人間が住むところ家あり。でもブラジルの家と日本の家とはまるで正反対のところがたくさんあります。そのいくつかをあげてみましょう。
まずは有名な違いですがブラジルでは家の中で土足で歩き回ります。欧米系文化圏なので当たり前ですが、土足文化圏で暮らすのは初めての僕には新鮮な経験でした。土足で歩き回るブラジルの家の床はタイル張りやコンクリートの打ちっぱなしで、掃除がしやすくなっています。僕の家も土足ですが、濡らしたモップで床を拭いて、たまにワックスをかければおしまい。畳の上やカーペットの上で掃除機をかけるよりも何倍も簡単。そのためかもしれませんが、こちらではあまり掃除機を見かけません。ほうきとモップだけですべてが済んでしまうからです。
怠け者の僕にとってはこんな便利な土足文化ですが、やはり日本人にはなじみがたいものらしく、ブラジル在住の日本人の家の多くが土足禁止になっていて、文化適応の難しさを感じさせてくれます。ブラジルなんだから土足にすれば?とも思いますが、床の上に座ったり、大の字で寝たりできるのは捨てがたい魅力だそうです。
このように、掃除のしやすいブラジルの家ですが、特に非日系人の家を訪れるといつもピカピカです。床はもちろん明かりから台所の冷蔵庫から何から何までよく磨かれていて、まるでモデルルームのよう。焦げ付きやすい鍋までがピカピカに磨かれていて、「美しさ」にこだわるブラジル人の気持ちがよく伝わってきます。
もうひとつ非日系人の家に共通なのは物が少ない美しさ。部屋の中には無駄なものがなく、いつも整っています。これと対照的なのが日系人の家。こちらも清潔と言う意味ではきれいなんですが、台所などを見るといくぶんごちゃごちゃしています。食器戸棚の上なんかに捨てきれない箱などがおいてあるのがその原因。「今は使わないけどいつか使う時があるかも…」的なものを後生大事にとっておくのが日系人ですが、非日系人はバンバン捨ててしまいます。非日系人のモットーは「なるべく物はたくさん持たない。もし持っていない物が必要になったら買うか近所から借りる」。アメリカを代表とする大量消費、大量廃棄文化の表れかもしれません。
ブラジルの言えば忘れてはならないのが暑さ。日本よりも暑い国なので家の暑さ対策も大事です。ブラジルの家の暑さ対策の基本は「風通し」。構造上の理由は分かりませんが、どの家も風通しについては抜群です。日本のアパートのような密閉構造ではなく、窓や天上などに隙間がある開放構造がその原因でしょう。中には窓ガラスがなくて、壁に穴が開いているだけという見るからに涼しそうな家もあります。湿度が低いブラジルでは厳しい太陽の光を屋根でさえぎり、風を通すだけで驚くほど涼しくなります。特にアパートの四階にある僕の家では、すべての窓を開け放つと風がどんどん通りぬけ、真夏でも夜になると涼しくすごすことが出来ます。
しかしこれにも弱点が。あまりに風通しが良すぎて冬に寒いんです。ブラジルでも冬はそれなりに寒くなり、セーターがないとすごせない日もあります。こんな日の夜でもブラジルの家は風通し抜群。暖房器具もあまりないこの国では早いところ毛布に包まって寝るしかありません。
日本の23倍の国土を持つブラジルの家の基本は平屋。庭にはシュハスコをするためのシュハスケイロがあったり、マンゴーの木があったりとなかなか贅沢な作りです。もちろんすべての人がそんな豪華な家に住んでいるわけではありませんが、土地はたくさんあるのでどの家も日本よりも大きめです。しかしこれも田舎の話。人口が密集している大都市では高層住宅に住むことになります。こうなってくると家の事情は日本と同じで狭い上に値段が高い部屋に住んでいる人もたくさんいますが、高層住宅に人々が暮らすのは何も土地の問題だけではありません。世界最悪の治安といわれるサン・パウロやリオの街では安全面も含めて高層住宅に住む人もいます。一戸建てを強盗から守るのは大変ですが、高層住宅だったら入り口に24時間警備の守衛を置くのも簡単ですし、住人みんなでお金を出し合うので経済的負担も軽くすみます。
治安面では他よりも安全な高層住宅ですが、建設現場を見てしまうと思わず不安になってしまいます。見上げるほどの高さのビルなのに柱がとっても細いんです。風が吹いたら折れてしまいそうな細い柱です。地震がほとんどないから細い柱でも構わないんでしょうが、日本の耐震構造ビルの頑丈な作りを見てきた僕にはなかなかなじめません。細い柱で全体を作った後は壁を作るんですが、こちらもひ弱。日本だったら鉄骨や木で筋交いを入れたり、ブロックを積み上げる時も間に鉄筋を入れるんですが、ブラジルの壁はレンガを積み上げて漆喰で塗り固めただけ。地震どころか足で蹴っただけで穴が開いてしまいそうな作りです。
これでも出来あがってしまえばきれいな建物なんですが、出来あがらないこともあるのがブラジル。建設途中で資金がなくなってしまったのか建築途中で放棄されてしまったビルを時々見かけます。そういった建物は侵入防止のために壁で囲まれたりしていますが、夜になると建物の隙間の暗闇に誰かが潜んでいそうで下手なお化け屋敷よりも怖かったりします。もしかしたらブラジルの都会の治安の悪さの原因の一つに廃墟ビルがあるのかもしれません。