奪っており、やはりペレの偉大さは別格のようだ。


そんな国ですから自動車の防犯には気合が入っていて、盗まれそうな車にはほとんど自動警報装置がついています。警報装置はドアを閉めると作動し、何らかの方法で車内に人が入ってきたらセンサーが感知しけたたましい警報がなるようになっています。しかし機械は機械、誤作動を起こすことも多く、人が入ってもいないのに警報機がなりだすこともしばしば。このときは罰金が取られるそうですから要注意。

また、自動車が取られなくても窓を割られて車内の物品が盗まれるのは自動車泥棒よりも頻繁です。だからブラジルで車を離れるときは決して車内に荷物を置いてはいけません。どうしても置かなければならない時はトランクにいれます。しかし車内に置かないといけない貴重品がひとつだけあります。それはカーステ。こればっかりはしょうがありません。アメリカではカーステが取り外し式になっていて、持ち歩けるようになっているそうですが、本体全部を持ち歩くのはかさばるので面倒。その点、ブラジル方式はスマートです。本体はそのままで、操作パネルの部分だけが取り外せるようになっているんです。確かに操作パネルのないカーステなんてただの箱ですからね。取り外した操作パネルはテレビのリモコンぐらいの大きさなので、バッグなどに入れるのも簡単です。

さて、このあたりで自家用車を離れてトラックを見てみましょう。ブラジルの物流の中心はトラック。日本の23倍という広大な国土を走りまわるトラックですが、そこには日本にはない工夫もあります。

ブラジルのトラックやバスをよく見ると、タイヤの中心からチューブが伸びていて、車体とつながっています。タイヤとの接合部は自由に回転できるようになっているのでどんなにタイヤが回転してもチューブはタイヤの中心部とつながったまま。長い間、なんだろう?と思っていましたが、最近の教えてもらいました。空気圧調整装置だそうです。

トラックが走るのは広大なブラジル。町と町との間が離れていて、数十kmに渡ってガソリンスタンドも家もないような区間があちこちにあります。何もない街道のど真ん中でタイヤがパンクでもしようものなら、どうなるものか想像もつきません。そんなときでもこの空気圧調整装置があれば、次のスタンドまでだましだまし走ることができます。まさにブラジルらしい知恵と言えましょう。

もうひとつの特徴。重量級トラックでは後ろのタイヤが

┌────┐ │ ├─┐ │ │ │ └◎◎──┴◎┘→前

のように二連になっていますが、このうち片方のタイヤが浮き上がっているのを見かけることがあります。「ブラジルのトラックだから、製造ミスでタイヤがおかしいのか?」と思っていましたが、これにも深いわけがありました。ブラジルの町と町を結ぶ大通り(ホドビア)には有料のところがあるんですが、その料金は車の重量によって決まります。重い車ほど路面を痛めるのでいたって妥当な基準ですが、車の重量を量るのは容易ではありません。自動車修理工場にはトラックの重さも量れるような大きな量りがありますが、各料金所にそれを設置するのは不可能です。そこでブラジル人が編み出した知恵が「タイヤの数によって課金」というシステムです。なるほど重いトラックほどタイヤの数が多いのでなかなかいい考えです。

しかしお金を払うトラック業者にしてはたまったものではありません。もともとタイヤの数は荷物を満載したときの総重量から割り出しているので、空身のときはそれほどたくさんのタイヤが必要なわけではありません。しかしタイヤの数で課金するシステムだと、空身のときでも荷物満載の時と同じ料金を取られることになってしまいます。そこで考え出されたのがタイヤの自動昇降装置。ボタンひとつでタイヤが上下に動き、下がっているときはちゃんとタイヤの役目をはたしますが、上がっているときは地面と接触しておらず、たんにぶら下がっているだけです。そして料金所ではぶら下がっているタイヤは数に数えないんです。つまり満載のときはタイヤを下げて、高い料金を払い、空身のときはタイヤを上げて料金を節約するという仕組みです。ブラジルの料金システムが生み出した庶民の知恵とも言えるでしょう。


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